【完結】救ってくれたのはあなたでした

ベル

文字の大きさ
1 / 5

前編

しおりを挟む
昔から両親が可愛がるのはいつも妹のマリア方だった。
私は何をやっても不器用で、マリアは私ができないことを器用に難なくこなしていく。


両親は私に見切りをつけ、美しく愛らしいマリアばかりを可愛がるようになった。


私は可愛がられるマリアを羨ましく思いながらも、憎めなかった。マリアは私のことを慕ってくれていたから。


「お姉様、お父様とお母様はおかしいです。姉妹でこのように差をつけるなんてどうかしてるわ」


「ありがとう、マリア」


両親がマリアと私を比較し嘲笑うようにけなすたびに、マリアが庇ってくれる。その度に、私は自分が情けなくなっていた。


いっそのこと、両親と同じようにけなしてくれれば良いのに。そうすれば、私もマリアを責めることができるのに。


あぁ、私ってこんなに心優しい妹が味方になってくれているというのに、どうしてこんなふうに卑屈になってしまうのかしら。


何度も何度も自分を責めては泣くことを繰り返していた。



そんなある日、父上が上機嫌で帰ってきたかと思うと、食事中に突然こんなことを言い出した。


「マリオット侯爵様がお前と結婚したいそうだ。もちろん受けるよな」


「マリオット侯爵様、ですか…」


彼は女癖が悪いことで貴族の間では有名だった。そんな人がどうして私なんかを…


「まぁ、お前の返事なんかはどうでも良い。もう既に相手の方とは婚約を取り付けてきたからな。花嫁として迎え入れられる準備をしておくんだな」


口を閉ざした私の返事も待たずに、父上は豪快に笑いながら言った。隣では嬉しそうにニヤリと笑みを浮かべる母上。


おそらく、多額の報酬を受け取ったに違いない。女癖が悪くても、お金だけはしっかりと持っている方だから。身売り同然の婚約なのだ。


もう、どうでも良いわ。
ここから出られるなら、もうなんでも良い。


目に浮かぶ涙を見られないようぐっと堪える私の横で、マリアは何かを考え込んでいる様子だった。


***


結婚式当日。
結局、マリオット侯爵様とは一度も会うことなく結婚の手続きはつつがなく取り行われた。


ニヤニヤと嬉しそうな両親に、何も言わずに微笑むマリア。

マリアだけは味方だと思っていたのだけれど、そうではなかったのね。
今の現実よりも、その方がずっと心に応えた。


純白のドレスに身を包み、私はゆっくりと、相手が待つ場所へと歩いていく。


私はこれから、どんな日々を送ることになるのでしょうか。

ほんの少しでいいんです。
少しでいいから、今よりも幸せを感じられる日々を、私に授けてください。


祈るように願いながら、私は相手の前で立ち止まり、ぎゅっと閉じた瞳をそっと開いた。


え?


相手の方は何故か仮面のようなものを顔につけている。私はどういう事なのかと戸惑いながらも、相手が差し出す手を取り、お互いの指輪を交換する。


その瞬間に目があったかと思うと、仮面ごしに相手の男性が静かに微笑むのがわかった。


マリオット侯爵様は、意外と紳士な方なのかもしれない。式の間もずっと、私には触れず、寄り添ってくださるように隣にいてくださった。


「あの仮面はなんだ?」
「さぁ、そういう趣味をお持ちの方なんじゃない?まぁ良いじゃない、お金は手に入るんだから」


両親も不審に思っていたようだが、お金に目が眩んではそのことも気にならないようだった。


マリアだけが、目に涙を浮かべながら心から姉の結婚を祝福していた。


「絶対に幸せになってね、お姉様」


***


結婚式を終え、私は馬車に乗り相手の邸宅へと向かっていた。

両親は結婚式を終えると、役目を終えたとばかりに振り向きもせず名残惜しそうにするマリアの手を引いて帰ってしまった。


最後の日くらい、親らしく嘘でもいいから振る舞ってほしかった。そんなことを望む私は、まだまだね。
これだけの仕打ちを受けていながらもなお、愛情が欲しいだなんて。


目に涙がたまり、零れ落ちるのを必死で堪えながら、静かに馬車に揺られていた。


「到着しました」


御者に言われて馬車を降りると、目の前には立派な邸宅が建っていた。大きな門があり、広い中庭の中央には噴水があるのが門の外からも見えている。


立派だわ…
今日からここが、私の家なのね。


驚いている場合じゃない。しっかりしなければ。妻としての役目を果たさなければ、きっと追い出されてしまう。


覚悟を決めて顔を上げたその時だった。


「よくいらっしゃいました」


そう言って出迎えてくれたのは、意外な人物だった。


「アスベル…!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛

三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。 ​「……ここは?」 ​か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。 ​顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。 ​私は一体、誰なのだろう?

結婚して5年、初めて口を利きました

宮野 楓
恋愛
―――出会って、結婚して5年。一度も口を聞いたことがない。 ミリエルと旦那様であるロイスの政略結婚が他と違う点を挙げよ、と言えばこれに尽きるだろう。 その二人が5年の月日を経て邂逅するとき

【完結】ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意に気付かない。 「一生側に」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です

くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」 身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。 期間は卒業まで。 彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう
恋愛
 伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。  貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?  すれ違いから始まる逆転ラブコメ。

侯爵様の懺悔

宇野 肇
恋愛
 女好きの侯爵様は一年ごとにうら若き貴族の女性を妻に迎えている。  そのどれもが困窮した家へ援助する条件で迫るという手法で、実際に縁づいてから領地経営も上手く回っていくため誰も苦言を呈せない。  侯爵様は一年ごとにとっかえひっかえするだけで、侯爵様は決して貴族法に違反する行為はしていないからだ。  その上、離縁をする際にも夫人となった女性の希望を可能な限り聞いたうえで、新たな縁を取り持ったり、寄付金とともに修道院へ出家させたりするそうなのだ。  おかげで不気味がっているのは娘を差し出さねばならない困窮した貴族の家々ばかりで、平民たちは呑気にも次に来る奥さんは何を希望して次の場所へ行くのか賭けるほどだった。  ――では、侯爵様の次の奥様は一体誰になるのだろうか。

処理中です...