乙女ゲームとは違う世界～新たな人たちと関係を築いて、私は生き残る～

優秀な人材

「離しなさいよッ！」

　パーティー会場に次々と、関係者が集まってきていた。こんな大事にするつもりはなかったのに、ヒロインの女は抵抗を続ける。いつまでたっても諦めようとしない。

　あの挫けないメンタルは、周囲の状況を判断できていないからなのか。それとも、他に何か奥の手を隠しているからなのか。

「貴方達、彼らの反感を買ったらどうなるのか分かっているの？」

　リシャール様やヴァルター様を見て、そんなことを言うヒロインの女。兵士に拘束されているのに、自信満々な態度で言い放った。

「どういう意味だ？」

　意味が分からないと、リシャール様が問いかけると彼女はニヤリと笑う。そして、得意げな表情で答えた。

「彼らは将来、このイシステア王国を背負って立つ重要な人物なのよ。それを蔑ろにすれば、貴方達は後悔するわよ！」

　乙女ゲームのエンディングに、そんな未来もあった。

　アンセルが王位を継承して、ヒロインが王妃に。後に騎士団長を任命されることになるケヴェンと、宮廷魔術師の長となるマウリス。私の弟のシデリスは、ポートリエ家を受け継ぐ。そんな輝かしい未来の数々。

　残念ながら、そんな未来がやって来る可能性は消え失せてしまった。こんな大事件を起こして、問題ある彼らを王国の要職に就かせるわけがない。

「ケヴェンが今後、重要な地位に就くことはないだろう」

　現在の騎士団長であるヴァルター様も、私と同じように考えているようだ。そんな彼の表情は、少し悔しそう。

　今までケヴェンを育ててきて、次の騎士団長に任命しようと考えていたのだろう。その予定が駄目になってしまって、残念に思っているのね。

「は？　な、なんでよッ！？」

　だけど、やっぱりヒロイン女は状況を理解しない。ヴァルター様の言葉を聞いて、信じられないという表情。

「貴族の令嬢を傷つけようとした。彼の信用は、今回の件で失墜したからな」
「で、でも！　ケヴェン様のような最強の騎士を追放するなんて、ありえないっ！」
「追放はしないさ。一から鍛え直して、精神的な修行も厳しく行う。今回のような、馬鹿なことを二度と起こさせないように」

　今回の件で、ケヴェンが騎士団長になる未来は閉ざされてしまった。ヒロイン女に関わってしまったから、仕方ないだろう。騎士団から追い出されないだけ、まだ良い方だと思う。とてもハードな訓練を受けることになって、大変そうではあるけれど。

　なのにヒロイン女は、まだ納得していないようだ。本当にしつこいわ。あんな女に付き合うヴァルター様は、お優しい人だ。

　おそらく、ヒロイン女を納得させようと会話しているわけじゃなくて、周囲で聞いている人たちに向けて事実を説明しているのだろうけれど。

「だけど、ケヴェン様のような最強の騎士など他に居ないのに！」
「確かにケヴェンは優秀だ。しかし、最強などではない。他にも優秀で立派な騎士がいる。力が強かったり、技術が優れていたり、戦闘での判断力が秀でていたり。我が騎士団は、優秀な騎士が豊富で助かっているのさ」
「そ、そんなの……、知らない……」

　乙女ゲームには登場していないが、現実にはケヴェンの代わりをやれる人物が何人か居た。だから、ケヴェンが居なくても騎士団は安泰である。