うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第3章 城壁都市ウォール

レベル97は仕事が早いようです

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「ん。覚悟完了」 

なんだか聞いたことのある台詞のような気がするが、フーシェの準備は万全のようだ。
僕に背中を向けて、『レベル譲渡』を受け入れる準備をしていた。

『マスター、『最適化オプティマイズ』によって、急激なレベルアップによる魔力暴走の危険性もありませんし、レベルが著しく下がることでマスターが失神してしまうこともありません』

セライの説明を受けて少しホッとする。
今までの『レベル譲渡』は少なからずフーシェ達に負担をかけていた。
それが収まるというなら、自由にレベルを譲渡することができるようになる。

「まさか、レベルを譲渡するスキルがあるなんて」

目を丸くしながら、エアが興味深そうに今から始まる『レベル譲渡』を見守っている。

「いや、ちょっと特別な力なんだ。だから、内緒でね」

横でセラ様も少し焦ったように、コクコクと頭を縦に振っている。
そりゃそうだ。元々セラ様の世界にないスキルなのだから。

「分かったわ。助けてもらっている側だから、私は何も喋らないわよ」

そう言ってくれると助かる。

「よし、じゃあいくよ!『レベル譲渡アサイメント』」

──!

で、でかい!
僕の右手から、サッカーボール程の大きさになった白色のレベルの集合体が現れる。
確かに力を吸い取られて脱力するような感覚はない。
セライがうまく調整してくれているのだろう。

「じゃあ、入れるよ」

さすがの巨大さに、少し緊張しながらも僕はフーシェの背中へ球体を押し当てる。

「──んっ」

今までのレベル譲渡とは、少し反応が違うようだ。リズにレベルを20譲渡した時には、その力の強さによって怒られた程だ。

「ん。なんか今までと違う⋯⋯優しく満たされるようで、なんかやらしい」

「おーい、やましいことは何もしてないぞ」

言葉だけ聞くと、なんだかいけないことをしているようだ。
隣で見ているエアの顔が、なんとなく冷たい気がするのは無視することにしよう。

「よし」

フーシェの背中にピッタリと僕の手が重なり、レベルの集合体は完全にフーシェの中へと吸い込まれることになった。

「これ、凄い。今までは強引に補強されていた感じがあったけど、全然ない」

フーシェは身体を軽く回すと、驚いたように飛び跳ねた。

『ふふんっ、譲渡する相手に対しても最適化していますからね。馴染みやすいですよ』

脳内のセライが得意気に答える。

「よし、ここからは私一人で行く」

正直、ここが一番迷う所だった。
レベル60の僕とレベル47のフーシェ、僕の頭では二人一緒に救出に向かうつもりだった。しかし、その案はフーシェによって却下された。
理由は、僕が攻撃系の魔法を使えないことだ。
今の僕であれば、レベル55の『勇者』と、剣で戦うことはできるだろう。だが、魔法やスキルで攻撃された場合には、技の差で負ける恐れがある。
それならば、攻撃も回避も得意なフーシェにレベルを全振りすることで、一点突破を行い、リズを救出する。
これが、フーシェの考えた策だった。

「フーシェに任せることになるけど、大丈夫?」

特に、フーシェはジェイクに一撃で左手を切り落とされそうになる程の攻撃を受けている。
僕の言葉にフーシェは首を横に振る。

「今のフーシェは、レベル97。全然負ける気がしない」

フラグのような言葉だが、フーシェ自身が過信はしない性格だ。その彼女が、疑いもなく自分の力を信じている。

「分かった。あと、可能な限り戦闘は避けるんだ。下手に刺激させてリズが危険になったら心配だ」

フーシェは軽く頷くと、隣で立っているエアを一瞥する。

「ん。一応警告。今のユズキはレベルが下がっているけど、もしユズキに危害を加えたら殺すから」

「──し、しないわよ!いくら人族嫌いでも、助けてもらったのに仇で返さないわ」

その言葉を聞いたフーシェがほんの少し微笑む。

「分かった、フーシェも半分魔族。信じる」
 
「フーシェさん、気をつけて」

セラ様がフーシェの横に並ぶと、声をかける。

「よく分からない人、任された」

後で説明しなくちゃな。

フーシェは、僕達を軽く見回すと、双剣『アースブレイカー』を抜き放ち、軽く跳躍して感触を確かめた後、次の瞬間一陣の風のように視界から消え去った。

「は、速い!」

大木の影から、覗き込むように僕達が頭を出すと、フーシェは既に豆粒のような大きさににしか見えなくなり、その姿も直ぐに木々の影に隠れて消えてしまった。


──ドンッ!ドンッ!ドンッ!

何かが炸裂するような大音量が3回響き渡る。

「そうだ、『マーキング』」

僕が右手の上に光を表示させる。

「何これ!」

光の動きを見たエアが驚きの声をあげる。

リズを示す青いキューブは動かない。しかし、フーシェを示す黒いキューブは、まるで残像を残すかのように荒ぶっている。
小刻みに揺れるキューブは、急に停止、動くを繰り返し、一度動いたら小刻みに揺れる。

「重なった!」

時間にして5分は経っていないかもしれない。
突然、黒のキューブと青いキューブが重なった。


──キュインッ

まるで、鉄骨を切断するかのような金属音が響いた次の瞬間。

ゴツッ!
ゴンッ!

まるで雹のようにこぶし大の噴石が落下してきた。

「わあっ!!」

本当に危ない。
レベル10の僕やセラ様がこんなものを喰らったらひとたまりもない。

「『水障壁アクアシールド』!」

僕達3人は、大樹の裏側の窪みにしっかりと収まる形で身を寄せ合う。

エアが唱えた魔法により、頭上には柔らかそうな水の膜が浮かび上がった。

「ありがとう。でも、これ強度大丈夫?」

「頭くらいの大きさのは、貫通するかも⋯⋯」

僕の言葉に、エアは涙目で答える。
その言葉に僕とセラ様は、思わず顔を見合わせた。

「き、キャアアッ!」

「ううっ⋯⋯」

益々、落下する石の数は増え、細かな指先くらいの大きさの噴石が『水障壁アクアシールド』によって弾かれた。

バキッ!

噴石の直撃を受けた枝が、大音量と共に数十メートル先で盛大に落下する。

──ドンッ!!

次の瞬間、僕達の目の前に巨大な塊が落下する。

「わっ!」
「キャッ!」

土煙が立ち昇り、視界がぼやける。
目の前に、噴石が落下したのか?
袖で目を擦ると、視界が開けてきた。

「ん。終わり」

そこに立っていたのは、紛れもなくフーシェだ。
しかし、その姿は見覚えがある。
『限定覚醒』を使用した姿。
頭部の角は消え、身長は170近くまで伸びただろうか。
紫がかった黒髪は、今や金色に変わり腰まで伸びている。

そして、フーシェにお姫様抱っこされる形で抱かれているのは──

「リズ!」

思わず僕も本名を口に出してしまう。
フーシェの手には、ボロボロになったリズの姿があった。

皮膚は裂け、あちこちから生々しい赤い肉が見え隠れしている。
髪もむしられてたのか、焼け付くように頭皮が顕となっている箇所も散見された。

「な、情けない所を見せちゃったわね」

弱々しいリズの声。
いつも凛とした立ち振る舞いを行っている彼女からは、予想もできない程のか細い声だった。

「今、治療を」

噴石の雨は止んでいる。

「ひ、酷い⋯⋯私も少しなら回復魔法を使えるから」

エアはそう言うと、直ぐに回復魔法をかけ始める。

「彼は、なんて愚かなことを⋯⋯」

セラ様はリズの隣に跪くと、両手を胸の前で組み祈るような形を作った。
すると、暖かさを持った優しい光が両手を包み込むように現れると、その光がリズに振り注ぐ。

「ありがとう。楽になるわ。ごめん、もう少し回復したら自分でも回復魔法をかけるから」

二人が必死に回復を続ける姿を見て、僕は心にドロリと暗い感情が湧き上がるのを感じた。

ジェイク、お前がやったのか?

一度湧き上がった感情は、留まることを知らない。
ゴボゴボと湧き上がるように、暗い感情を増殖させる。
復讐という言葉ではない。
『勇者』達が、リズに与えた苦痛と同じものを与えなければ気が済まない。
きっと、リズはそんなことを僕が行うことを喜びはしないだろう。
だが、仲間がこんな目に合ったのに、許すことは到底できなかった。
あの、全てを下に見るかのようなすかした顔を、グチャグチャにしてやりたい気持ちが、心の中を支配する。

『マスター、それは危険です』

分かってる、分かってるよ。
でも、止められないんだ。

「ん。気持ちは分かるけど、極力戦闘を避けたら、やってきたみたい」

怒りに我を忘れそうになった僕の前に、スッとフーシェが視界を遮るように立ちはだかる。
そうか、その先にいるんだな。

フーシェは、怒りに染まった僕にジェイクの姿を見せないように配慮してくれたのだ。

「あんな奴、ユズキが出るまでもない。私が締め上げるから」

そう言うと、フーシェは前に進み出る。
その奥からは、二人の人影が足音荒く近づいてきていた。
僕は気持ちの整理がつかないまま、再びジェイクと相対することになるようだった。
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