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第02話 婚約破棄のサイン
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ある日、お城にあるレナルド王子の執務室に呼び出された。大事な話があるから、来てくれと言われて。
私にとって、あまり良くない話だろうというのは予想していた。
初めて訪れるレナルド王子の執務室。私の不運が影響してしまい、部屋が壊れたり悪いことが起きるから近寄ることすら許されなかった場所である。
そんな場所に私を呼び出すなんて、よほど大事な話なのだろう。
不安になりながら、指定された時間通りに訪れた。
中に入ると、部屋の中央にレナルド王子が待ち構えていた。腕を組んで、いつものようにイライラしている様子。私の顔を見ると、嫌そうな表情を浮かべる。それも、いつものこと。
「大事な話とは、一体何でしょうか?」
部屋に入ってすぐに、問いかける。なるべく長居したくない。彼の考えによれば、私が近くに居ると不運に見舞われるらしい。だから、何も起きないうちに早く部屋を出たいと思って。
「……まず、その席に座れ」
「はい」
しかし彼は、座っている向かい側に座れと指示する。なので仕方なく、その通りにする。間にテーブルを挟んで向かい合う。だけど、視線は合わない。
「はぁ……」
「……」
レナルド王子が私の目の前で、思いっきりため息をつく。普通の相手だったなら、失礼でしょうと注意するような状況。
だけど彼は、次期王となる権力者だった。ただの婚約相手である私なんかが、注意出来るような人物ではない。
下手に注意してしまうと、怒り出すだろう。彼は気分を害して、更に私達の関係が悪化する。いや、もう十分に私達の関係は最悪だけれど。
とにかく私は何も言わずに、レナルド王子が口を開くのを待ち続けた。
部屋の中に、とても嫌な雰囲気が漂っている。ここに居たくない。早く帰りたい。そんな考えが、私の頭の中を駆け巡る。
だけど、レナルド王子は話を始めようとしない。私は、待つことしか出来ない。
しばらく待っていると唐突に、レナルド王子が口を開いた。話し始めると同時に、テーブルの上に何かの紙を置いた。
私の方に、スッと差し出す。
「俺とお前の婚約関係を破棄する」
「え?」
「さっさと、この書類にサインしたまえ」
目の前に、ポイッとペンとインクの瓶を投げ捨てるレナルド王子。放り投げられた衝撃でテーブルの上に倒れて、瓶に入っていた黒のインクが溢れる。
インクで、テーブルが汚れてしまった。私は、慌てて倒れた瓶を立てる。インクで汚れたテーブルは、処置できないか。そんな私を、忌々しそうに見るレナルド王子。
「チッ! テーブルが汚れてしまったではないか」
「……」
「お前が近くにいると悪いことが起きる。やはり俺の不運は、お前が近くにいるのが原因だ」
今のは、貴方が乱暴にインクの瓶をテーブルの上に放ったのが原因でしょう、とは言わない。言っても無駄だろうから。
私にとって、あまり良くない話だろうというのは予想していた。
初めて訪れるレナルド王子の執務室。私の不運が影響してしまい、部屋が壊れたり悪いことが起きるから近寄ることすら許されなかった場所である。
そんな場所に私を呼び出すなんて、よほど大事な話なのだろう。
不安になりながら、指定された時間通りに訪れた。
中に入ると、部屋の中央にレナルド王子が待ち構えていた。腕を組んで、いつものようにイライラしている様子。私の顔を見ると、嫌そうな表情を浮かべる。それも、いつものこと。
「大事な話とは、一体何でしょうか?」
部屋に入ってすぐに、問いかける。なるべく長居したくない。彼の考えによれば、私が近くに居ると不運に見舞われるらしい。だから、何も起きないうちに早く部屋を出たいと思って。
「……まず、その席に座れ」
「はい」
しかし彼は、座っている向かい側に座れと指示する。なので仕方なく、その通りにする。間にテーブルを挟んで向かい合う。だけど、視線は合わない。
「はぁ……」
「……」
レナルド王子が私の目の前で、思いっきりため息をつく。普通の相手だったなら、失礼でしょうと注意するような状況。
だけど彼は、次期王となる権力者だった。ただの婚約相手である私なんかが、注意出来るような人物ではない。
下手に注意してしまうと、怒り出すだろう。彼は気分を害して、更に私達の関係が悪化する。いや、もう十分に私達の関係は最悪だけれど。
とにかく私は何も言わずに、レナルド王子が口を開くのを待ち続けた。
部屋の中に、とても嫌な雰囲気が漂っている。ここに居たくない。早く帰りたい。そんな考えが、私の頭の中を駆け巡る。
だけど、レナルド王子は話を始めようとしない。私は、待つことしか出来ない。
しばらく待っていると唐突に、レナルド王子が口を開いた。話し始めると同時に、テーブルの上に何かの紙を置いた。
私の方に、スッと差し出す。
「俺とお前の婚約関係を破棄する」
「え?」
「さっさと、この書類にサインしたまえ」
目の前に、ポイッとペンとインクの瓶を投げ捨てるレナルド王子。放り投げられた衝撃でテーブルの上に倒れて、瓶に入っていた黒のインクが溢れる。
インクで、テーブルが汚れてしまった。私は、慌てて倒れた瓶を立てる。インクで汚れたテーブルは、処置できないか。そんな私を、忌々しそうに見るレナルド王子。
「チッ! テーブルが汚れてしまったではないか」
「……」
「お前が近くにいると悪いことが起きる。やはり俺の不運は、お前が近くにいるのが原因だ」
今のは、貴方が乱暴にインクの瓶をテーブルの上に放ったのが原因でしょう、とは言わない。言っても無駄だろうから。
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