最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san

文字の大きさ
2 / 31

2. クロエ3歳

しおりを挟む

 冬の長い北の辺境伯領にも花が咲き、ようやく春がやってきた。

辺境伯長男のダンと次男のロイ、そしてクロエは、こっそりと辺境伯城を抜け出し、魔の森へバッファローバウ狩りにやってきた。

「ダン兄しゃま!ロイ兄しゃま!クロエ、いきま~しゅっ!」

「「おぉ~!押しつぶせー!」」

「はいっ!ダークプレッシャー!」

「よし!次は、ロイ!氷の矢で目を狙え!」

「まかせろ~!」

「よっしゃー!とどめは俺だぁ~!」

ダンが魔物のバッファーバウに雷撃を落とし、魔物狩りは終了。

「今日の夕食はバッファーバウのステーキでしゅね!楽しみでしゅっ!」

「よし、血抜きをして料理長に持っていくぞー!」

ブラウン辺境伯の長男次男として生まれたダンとロイは、大きな魔力を持つ家系の血筋からか、教会で魔力開眼の儀式を受けると、すぐにめきめきと魔法の腕を上げていった。ヒューマン国では、5歳になると教会で魔力開眼の儀式をして魔力を解放し、その魔力の属性を調べる。ダンは雷と水属性、そしてロイは氷と風の魔力を持っていた。

そして、やんちゃな2人の兄に負けじとついて行くクロエは、教会で魔力開眼の儀式を受ける前から、兄達の真似をしているうちに少しずつ魔法が使えるようになっていった。

 
裏口から調理室にこっそり入ろうとした3人だったが、そこには、鬼のような顔をした『母』が待っていた。

「あなたたち!また護衛もなしで魔の森に入ったわね!クロエはまだ3歳なのよ!魔獣に襲われてケガでもしたら、お嫁にいけなくなっちゃうでしょ!ダンもロイも、きちんと魔力コントロールが出来るようになるまでは、護衛なしで森へ入るのは禁止です!」

「えぇー!俺もロイも魔力コントロールは完璧になってきたしぃー、俺はかなり雷魔法使えるようになってきたんだ!ロイも氷魔法は中級も使えるようになってきたし。クロエなんか3歳なのに、ダークプレス使えるんだ。もう俺たちだけで魔の森の入り口ぐらいなら余裕だよ~」と、ダンは腰に手を当て、自慢げに言った。

「俺はダン兄に無理やりつれていかれたんだけどな。魔道具分解していじってるほうが魔獣狩りするより好きなんだけど」

「おまえ、その年齢から引きこもりはどうかと思うぜ~」

「クロエは、楽しかったでしゅ!だけどこれからは護衛のダリルといっしょにいきましゅ。お母しゃま、心配かけてごめんなしゃい」

辺境伯夫人は、子供たちのやんちゃぶりに、はぁ~と大きくため息をついた。
 
「クロエはまだ魔力鑑定も儀式もうけてないのよ!魔力暴走したらあぶないでしょう!そうだわ!今日の罰として、午後は3人ともずっとマナーのお勉強よ!侍従長に厳しく講師をしてもらいましょ」

「「「はぁい……」」」




食堂で辺境伯夫人と子供たちが昼食をとっていると、執事のセバスがあわてて食堂に入ってきた。

「奥様、お食事中失礼いたします。魔獣討伐が完了し、旦那様が本日戻られると連絡がはいりました。夕食には間に合うとのことです」

大盛の「ごろごろミートボールパスタ」を食べていたダンは、口の周りをソースだらけにしながら足踏みして喜んだ。

「やったー!父上が帰ってくる~! 今日はバッファローバウのステーキ食べてもらわなきゃ!料理長に絶対ステーキにしてって言ってくる!」

「ダン!お行儀が悪いですよ! 私から料理長にお願いしておきますから、貴方たちはマナーのお勉強よ! ダン!お口の周りを拭きなさい!もう~、うちの子たちはどうしてこう落ち着きがないのかしら。侍従長に厳しく教え込んでもらわなくてはいけないわね!」

「えぇ~侍従長、凄いスパルタだもんな~。それ以上に厳しくって、どんななんだ~」

「侍従長、一見すんげー優しそうなおじさんなのに、授業始まった途端にマナー講師の鬼になるからなぁ。」

「クロエは、お母しゃまのようなステキなレディになるためにがんばりましゅ!スパルタどんとこいでしゅ!」

「クロエ、偉いわ~。ダンもロイも、クロエをかっこ良くエスコートできるように頑張るのよ~」

「はっ!俺たち、夜会でクロエのエスコートするんだったな!なさけない兄ちゃんになるとこだったわぁ。クロエ、かっこいい兄さまになれるように頑張るからな!」

「そうでしたね!僕もクロエに尊敬されるような兄にならなくては!」

クロエは、口の周りをミートソースだらけにしながら、兄2人に天使の笑顔を向けた。
 
「兄しゃまたちは、もうすでにクロエの大好きなかっこいい兄しゃまです!」

((クロエ~!俺たちの妹、可愛いすぎる!))



侍従長のマナー講義を終えた3人は、馬の鳴き声が聞こえると、バンッ!とドアを開けて全速力で駆け出していった。息を切らしながら玄関ホールに着くと、すでに執事やメイド達が辺境伯を迎えるために綺麗な列を作って並んでいた。

「ただいま!今帰った!皆変わりはないか!」

「「「「「旦那様おかえりなさいませ!」」」」」

辺境伯城で働く者たちは、最強にして皆が尊敬する主人を笑顔で出迎えた。

「「父上おかえりなさい!」」

「お父しゃま!おかえりなしゃい!」

「ダンもロイもクロエも、元気だったか?」

辺境伯のジョンは、子供たち3人を両腕で抱えながら、レーナの頬にキスをするとホールにいた全員を見回した。

「ジョン、おかえりなさい。ケガはない?」

「あぁ、大きなケガもなく、負傷者もでなかった。今回の討伐は順調だった」

「無事でよかったわ。でも顔が傷だらけね。早く手当しないと」

クロエは辺境伯の顔を見上げると、「お父しゃま、お顔痛いでしゅか?」と言って、辺境伯の顔をぺたぺた触りながらクロエお得意のおまじないを唱えた。

「いたいのいたいの飛んでけ~!」

((あっ、クロエ!それ、父上と母上には内緒のやつ!))

辺境伯の顔をぺたぺたと触っていたクロエの手が金色の光で包まれた瞬間、辺境伯の顔の傷がみるみる治っていった。

((あー!やっちゃった~!!これ、俺たち絶対怒られる……))

辺境伯は一瞬、驚いたように眼をみはったが、すぐにいつもの優しい父の顔に戻って、目を逸らしている息子2人に「どういうことだ?」と問うように目を細めて視線を向けた。

「ダン、ロイ、後で話がある」

「「はい......」」



家族5人が夕食の席に着くと、執事がサッと辺境伯の前にバッファローバウのステーキ皿を置いた。

「おお!今日はバッファローバウのステーキか!ダリルが仕留めてきたのか?」

「違うよ~!俺たちで仕留めてきたんだ!母上には叱られたけど……」

叱られたことを思い出したダンの声がだんだん小さくなった。

「どうやって仕留めたんだ?」

辺境伯が興味深く訊ねると、ダンは顔を上げて自慢げな顔でフォークを振り回しながら説明を始めた。

「まずは、クロエがダークプレスでバッファーバウの動きを止めて、その後にロイが氷矢で目を潰して、最後に俺の雷撃で仕留めたんだ」

「ほう、良い連携だな。クロエはいつから魔法が使えるようになったんだ?」

「3歳になって、俺たちと外で遊べるようになった時に気が付いたんだ」

ダンは「そうだよな」と同意を求めるようにロイを見た。

「ダン兄と俺とクロエでかくれんぼしてた時、物置でかくれてたら、でかい黒い虫が出てきて、ダン兄が俺に潰せーって叫んだら、クロエが『ちゅぶれろー!』って黒い虫に向かって言ったんだ。そしたら、ぺちゃって潰れた!」

「それから、俺とロイでクロエに少しづつ魔法を教えていったんだ!」

辺境伯は、少し顔を顰めながら「あの光魔法もか?」と、2人に訊いた。

「あれは偶然で、ロイが転んでひざを擦りむいた時にクロエが『痛いの痛いの飛んでけ~』っていったら、クロエの手が光って傷があっという間に治ったんだ」

「ふむ、そうか……。これからは魔法の練習は必ずダリルか魔術師団のメンバーと一緒にするようにしなさい。魔法が暴走した時に止めれるものがいなければ命を失うぞ」

「「はい。魔法の練習には、必ずダリルに付き添ってもらいます」」

ダンとロイは、しゅんとしながらも、しっかりとバッファローバウのステーキをおかわりしていた。

「少し早いが、教会で鑑定してもらうか......」

辺境伯は、眉を寄せて思案ながら小さくつぶやいた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

乙女ゲームの悪役令嬢の兄の婚約者に転生しましたが傷物になったので退場を希望します!

ユウ
恋愛
平凡な伯爵令嬢のリネットは優しい婚約者と妹と穏やかで幸福な日々を送っていた。 相手は公爵家の嫡男であり第一王子殿下の側近で覚えもめでたく社交界の憧れの漆黒の騎士と呼ばれる貴族令息だった。 結婚式前夜、婚約者の妹に会いに学園に向かったが、そこで事件が起きる。 現在学園で騒動を起こしている第二王子とその友人達に勘違いから暴行を受け階段から落ちてしまう… その時に前世の記憶を取り戻すのだった… 「悪役令嬢の兄の婚約者って…」 なんとも微妙なポジション。 しかも結婚前夜で傷物になる失態を犯してしまったリネットは婚約解消を望むのだが、悪役令嬢の義妹が王子に婚約破棄を突きつける事件に発展してしまう。

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

編み物好き地味令嬢はお荷物として幼女化されましたが、えっ?これ魔法陣なんですか?

灯息めてら
恋愛
編み物しか芸がないと言われた地味令嬢ニニィアネは、家族から冷遇された挙句、幼女化されて魔族の公爵に売り飛ばされてしまう。 しかし、彼女の編み物が複雑な魔法陣だと発見した公爵によって、ニニィアネの生活は一変する。しかもなんだか……溺愛されてる!?

前世の記憶を取り戻した元クズ令嬢は毎日が楽しくてたまりません

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のソフィーナは、非常に我が儘で傲慢で、どしうようもないクズ令嬢だった。そんなソフィーナだったが、事故の影響で前世の記憶をとり戻す。 前世では体が弱く、やりたい事も何もできずに短い生涯を終えた彼女は、過去の自分の行いを恥、真面目に生きるとともに前世でできなかったと事を目いっぱい楽しもうと、新たな人生を歩み始めた。 外を出て美味しい空気を吸う、綺麗な花々を見る、些細な事でも幸せを感じるソフィーナは、険悪だった兄との関係もあっという間に改善させた。 もちろん、本人にはそんな自覚はない。ただ、今までの行いを詫びただけだ。そう、なぜか彼女には、人を魅了させる力を持っていたのだ。 そんな中、この国の王太子でもあるファラオ殿下の15歳のお誕生日パーティに参加する事になったソフィーナは… どうしようもないクズだった令嬢が、前世の記憶を取り戻し、次々と周りを虜にしながら本当の幸せを掴むまでのお話しです。 カクヨムでも同時連載してます。 よろしくお願いします。

処理中です...