芙蓉は後宮で花開く

速見 沙弥

文字の大きさ
80 / 114
動乱

80話

しおりを挟む


 道の途中で足を止め見つめあう李星と蓮花。邪魔になってはいけないと李星が足を動かし始めた。その斜め後ろを蓮花もついていく。
 告白なんてされたこともない蓮花は一体こういう時どういう顔をするのが正解なんだろうと考えた。

「別に今すぐ返事が欲しいとは思わないよ。でも俺が蓮花の事好きだってことを頭片隅にでも置いといてくれよ」
「李星……」

 蓮花は李星がなぜ自分のことを好きになったのか見当もつかなかった。昔から軽く話すことはあっても明苑たちのようにずっと一緒にいたわけではなかった。
 気が付くと蓮花は李星に疑問をそのままぶつけていた。李星は少しの間を置いて口を開く。

「俺らがまだガキだった頃、今よりヒョロヒョロで女みたいだっただろ。それでよく近所の奴に馬鹿にされてたんだ」

 李星はいつも友達に囲まれている印象だったからその話は蓮花にとって意外だった。

「その反応じゃ覚えてないだろうけど、俺がそうやって笑われてるときに蓮花がそいつらを追い払ってくれたんだよ」
「え! ごめん、覚えてないかも……」
「だろうな。でも俺にとってはすごい心強かったっていうか、救われたんだよ」

 蓮花の言葉を聞いても李星は気を悪くしたような素振りは見せずに笑っていた。

「それから絶対男らしい大人になるって決めて、筋肉鍛えたり仕事に打ち込んだり色々やって来たって訳」

「お前の家の事情はこの辺りのやつらだったら大体は軽く知ってるし、知った上でお前に手出そうってやつはいなかったから油断してた」
「油断?」

「蓮花が他の誰かを好きになる事を考えてなかった。今思えばすげえ恥ずかしいけど、俺が蓮花に関わり続けてたらいつか好きになってくれるって思ってた」

 李星の悔しそうな声に蓮花は答えあぐねていた。

 確かに蓮花の周りで好意を示して来るような人は今までいなかった。李星は仕事もしっかりしていて、蓮花家族のことまで考えてくれている。結婚相手としては条件は揃っていた。
 柳家は貴族だが両親は蓮花が結婚したい相手なら身分は関係なく見てくれるだろう。
 そこまで考えて蓮花の思考が止まる。結婚したい相手――自分は李星と結婚したいのだろうか。
 条件としてはいいし、仲も悪くないのに直ぐに頷けないのは心の片隅にあの碧緑と翡翠がちらつくから。

 李星とともに過ごすところを想像しようとすると、蓮花に向かって穏やかな優しい目で話しかけてくれる飛の姿が浮かんでくる。
 昔からの友人の李星と片や身分も分からない謎の青年。客観的に見れば李星の方がいいに決まっている。だけど――と考えた所で李星が足を止めたと思ったら、いつの間にか蓮花の家に着いていた。

 李星は玄関に持っていた荷物を下ろしふう、と一息つく。

「李星、荷物ありがとう。助かったわ」
「気にしなくていいよ。あ、でもさっきの事はちゃんと気にしてくれなきゃ困るけど」

 さっきの、と言われて李星の告白が蘇る。告白をされたことが初めてな蓮花は頬に熱が集まるのがわかった。

「そうそう、その調子で! んじゃまたな」

 ぽん、と一度手を蓮花の頭に乗せて李星は来た道を戻って行った。

 蓮花は荷物を運び入れながら新たに増えた悩みの種をどうするべきかと息を吐いた。


 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】

里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけたたった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届かくはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前ににいる。 奇跡的な出会いを果たしてしまった私の人生は、大きく動き出す……

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

男装官吏と花散る後宮〜禹国謎解き物語〜

春日あざみ
キャラ文芸
<第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。応援ありがとうございました!> 宮廷で史書編纂事業が立ち上がると聞き、居ても立ってもいられなくなった歴史オタクの柳羅刹(りゅうらせつ)。男と偽り官吏登用試験、科挙を受験し、見事第一等の成績で官吏となった彼女だったが。珍妙な仮面の貴人、雲嵐に女であることがバレてしまう。皇帝の食客であるという彼は、羅刹の秘密を守る代わり、後宮の悪霊によるとされる妃嬪の連続不審死事件の調査を命じる。 しかたなく羅刹は、悪霊について調べ始めるが——? 「歴女×仮面の貴人(奇人?)」が紡ぐ、中華風世界を舞台にしたミステリ開幕!

皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜

菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。 まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。 なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに! この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。

耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか
キャラ文芸
准教授の藤波怜(ふじなみ れい)が一人静かに暮らす一軒家。 そこに迷い猫のように住み着いた女の子。 名前はミネ。 どこから来たのか分からない彼女は、“女性”と呼ぶにはあどけなく、“少女”と呼ぶには美しい ゆるりと始まった二人暮らし。 クールなのに優しい怜と天然で素直なミネ。 そんな二人の間に、目には見えない特別な何かが、静かに、穏やかに降り積もっていくのだった。 ***** ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※他サイト掲載

竜王の花嫁

桜月雪兎
恋愛
伯爵家の訳あり令嬢であるアリシア。 百年大戦終結時の盟約によりアリシアは隣国に嫁ぐことになった。 そこは竜王が治めると云う半獣人・亜人の住むドラグーン大国。 相手はその竜王であるルドワード。 二人の行く末は? ドタバタ結婚騒動物語。

同窓会に行ったら、知らない人がとなりに座っていました

菱沼あゆ
キャラ文芸
「同窓会っていうか、クラス会なのに、知らない人が隣にいる……」  クラス会に参加しためぐるは、隣に座ったイケメンにまったく覚えがなく、動揺していた。  だが、みんなは彼と楽しそうに話している。  いや、この人、誰なんですか――っ!?  スランプ中の天才棋士VS元天才パティシエール。 「へえー、同窓会で再会したのがはじまりなの?」 「いや、そこで、初めて出会ったんですよ」 「同窓会なのに……?」

月華後宮伝

織部ソマリ
キャラ文芸
★10/30よりコミカライズが始まりました!どうぞよろしくお願いします! ◆神託により後宮に入ることになった『跳ねっ返りの薬草姫』と呼ばれている凛花。冷徹で女嫌いとの噂がある皇帝・紫曄の妃となるのは気が進まないが、ある目的のために月華宮へ行くと心に決めていた。凛花の秘めた目的とは、皇帝の寵を得ることではなく『虎に変化してしまう』という特殊すぎる体質の秘密を解き明かすこと! だが後宮入り早々、凛花は紫曄に秘密を知られてしまう。しかし同じく秘密を抱えている紫曄は、凛花に「抱き枕になれ」と予想外なことを言い出して――? ◆第14回恋愛小説大賞【中華後宮ラブ賞】受賞。ありがとうございます! ◆旧題:月華宮の虎猫の妃は眠れぬ皇帝の膝の上 ~不本意ながらモフモフ抱き枕を拝命いたします~

処理中です...