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動乱
80話
しおりを挟む道の途中で足を止め見つめあう李星と蓮花。邪魔になってはいけないと李星が足を動かし始めた。その斜め後ろを蓮花もついていく。
告白なんてされたこともない蓮花は一体こういう時どういう顔をするのが正解なんだろうと考えた。
「別に今すぐ返事が欲しいとは思わないよ。でも俺が蓮花の事好きだってことを頭片隅にでも置いといてくれよ」
「李星……」
蓮花は李星がなぜ自分のことを好きになったのか見当もつかなかった。昔から軽く話すことはあっても明苑たちのようにずっと一緒にいたわけではなかった。
気が付くと蓮花は李星に疑問をそのままぶつけていた。李星は少しの間を置いて口を開く。
「俺らがまだガキだった頃、今よりヒョロヒョロで女みたいだっただろ。それでよく近所の奴に馬鹿にされてたんだ」
李星はいつも友達に囲まれている印象だったからその話は蓮花にとって意外だった。
「その反応じゃ覚えてないだろうけど、俺がそうやって笑われてるときに蓮花がそいつらを追い払ってくれたんだよ」
「え! ごめん、覚えてないかも……」
「だろうな。でも俺にとってはすごい心強かったっていうか、救われたんだよ」
蓮花の言葉を聞いても李星は気を悪くしたような素振りは見せずに笑っていた。
「それから絶対男らしい大人になるって決めて、筋肉鍛えたり仕事に打ち込んだり色々やって来たって訳」
「お前の家の事情はこの辺りのやつらだったら大体は軽く知ってるし、知った上でお前に手出そうってやつはいなかったから油断してた」
「油断?」
「蓮花が他の誰かを好きになる事を考えてなかった。今思えばすげえ恥ずかしいけど、俺が蓮花に関わり続けてたらいつか好きになってくれるって思ってた」
李星の悔しそうな声に蓮花は答えあぐねていた。
確かに蓮花の周りで好意を示して来るような人は今までいなかった。李星は仕事もしっかりしていて、蓮花家族のことまで考えてくれている。結婚相手としては条件は揃っていた。
柳家は貴族だが両親は蓮花が結婚したい相手なら身分は関係なく見てくれるだろう。
そこまで考えて蓮花の思考が止まる。結婚したい相手――自分は李星と結婚したいのだろうか。
条件としてはいいし、仲も悪くないのに直ぐに頷けないのは心の片隅にあの碧緑と翡翠がちらつくから。
李星とともに過ごすところを想像しようとすると、蓮花に向かって穏やかな優しい目で話しかけてくれる飛の姿が浮かんでくる。
昔からの友人の李星と片や身分も分からない謎の青年。客観的に見れば李星の方がいいに決まっている。だけど――と考えた所で李星が足を止めたと思ったら、いつの間にか蓮花の家に着いていた。
李星は玄関に持っていた荷物を下ろしふう、と一息つく。
「李星、荷物ありがとう。助かったわ」
「気にしなくていいよ。あ、でもさっきの事はちゃんと気にしてくれなきゃ困るけど」
さっきの、と言われて李星の告白が蘇る。告白をされたことが初めてな蓮花は頬に熱が集まるのがわかった。
「そうそう、その調子で! んじゃまたな」
ぽん、と一度手を蓮花の頭に乗せて李星は来た道を戻って行った。
蓮花は荷物を運び入れながら新たに増えた悩みの種をどうするべきかと息を吐いた。
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