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宴
91話
しおりを挟む早歩きで進む雲嵐について行く蓮花と王琳。そうしてしばらく進み、ある部屋へと到着する。
部屋の前には二人の武官が立っており、雲嵐の姿を見るとサッと左右に避ける。
「こちらへ」
雲嵐が扉を開けて進むのに続くとそこには寝台に寝かされた飛龍と先程連行されたはずの宇民だった。
「飛様!」
蓮花は思わず寝台の側へ駆け寄る。
飛龍は苦しそうに低い唸り声を上げ、肌は汗で濡れている。
蓮花は懐から手拭いを出しそっと汗を拭う。
「宇民、例のものは持っているか」
「あ、ああ……」
蓮花は王琳が宇民に話しかけたことに驚く。宇民は飛龍に毒を盛ったかもしれないのになぜ普通に話しかけられるのか。それになぜ牢ではなくこの部屋に宇民がいるのか。蓮花は疑問で頭がいっぱいだった。
「宇民さんは捕まえられたのではなかったのですか? 飛様に毒を盛ったかもしれないんですよ!」
「蓮花、落ち着きなさい。これは飛龍様の計画の一部なんだよ」
蓮花は落ち着けと言われて落ち着けるものか、と王琳に反抗しようとした。しかし王琳の口から続く言葉に呆気に取られ言葉を引っ込ませる。
「計画? 毒を盛られるのが?」
「解毒薬はこの宇民が持っているもので効くはずだ」
「蓮花さん、私もちゃんと把握した上での計画ですのでどうか抑えてください」
宥める雲嵐に思わず取り乱していた自分に気付きバツが悪くなる。
宇民は懐から小瓶を取り出し、雲嵐に手渡す。
雲嵐は飛龍の口を軽く開け、小瓶から解毒薬を垂らした。
飛龍は朦朧とする意識のまま薬を嚥下する。
その姿を見て蓮花はほっと小さく息をついた。これで飛龍の命が助かる。
解毒薬は即効性のものなので、程なく飛龍の容態は好転する――はずだった。
「うあ……」
「おかしい、流石にそろそろ効き目が出てもいい頃なのに……。宇民さん、これはれっきとした本物なんでしょうね。私たちを謀ったとなると命はありませんが」
「私が渡されたのはこれです!! これを飲めば毒は中和されるはずなのに! ……まさか!」
うろたえる宇民は必死に頭を回転させた。そしてある説が浮上した。
「あいつ……梠尚書は俺を騙したのか! もしもの時の解毒薬を渡し、もし捕まっても武官は買収しておくから逃げられると言っていたのに!」
その一言を耳にした王琳もしまったという表情を浮かべる。
「もとよりお前に罪を被せて口封じするはずだったんだな。こちらに寝返ったとて、解毒薬が不完全であれば飛龍様の命を危険に晒した罪で死罪。寝返らなくとも連行する武官達を別の意味で買収しておけば、お前が梠尚書に命令されたと言い出しても関係ない。そして皇子に毒を盛った罪で死罪。」
「こういう悪知恵だけはどこから思いつくのか……」
やれやれといった様子でため息を着く雲嵐。いつも通りの態度のように見えて、顔は普段よりずっと険しい。
「毒の種類は分からないんですか? それさえ分かれば解毒薬を急いで手配すれば――」
「梠尚書は念には念を入れてセラム王国と和桜国の毒を調合している。天聖国のものだけならまだしも他国のものは未知の毒が多い……もう打つ手はないっ……」
「そんな……」
宇民は膝から崩れ落ちる。
蓮花は飛龍に向き直り、熱を持つ手を両手で握りしめる。
飛龍はそれまで閉じていた目をうっすらと開けて蓮花を見つめる。
蓮花が握っていたが弱々しい力で握り返された。
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