大魔法使いは、人生をやり直す~婚約破棄されなかった未来は最悪だったので、今度は婚約破棄を受け入れて生きてみます~

キョウキョウ

文字の大きさ
8 / 49

第08話 口止め料

しおりを挟む
 部屋の中にある物の確認は一通り済んだけど、整理が一割程度しか進んでいない。これは、根気のいる作業になりそうだわ。

 ヘレンに手伝ってもらいながら、黙々と作業をしていると少し小腹が空いてきた。何か食べたい。ちょっと、アレを試しに作ってみようかな。

 部屋の中にあった材料をかき集めて、魔法を使う。まだ成長していない身体だと、魔力のコントロールが難しい。生成できる量も少ないので、発動できる魔法に限りがある。これは、身体も鍛え直す必要があるわね。

 今後の課題を確認しつつ、今の自分に出来る魔法を発動していく。しばらくして、部屋の中に甘い香りが漂い始めた。

「お嬢様、それは?」
「魔法で作ったケーキよ」
「凄いです。魔法で、そんなことも出来るのですね」

 ヘレンが興味津々に聞いてきたので、答える。

 魔法で作った、真っ白な生クリームケーキ。食材の味を引き立てて、特殊な魔法で甘さを引き出す。通常の料理では出せない味を魔法で生み出した、魔法ケーキ。

 研究室にフルーツがあれば、もう少し見栄えをよく出来たのに。残念ながら置いてなかったので、それは次の機会に挑戦しよう。

 遠い昔に使っていた魔法。原始的な方法で作るのは、かなり久しぶりだ。なので、成功するかどうか、ちょっぴり不安だった。無事に完成したようで、安心する。

 二人分作ったので、一つは彼女の目の前に置く。

「どうぞ。食べてみて」
「よろしいのですか?」
「もちろん! ヘレンのために作ったんだから」

 ここで食べちゃ駄目と言ったら、彼女は泣いてしまうかも。それぐらい、食べたいという気持ちが表情を見て明らかだった。

「そ、それじゃあ。頂きます」

 ゆっくりと口に運んでいく。そして、驚いた顔。ヘレンが驚く表情なんて、かなり珍しい。彼女を驚かせたということは、私の作ったケーキは大成功だったようだ。

 それから、黙々と食べ続けるヘレン。

「ハッ!? あ、あれ……?」

 食べ終わって、なぜか戸惑い始める。そして彼女は、ケーキの皿を見て悲しそうな表情を浮かべる。

「もう、食べ終わっちゃいました」
「そんなに美味しかった?」
「これは、絶品です! すごく甘くて、フワフワしていて。気が付いたら、もう食べ終わっていました!」

 こんなにテンションの高いヘレンも珍しかった。とても美味しかったと、絶賛してくれる。かなり嬉しい反応だった。

「じゃあ、コレも食べる?」
「……い、いえッ! それは……ッ!」

 まだ私が手を付けていないケーキを、彼女の方に差し出す。ヘレンは遠慮しようとするけれど、視線はケーキに釘付けだった。

「お嬢様の物を頂くなんて、メイドとして失格ッ! で、でも……」
「大丈夫だから。気にせず、食べちゃいなさい」
「ッ! で、では……。頂きます」

 強引に押し通して、食べさせる。これで作戦は成功ね。美味しそうに食べてくれるヘレンを眺めながら、ほくそ笑む。

「ありがとうございました、お嬢様。とても美味しかったです」

 すぐケーキを食べ終わる彼女。そんな彼女に、私は言っておくべきことがあった。

「フッフッフッ! 食べてしまったわね、ヘレン」
「えっ!?」
「私の分のケーキも食べるなんて、なんて子なの。この事をバラされたくなければ、私の言うことを聞いてもらうわよッ!」
「な、なんですって!?」

 私は、ヘレンの秘密を握った。私からケーキを奪い取って、美味しく食べたという秘密を。

 まぁ、私が食べなさいって言ったから、バラしても何の問題もないんだけれど。

 ということで少々強引に、彼女には一つ約束してもらう。

「ちょっと事情があって、私は今朝から色々と変わってしまったの。疑問に思うかもしれないけれど、今後は詮索しないでね」
「え、えっと、はい。わかりました」

 時間戻しの究極魔法については、誰にも話すつもりはなかった。疑いの目を向けてくるヘレンにも説明するつもりはないので、これで納得してもらう。

 納得してもらうため、彼女にはケーキを食べさせた。不思議そうな表情でヘレンは頷き、詮索しないことを約束してくれた。

 これで安心ね。ヘレンに、あんな目を向けられるのはツライから。早々に解決しておきたかった。

「もし誰かに話したら、二度と魔法のケーキも作らないからね」
「そ、それだけは! 絶対に、お嬢様の事情を詮索なんてしませんッ!」
「あ、うん。お願いね」

 二度とケーキを作らないと言ったら、凄い勢いで約束してくれた。こっちのほうが、ダメージが大きいようだ。

 それほど、ヘレンは私の魔法で作るケーキを気に入ってくれたということね。また作って、食べさせてあげようと思った。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢扱いで国外追放?なら辺境で自由に生きます

タマ マコト
ファンタジー
王太子の婚約者として正しさを求め続けた侯爵令嬢セラフィナ・アルヴェインは、 妹と王太子の“真実の愛”を妨げた悪役令嬢として国外追放される。 家族にも見捨てられ、たった一人の侍女アイリスと共に辿り着いたのは、 何もなく、誰にも期待されない北方辺境。 そこで彼女は初めて、役割でも評価でもない「自分の人生」を生き直す決意をする。

復縁は絶対に受け入れません ~婚約破棄された有能令嬢は、幸せな日々を満喫しています~

水空 葵
恋愛
伯爵令嬢のクラリスは、婚約者のネイサンを支えるため、幼い頃から血の滲むような努力を重ねてきた。社交はもちろん、本来ならしなくても良い執務の補佐まで。 ネイサンは跡継ぎとして期待されているが、そこには必ずと言っていいほどクラリスの尽力があった。 しかし、クラリスはネイサンから婚約破棄を告げられてしまう。 彼の隣には妹エリノアが寄り添っていて、潔く離縁した方が良いと思える状況だった。 「俺は真実の愛を見つけた。だから邪魔しないで欲しい」 「分かりました。二度と貴方には関わりません」 何もかもを諦めて自由になったクラリスは、その時間を満喫することにする。 そんな中、彼女を見つめる者が居て―― ◇5/2 HOTランキング1位になりました。お読みいただきありがとうございます。 ※他サイトでも連載しています

私、今から婚約破棄されるらしいですよ!舞踏会で噂の的です

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
デビュタント以来久しぶりに舞踏会に参加しています。久しぶりだからか私の顔を知っている方は少ないようです。何故なら、今から私が婚約破棄されるとの噂で持ちきりなんです。 私は婚約破棄大歓迎です、でも不利になるのはいただけませんわ。婚約破棄の流れは皆様が教えてくれたし、さて、どうしましょうね?

妹のことが好き過ぎて婚約破棄をしたいそうですが、後悔しても知りませんよ?

カミツドリ
ファンタジー
侯爵令嬢のフリージアは婚約者である第四王子殿下のボルドーに、彼女の妹のことが好きになったという理由で婚約破棄をされてしまう。 フリージアは逆らうことが出来ずに受け入れる以外に、選択肢はなかった。ただし最後に、「後悔しないでくださいね?」という言葉だけを残して去って行く……。

もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜

野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」 婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。 もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。 ……え? いまさら何ですか? 殿下。 そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね? もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。 だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。 これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。 ※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。    他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

王太子妃(仮)でしたが、聞いたこともない予言のせいで追放されました。ですから、今さら呼び戻されても困ります。

實藤圭
ファンタジー
王太子妃候補として、真摯に王子リオネルを愛し、支えてきたクラリス。 だが、王太子妃となるための儀式、婚礼の儀の当日、リオネルと聖女ミラによって、突如断罪され、婚約を破棄されてしまう。 原因は、教会に古くから伝わる「神託」に書かれた“災いの象徴”とは、まさにクラリスのことを指している予言であるとして告発されたためであった。 地位も名誉も奪われ、クラリスは、一人辺境へと身を寄せ、心静かに暮らしていくのだが…… これは、すべてを失った王太子妃(仮)が、己の誇りと歩みを取り戻し、歪められた“真実”と向き合うため、立ち上がる物語。

婚約破棄されたら、実はわたし聖女でした~捨てられ令嬢は神殿に迎えられ、元婚約者は断罪される~

腐ったバナナ
ファンタジー
「地味で役立たずな令嬢」――そう婚約者に笑われ、社交パーティで公開婚約破棄されたエリス。 誰も味方はいない、絶望の夜。だがそのとき、神殿の大神官が告げた。「彼女こそ真の聖女だ」と――。 一夜にして立場は逆転。かつて自分を捨てた婚約者は社交界から孤立し、失態をさらす。 傷ついた心を抱えながらも、エリスは新たな力を手に、国を救う奇跡を起こし、人々の尊敬を勝ち取っていく。

処理中です...