うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第3章 城壁都市ウォール

再び声を聞くことができたようです

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 少年のセライと合体した時よりも遥かに低い視界。
 私の手はほっそりとして、先程までの指の太さからは一回り以上細くなった形だ。

 リズの横で膝をつく自分の足元を見ると、服装も変化していた。履きなれていた長旅に適した厚手のズボンはいつの間にかスカートへと切り替わり、白い生足が眩しく写った。

「ユ、ユズキさんが女になりました!?」

 すぐ隣でリズの魂を守っていたセラ様が素っ頓狂な声をあげる。

「危ない!セラ様!手を離さないで!」

 驚きのあまり、リズの魂を握った手を離しそうになったセラ様の手を、私は慌てて覆う。

「はうっ。なんてすべすべして柔らかい手なんですか」

 少しうっとりした顔のセラ様だけど、ごめんなさい。コメントをしている暇はないよね。
 早くリズの魂を救わなければ。
 自身の身体の変化に驚くべきところなのだが、さっきは『略奪者プレデター』のセライと合体したのだから、驚きは思ったよりも少ない。

 まさか、性別まで変わってしまうとは思わなかったけど。

「ん。いつの間にかユズキが女装に目覚めた?──でも、この臭いは男のものじゃない」
「ユズキさん、一体貴方は何者なの?」

 フーシェとエアも驚きながら、周りに集まってくる。

「ん。リズ助かる?」

 リズの身体の横に跪き、眠ったように瞳を開かないリズを覗き込むあたり、フーシェもリズのことが心配なようだ。

「今見てみるね」

 私はそっとセラ様の両手を開くと、大切に守られていた弱々しい輝きを受け取った。
 まるで寄りかかるように、光は私の手の中へと移ってくる。

 温かな光は弱々しく、今にも消えそうだ。
 そして、その光を受け取って私は悟ってしまう。

「リズの魂、とても傷ついている。生命力がほとんど残ってない⋯⋯」

 私は、今のスキル『レベル譲渡』や『体力譲渡』だけでは傷ついた魂の生命力を回復させることは不可能だと感じた。

「どうです、助かりますか?」

 今度は、願うように力強く手を握っているセラ様の顔を私は見つめる。

「このままじゃ駄目です。私の生命力を空っぽになるまで譲渡しても、まだ足りません。200歳を超えているリズさんです、半分以上の生命力が失われた今の生命力を満たすには、私が生命力を全て譲渡したとしても足りないです」

 リズは助けたい。
 でも、私一人が人族としての生命力を全て譲渡したとしても、魔族であるリズの生命力を回復させるには全然足りていなかった。

 レベルとは異なる、魂の損傷。それを回復させる為には、他者から生命力を分け与えなければ助からない。

「あ、消えそうです!」

 セラ様の声に、私は躊躇うことなく自分の生命力を分け与える。

「『生命譲渡ライフアサイメント』」

 静かに、だけど確かな決意をもって私は自分の生命力を少し分け与える。

 ほうっ

 揺らめき、消えようとしていた光が安定する。
 しかし、本来なら燃え上がるように光らなければいけない魂の輝きは明るさを増すことはない。

 私が全生命力を譲渡しても足りない。

 他に手はないのか、私は出力を絞って思考を巡らせる。
 しかし、最善手と思う手立てが見つからない。
 そんな途方に暮れる私の背後から、突如声があがった。

「ハァ、ハァッ。エルフクォーターの生命力は使えないですか?」

「イスカ!」

 私は、数時間しか離れていなかったというのに、嬉しさのあまり泣きたいような気持ちで後ろを振り返った。
 そこには、息を切らしながら走ってきたイスカとローガンの姿があった。

「フゥ、フゥ。信じられませんが、ユズキ様!?リズ様は⋯⋯」

 少し遅れて駆けつけたローガンが、リズの顔を一目見たあと視線を反らした。
 一瞬でリズの身体が、抜け殻となっていることに気がついたのだろう。

「ハァハァ、ユズキさんのその身体の事は後です!耳が良いから聞こえました!私の生命を譲渡しても足りませんか!?」

 真剣な瞳で見つめてくる大切な存在の瞳を私は真っ直ぐに見つめ返す。
 ただ──

「それでも足りないかも⋯⋯」

 そう、エルフクォーターは純粋なエルフの寿命からは4分の1程度。
 寿命は100歳くらいと考えれば、人族の長寿と大差はない。

「あの、私はリズ様に大変な過ちを犯しました⋯⋯。魔族の私も100歳以上は軽く寿命があります。私の生命も使って下さい!」

 エアが怒りによってリズの首を絞め上げた手で、今度はそっとリズの左手をとる。

「ん。半魔族のも使う?」

 フーシェが小首を傾げて、私の顔を覗き込む。

「寿命を削るわけじゃないけど、全て譲渡してしまったら譲渡下私達が死んでしまう。⋯⋯だけど、魔族として生命力を蓄えて来たリズの器を満たしてあげるのなら、私だけじゃ絶対に足りなかった。みんな⋯⋯ありがとう」

「こんな年寄りのでも良ければ、私のも使って下さい」

 軽く咳払いをしつつ、ローガンが顔を赤くしながら共感してくれる。
 私を直視するのが恥ずかしいのか、その視線はどこか泳いでいた。

「ユズキさん!知らせが届いて駆けてきて良かったです。途中で魔法音も聞こえていたのですが、先程の爆発音もあって場所も分かったので助かりました。一緒にリズさんを助けましょう」

 私が予め放っていた『マーキング』がイスカとローガンに届いたのだ。

「うん、みんなの力があれば⋯⋯」

 私は、決意を胸に力強く頷いた。
 弱々しいリズの光を、渡しは抜け殻となった身体の上にかざしてあげる。
 ドルトンによって、胸に刺された傷は『レベル譲渡』の為に塞がっていた。
 曲刀にかけられていた強力な呪詛も、リズが死を迎えたことによって身体に残っている様子はない。

 絶対に失敗はできない。

「ふうっ」

 私は軽く息を吸い込んだ後、集中するために長めに息を吐いた。
 そして、リズの魂へと向かって両手を差し出す。

「みんな、一気に疲労を感じるかもしれないけど、気を強く持ってね」

 私の声かけに、皆が頷く。

「紡いだ生命の息吹よ、織りて結びて彼の者の生命を癒やせ。『生命譲渡ライフアサイメント』!」

 私だけが譲渡する訳ではない。
 スキルに意味を持たせるべく、頭に浮かんだ詠唱を私は口にする。

「ぐっ!」
「うっ!」
「ヒャッ!」
「ん」

 私は、『最適化オプティマイズ』の力も同時に使い、仲間達の生命力を把握したうえで、可能な限りの生命力を『回収』する。

 光り輝くような白色の光が仲間達から溢れ出る。
略奪者プレデター』が放つ、灰にも似た終わりを告げる白とは異なり、希望や輝きを象徴するかのような白い輝き。
 同じ色でも、こんなにも受ける印象は異なるのかと、私は皆の身体から湧き上がる生命力を見て感嘆した。

 私は、セラ様から『生命譲渡ライフアサイメント』を行えなかった。
 私が感知したセラ様の生命力は、とても不安定だった。そのため、セラ様以外から私は生命力を『回収』することにしたのだ。

 織り重なった生命力が糸を紡ぐように交わり合い、1つの光の束となって私の背中へと飛び込んできた。

「んっ!」

 その膨大な生命の力に、食いしばっていたはずの口の端から小さく声が漏れた。

 人族、エルフ族、魔族。本来であれば性質の違うそれらの生命力が複雑に絡み合い、解け、溶け合っている。

 私は、集められた生命の奔流に、私自身の生命力を混ぜ合わせるとリズの魂へ向かって意識を向けた。

 私の両手から光が溢れる。
 しかし、その力を一気に注ぐことはできない。
 揺らぐ光を、風から守ってあげるように優しく包み込む。

「き、きついっ!」

 エアが苦悶の表情を浮かべる。
 勿論、イスカとフーシェ、そしてローガンも額に汗を浮かべながら『生命譲渡ライフアサイメント』の『回収』に耐えていた。

「が、頑張って下さい!」

 力強く握り拳を作って、セラ様が励ましの声をあげる。

「──リズ!戻ってきて!」

 リズの魂が輝きを取り戻すのを見計らって、私は注ぐ力を繊細にコントロールしながら出力を上げる。

 私自身、生命力を譲渡しているために下手をすれば気を失ってしまいそうだ。

「ユズキさん!手伝います!」

 震えそうになる手をセラ様がそっと支えてくれる。

「行っけぇ!!」

 リズの魂が一気に輝きを増す。200年溜めてきた生命の輝きだ。
 私は、本来の輝きを取り戻したリズの魂を身体へと押し込むように力を注いだ。

 ビクッとリズの身体が脈打つ。

「カハッ!ッッ!ハアッ!ハァッ!」

 マラソンの最後に死力を尽くしたスパートをかけたような感覚。
 目の前が霞み、私は思わずリズの身体に倒れ込んでしまった。

 ポムッと柔らかなリズの胸元に顔を押し当てるような形になる。
 乾きかけの血糊が着いたリズの服が眼前に見え、鉄錆にも似た香りが鼻をついた。

 これ以上は危険。
 そこまで力を込めたはずだ。
 視界の先ではイスカも同様に倒れ込むと、肩で息をしている。

 ──生き返って!

 前世だったら、医療の力をもってしか蘇生を試みることはできない。
 死んでしまったならば、生き返るということはおとぎ話のようなもの。

 だけど、前世が神様に祈ることしかできない世界であるならば、この世界には神様はいるんだ。
 その神様であるセラ様も目に涙を浮かべながら、リズの手を胸に抱いている。

 ──お願い!!

 そう願っていると、ふと過呼吸になっている私の頭に何かが触れた。

 私は、上がらない頭を動かして視線を動かす。
 その目には、涙で頬を濡らすセラ様が写る。
 セラ様の顔に慈愛に満ちた様な表情が広がっていた。

 セラ様は、ギュッとリズの手を握っている。
 ということは、私のこの頭に触れる感触は──

「──ここが、ユズキの言ってた転生後の世界ってやつなのかしら?だって、知らない女の子が私の胸の上で泣いているんですもの」

 半日聞かなかった声、二度と聞くことができないと思った声を再び聞くことができた。
 その喜びからか、私の口から止めることのできない嗚咽が漏れる。
 私は、頭を優しく撫でる柔らかなリズの手の温もりと感触に触れて、ただ子供の様に泣きじゃくるのだった。


    
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