捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん

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第9話「蹂躙される聖域」

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「うわっ!?」
「なんだこれ、滑るぞ!?」
 私の撒いた特製ビーズは見事に効果を発揮した。
 床一面に広がった微細な粒に足を取られ、勇者一行の動きが止まる。
 重たい鎧を着込んだ戦士が、派手に転倒して床に頭を打ち付けた。
 魔法使いが体勢を崩し、詠唱を失敗して自身の杖を焦がす。
「今だ、ギル!」
 私の合図で、ガーゴイルたちが空から襲いかかる。
 石の爪が鎧を引っ掻き、翼が突風を巻き起こす。
 戦況は、圧倒的にこちらに有利に見えた。
 しかし、相手は腐っても勇者だった。
「小賢しい真似を……!」
 アルヴィンが怒号を上げ、剣を床に突き刺した。
「聖なる炎よ、浄化せよ!」
 彼の剣から眩い光と炎が噴き出した。
 その熱風が、私の撒いたビーズを一瞬で溶かし、さらに周囲の可燃物――つまり、私が作ったカーテンやクッションに引火した。
「あっ……!」
 私の悲鳴がかき消される。
 炎は生き物のように広がり、自慢のインテリアを舐め尽くしていく。
 お気に入りのタペストリーが黒く縮れ、灰になって崩れ落ちる。
 ふかふかのソファが、無惨な骨組みだけを晒していく。
「やめて……!」
 私は思わず駆け出そうとしたが、ギルに腕を掴まれた。
「いけません、リノ様! 火力が強すぎます!」
「でも、私の……みんなの場所が!」
 涙が溢れて止まらない。
 ただ快適に過ごしたかっただけなのに。
 魔王様と、みんなと、静かに暮らしたかっただけなのに。
 アルヴィンは炎の中で高笑いをしている。
「見ろよ、よく燃えるゴミ屋敷だ! 魔王の城がこんなファンシーな内装だとはな、笑わせるぜ!」
 彼は燃え盛るクッションを蹴り飛ばした。
 その火の粉が、私の足元まで飛んでくる。
「おいオメガ、魔王はどこだ? 言えば命だけは助けてやるぞ。俺の現地妻にしてやってもいい」
 アルヴィンが、ねっとりとした視線で私を見た。
 その目には、私を一人の人間としてではなく、ただの道具や欲望の対象として見る色が浮かんでいた。
 かつて村で感じた、あの視線だ。
 寒気がした。
 炎の熱さとは裏腹に、背筋が凍りつくような恐怖。
「……断る」
 私は精一杯の虚勢を張った。
「魔王様は、あなたなんかよりずっと強くて、ずっと優しい。あなたの妻になるくらいなら、ここで焼け死んだ方がマシだ!」
「……あ?」
 アルヴィンの顔から笑みが消えた。
「生意気な口を利くなよ、底辺が」
 彼は一瞬で距離を詰め、私の首を掴み上げた。
「ぐっ……!」
 足が宙に浮く。
 呼吸ができない。
「リノ様!」
 ギルが助けに入ろうとしたが、勇者パーティの魔法使いが放った拘束魔法によって、壁に縫い付けられてしまった。
「放せ……!」
 私は必死にアルヴィンの腕を引っ掻いたが、鍛え上げられた筋肉には爪も立たない。
「死ね」
 アルヴィンが剣を振り上げた。
 その刃が、冷たい光を放って私に迫る。
 死ぬ。
 そう思った瞬間だった。
「――誰が、死ぬだと?」
 空間そのものが凍りつくような、絶対零度の声が響いた。
 次の瞬間、世界が反転したような衝撃が走った。
 アルヴィンの体が、見えない巨人の手で弾き飛ばされたように、部屋の反対側の壁まで吹き飛んだのだ。
「がはっ!?」
 壁にめり込み、血を吐くアルヴィン。
 私の体は床に落ちる前に、誰かの腕の中に優しく受け止められた。
 懐かしい、雨と森の香り。
「……魔王、さま……」
 見上げると、そこにはザルドリス様がいた。
 しかし、その表情は私が知っている「眠そうな魔王様」ではなかった。
 瞳は深紅に輝き、全身から漆黒のオーラを立ち昇らせている。
 そのオーラは、燃え盛っていた聖なる炎を、一瞬にして黒い霧で塗りつぶし、鎮火させてしまった。
「……よくも」
 ザルドリス様が、低くつぶやく。
「よくも、私の城を。私の部下を。そして……」
 彼の手が、私の首に残った赤い手形に触れた。
 その指先が、怒りで微かに震えている。
「私の番(つがい)になるべき存在に、触れたな」
 空気が軋む。
 魔王の怒りが、物理的な圧力となって勇者一行を押し潰そうとしていた。
「ひっ……!」
 勇者の仲間たちが、恐怖で腰を抜かす。
 格が違う。
 今のザルドリス様は、まさしく「魔王」そのものだった。
「リノ、目を閉じていろ」
 ザルドリス様は、私を宝物のように抱き直すと、耳元で囁いた。
「少しだけ、掃除をする」
 その声は甘く、しかし残酷な響きを含んでいた。
 私は彼の胸に顔を埋め、震える体を預けた。
 もう大丈夫だ。
 彼が来てくれたから。
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