うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第1章 中立自由都市エラリア

ドラゴンを狩るようです③

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ドッドッドッ

 響く心音は僕の物ではない。小柄なフーシェから僕に伝わる鼓動だ。

「『封印』を破って欲しい」

 そう嘆願する彼女の瞳にはいつもの感情の少なさは感じられない。ユラユラと不確かな不安に怯えるようにその瞳は僕を見つめてくる。

「怖いの?」

 僕がそっと左手でフーシェの背中に手を添えてあげる。

「ん。怖い」

 そう不安に押しつぶされそうなフーシェの声は、年相応の女の子のように感じることができた。

 何に、そんなに怯えているのか?

 だが、今そのことを提案してくること自体、『封印』を破ることこそが、現状を打破する最善策だとフーシェは考えているようだ。

「フーシェちゃん。大丈夫、私とユズキさんは何があってもフーシェちゃんの味方です」

 イスカを押しつぶそうとする石片によって、イスカはフーシェの手を握ることはできない。しかし、その言葉の力強さは確かにフーシェに届くこととなった。

「ユズキ、お願い。多分『魔力譲渡』で『封印』を解除できると思う」

 魔術師100人分の魔法を解く。
 普通に考えれば、解くことが不可能な『封印』だ。そこまでして、フーシェの魔法を封じたということが、どう考えてもただ事ではない。

 それも、今回の方法は正規の解呪の手順を踏むわけではない。暴力的な魔力を吹き込むことで『封印』そのものを吹き飛ばそうという力技だ。
 そんなことをして、フーシェの身体が耐えることができるのか?
 イスカの『魔法矢マジックアロー』の様に力の出口があるわけではない。明らかに魔力量は人一人分を超えている。

「やるのかい?」

 やめよう。

 その言葉を僕は言うことができなかった。
 こと、戦いに関しては頭の良いフーシェのことだ。デメリットを考慮したうえでの選択であるならば、僕は僕のやれることを全力でやるしかない。

「ん。でも少し勇気が欲しい」

「──え?」

 僕が答えるよりも早く、僕の口は小さなフーシェの唇によって塞がれてしまった。

「──」

 イスカは何も言わなかった。
 炎の様に熱く火照ったフーシェの、瑞々しく張りの良い唇が離れたかと思うと、フーシェはチラとイスカを見る。

「ん。手を出さないと言ったのにごめん」

「──特別ですから」

 少し不貞腐れたようにイスカは呟くが、その声は心底怒っているわけではないようだ。
 そのことに、少しの安堵と罪悪感が僕の心によぎってしまう。

「お願い」

 そんな僕の心の葛藤は、フーシェの一言によって引き戻される。
 僕は、フーシェの瞳を真っすぐに見据える。
 今度は、覚悟を決めるのは僕の方だ。
 2人に『魔力譲渡』や『能力値譲渡』、イスカには『レベル譲渡』までかけているこの状況で、果たして『封印』を解く魔力量が残っているのか。

 いや、やらなくちゃいけないんだ。

 僕は、少し震えているフーシェの肩に手を添える。
 小さく息を吐く。
 全力を出す。その一心で僕は強くフーシェを抱きしめると叫んだ。

「『魔力譲渡アサイメント』!」

 ──!!

 ガクンと身体の中から魔力が奪われていく感覚が分かる。
 僕の身体から放たれた魔力の奔流は、まるで光の洪水だ。真っ青な光はその魔力の余波で、幾重にも僕たちを押しつぶそうと降り積もっていた瓦礫や石片を動かし始める。

「──すごい」

 イスカは感嘆し、徐々に広がりつつある青く光り輝く空間の中で僅かばかりに上体を起こした。

「ハアッ!ハアッ!ハアッ!!」

 押し寄せる魔力の嵐を一身に背負ったフーシェが苦悶の声を上げる。

 ──!!

 ボウッとフーシェの首元、彼女が奴隷の首輪があったと話していた部分から、血の色にも似た赤黒い輪が浮かび上がる。

 これが『封印』の本体!!

 その赤黒い輪は、僕の青い魔力に負けじとフーシェの首に戻ろうとする。

「ハッ、カハッ!!」

 フーシェは呼吸困難に陥りそうに浅い呼吸を繰り返す。

「戻さない!」

 僕は、咄嗟にフーシェの身体に戻ろうとする『封印』を右手で掴んだ。

「痛っ!!」

 レベル9000を超える僕でも『封印』はダメージを与えてくる。まるで剣山を握りしめているようだ。

 これが100人分の魔力⋯⋯!!
 だけど、今。こいつを壊してしまわないと!!

 僕は、溢れ出る魔力を右手に集中する。一点に魔力を流し込み、『封印』の術式そのものを破壊しようと試みる。

 急速に失われていく魔力は、ブラックアウトの様に視界が狭まっていくようだ。
 クラクラする頭に自分で活を入れる。

「フーシェ、負けるな!!」

 より一層、魔力を1点に。握りしめた拳へと集中させる。ビリビリと、僕の手から逃れようと『封印』が暴れまわった。

 ──オオオオッ!

 下敷きになったと思っていた僕たちが異常な動きをしていることを察知したドラゴンが怒りの声を上げる。

『警告、対象2名への『能力値譲渡』効果終了まで残り2分』

 セラ様AIの声が、デッドラインを示してくれる。
 今日で3回『能力値譲渡』は使ってしまっている。これ以上の強化を僕はイスカとフーシェにかけることはできない。

『残存魔力20%、急激な魔力譲渡により体調に不調を来しています。中止──しませんよね?』

 さすがセラ様AI!

『当たり前だ。もっと鋭く『封印』にぶつけてやれ!』

 僕の脳内の返答にセラ様AIは心得たとばかりに嬉しそうに回答する。

『了解!意識を失わないでくださいね』

 ドンッと、魔力の枯渇が加速する。

「あ、ああっ!!!」

 フーシェも苦しみから逃れるよう、搔きむしるように『封印』を掴む。
 その握りこぶしからは、すぐに『封印』の力によって皮膚が裂け、血がしたたり落ちる。

 ピキッ!

 何かが壊れそうな音を確かに僕は聞いた。

 ドゴッ、ドゴッ!

 ドラゴンが僕たちからどれほど離れているは分からない。しかし、その絶対的な質量が僕たちめがけて接近してきていることは明らかだ。

 ピキキッ!

「『封印』にヒビが!」

 金属疲労を起こしたかのように、1cm程の太さの『封印』に無数のヒビが生まれた。

 イケる!

 確信に似た思いで、僕は右手を強く握りしめる。

『最終警告、対象2名への『能力値譲渡』効果終了まで残り1分』

 もはや進み、やり遂げるしか僕たちに活路はない。

「あああっ!!」

 渾身の魔力を込め、後は割れるだけとなった『封印』を引きはがそうとした瞬間。

 ──フッ

 まるで、雲上から深海に叩き込まれたかのように、僕の青い光は失われた。

『魔力残存0!』

 セラ様AIの悲鳴に似たアナウンス。
 光が消えると共に、魔力の奔流によって浮き上がっていた瓦礫と石片が重力を取り戻し、僕たちの頭上に落下する。

 これまでか?

 諦めかけたその瞬間、イスカが叫んだ。

「ユズキさん!私の『レベル譲渡』分の魔力を使って!!」

「──!!」

 意識を振り絞りイスカに『回収』をかけ、僅かにイスカから流れ出た青い魔力の塊。
 イスカはその光を咄嗟に掴むと、僕と全く同じ思いで魔力をフーシェを縛る『封印』へと叩き込んだ。

『壊れろ!!』

 僕とイスカの声が重なり合う。
 今までつぎ込んできた魔力に比べれば、たったレベル15分の小さな魔力。
 しかし、その一撃は間違いなくフーシェの『封印』に達することができた。

 パリンッ!!

 僕の視界が、降りかかる瓦礫と共に暗闇に覆われそうになった刹那。
 フーシェから発された光が、僕の視界を白に染め上げた。




「⋯⋯フーシェ?」

 不思議な光景だった。僕たちに降り注ぐべきはずだった石片は、今や重力を忘れてしまったかのように宙に漂っている。

 周囲を包む白い光は、スッと立ち上がったフーシェから発せられるのか、周囲はボウッと明るく照らされている。

「フーシェちゃん?」

 僕とイスカは、眼前に背を向けて立っているフーシェに違和感を感じた。

 ⋯⋯成長した?

 そう、明らかに先ほどまでのフーシェとは別人の姿をした後ろ姿がそこにはあった。
 着ている給仕服は変わらない。
 しかし、身長は20cm程は伸びたのだろうか?170cm程の長身となったフーシェは、肌の色やショートカットの髪の長さは変わらない。しかし、すらりと伸びる肢体はカモシカの足の様に力強く、張りのある胸部の膨らみはイスカより少し大きく感じる程だ。給仕服のサイズは、以前のフーシェにはやや大きく感じたが、今は少し視線に困ってしまう。
 その、フーシェの頭にはカチューシャを突き破り1対の30cm程度の紫色の角がピンと耳上から頭頂部に向かって伸びていた。

「その姿⋯⋯」

 フーシェの姿の変化。それを見た僕は──

 戦乙女のようだ。

 素直に美しいと、後ろ姿に見とれてしまう。
 イスカも同じ気持ちなのか、キュッと右手で胸の辺りの服を強く握りしめ、少し呆けたような表情だ。

「ん。大丈夫」

 フーシェは、優しい声でいつも通りの口調で呟くと僕たちを振り返る。
 すっきりとした顔立ち、ツンと大人びた鼻立ちと切れ長の瞳は紫色の光を宿していた。
 すっかり大人の女性へと姿を変えたフーシェは、何かを確かめるように軽く拳を握ったり開いたりする。

 今や、重力に逆らうように石片は宙を舞い、その隙間からはドラゴンの巨体がこちらへ向かって突進してくる姿が垣間見えた。

「ちょっとあれ、倒してくる」

 フーシェが軽く右手を掲げる。

 フィンッ

 風切り音のような乾いた音が聞こえると同時に、一瞬で宙に魔法術式が組みあがる。

「『重力雨グラビティレイン』」

 フーシェが一声命じると共に、まるで命令を待っていたかのように石片たちは、進むべきベクトルを与えられ、ドラゴンに向けて飛翔する。

 ──オオオオッ!!

 突如、散弾銃のように飛来した石片を目の当たりにしたドラゴンが、防御術式を組み上げる。
 対物理障壁が展開され、フーシェの石片と障壁がぶつかり合い、大音響が洞窟内に響き渡った。

『能力値譲渡効果終了。対象2名への強化効果が消滅されます。なお、これまでの戦闘経験値により、ユズキの適応値が上昇されました。レベル9999の効果をより発揮できるようになります』

 これが、セラ様の言っていた、レベルに馴染んできたということか。魔力は枯渇しているが、今までよりも、どうやって身体を使えばよいかが分かる気がした。

「ユズキさん。行ってください」

 横に立つイスカが力強く言い放つ。
 強化と『レベル譲渡』の効果が無くなった今、イスカのレベルは14。一発でもドラゴンの攻撃を受けてしまえば絶命することは免れない。
 しかしイスカの言葉には、そんな不安をつゆとも感じさせない何かがあった。

「絶対勝てます。私、信じていますから」

 そう、イスカは信じてくれているのだ。
 ならば応えるしかない。

 ドラゴンが張る障壁とフーシェの放った攻撃は拮抗していた。

「フーシェ、戦うよ」

 すっかり、僕と同じ目線程まで成長したフーシェの隣に僕は並び立つ。
 その僕の姿を、フーシェは嬉しそうに見つめてくる。

「ん。私たちなら勝てる⋯⋯イスカ、ありがとう」

 さて、魔力もなくなった僕と覚醒したフーシェ。
 イスカの思いも背負ってドラゴンを倒しに行こうじゃないか。

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