うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第2章 交易都市トナミカ

クラーケン討伐を行うようです①

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ビビと名乗った女性はかなりの長身であり、体格は先程の作業員の男よりも一回りも大きい。
 僕とイスカ、フーシェまでもが呆気にとられていると、リズがすっと僕達の前に出ると、ビビの前に対峙した。

「この女性は大鬼族オーガよ。大鬼族オーガは皆体格が大きく、力仕事に向いているの」

 リズの説明に、ビビは大きく頷く。
 燃え盛るような腰まで届く赤い髪を一本に結った姿は、まるで炎の大縄のようだ。
 肩は盛り上がり、鍛えられた上腕の筋肉は熱気に満ちている。

「さすが、あんな遠距離からウチらを助けて、念話まで送ってくるような奴らは大鬼族オーガの姿を見ただけでは驚きはしないか!」

 ガッハッハッと、大声をあげて笑うビビだが、彼女は目の前の女性が、レーベンを統べる『魔王』であることは知らないようだ。

「いや、本当に助かった。乗組員一同の命を救ってくれたこと、キャプテンとして礼を言わせてもらうよ」

 ビビはニヤリと笑う。

「して、ご丁寧に助けてやったとお知らせも頂いたんだ。言いたいことは分かるよ、この、船に乗せてくれって言うんだろ?」

 ビビはそう言うと、誇らしげに『レグナント号』を親指で指し示す。

「あら、ご理解が早くて助かるわ。私達は、一刻も早くレーベンに渡らなければいけないの」

 リズがそう言うと、ビビは笑い声を止めるとバツが悪そうに頭を掻いた。

「まぁ、命の恩人なのだからその頼みを聞いてやりたいのはやまやまだがねぇ。今はちと無理だ」

「どういうことです?」

 イスカが尋ねると、ビビは少し驚いたようにイスカを見つめた。

「さっきの攻撃、まさかあんたがやったのかい!?背中に背負っている、その弓!弓使いはあんただけだろう?」

「⋯⋯私、魔法剣士のはずなんですけどね」

 少し寂しそうにイスカが呟く。

「エルフクォーターがそこまでやるとは、本当に面白いパーティーだ!⋯⋯あぁ、悪い。話が逸れたね。理由はこれからギルドにも知らせようと思っていたんだけど、厄介なことが起きた」

「厄介なことって言うと?」

 僕が尋ねると、ビビは先程まで笑顔だった顔を苦々しくしかめた。

「どうやら、海の魔物でも最悪級のやつ。クラーケンが出たっていう噂なんだよ」

 そう言うと、ビビは忌々しげに今は穏やかなトナミカの沖合を眺めるのだった。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はぁ、信号弾が上がったと聞いていたのだけど、すでに魚人族フィッシャーマン達は討伐されているとはね」

 トナミカギルドのナンバー2、ウォーレンはビビの報告を受けると困ったように頭を掻いた。
 その原因は分かっている。
 ウォーレンは一つため息をつくと、信じられないものでも見るような目で僕達パーティーを見つめた。

「ローガンさんがいるということは、虚偽の報告はないことは分かります。ですが、誰もが絶望的だと思う距離からの精密射撃ですか⋯⋯私は夢でも見ているのかという気分です」

 そうローガンにウォーレンが話しかけると、ローガンは大きく頷いた。

「昨日の今日で分かりましたよ。この人達を見た目で判断してはいけないと。それは私が今、一番痛感しているところでございます」

 うーん。
 目立ちたくないのに、やっぱり注目を浴びている気がする。

 僕達は、トナミカギルドの副長室。つまり、ウォーレンの自室で事の顛末を報告していた。
 この場には、リズとビビも同席している。

「まずは、船の護衛。ユズキ君達にはお礼を言うよ。報奨金もレーベン側から入るだろう。──だけど、これで喜んではいられない状況になってきているんだ。そうだろう?ビビ船長」

 ウォーレンが視線を送ると、一人用のソファからはみ出そうな身体のビビが、窮屈そうに、腰が落ち着く位置を調整しながら答えた。

「そうさ、魚人族フィッシャーマンの奴らが何か叫んでいるから、聞いてみれば、あいつら住処をクラーケンに追われたって言うじゃないか。そのクラーケンから逃げるついでにウチらの船を狙おうっていうんだから、こっちからすればいい迷惑さ」

 鼻息荒く答えるビビにウォーレンも相槌を打つ。

「クラーケンというのは、『天災』と呼ばれるものに当たるんだ。生息しているのは、このトナミカより北東に位置しているんだけど、時折住処を替えてね。その通った後には破壊しか残らないと言われている」

「そのクラーケンというのは、次は何処を目指しているのですか?」

 イスカが聞くと、ビビはお手上げといった風に両手を上げた。

「さぁね。それこそクラーケンにでも聞かない限り分かりゃしない。ただ、この付近に向かってくるかも分からないから、船を出そうにも出せないんだよ」

 ビビはそう言うと、出された紅茶を一気にあおった。

「なるほど、じゃあ、クラーケンが何処に行くかが分かれば良いのね?」

 話を聞いていたリズは立ち上がると、事もなげにそう言い放った。
 ──そうか、リズならば波動を感じてその位置を特定することができる。

「あの、ユズキ君?こちらの女性は?」

 この場には初めからリズも同席していたのだが、クラーケンの話題が優先され、リズのことを紹介している時間はなかった。

「あぁ、私はレーベン出身の魔族よ。索敵魔法には、こう見えて少し自信があるの。クラーケンなら、特徴的な波動があるから、ここからでも居場所は分かるわよ」

 リズが澄まし顔で言うと、ウォーレンは驚きに眼を丸くした。

「本当かい!?それが本当なら、大いに助かる。万が一クラーケンがこの町に向かって来ているのであれば、対策を講じなければならないんだ」

 身を乗り出すウォーレンをリズは手で制する。

「分かったわ、とりあえず落ち着いて頂戴。ユズキ、『情報共有』で私の見ている景色をこのギルド職員に見せることはできるかしら?」

 リズは僕を振り返る。
 うーん、『情報共有』は便利なスキルではあるけれど、お互いの仲が良くなければ、発動できないという不利点がある。
 果たして、僕はウォーレンのお友達ポイントを積み重ねることができているのか?

『善処します』

 脳内のセラ様AIが報告する。
 さすがに、町を案内してもらったくらいでは足りていないようだけど大丈夫かな?
 実は仲が良くないと使えないスキルですなんて言ったら、ウォーレンが落ち込んでしまうのではないか?

「絶対成功するスキルではないから、頑張ってみるよ」

 とりあえず、誤魔化してしまおう。
 助かったのは、それ以上リズが追求してこなかったことだ。

「ウォーレンさんに状況が伝わるように試してみよう。駄目なら、ローガンにお願いしてみるよ」

「ふむ、ウォーレン殿と私は知古でございますからな。嘘偽りなくご報告できましょう」

 ローガンが僕の真意を汲み取ってくれたようで、ほっとする。
 ここでイスカやフーシェまでにスキルを使ってしまったら、何故自分とビビには使えないのかという疑惑をウォーレンに抱かせることになる。
 僕としては、使い勝手の良いスキルではないと思ってくれれば助かるところだ。

「分かりました。よろしくお願いするよ」

 ウォーレンがリズに向かって頭を下げる。
 その様子をジッと見つめていたリズは、ポツリと呟いた。

「直ぐに魔族に頭を下げるなんて、それだけ、この町を愛しているのね」

 リズの言葉にウォーレンは少し驚いた様な表情をしたが、直ぐに力強く頷いた。

「勿論だ。私はこの町を守るためにはどんな努力も惜しまないよ」

 その言葉を聞いたリズは、少し羨むような表情を浮かべた。

「それじゃあ、始めるわよ」  

 そう言うと、リズはスキル『万象のまなこ』を発動する。
 リズを中心に、再び風が巻き起こるように探知の波が広がった。

「よし、それではウォーレンさん。いきますよ、『情報共有』」

 僕はリズが感じている波動の動きを伝えるために、ウォーレンに対してスキルを発動する。
 うまくいくかは分からないが、セラ様AIを信じるしかない。

『対象、ウォーレンに対しリズの波動探知の共有に成功しました。レベル、スキル等の情報は交友関係が到達していないため、開示できません』

 脳内に響いた声に、僕は波動探知の共有が成功したことに安堵する。

「──見つけたわよ。ウォーレン、あの一際大きな波動が分かる?」

 リズがウォーレンに声をかける。
 瞳を閉じたウォーレンが驚きの声を上げた。

「す、凄い!!脳内に地形が映像として入ってくる!!そして、この地形⋯⋯まさか、これがトナミカなのか?」

 脳内には、リズの感知している波動が星々の煌めきのように瞬いているのだろう。
 地形まで把握できるリズの能力は、文字通り全てを見通すことができるのかもしれない。

「はいはい、感動はそこまでにして⋯⋯クラーケンの進路はどうかしら?」

 リズの言葉に、ウォーレンは意識をクラーケンへと集中させる。
 しかし、たちまちその顔は青白くなってきた。
 同じ視界を見ているリズの顔も、面倒なことになったというふうに唇を噛んだ。

 あぁ、そういう時は大抵最悪のシナリオを考えるべきだろう。

「おい、まさか?」

 ビビが立ち上がると、頭を抱えるウォーレンを見下ろした。
 対するウォーレンは、振り絞るように声をあげた。

「キーラ岩礁を超えて、真っ直ぐにこちらへ向かってきている。この進路から想像するに、クラーケンの目的地は⋯⋯ここ、トナミカだ」

 ウォーレンの言葉に絶句したビビは、一瞬硬直し、表情を固く虚空を睨んだが、次の瞬間には覚悟を決めた表情で、僕らに別れを告げた。

「すまないね、この話は魔族の船仲間に一刻も早く伝えなければならないから、私はこれで失礼するよ。人族の方はギルドの方から頼む。あぁ、ユズキだっけ?あの話はお互い生きていたらしよう」

 そう言いビビは駆け出すと、ドアを破壊しそうな勢いで部屋を飛び出して行ってしまった。

「ん。あの絶妙な力加減。ドアを壊さないなんてやる」

 ビビの後ろ姿を見てポツリと、フーシェが呟いた。

「これからどうなるのです?」  

 ウォーレンが口を開く前に、ローガンが鼻下の髭をつまみながら、僕の問いに答えた。

「ユズキ様、町は人と違って逃げ出すこともできませぬ。町を捨てるか、抗うかの2つに1つでございます。ただ、古くからトナミカでは『天災』には、協力して立ち向かうことを風習としておりましてな──」

 ローガンが言葉を告げるよりも早く、ウォーレンは青くなった顔をあげた。

「そうだよ。我々はこの町を見捨てない。これより、当ギルドは緊急クエスト『クラーケン撃退』を宣言する。これは、当ギルドだけではない。町全体で行う『天災対処』だ」

 立ち上がると、ウォーレンは鈴を鳴らす。
 すぐに、一人の男性職員が飛び込んでくると、ウォーレンは職員に向かって声を張り上げた。

「関係各署に通達、クラーケンの驚異が確認された!これよりギルドは、緊急クエスト『クラーケン撃退』を発注する!『行政機関』『商会』『港湾管理』に緊急通達!推定到達時間は5時間後だ!全力で対処に当たれ!」

 ウォーレンは、一息にまくし立てると職員を伝令へと走り出させた。

「すまない、来たばかりの君達には申し訳ないが、この町を救うために力を貸してくれないかい?」

 額にうっすらと汗をかいた、真っ直ぐなウォーレンの視線。
 その視線を受け止めた僕達は、頷く他なかった。
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