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動乱
82話
しおりを挟む蓮花は懐に入れた文を寝る前にゆっくり読もうと、無くさないよう家に帰り自室に真っ先に置きに行く。
夕食を食べ、お風呂を済ませたあと、自室の机の椅子に座り文を開く。
飛から文をもらうのは初めてなので、飛の筆跡を見るのも初めてだ。それはとても綺麗で読みやすく、飛がこの文字を書いたのかと思うと胸にじんわりと温かいものが広がる。
文を広げると飛の香の移り香がふわりと蓮花の鼻腔をくすぐる。いつの間にか飛の香りだと分かるほど飛の存在が、自分にとって近しいものになっていたのかと驚く蓮花。
蓮花は広げた文に早速目を通し始める。
【蓮花へ――
こうやって私が私的に文を書くのは初めてかもしれない。それは君だけではなく、他の誰かに対してもという意味で。
蓮花と最後に会ったのが随分前のように感じる。仕事はどうだ? 体調を崩したりはしていないだろうか。宴で急に給仕係に当てられたと耳にした。きっと君のことだから失敗なく仕事をしようと色々な勉強をしているのだろうな。そんないつでも真っ直ぐ一生懸命なところを好ましく思う。
でも、たまにはゆっくり深呼吸をして肩の力を抜くことも大切だ。心の余裕は仕事の余裕にも繋がるから。
と書いては見たが、今の私には耳が痛い言葉だ。現に君に会う時間を作りたいと思っていたが仕事が忙しく時間がなかなか作れない。心に余裕が無いのは私の方かもしれないな。
君の顔を見てきちんと伝えたいことがある。君は優しいから、いつも気にしない振りをしていてくれたな。
そう、私の肩書きの事だ。
宮廷に出入りはするのに、ふらふらと歩き回る。本当に仕事をしているのか心配になるぼんくらぶりだっただろう。
君と会う時間が増える程に伝えたい、知って欲しいという気持ちは強くなった。
今こそ、ちゃんと自分の言葉で君に明かしたい。
本当は宴の日までに会いに行く予定だったが、急用が入りどうしても都合がつけられなくなった。
だから宴が終わったら君の時間を少しでもいいから私にくれないか? 失望し罵声を浴びせたくなるかもしれないが、全て受け止める。
だからもう一度君と二人で向き合う時間が欲しい。
宴が終わったら会いにゆく。できることならその時に私の話を聞いて欲しい。
――飛】
蓮花は手にしていた文をゆっくり机に置く。
飛の正体。それは蓮花にとって今まで触れてはいけない部分だった。
それを飛自身が話したいと言ってくれた。蓮花はその気持ちだけで嬉しさが込み上げる。
自分は飛に秘密を明かしてもいいと思ってもらえるほど信頼されたのだと。蓮花の中で飛からの願いに対する答えは既に決まっていた――。
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