うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第2章 交易都市トナミカ

クラーケン討伐を行うようです②

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『トナミカの皆様にご連絡致します。本都市は現在、緊急事態宣言を発令しております。『天災』認定の魔物、クラーケンが接近中のため、市民の皆様は指示に従い避難を、関係各署の方々は速やかに持ち場へ急行してください。繰り返します⋯⋯』

 慌ただしい雰囲気がトナミカの町中を駆け巡り、陽が傾こうとしている町は夕焼けに染まっている。
 トナミカの町中に設置されている魔導拡声器からは、市民の避難と関係者を持ち場につかせるための放送が延々と流れ続けていた。

 クラーケンの到達予想時間はおよそ4時間後。
 町民は我先にと家財をまとめ、夕暮れの町を山の方へと向かっていく。
 町から出る方法は幾通りかあるのか、町の外へと通ずる主要な道路はごった返し、そこかしこで怒号が飛び交っていた。

「うるっせぇ!早く進め!!」
「てめぇ、俺の私財を掠め取ろうとしただろう!」
「こっちは、病人がいるのよ!先を通して頂戴!!」

 皆、思い思いの要望を口にするばかりで、混雑が緩和する雰囲気は微塵もない。

「なんか、凄い光景だね⋯⋯」

 僕は、パニックに陥った群衆を目にして、思わず声を漏らしてしまった。

「まぁ、元々山を下った所にできた町です。登り坂は混雑を生みますからな。クラーケンが海の魔物ということで、山に逃げれば安全だという大衆心理が、あのように働いたのでございましょう」

 隣に立つローガンが、ため息混じりに僕の呟きに返答してくれた。

「まぁ、クラーケンが来ると言うのなら、人も魔族もやることは一緒ね。そして残念なことに、クラーケンはここを目指しているのは間違いないみたいよ」

 スキルによって、クラーケンを常時補足しているリズが苦々しく言葉を吐き出した。
 ウォーレンは今、ギルドの自室をトナミカ防衛の為の指揮所として運用していた。
 対するリズは、ギルドの屋上に位置して、未だ見えないクラーケンの動向を僕の『情報共有』で室内のウォーレンに伝えていた。

 ある程度の距離が離れても、ウォーレンとリズをスキルで繋いでしまえば、リズの能力を共有できることが分かった僕達は、ウォーレンの部屋を後にしていた。
 ウォーレンの部屋が、クラーケン撃退の指揮所になるのであれば、一介の冒険者である僕達がいれば邪魔になるだろうし、リズの能力を周囲に知られてしまうことは、リスクが高いと判断したためだ。

 今頃はリズの感覚を共有しているウォーレンが、矢継ぎ早に指示を出しているのだろう。

 ポフッ、ポフッ、ポフッ

 ギルドから飛び出してきた職員が、海上の上空を狙って次々に信号弾を打ち上げる。

 赤、青、黄、白──

 カラフルな色が、法則性をもって打ち上げられる。

「ふむ、北東より敵、距離100。一次防衛ライン、横隊展開せよ⋯⋯ですな」

 ローガンが様々な色の狼煙をあげる信号弾の意味を読み取り教えてくれる。
 トナミカギルドの前方には、大海原が広がり、外海に向けて面している。
 その視界の先には大小様々な船が沖を目指して進んでいた。

「ちょっと見てみるよ」

 僕は、石造りのギルドの屋根から足に力を込めて飛び上がる。

「キャッ」

 イスカの小さな声が聞こえると同時に、僕の身体は高さ200メートル程、軽々と飛び上がった。
 いや、本当はもっと飛び上がれそうなのだけど、降りる時の浮遊感は普通に怖いし、風に煽られて変な所には落ちたくない。
 飛び上がると、飛べるは全然違うね。そう思いつつ、僕は眼下の光景を見下ろした。

「凄い⋯⋯大船団だ」

 海にはトナミカの船団が3つのグループに分かれて展開していた。
 1番外界に面する一次防衛ラインは横隊に広がり、小型から中型船が展開している。船は側面を外界に向け、備え付けられた大砲をいつでも撃てるように構えていた。
 その手前、二次防衛ラインには大型船が待機し、これらも比較的多くの船が側面をクラーケンが襲来する北東に向けている。
 そして、僕の眼下には三次防衛ラインを守る中型船が、艦首を外界に向けて、指示が来るのを待つように展開していた。

 ──ストッ

 なんとか、同じギルドの屋上に戻って来た僕はゆっくりと身体を起こす。

「いかがでしたかな?」

「凄いね。100隻以上の船が並ぶと壮観だよ」

「『天災』があった場合、皆が一丸となって対処に当たることが、トナミカ港を使う上での条件です。逃げ出すわけにもいきませんからな」

 なるほど、強制力があるのか。

「リズ、船の砲撃は役に立つと思う?」

 僕の質問にリズは首を横に振る。

「まぁ無理ね。クラーケンの軟らかい身体に衝撃はほとんど意味がないわ。だから、ウォーレンはクラーケンの討伐ではなく、退という言葉を使ったのね。──さて、人族の戦のやり方、お手並み拝見といった所ね」

 リズはそう言うと、再び意識をクラーケンに対して集中させる。

「ん。私達はどうする?」

 フーシェがうずうずと身体を揺らして、次の指示を待つ。
 さて、どうするべきか?

 ここから行えることは数少ない。
 だからといって、前に出た所で十分な遠距離攻撃をできるのはイスカしかいなかった。

「船の戦いは門外漢だよ。役に立てることがあればいいんだけれど⋯⋯」

 僕の言葉に、リズは暫し考えこんだが、やがて妙案を思いついたように、第2次防衛ラインの大型船団を指さした。

「ユズキ、さっきウォーレンの作戦を『情報共有』で確認していたのだけど、あの大型船には、魔法職のパーティーが多く乗っているの。そこをユズキのサポートで手助けできないかしら?特に⋯⋯あら?一つ、大型船の中でも魔法使いの波動が少ない船があるわ」

 そう言うと、リズは遠くに浮かぶ一艘の大型船を指さした。

「ん。あれ、レグナント号みたい」

 フーシェが額に手をかざしながら答える。

「魔族の船って人族側が分かってか、船長が断ってなのかは分からないけど、あからさまに魔法使いを配置していないのは、余りいい気はしないわね」

 リズの気持ちに僕も同意だ。

「レグナント号を助けに行くのですね?」

 嬉しそうにイスカが握り拳を作る。
 フーシェもやる気なのか、ソワソワと腰に下げた双剣『アースブレイカー』を触っている。

「よし、行こう!でも⋯⋯」

「私はここを動けないわ。前に出ても『万象のまなこ』を使用中は動けないもの」

 そう答えるリズに、ローガンが前に進み出ると僕に頭を下げた。

「リズ様の護衛はお任せ下さい。安心してユズキ様は前方にお向かい下さい」

 元、勇者パーティーのローガンと魔王であるリズを一緒にすることは、少し不安があった。
 しかし、その不安を打ち消すようにリズは笑った。

「大丈夫よ、私達は大人ですもの。何もないわ」

 その言葉を聞いて、ローガンが少しおどけたような口調でリズに声をかける。

「これは、驚きましたな。リズ様は私よりも年配ということですか?」

 リズは少し意地悪い笑みを浮かべるとローガンに向かって微笑む。

「あら、レディーに年齢を聞くとは失礼よ。でも、いいわ。今年で203歳よ。これで、私が大人ということでいいかしら?」

「にひゃく⋯⋯」

「凄い」

 イスカとフーシェが思わず驚きの声をあげる。

「何よ、貴方達だって魔族やエルフの血が入っているのだから長生きなんでしょう?」

 さも当然と言ったら風にリズはイスカとフーシェを見る。

「私25歳です」

「ん。フーシェはこの前16になった」

「⋯⋯」

 気まずい沈黙が流れた後。

「べ、別にまだまだおばあちゃんじゃないんだからね!私のお父様は1800歳を超えているんだから!」

 少し涙目になっているリズはどこか可愛らしい。
 そんなやり取りを、騒がしくやっている三人の様子を見ている僕にローガンが近づいてきた。

「ユズキ様、気をつけて行ってきてください」 

 ローガンは、僕に深く一礼をするとそう告げた。
 僕はローガンとリズ、二人を見ると頷く。

「でも、どうやって行くんですか?」

 イスカがキョトンとした顔で尋ねる。
 フーシェは、予想がついたのか納得したような表情だ。
 さて、それでは、レグナント号に向けて出発することにしよう。

「よし、じゃあ二人共僕にしがみついて」

 僕の言葉に、イスカは眼を丸くする。

「大丈夫。飛び石のように、とりあえずここから、ポーンとあの辺の船に飛ぶでしょ?次はあの船、次はあの船に。そしたら、レグナント号までなんとなく着けそうじゃない?」

 僕の説明を受けてイスカの眼が少し潤む。

「とても怖そうなんですけど⋯⋯」

 フーシェの方は、楽しそうという風に期待に満ちた顔をしている。

「ん。凄く楽しそう」

 しかし、空を飛べない僕のできる精一杯はこんなところだ。
 他の方法がないと悟ったのか、イスカも意を決したようは表情をすると、僕にそっとしがみついた。

「ん。正妻ポジション」

 フーシェはそう言うと、イスカとは反対側にしがみつく。

「ほっ。両手に華とはユズキ様、羨ましいですな」

「何よ。華ならここにもいるでしょう?」

 ローガンの言葉に、リズがジト目で睨みつける。
 二人のやり取りを見て、僕はローガンとリズが争わないことを確信する。
 人族と魔族、触れ合ってみればこんなにも近いのに、お互いのことを知らないことで諍いが起こっているならば、いつかは、お互いをよく知ることで分かり合えることができるのではないかと思うのだ。

「よし、行こう」

 僕は二人を抱きかかえるように腕を上げる。
 意識を、持ち上げることに集中してしまえば、二人の身体は重さを感じさせない。

「キャッ!」
「ん。こんなにユズキにくっつけるなんて嬉しい」

 二人が僕にギュッと抱きついてくれるのは約得だけど、狙いは慎重に。
 一歩間違えれば、僕達は3人揃って海に真っ逆さまだ。
 そんな恥ずかしい姿をトナミカ中に晒すわけにはいかない。

「しっかり掴まって!」

 軽く助走する。
 目標は500メートル先の第3次防衛ラインを守る中型船だ。

 ドンッ!

 ギルドの屋根を踏みしめると、一気に僕達の身体は宙へ舞い上がった。

「ヒッ、キャアァッ!」
「ん。風が気持ち良すぎ」

 悲鳴をあげるイスカと、冷静なフーシェ。
 二人の小さな身体と共に、僕の身体はレグナント号へと向けて宙を舞った。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「無茶苦茶ね」

 リズが、文字通り飛び跳ねるようにレグナント号に向かって船を渡って行くユズキ達を見ると呟いた。

「そうですな、全てが規格外。ですが、そのことを鼻にかけることもない。『勇者』様にも見習ってもらいたいものです」

 ため息混じりにローガンが下を向く。そんなローガンの様子を見て、ポツリとリズが口を開いた。

「ローガン。貴方、今私を討ち取れば英雄よ?ユズキはあんな感じだけど、貴方には私を倒すべき理由があるんじゃない?──私、今無防備だから」

 リズの言葉を聞いたローガンは、目を細めて苦笑する。

「ふふ、『元』勇者の仲間です。──レーベンに渡った時に私も魔族と戦いました。リズ様は直接人族を殺してはいますまい。私は逆です。そうであるならばリズ様にこそ、私を殺すべき理由があるのです。そんな者がどうして、このように可憐な魔王様を討つことができましょう?」

 ローガンの皺が刻み込まれた顔をまじまじとリズは見つめると、その口からは軽い笑いが漏れた。

「ふふっ、やっぱり私達は大人ね」

 その言葉にローガンは微笑んだ。

「まだまだ、リズ様に比べると小童こわっぱでございますよ」
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