乙女ゲームとは違う世界~新たな人たちと関係を築いて、私は生き残る~

キョウキョウ

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知らないキャラクター

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 リシャール様と口論していたヒロインの女。口論というか、一方的にヒロイン女が罵るだけで会話になっていないというか。

 話を聞こうとしない彼女の態度に、リシャール様が呆れている。

「とにかくッ! アンセル様が決めたんだから、婚約破棄したのよッ! 悪いのは、その女。逃げ出すなんて許さないから!」

 そう言って、ヒロインの女が私を指差してきた。巻き込まれるのも嫌だから離れて見守っていただけ。なのに、逃げ出すと思ったらしい。

「ケヴェン様、その女を逃さないで!」
「はぁ。面倒だな」

 ヒロイン女の呼びかけに出てきたのは、鎧を着て武装している長身の男。ゲームに登場した攻略対象のキャラクターで、代々騎士団長を務める家系の長男でもある。

 そんな彼は面倒くさそうにしながら、ヒロイン女の指示に従って私を捕まえようとする。あんな姿を見たのに、彼女の味方を続けるつもりなのか。

「マウリス様とシデリス様も!」
「調査した結果、貴女のが行ってきた悪行の証拠は揃っている」
「観念しろ、姉貴」

 最近になって宮廷魔術師を任命された、少し病弱そうな見た目の青年がマウリス。私のことを姉貴と呼ぶのは弟のシデリス。どちらも、ゲームに登場したキャラクターである。

 あのヒロイン女の自信の源は、彼らだったようだ。ゲームに登場したキャラクター攻略して、仲間にしていた。アンセル様を仲間にしたように。

 そんな彼らがヒロイン女の指示に従って、前に出てきてしまった。リシャール様がやって来た時点で、止まってくれたら良かったのに。前に出てきてほしくなかった。そのまま穏便に終わらせたかったのに。

「後ろへ下がって、アンジェリーク様」
「そこをどけ。邪魔をするな」

 部下たちが立ち塞がり、私を守ろうとしてくれる。だけど、ケヴェンは武力で無理やり押し通そうとした。少し、時間が足りないか。

「邪魔するのか。なら!」
「ッ!」

 ケヴェンが剣を抜いて、振り上げる。私の部下を打ち倒そうとする。私を守ろうとしてくれている部下は、助けないと。もう少しだけ時間を稼ぎたい。

 一歩、前に出る。部下を怪我させてたくない。私が身を挺すれば、少しは躊躇してくれるか。その時間で。

「危ないッ! アンジェリークさまっ!?」

 周囲で様子を見守っていた貴族の子女たちが悲鳴を上げた。そして、ヒロイン女がニヤリと笑う。

「止まれ、ケヴェン」
「ッ!」

 その時、パーティー会場に雷鳴の轟くような声が聞こえてきた。体が硬直するような、恐ろしい声。名前を呼ばれたケヴェンも動きを止める。よかった、間に合ってくれた。

「お前は今、何をしようとした?」
「……」

 現れたのは、騎士団長のヴァルター様だった。ケヴェンの目の前に立ち、鋭い視線を向けて問いかける。その問いに答えられずに、黙り込むケヴェン。

 ヴァルター様は50歳を超えているはず。だが、肉体の衰えを全く感じさせない。あのケヴェンが子供のように縮こまっている。ゲームに登場したときは、武力最強のキャラクターと言われていたのに。

「また、関係ない奴が割って入って! これじゃあ、私が苦労して進めたシナリオがメチャクチャじゃない! さっさと、その女を処刑してよ!」

 空気を読まずに、ヒロイン女が喚き散らした。二人を見て、どちらの方が力があるのか理解できないらしい。

「その女を捕らえよ。それから、ケヴェンは今すぐに剣を捨てろ」
「そんな奴の指示に従う必要ないわよ! ケヴェン様は、早くあの女を捕まえて処刑して。ゲームをクリアして、私の逆ハーを完成させないとッ!」
「……」

 ケヴェンは黙ったまま、持っていた剣を地面に投げ捨てて敵対心がないことをアピールした。

「せっかく、目をかけてやったのに。お前は、こんな馬鹿なことをしでかして……」

 ヴァルター様は呟きながら、失望したという目をケヴェンに向ける。そんな視線を向けられたケヴェンは、気まずそうに俯いていた。

「なんで! どうして、捕まえないのッ! ッ! 痛い! 離しなさいよッ! こうなるのは私じゃなくて、あの女でしょ!?」

 兵士に捕らえられたまま、まだ喚き散らす彼女。その様子を見る人達は、頭のオカシイ人間を見るような目を向けていた。私も同じような気持ちだ。まだ続けるのか。意味がわからない。
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