名乗るほどの者ではございませんが、チャーシューは大盛りです

白羽鳥(扇つくも)

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永遠の輝きと尊い時間

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「遅かったな、何して……」

 声をかけようとしたコールは、カトリシアの姿を見て言葉の続きを飲み込んでしまう。

 一瞬、別人かと思った。

 長かった金髪は肩まで切られ、無理やりおさげにしている。うっすら茶色に近くなっているのは染め粉でも使ったか。頬はそばかすを作った上にチークを施したため、野暮ったい村娘の感じが出ていた。
 服装は膝上までのワンピースの下にぴったりしたズボンに革靴で、動きやすく汚れてもいい普段着だが、ピンクに黄緑という花を思わせる色合いが女性らしさを残している。

 顔形はそのままでこうも化けるのかと感心するが、印象がガラリと変わったカトリシアを前にして、コールは落ち着かない気分になった。
 今まではやんごとなき姫君という意識がどこかにあり、おかしな誘い方をされたり同室で寝ていても自分の中で一線を引いていた。だが姫らしさが払拭されてしまえば、ただの女の子なのだと認識せざるを得ない――彼女の言う『何もないオーガスティン』として。

「どう、コール? ちゃんと村娘に見える?」

 くるりと目の前で回ってみせるカトリシアに、コールは呆けたように頷くしかできない。

(ヤバい、可愛い……これからも同室で理性を保てるのか!?)

 母の方はお見通しのようでニヤニヤしていたので、わざと苛立った風を装う。

「ここまでやる必要あったのか? 髪も短くしちまって」
「さっきの兵士たちの話、あんたも聞いたんだろ? 正式に従業員になるなら、変な勘繰りされる隙は排除しておかないとね。さ、食べに行こうか」

 促されて定食屋に向かう間も、横にいるカトリシアが気になってどぎまぎしていたコールだったが、注文したパスタとスープを前に彼女が混乱しているのを見て、ようやく普段の調子を取り戻した。

「ラーメンは啜るのに、パスタもスープも音を立てないの? どういう事??」
「ああ、ラーメンは東方独自の文化圏から来たから特殊なんだよ。そこじゃスープヌードルって麺料理はみんな啜ってる」
「えっ、異世界の料理じゃなかったの?」

 首を傾げる彼女に、母は父が世界中を旅していた際、ラーメンに近い料理を見かけた時の事を語って聞かせていた。厳密には異世界由来ではあるが、説明がややこしくなるため、東方のスープヌードルの流れを汲むという事にしているとも。

「もちろん修行のために料理の研究もしていたから、あながち嘘でもないけどね」
「なるほど……たくさんの出会いがあったからこそ、ラーメンはあれほどおいしくなったのですね!」

 感慨深く頷くカトリシアに、コールはちくりと罪悪感が刺激された。

(オーガスティン、お前にも……もっと出会いが必要なのかもしれない。このままラーメン屋でずっと、隠れ住んでいていいのか?)

「さて、腹も膨れた事だし。あたしは仕立て屋に寄って帰るから、あんたたちはゆっくりデートしといで」

 席を立って二人を置いて行こうとする母に、コールは仰天する。元々女二人で街に行かせられないからと、用心棒的な役割のつもりだったのだ。そしてコールの頭の中では、正式に交際していなければデートとは言えなかった。

「デ、デートって……なに言ってんだ、お袋!?」
「いいかい、しっかりエスコートして男を見せなきゃ承知しないよ。オーガスティンも、この機に甘え方ってやつを覚えた方がいい。上手くやんな」

 真っ赤になってあたふたしている間に、二人きりにされ気まずい沈黙が流れる。母が勝手に会計を済ませてしまったが、いつまでも店に居座るわけにはいかない。

「……出ようか」

 無言で頷くカトリシアを伴い、噴水広場に戻る。帰宅は別々になったので、コールとしてはさっさと用事を済ませて帰ってもよかったのだが。
 きゅっと裾を引かれ、物言いたげな表情を目にしてしまえば無視はできない。

「え、な、何……?」
「さっき、道端でアクセサリーを売っているのを見かけて、それで……」
「興味があるのか、じゃあ行くか!」

 はぐれないように手を繋ぎ、カトリシアの指し示す場所を目指すが、いつもと違う彼女の姿に、まるで見合いでもしているかのような錯覚に陥り、カチコチになってしまう。お目当ての露店で売られているのが指輪などの宝石類なので余計にだ。

「いらっしゃい、お客さんカップルかい? 今日仕入れたばかりのダイヤモンドはどうだい。永遠の輝きってな」
「ダイヤモンド……永遠……」
「そんなバカ高いの買えるか! 大体俺らカップルじゃ……」

 文句をつけようとしたコールは、ちょうど兵士が通りかかったのを目にして、咄嗟にカトリシアの肩を掴んで抱き寄せた。「きゃっ」と小さな悲鳴が上がり兵士がこちらを見るが、野暮ったい田舎者の恋人同士にしか見えなかったのだろう。すぐに興味をなくして行ってしまった。

「ふう……あ、オーガスティンこっちの緑色の石はどうだ? 値段も手頃だし、お前の目の色そっくりだぞ」
「わ、分かったから……コール、離して」

 胸に手を置かれて、無意識に大胆な行動に出てしまった事に気付き、慌てて離れる。カトリシアも頬はチークで分かりにくいが、耳まで真っ赤になってしまっている。初々しい反応に露天商に口笛を吹かれ、冷や汗をかきつつその場を後にした。

「参ったな……何も買えなかったけど、欲しかったんじゃないのか?」
「いいの、今の自分が持っていてもしょうがないから。それにね、私にも少しだけ分かってきた事があるのよ……いずれは失われる、変わってしまうからこそ尊いものがあるって。
あの頃の私が、それに気付いていたら……」

 カトリシアの言う「あの頃」が、ロジエル王子に愛されていた時だと察し、思わずぎゅうっと彼女の手を握りしめる。

「コール……?」
「行こう、デートはまだ始まったばかりだ」

 我ながら心が狭いと思いつつ、コールは戸惑う彼女の手を引き人込みへと足を踏み入れたのだった。

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