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前編
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昔から両親が可愛がるのはいつも妹のマリア方だった。
私は何をやっても不器用で、マリアは私ができないことを器用に難なくこなしていく。
両親は私に見切りをつけ、美しく愛らしいマリアばかりを可愛がるようになった。
私は可愛がられるマリアを羨ましく思いながらも、憎めなかった。マリアは私のことを慕ってくれていたから。
「お姉様、お父様とお母様はおかしいです。姉妹でこのように差をつけるなんてどうかしてるわ」
「ありがとう、マリア」
両親がマリアと私を比較し嘲笑うようにけなすたびに、マリアが庇ってくれる。その度に、私は自分が情けなくなっていた。
いっそのこと、両親と同じようにけなしてくれれば良いのに。そうすれば、私もマリアを責めることができるのに。
あぁ、私ってこんなに心優しい妹が味方になってくれているというのに、どうしてこんなふうに卑屈になってしまうのかしら。
何度も何度も自分を責めては泣くことを繰り返していた。
そんなある日、父上が上機嫌で帰ってきたかと思うと、食事中に突然こんなことを言い出した。
「マリオット侯爵様がお前と結婚したいそうだ。もちろん受けるよな」
「マリオット侯爵様、ですか…」
彼は女癖が悪いことで貴族の間では有名だった。そんな人がどうして私なんかを…
「まぁ、お前の返事なんかはどうでも良い。もう既に相手の方とは婚約を取り付けてきたからな。花嫁として迎え入れられる準備をしておくんだな」
口を閉ざした私の返事も待たずに、父上は豪快に笑いながら言った。隣では嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべる母上。
おそらく、多額の報酬を受け取ったに違いない。女癖が悪くても、お金だけはしっかりと持っている方だから。身売り同然の婚約なのだ。
もう、どうでも良いわ。
ここから出られるなら、もうなんでも良い。
目に浮かぶ涙を見られないようぐっと堪える私の横で、マリアは何かを考え込んでいる様子だった。
***
結婚式当日。
結局、マリオット侯爵様とは一度も会うことなく結婚の手続きはつつがなく取り行われた。
ニヤニヤと嬉しそうな両親に、何も言わずに微笑むマリア。
マリアだけは味方だと思っていたのだけれど、そうではなかったのね。
今の現実よりも、その方がずっと心に応えた。
純白のドレスに身を包み、私はゆっくりと、相手が待つ場所へと歩いていく。
私はこれから、どんな日々を送ることになるのでしょうか。
ほんの少しでいいんです。
少しでいいから、今よりも幸せを感じられる日々を、私に授けてください。
祈るように願いながら、私は相手の前で立ち止まり、ぎゅっと閉じた瞳をそっと開いた。
え?
相手の方は何故か仮面のようなものを顔につけている。私はどういう事なのかと戸惑いながらも、相手が差し出す手を取り、お互いの指輪を交換する。
その瞬間に目があったかと思うと、仮面ごしに相手の男性が静かに微笑むのがわかった。
マリオット侯爵様は、意外と紳士な方なのかもしれない。式の間もずっと、私には触れず、寄り添ってくださるように隣にいてくださった。
「あの仮面はなんだ?」
「さぁ、そういう趣味をお持ちの方なんじゃない?まぁ良いじゃない、お金は手に入るんだから」
両親も不審に思っていたようだが、お金に目が眩んではそのことも気にならないようだった。
マリアだけが、目に涙を浮かべながら心から姉の結婚を祝福していた。
「絶対に幸せになってね、お姉様」
***
結婚式を終え、私は馬車に乗り相手の邸宅へと向かっていた。
両親は結婚式を終えると、役目を終えたとばかりに振り向きもせず名残惜しそうにするマリアの手を引いて帰ってしまった。
最後の日くらい、親らしく嘘でもいいから振る舞ってほしかった。そんなことを望む私は、まだまだね。
これだけの仕打ちを受けていながらもなお、愛情が欲しいだなんて。
目に涙がたまり、零れ落ちるのを必死で堪えながら、静かに馬車に揺られていた。
「到着しました」
御者に言われて馬車を降りると、目の前には立派な邸宅が建っていた。大きな門があり、広い中庭の中央には噴水があるのが門の外からも見えている。
立派だわ…
今日からここが、私の家なのね。
驚いている場合じゃない。しっかりしなければ。妻としての役目を果たさなければ、きっと追い出されてしまう。
覚悟を決めて顔を上げたその時だった。
「よくいらっしゃいました」
そう言って出迎えてくれたのは、意外な人物だった。
「アスベル…!?」
私は何をやっても不器用で、マリアは私ができないことを器用に難なくこなしていく。
両親は私に見切りをつけ、美しく愛らしいマリアばかりを可愛がるようになった。
私は可愛がられるマリアを羨ましく思いながらも、憎めなかった。マリアは私のことを慕ってくれていたから。
「お姉様、お父様とお母様はおかしいです。姉妹でこのように差をつけるなんてどうかしてるわ」
「ありがとう、マリア」
両親がマリアと私を比較し嘲笑うようにけなすたびに、マリアが庇ってくれる。その度に、私は自分が情けなくなっていた。
いっそのこと、両親と同じようにけなしてくれれば良いのに。そうすれば、私もマリアを責めることができるのに。
あぁ、私ってこんなに心優しい妹が味方になってくれているというのに、どうしてこんなふうに卑屈になってしまうのかしら。
何度も何度も自分を責めては泣くことを繰り返していた。
そんなある日、父上が上機嫌で帰ってきたかと思うと、食事中に突然こんなことを言い出した。
「マリオット侯爵様がお前と結婚したいそうだ。もちろん受けるよな」
「マリオット侯爵様、ですか…」
彼は女癖が悪いことで貴族の間では有名だった。そんな人がどうして私なんかを…
「まぁ、お前の返事なんかはどうでも良い。もう既に相手の方とは婚約を取り付けてきたからな。花嫁として迎え入れられる準備をしておくんだな」
口を閉ざした私の返事も待たずに、父上は豪快に笑いながら言った。隣では嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべる母上。
おそらく、多額の報酬を受け取ったに違いない。女癖が悪くても、お金だけはしっかりと持っている方だから。身売り同然の婚約なのだ。
もう、どうでも良いわ。
ここから出られるなら、もうなんでも良い。
目に浮かぶ涙を見られないようぐっと堪える私の横で、マリアは何かを考え込んでいる様子だった。
***
結婚式当日。
結局、マリオット侯爵様とは一度も会うことなく結婚の手続きはつつがなく取り行われた。
ニヤニヤと嬉しそうな両親に、何も言わずに微笑むマリア。
マリアだけは味方だと思っていたのだけれど、そうではなかったのね。
今の現実よりも、その方がずっと心に応えた。
純白のドレスに身を包み、私はゆっくりと、相手が待つ場所へと歩いていく。
私はこれから、どんな日々を送ることになるのでしょうか。
ほんの少しでいいんです。
少しでいいから、今よりも幸せを感じられる日々を、私に授けてください。
祈るように願いながら、私は相手の前で立ち止まり、ぎゅっと閉じた瞳をそっと開いた。
え?
相手の方は何故か仮面のようなものを顔につけている。私はどういう事なのかと戸惑いながらも、相手が差し出す手を取り、お互いの指輪を交換する。
その瞬間に目があったかと思うと、仮面ごしに相手の男性が静かに微笑むのがわかった。
マリオット侯爵様は、意外と紳士な方なのかもしれない。式の間もずっと、私には触れず、寄り添ってくださるように隣にいてくださった。
「あの仮面はなんだ?」
「さぁ、そういう趣味をお持ちの方なんじゃない?まぁ良いじゃない、お金は手に入るんだから」
両親も不審に思っていたようだが、お金に目が眩んではそのことも気にならないようだった。
マリアだけが、目に涙を浮かべながら心から姉の結婚を祝福していた。
「絶対に幸せになってね、お姉様」
***
結婚式を終え、私は馬車に乗り相手の邸宅へと向かっていた。
両親は結婚式を終えると、役目を終えたとばかりに振り向きもせず名残惜しそうにするマリアの手を引いて帰ってしまった。
最後の日くらい、親らしく嘘でもいいから振る舞ってほしかった。そんなことを望む私は、まだまだね。
これだけの仕打ちを受けていながらもなお、愛情が欲しいだなんて。
目に涙がたまり、零れ落ちるのを必死で堪えながら、静かに馬車に揺られていた。
「到着しました」
御者に言われて馬車を降りると、目の前には立派な邸宅が建っていた。大きな門があり、広い中庭の中央には噴水があるのが門の外からも見えている。
立派だわ…
今日からここが、私の家なのね。
驚いている場合じゃない。しっかりしなければ。妻としての役目を果たさなければ、きっと追い出されてしまう。
覚悟を決めて顔を上げたその時だった。
「よくいらっしゃいました」
そう言って出迎えてくれたのは、意外な人物だった。
「アスベル…!?」
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