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第8話「聖域からの傲慢な使者」
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俺が竜騎士団で重宝されているという噂は、風に乗って俺を追放した聖域にまで届いていた。
「役立たずの穢れ祓いが、竜騎士団で奇跡の癒やし手として迎えられているだと?馬鹿馬鹿しい」
神官長は、その報告を鼻で笑ったという。しかし噂があまりにも広まるため、無視もできなくなったのだろう。
ある晴れた日の午後、竜騎士団の駐屯地に聖域からの使者が訪れた。
使者としてやってきたのは、神官長のお気に入りである若いエリート神官だった。彼は純白の豪奢な神官服を身に纏い、いかにも自分は選ばれた人間だと言わんばかりの傲慢な態度で、俺とエヴァンの前に立った。
「神の代理として参りました。竜騎士団長、エヴァン・ライオネル殿。我らが聖域の神官であるルカを、不当に拘束しているという報告を受けております」
その言葉に、隣に立つエヴァンの眉がぴくりと動いた。
「拘束?人聞きの悪いことを言う。ルカは自らの意思でここにいる」
「神に仕えるべき身が、俗世の武力集団に身を置くこと自体が不敬です。ルカ、お前も何か言ったらどうだ。聖域を追放された腹いせに、騎士団に取り入ったのか?」
見下すような視線と言葉。聖域にいた頃、何度も向けられたものだ。昔の俺なら、萎縮して何も言えなかっただろう。でも、今は違う。
「俺は、自分の意思でここにいます。エヴァン様のおそばにいると、決めたんです」
俺がはっきりとそう言うと、使者の神官は信じられないといった顔で俺を見た。
「……役立たずのお前が、団長様に楯突くとは。いいご身分になったものだな」
嫌味な言葉が、俺の胸に突き刺さる。図星だった。俺はエヴァンに拾われなければ、今頃路地裏で死んでいたかもしれないのだから。
俺が言葉に詰まっていると、エヴァンが一歩前に出た。
「こいつが役立たずかどうかは、俺が決めることだ。お前たちが決めることではない」
「なんと……!神官の価値を、一介の騎士が決めると言うのですか!」
「一介の騎士ではない。竜騎士団長だ。そして、こいつの主だ」
エヴァンの言葉に、使者は顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
「どちらにせよ、ルカの力は神より賜りしもの。聖域に返還していただくのが筋です。我らが調査したところ、穢れ祓いの力にはまだ利用価値があるやもしれません。連れて帰ります」
利用価値。その言葉に、俺の心は冷えた。彼らは俺を心配しているわけではない。俺の力が金になるか、役に立つかと品定めしに来ただけなのだ。
使者が俺の腕を掴もうと手を伸ばした、その時。
パシン、と乾いた音が響いた。エヴァンが、使者の手を容赦なく叩き落としていたのだ。
「なっ、何をするのですか!」
「俺の所有物に、気安く触るな」
エヴァンの声は、地を這うように低く、殺気すら含んでいた。俺は彼の大きな背中の後ろに、庇われるようにして立っている。
「こいつは俺のものだ。神だろうが聖域だろうが、誰にも渡す気はない」
彼の背中が、まるで難攻不落の城壁のように見えた。こんなにも頼もしく、安心できる場所が、この世にあったなんて。
「正気ですか!聖域に弓引くつもりか!」
「引くべき時が来れば、引くだろう。……用件はそれだけか?さっさと失せろ。これ以上俺のルカに近づけば、その腕、切り落とすぞ」
氷の鬼神の本気の殺気に、エリート神官は顔面を蒼白にさせ、腰を抜かさんばかりに後ずさった。そして捨て台詞一つ吐くこともできず、這うようにして駐屯地から逃げ帰っていった。
嵐が去った後、俺はエヴァンの背中を見上げたまま動けずにいた。
「こいつは俺のものだ」
その言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返される。
俺は、物じゃない。でも、彼がそう言ってくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。聖域に「返す」と言われた時、あんなに怖かったのに。エヴァンに「俺のものだ」と言われるのは、少しも嫌じゃなかった。
「……エヴァン様」
俺が声をかけると、エヴァンはこちらを振り返った。殺気を放っていた氷の瞳は、今はもう穏やかな色に戻っている。
「ありがとう、ございます。庇ってくれて……」
「当然だ。言っただろう、お前は俺のものだと」
彼はそう言うと、俺の頭を優しく撫でた。
エヴァンの揺るぎない態度に、俺の心は大きく揺さぶられていた。これは、ただの庇護欲なのだろうか。それとも……。
淡い期待が、胸の中に芽生え始めていた。
「役立たずの穢れ祓いが、竜騎士団で奇跡の癒やし手として迎えられているだと?馬鹿馬鹿しい」
神官長は、その報告を鼻で笑ったという。しかし噂があまりにも広まるため、無視もできなくなったのだろう。
ある晴れた日の午後、竜騎士団の駐屯地に聖域からの使者が訪れた。
使者としてやってきたのは、神官長のお気に入りである若いエリート神官だった。彼は純白の豪奢な神官服を身に纏い、いかにも自分は選ばれた人間だと言わんばかりの傲慢な態度で、俺とエヴァンの前に立った。
「神の代理として参りました。竜騎士団長、エヴァン・ライオネル殿。我らが聖域の神官であるルカを、不当に拘束しているという報告を受けております」
その言葉に、隣に立つエヴァンの眉がぴくりと動いた。
「拘束?人聞きの悪いことを言う。ルカは自らの意思でここにいる」
「神に仕えるべき身が、俗世の武力集団に身を置くこと自体が不敬です。ルカ、お前も何か言ったらどうだ。聖域を追放された腹いせに、騎士団に取り入ったのか?」
見下すような視線と言葉。聖域にいた頃、何度も向けられたものだ。昔の俺なら、萎縮して何も言えなかっただろう。でも、今は違う。
「俺は、自分の意思でここにいます。エヴァン様のおそばにいると、決めたんです」
俺がはっきりとそう言うと、使者の神官は信じられないといった顔で俺を見た。
「……役立たずのお前が、団長様に楯突くとは。いいご身分になったものだな」
嫌味な言葉が、俺の胸に突き刺さる。図星だった。俺はエヴァンに拾われなければ、今頃路地裏で死んでいたかもしれないのだから。
俺が言葉に詰まっていると、エヴァンが一歩前に出た。
「こいつが役立たずかどうかは、俺が決めることだ。お前たちが決めることではない」
「なんと……!神官の価値を、一介の騎士が決めると言うのですか!」
「一介の騎士ではない。竜騎士団長だ。そして、こいつの主だ」
エヴァンの言葉に、使者は顔を真っ赤にして怒りを露わにした。
「どちらにせよ、ルカの力は神より賜りしもの。聖域に返還していただくのが筋です。我らが調査したところ、穢れ祓いの力にはまだ利用価値があるやもしれません。連れて帰ります」
利用価値。その言葉に、俺の心は冷えた。彼らは俺を心配しているわけではない。俺の力が金になるか、役に立つかと品定めしに来ただけなのだ。
使者が俺の腕を掴もうと手を伸ばした、その時。
パシン、と乾いた音が響いた。エヴァンが、使者の手を容赦なく叩き落としていたのだ。
「なっ、何をするのですか!」
「俺の所有物に、気安く触るな」
エヴァンの声は、地を這うように低く、殺気すら含んでいた。俺は彼の大きな背中の後ろに、庇われるようにして立っている。
「こいつは俺のものだ。神だろうが聖域だろうが、誰にも渡す気はない」
彼の背中が、まるで難攻不落の城壁のように見えた。こんなにも頼もしく、安心できる場所が、この世にあったなんて。
「正気ですか!聖域に弓引くつもりか!」
「引くべき時が来れば、引くだろう。……用件はそれだけか?さっさと失せろ。これ以上俺のルカに近づけば、その腕、切り落とすぞ」
氷の鬼神の本気の殺気に、エリート神官は顔面を蒼白にさせ、腰を抜かさんばかりに後ずさった。そして捨て台詞一つ吐くこともできず、這うようにして駐屯地から逃げ帰っていった。
嵐が去った後、俺はエヴァンの背中を見上げたまま動けずにいた。
「こいつは俺のものだ」
その言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返される。
俺は、物じゃない。でも、彼がそう言ってくれたことが、どうしようもなく嬉しかった。聖域に「返す」と言われた時、あんなに怖かったのに。エヴァンに「俺のものだ」と言われるのは、少しも嫌じゃなかった。
「……エヴァン様」
俺が声をかけると、エヴァンはこちらを振り返った。殺気を放っていた氷の瞳は、今はもう穏やかな色に戻っている。
「ありがとう、ございます。庇ってくれて……」
「当然だ。言っただろう、お前は俺のものだと」
彼はそう言うと、俺の頭を優しく撫でた。
エヴァンの揺るぎない態度に、俺の心は大きく揺さぶられていた。これは、ただの庇護欲なのだろうか。それとも……。
淡い期待が、胸の中に芽生え始めていた。
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