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第1話「追放と絶望の森」
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きらびやかなシャンデリアの光が、ご馳走の並んだテーブルを煌々と照らしていた。魔王軍の幹部を討ち取った祝勝会。その華やかな席の中央で、勇者アレスが高らかに杯を掲げる。
「我々の勝利に乾杯!」
「「乾杯!」」
仲間たちの喝采が響く中、パーティーの片隅で、リアムは居場所なく俯いていた。彼の手には、水がなみなみと注がれただけの簡素な木製コップが握られている。今回の戦いでも、彼の役目は仲間たちが負った傷をひたすら癒やすことだけだった。戦闘への直接的な貢献がないことに、リアムはいつも引け目を感じていた。
宴もたけなわの頃、アレスが不意に立ち上がり、リアムの方へと歩み寄ってきた。その瞳には、氷のように冷たい光が宿っている。
「リアム」
呼ばれて顔を上げたリアムに、アレスは嘲るような笑みを浮かべて言い放った。
「お前はもう用済みだ」
時が止まったかのようだった。周囲の喧騒が、遠い世界の出来事のように聞こえる。
「え……?」
「回復魔法なんて、質の良いポーションがいくらでも代わりになる。戦闘能力のないお前は、正直言って足手まといなんだよ。わかるか?」
冷酷な言葉が、ナイフのようにリアムの心をえぐる。反論しようと口を開きかけたが、言葉にならない。助けを求めるように視線を送った先で、魔術師のセリーナは悲しげに目を伏せ、戦士のゴードンは興味なさそうに肉を頬張っているだけだった。誰も、彼を庇ってはくれなかった。
「これは手切れ金だ。達者でな」
アレスがテーブルに放り投げた小さな革袋には、わずかばかりの硬貨しか入っていない。リアムはなすすべもなく衛兵に両腕を掴まれ、酒場の外へと引きずり出された。そして、背後で固く閉ざされた街の門が、彼と仲間だったはずの世界を永遠に隔てた。
信じていた。仲間だと、そう思っていた。
降り出した冷たい雨が、リアムの頬を濡らす。それが雨なのか涙なのか、もうわからなかった。あてもなく、ただひたすらに歩き続ける。心の傷はズキズキと痛み、絶望が全身を重く支配していた。
どれくらい歩いただろうか。いつしかリアムは、昼なお暗い不気味な森に足を踏み入れていた。「魔の森」──一度入れば二度と生きては戻れないと噂される、禁じられた場所。だが、今のリアムにとって、どこへ行こうと変わりはなかった。生きる希望など、どこにも見いだせなかったからだ。
疲労と悲しみが限界に達し、リアムの意識が霞み始める。ぬかるんだ地面に足を取られ、彼は力なくその場に崩れ落ちた。もう指一本動かせない。このままここで、静かに朽ちていくだけなのだろうか。
遠のいていく意識の中、ふと、目の前に巨大な影が立っていることに気づいた。見上げることさえできず、ただその足元だけがぼんやりと映る。
「……人間が、なぜここにいる」
低く、地の底から響くような声。その声には拒絶と、そしてほんのわずかな驚きが滲んでいた。それが、リアムが聞いた最後の言葉だった。彼の意識は、深い深い闇の中へと沈んでいった。
「我々の勝利に乾杯!」
「「乾杯!」」
仲間たちの喝采が響く中、パーティーの片隅で、リアムは居場所なく俯いていた。彼の手には、水がなみなみと注がれただけの簡素な木製コップが握られている。今回の戦いでも、彼の役目は仲間たちが負った傷をひたすら癒やすことだけだった。戦闘への直接的な貢献がないことに、リアムはいつも引け目を感じていた。
宴もたけなわの頃、アレスが不意に立ち上がり、リアムの方へと歩み寄ってきた。その瞳には、氷のように冷たい光が宿っている。
「リアム」
呼ばれて顔を上げたリアムに、アレスは嘲るような笑みを浮かべて言い放った。
「お前はもう用済みだ」
時が止まったかのようだった。周囲の喧騒が、遠い世界の出来事のように聞こえる。
「え……?」
「回復魔法なんて、質の良いポーションがいくらでも代わりになる。戦闘能力のないお前は、正直言って足手まといなんだよ。わかるか?」
冷酷な言葉が、ナイフのようにリアムの心をえぐる。反論しようと口を開きかけたが、言葉にならない。助けを求めるように視線を送った先で、魔術師のセリーナは悲しげに目を伏せ、戦士のゴードンは興味なさそうに肉を頬張っているだけだった。誰も、彼を庇ってはくれなかった。
「これは手切れ金だ。達者でな」
アレスがテーブルに放り投げた小さな革袋には、わずかばかりの硬貨しか入っていない。リアムはなすすべもなく衛兵に両腕を掴まれ、酒場の外へと引きずり出された。そして、背後で固く閉ざされた街の門が、彼と仲間だったはずの世界を永遠に隔てた。
信じていた。仲間だと、そう思っていた。
降り出した冷たい雨が、リアムの頬を濡らす。それが雨なのか涙なのか、もうわからなかった。あてもなく、ただひたすらに歩き続ける。心の傷はズキズキと痛み、絶望が全身を重く支配していた。
どれくらい歩いただろうか。いつしかリアムは、昼なお暗い不気味な森に足を踏み入れていた。「魔の森」──一度入れば二度と生きては戻れないと噂される、禁じられた場所。だが、今のリアムにとって、どこへ行こうと変わりはなかった。生きる希望など、どこにも見いだせなかったからだ。
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遠のいていく意識の中、ふと、目の前に巨大な影が立っていることに気づいた。見上げることさえできず、ただその足元だけがぼんやりと映る。
「……人間が、なぜここにいる」
低く、地の底から響くような声。その声には拒絶と、そしてほんのわずかな驚きが滲んでいた。それが、リアムが聞いた最後の言葉だった。彼の意識は、深い深い闇の中へと沈んでいった。
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