女男の世界

キョウキョウ

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第1章 姉妹編

第01話 覚醒

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「う~っ、もう朝か」 

 朝の光から逃れるように布団にくるまりながら、いつも枕元に置いている時計に手を伸ばした。

「あれ?時計はどこだ」

 しかし、伸ばした手の先に時計を見つけられなかった僕は、ガバっと布団から飛び出すと周りをキョロキョロと見渡した。

「どこだろう、ここ?」

 ここがどこなのか思い出そうと昨夜の記憶を辿り通り魔にあった事を思い出すと、サーッと顔から血の気を引かせ、つぶやいた。

「刺されたんだ、僕」

 すぐに刺されたと思う箇所を調べたが、包帯は巻かれておらず傷も見当たらなかったので、改めて部屋を見回して、ここが何処なのか考えた。

「んっ、病院かここ」

 真っ白な布団に真っ白な壁、そして真っ白なカーテン。枕元にナースコールと思われるボタン。

 病院に縁がなかった優は、頭にあるイメージからここは病院だと判断した。


 コンッ、コンッ、コンッ


(ちょうどいいや、人が来たみたいだから聞いてみよう)

「佐藤優さん、失礼します」

 男性看護師を見て唖然とした優。

(え、ちょ……。男なのにスカート!? 女装……? 病院で、何故?) 

「さ、佐藤さん。起きられたんですね!今、主治医を呼んできます」

 何も言えずに居る僕を見て、すぐさま部屋を出て行った男性看護師。数分後、ひとりの女性医師と先ほど病室に来た看護師が入ってきた。

「起きたか、佐藤優くん」
「あっ、えーっと……。はい」

(うん。何度見ても、やっぱりスカートだ……)

 後ろに控えている男性看護師を少し気にしながら、女性医師の質問に優は答えた。

「私は日野原時雨《ひのはらしぐれ》だ。よろしく頼む。早速だが気分はどうだ?」
「大丈夫だと思います」

 改めて日野原と名乗った先生の顔を見ると、とても美しい顔立ちをしていることに気づいた。

「君は三日前に自宅で倒れたんだが、覚えているか?」
「えっ!?……確か、通り魔に襲われて後ろから刺されたんだと思うんですけど……」

 徐々に声音が小さくなっていく僕の答えに綺麗と思える顔の表情を鋭くする日野原先生。数秒考えたあと、日野原先生は言った。

「通り魔に襲われる前の事は覚えているか?」
「えっと、会社から自宅へ帰宅する途中でした。駅を降りて自宅までの道で、八時半頃だと思います」


 数秒の間。


「君の今の歳を教えてもらえるか?」
「えっ? 33歳ですが……」

 再び、微妙な間があく。自分の答えに自信がなくなってくる。自分の年齢を、数え間違いしているとか? いや、改めて考え直してみるが、33歳のはず。

「今は何年の何月かわかるか?」
「2013年3月だと思うんですけど……」

 次々に投げられる質問と鋭くなる日野原先生の目に緊張を感じ、だんだんと不安になっていく。

「少し待っていてもらえるか?」
「は、はい……」

 返事をすると日野原先生は看護師に一言掛け、病室から出て行った。

(何かおかしかったのだろうか)

 僕は更に不安を募らせる。10分程後に戻ってきた日野原先生。カルテだろうか、紙を右手に持っていた。

「お待たせした佐藤優さん。すまないが、また幾つか質問を答えてくれるかい?」
「はぁ……。わかりました」

 よくわからない僕は、曖昧に返事をした。その後、住んでいた場所や勤めていた会社、最近のニュースや今の総理大臣などなどを答えた。僕の答えを書き込んだカルテを眺めながら考えこむ日野原先生。

「……記憶の混乱がみられる。再検査が必要なようだが、先に親御さんを呼ぶ事にしよう」
「えっ、でも……」

 日野原先生は、僕の目をしっかり見据えるとこう言った。

「落ち着いて聞くんだ。今は、1996年の2月26日だ。そして君は16歳で学生なんだ」

 日野原先生の言葉を頭で繰り返す僕。

(1996年だって……?それに僕が学生……夢でも見ているのか)

 いつの間にか、日野原先生と男性看護師はいなくなっていた。

 コンッ、コンッ、コンッ

 30分も考え込んでいて時間が過ぎた頃だろうか、部屋をノックする音で僕はハッと現実に戻された。

「ゆうくん、入ってもいいかしら」
「あっ、どうぞ」

(誰だろう、また綺麗な女性だけど)

 反射的に返事をしてしまったけれど、入ってきた大きな女性に見覚えがない僕は、少し訝しげな表情を浮かべてしまってるだろう。女性は、目に涙を浮かべ両手で自分の口を塞ぎながら言った。

「ゆ、ゆうくん……」
「え? あ、あの……」

 何事だ。部屋に入ってきて、いきなり泣かれた。なんと言えばいいのか分からず、黙って見てしまう。しかし、美人な女性だ。

「よ、良かった……本当に……ほんとうに……」
「えーっと」

 僕は、その女性と見つめ合った。



 数分後、なんとか泣き止んだ女性に僕は言った。

「大丈夫ですか?」 

 そんな、ありきたりな言葉をかけることしかできなかった。 

「ありがとう、ゆうくん。泣いちゃってごめんね」

 僕は、誰だか分からない女性に思い切って聞いてみた。

「あの、どちら様でしょうか」
「えっ!? あっ、先生が言っていた……。あの、私はあなたの母よ」
「はあ? 母親…?」

 唖然として、そう答える。

(母さんだって?背高くないか?160cmを少し超えたぐらいだったはずだけど、彼女は170cm以上あるぞ?それに、こんな顔立ちだったっけ?長かった髪の毛が、今はショートヘアーになってる)

 5年は実家に帰らず、母親の顔もおぼろげになっていた。改めて母親と名乗る女性を見ても全然判断がつかなかった。

(う~ん、目元が確かこんな感じだったような気がするけれど……なんだか違うんだよなぁ)

 記憶の母の切れ長の目を思い出しながら、今目の前にいる女性と合わせて見たがそう思った。

「あの、ゆうくん……?」
「あっ、ごめんなさい。あなたが僕の母さんなんですね?」
「そうよ、ゆうくん。覚えていないかしら?」
 
 不安そうな声と期待するような目で尋ねてくる自称母。

「……」

 何も言えない僕に、どうして病院に運ばれたのか恐る恐る説明してくれる。

「ゆうくんは、お家の台所で倒れていたの。どうしていいか分からなかったけれど、ハルちゃんが病院に電話してくれてね」

(ハルちゃんって誰だろう……)

 知らない人物が出て来たが、それが誰か問う前に連々と話し込まれたので聞くことに徹した。その後、実家近くの病院に運ばれた事、一週間も目を覚まさなかった事、とても心配した事などなどを話してくれた。

 僕は、母の話す記憶に無い事柄に混乱しながら、昨夜の出来事や日野原先生に言われた事などを考えていた。

  扉の開く音がしたと思ったら、日野原先生が病室に戻ってきた。

「お母様とお話はできたか?」
「はい、先生」 

 母親に違和感があるとは言えず、適当な返事をしてしまった。

「お母様も現状を把握出来ましたか?」
「えぇ……、少し」

 今度は、母親に向かって言葉を投げかけた。日野原先生が額に皺を寄せ、こちらを軽く睨むように視線を向けてきた。何か、怒られることでもしたっけ。警戒すると、予想とは違った言葉が返ってきた。

「それじゃあ、この後は男性医師に担当をお願いするがそれでいいだろうか」
「え? 日野原先生がいいです」

 綺麗な女性医師と別れるのが惜しいと、思わず出た言葉に一気に恥ずかしくなった。

(なにを言っているんだ僕は。同性の方が気安いだろうと、気を使ってくれたんだろうに)

「男性医師を希望しないのか?」
「あの、日野原先生がいいのですが…… ダメですか?」

 言ってしまった言葉に、もういいやと思い切ってお願いしてみた。やっぱり、美人な人に担当してもらったほうが、良いと思ったから。それは、僕の素直な気持ち。

「では、これからよろしく頼む。早速、検診の準備をしてくる。待っていてくれ」
「はい! よろしくお願いします」

 男性医師には悪いが、担当が代わらずに良かった。素早く病室を出た日野原先生の茶色の交じったショートヘアーを思い出しながら、そう思った。
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