過労死研究員が転生したら、無自覚チートな薬草師になって騎士様に溺愛される件

水凪しおん

文字の大きさ
8 / 13

第07話「王宮からの召喚状と、すれ違う二人の想い」

しおりを挟む
 闘技場での一件は、瞬く間に学院中に知れ渡った。アランが仕掛けた決闘で、リオネスさんが重傷を負ったこと。そして、俺の作ったポーションが、その傷を一瞬で完治させたこと。

 噂は誇張され、俺はいつの間にか「聖なる力を持つ奇跡の薬草師」として、畏敬と好奇の目で見られるようになっていた。おかげで、以前のように侮蔑されることはなくなったが、代わりに遠巻きにされ、気軽に話しかけてくる者はいなくなった。

(まあ、元々友達なんていなかったし、別にいいか)

 俺は今まで通り、放課後は薬草園の温室で、薬草の研究とリオネスさんへの講義を続けるだけだ。

 リオネスさんはあの日以来、より一層俺に寄り添ってくれるようになった。俺が自分のスキル「生命のささやき」をコントロールできるよう、訓練にも付き合ってくれるようになった。

「力を制御するには、まず自分の力を正確に知る必要がある。一度、限界まで力を込めてポーションを作ってみてくれ。俺が側にいるから、心配するな」

 彼の言葉に励まされ、俺はスキルの本格的な検証を始めた。分かったことはいくつかある。

 まず、このスキルは俺の体力をかなり消耗するらしい。全力で発動させると、数日間寝込むほどの疲労感に襲われた。次に、効果は薬草の種類や組み合わせによって大きく変動すること。そして最も重要なのは、俺の「想い」が、薬の効果に大きく影響するということだった。

「リオネスさんの疲れが取れますように」と強く念じながら作れば、驚異的な疲労回復効果が発揮される。「この傷が治りますように」と祈りを込めれば、治癒効果が高まる。まるで、俺の意志が薬草たちに伝わり、それを具現化してくれているようだった。

「すごい力だ……これは、使い方次第で国さえ動かせるかもしれない」

 リオネスさんは感嘆の声を漏らしながらも、その表情には憂いの色が浮かんでいた。

「ハル。この力は、決して人前で軽々しく使ってはいけない。特に、その力の源が君の『想い』にあることは、誰にも知られてはならない」
「どうしてですか?」
「悪意ある者に知られれば、君の心が利用される。君を意のままに操るために、君の大切なものを人質に取るような輩が、必ず現れる」

 彼の真剣な言葉に、俺は背筋が寒くなるのを感じた。俺の力が、誰かを傷つけるために使われるなんて、考えたくもない。

「分かってます。この力は、リオネスさんと……僕の大切な人を守るためにだけ、使います」

 俺がそう言うと、彼は一瞬、寂しそうな顔をした。

「……そうか」

 短い返事。その反応に、俺は少し胸が痛んだ。俺にとっての大切な人は、もちろん彼のことも含んでいるのに、うまく伝わらなかったのかもしれない。

 そんなある日、俺の元に一通の手紙が届いた。差出人の名を見て、俺は我が目を疑った。そこに記されていたのは、きらびやかな王家の紋章。王宮からの召喚状だった。

「王立中央薬草研究所への推薦……?」

 手紙には、俺の薬草師としての類稀なる才能を評価し、王立の研究員として迎え入れたい、と書かれていた。闘技場での一件が、どうやら王族の耳にまで届いてしまったらしい。

 平民の俺が、国の最高研究機関へ。普通に考えれば、これ以上ないほどの名誉なことだ。だが、俺の心は少しも晴れなかった。

 研究所に行けば、リオネスさんと会えなくなる。この学院の薬草園で、二人きりで過ごす穏やかな時間が、なくなってしまう。それが、たまらなく嫌だった。

 放課後、いつもの温室でリオネスさんに手紙を見せると、彼は静かにそれに目を通した。

「……そうか。当然だな。君ほどの才能を、国が放っておくはずがない」

 彼の声には、感情が乗っていなかった。おめでとう、とも、行くな、とも言わない。ただ、事実を淡々と述べただけ。

「これは、君にとって大きな好機だ。思う存分、研究に打ち込めるだろう」
「……リオネスさんは、僕に行ってほしいんですか?」

 思わず、詰問するような口調になってしまった。彼は俺の視線を真っ直ぐに受け止めると、静かに頷いた。

「ああ。君の夢が叶うのなら、俺はそれを応援したい」

 その言葉に、俺の心は冷水を浴びせられたように冷たくなった。

(なんだ……応援してくれるんだ。引き止めても、くれないんだ)

 勝手な期待をしていた自分が、馬鹿みたいだ。彼にとって、俺はあくまで「知識の優れた弟子」で、「守るべき対象」でしかない。俺が彼を想うような、特別な感情は、彼にはないのだ。

 俺たちの間に、身分というどうしようもなく高い壁が横たわっていることを、改めて思い知らされた。

「……分かりました。推薦、お受けします」

 俺は、自分でも驚くほど冷たい声でそう言った。リオネスさんの顔を見ることができなくて、俯いたまま、薬草の手入れを始める。

「そうか。良かったな」

 彼の声も、どこかよそよそしかった。それから、俺たちの間には気まずい沈黙が流れた。いつもは尽きることのなかった会話が、嘘のように途切れる。

(これで、良かったんだ。いつまでも、学生気分でいちゃいけない)

 俺は自分の道を進む。彼は彼の道を進む。ただ、それだけのことだ。自分にそう言い聞かせれば聞かせるほど、胸の奥がずきずきと痛んだ。

 結局、その日はほとんど口を利かないまま、俺たちは別れた。彼の背中が、いつもよりずっと遠くに見えた。

 その夜、俺は一人、ベッドの中で泣いた。リオネスさんが好きだという気持ちも、彼のそばにいたいという願いも、全部心の奥にしまい込んで、鍵をかけることにした。それが、彼のためであり、自分のためでもあると、信じて。

 すれ違ってしまった二人の想い。俺が研究所へ行くことを決めたことで、俺たちの関係は、終わりを告げようとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

冤罪で追放された悪役令息、北の辺境で幸せを掴む~恐ろしいと噂の銀狼将軍に嫁いだら、極上の溺愛とモフモフなスローライフが始まりました~

水凪しおん
BL
「君は、俺の宝だ」 無実の罪を着せられ、婚約破棄の末に極寒の辺境へ追放された公爵令息ジュリアン。 彼を待ち受けていたのは、「北の食人狼」と恐れられる将軍グリーグとの政略結婚だった。 死を覚悟したジュリアンだったが、出会った将軍は、噂とは真逆の不器用で心優しいアルファで……? 前世の記憶を持つジュリアンは、現代知識と魔法でボロボロの要塞を快適リフォーム! 手作りスープで将軍の胃袋を掴み、特産品開発で街を救い、気づけば冷徹将軍から規格外の溺愛を受けることに。 一方、ジュリアンを捨てた王都では、破滅の足音が近づいていて――。 冤罪追放から始まる、銀狼将軍との幸せいっぱいな溺愛スローライフ、ここに開幕! 【オメガバース/ハッピーエンド/ざまぁあり/子育て/スパダリ】

温泉旅館の跡取り、死んだら呪いの沼に転生してた。スキルで温泉郷を作ったら、呪われた冷血公爵がやってきて胃袋と心を掴んで離さない

水凪しおん
BL
命を落とした温泉旅館の跡取り息子が転生したのは、人々から忌み嫌われる「呪いの沼」だった。 終わりなき孤独と絶望の中、彼に与えられたのは【万物浄化】と【源泉開発】のスキル。 自らを浄化し、極上の温泉を湧き出させた彼の前に現れたのは、呪いにより心と体を凍てつかせた冷血公爵クロード。 半信半疑で湯に浸かった公爵は、生まれて初めての「安らぎ」に衝撃を受ける。 「この温泉郷(ばしょ)ごと、君が欲しい」 孤独だった元・沼の青年アオイと、温もりを知らなかった冷血公爵クロード。 湯けむりの向こうで出会った二人が、最高の温泉郷を作り上げながら、互いの心の傷を癒やし、かけがえのない愛を見つけていく。 読む者の心まですべて解きほぐす、極上の癒やしと溺愛のファンタジーロマンス、ここに開湯。

追放された無能錬金術師ですが、感情ポーションで氷の騎士様に拾われ、執着されています

水凪しおん
BL
宮廷錬金術師のエリアスは、「無能」の烙印を押され、王都から追放される。全てを失い絶望する彼が辺境の村で偶然作り出したのは、人の"感情"に作用する奇跡のポーションだった。 その噂は、呪いで感情を失い「氷の騎士」と畏れられる美貌の騎士団長ヴィクターの耳にも届く。藁にもすがる思いでエリアスを訪れたヴィクターは、ポーションがもたらす初めての"温もり"に、その作り手であるエリアス自身へ次第に強く執着していく。 「お前は、俺だけの錬金術師になれ」 過剰な護衛、暴走する独占欲、そして隠された呪いの真相。やがて王都の卑劣な陰謀が、穏やかな二人の関係を引き裂こうとする。 これは、追放された心優しき錬金術師が、孤独な騎士の凍てついた心を溶かし、世界で一番の幸福を錬成するまでの愛の物語。

悪役令嬢の兄に転生!破滅フラグ回避でスローライフを目指すはずが、氷の騎士に溺愛されてます

水凪しおん
BL
三十代半ばの平凡な会社員だった俺は、ある日、乙女ゲーム『君と紡ぐ光の協奏曲』の世界に転生した。 しかも、最推しの悪役令嬢リリアナの兄、アシェルとして。 このままでは妹は断罪され、一家は没落、俺は処刑される運命だ。 そんな未来は絶対に回避しなくてはならない。 俺の夢は、穏やかなスローライフを送ること。ゲームの知識を駆使して妹を心優しい少女に育て上げ、次々と破滅フラグをへし折っていく。 順調に進むスローライフ計画だったが、関わると面倒な攻略対象、「氷の騎士」サイラスになぜか興味を持たれてしまった。 家庭菜園にまで現れる彼に困惑する俺。 だがそれはやがて、国を揺るがす陰謀と、甘く激しい恋の始まりを告げる序曲に過ぎなかった――。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

処理中です...