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第4章 魔導都市レーヴァテイン
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国王の胸部を貫き、滴り落ちる鮮血がカストールの瞳を通じて僕達の視界に映り込む。
実の父親の姿に絶叫した幼いフーシェが、カストールの腕の中でガタガタと震えている。
「すま⋯⋯ないな。パ、パパはここまでのようだ──」
力を振り絞るように、国王はフーシェに向かって手を差し出す。その手はフーシェの頭に優しく置かれると、国王は愛おしむようにフーシェの頭を撫でた。
「嫌っ!嫌!」
泣き叫ぶフーシェに国王はにっこりと微笑む。
「お前の力を隠す為に⋯⋯封印をつけたのだが、ドミナントに目をつけられたのが──この結果だ」
「いいの!パパが、魔法の研究のために、お母さんと結婚して私を産んだことは知ってる!でも、それでもお母さんとパパは、私は大好きだよ!」
泣きながら叫ぶフーシェに、国王は少し驚いた顔をした。
「そう⋯⋯か。それは、辛い思いをさせたな。一分の輩はそう言ったかもしれないが、レーベンに流れついたママに──惚れたのは私だ。大丈夫⋯⋯お前は立派に私達の愛すべき娘だよ」
カストールが必死に回復魔法をかけてはいたが、国王の身体は目に見えて生気を失っていく。
背後では、ヴェインが必死になってメナフの攻撃を防いでいた。
「回復が効かない──!」
カストールが顔を真っ青にしながら叫ぶ。
その言葉に国王は静かに顔を横に振る。
「よい。呪いを含んでいる傷だ。──だが、勇敢なエルフのお陰で、娘と話す事ができたこと──感謝する」
国王は最後の力を振り絞り、そっと膝を落とすと幼いフーシェを抱き寄せた。
その力に、フーシェも震える手で国王の背中に手を回す。
「ありがとう──フーシェ、私の愛しい娘よ。お前の人生が幸多い物にならんことを──心から、先立った妻と共に、願っているよ」
それが、国王の最後の言葉だった。
国王の僅かに脈打っていた命の灯火が完全に消えた。
静かに、まるで眠るように国王はフーシェを抱き寄せたまま息絶えていた。
「パパ⋯⋯?パパ?」
物言わぬ骸となった国王に、フーシェが言葉をかける。
返答はない。
よろよろと、幼いフーシェは国王の体から身を離す。
絶命したはずの国王の身体は、しっかりとフーシェを抱き寄せた形のまま事切れていた。
その穏やかな、眠った様な表情にフーシェの感情が爆発した。
「イ、イヤヤァァッ!!」
──ゴウッ
凄まじい魔力の渦が生まれた。
「ウワツ!」
「クッ!」
「キャッ!」
カストールとミドラ、そして背負われているミミルが、その暴力的な魔力によって吹き飛ばされた。
見ると、幼いフーシェの首に赤黒い『封印』の輪が浮かび上がる。ドラゴンと相対した時に僕が『魔力譲渡』によって破戒した、あの『封印』だ。
封印の輪は、魔力を封じ込めようとフーシェの首に戻ろうと力を込める。
しかし、幼いフーシェはまるで簡単なパズルを解くように、一瞬で『封印』の術式を正しい方法で解呪すると、溢れ出す魔力を一気に集中させた。
「『神喰らい』」
視界を共有するフーシェが呟いた。
僕は、目の前に浮かぶ『神喰らい』の数に目を疑った。
ざっと、数を数えても50個はくだらない、サッカーボール大の漆黒の球体が、音も光も吸収するように静かに宙に浮かんでいた。
「──全部、消して」
まるで、最後の言葉を振り絞るかの様に幼いフーシェが呟いた。
その言葉を最後に、フーシェの身体はクラッと一回揺れると、真横に倒れ込んだ。
慌てて、カストールがその身体を支える。
カストールの視界には、役目を終えた『封印』が再び組み直されると、フーシェの首へと戻っていくのが見えた。
そして、カストールが不穏な雰囲気を纏って漂う漆黒の球体を見上げると、『神喰らい』は、まるでくびきからから解き放たれた様に宙を舞った。
「なっ!なんだこれは!!みんな、触れるなよ!」
球体が触れる度に、空間が削り取られたかのように、床や壁が穴を開けていく。
「フハッ!素晴らしい!素晴らしいぞ!!これが魔導都市レーヴァテインの成果!その力こそ我が覇道に相応しい!」
制御を失った球体が、ヴェインとメナフに向かって飛来する。
カストールは、メナフの方を見る余力は最早なかった。
腕の中で、涙で頬を濡らす幼いフーシェをしっかりと抱きかかえると、必死に扉へと走る。
「ヴェイン!あなたも!」
カストールが近くを通り過ぎた球体を避けると、背後のヴェインに声をかけた。
「なぁに、こいつを倒したら向かうさ!先に行け!ミドラ。何かあったらお姫様のこと、頼んだぞ!」
「娘に何も言わずに出てきたんだろ?死んだら承知しないよ!」
ミドラが怒りをはらんだ声で叫んだ。
「イスカ!父さんはなぁ!姫様の父さんに負けないくらい、世界で一番、イスカを愛してるぞぉ!!」
ヴェインは、すうっと大きく息を吸い込むと、城内が震える程の大音量で叫んだ。
その魂の叫びは、確かに時空を越えてイスカの胸に届いたようだ。
「──父さん!いつか、私がエルフの力でこの光景を見ることを信じてたんだね」
嗚咽するように、イスカが叫ぶ。
ヴェインが、カストールの視界の端で、メナフに向かって跳躍する姿が見えた。
「行くよ!」
戦斧で瓦礫を吹き飛ばしたミドラの後をカストールが続く。
「ヴェイン!頼みましたよ!」
「死なないで!」
カストールとミミルの声が、背後のヴェインへと送られる。
そして、廊下へと足を踏み入れた瞬間、カストールの記憶は終了することになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い夢を見ていたような浮遊感。
ハッと気付くと、僕達はイスカの手を握った先程と同じ立ち姿のままで、レーヴァテイン城のバルコニーに立っていた。
「──戻ってきた。イスカ、フーシェ⋯⋯」
僕の言葉が終わるより早く、二人は声を押し殺して胸元へと飛び込んできた。
二人は身体を震わせながら、強く僕の服を掴むと、顔を押し付けた。
「──」
かけられる言葉がなかった。
僕に出来ることは、彼女達をしっかりと抱きしめてあげることだけだ。
「私、思い出したよ」
しばらくして、ポツリとフーシェが口を開いた。
その口調は、先程カストールの視界を通して見た幼いフーシェの口調に似ていた。
「私は、このレーヴァテインの最後の国王、ベルリ=レーヴァテインの娘。フーシェ=レーヴァテイン。ママは難破船でレーベンに辿り着いた人族で名前はセレナ。私は自分で辛かった記憶を自分で消していた⋯⋯」
それでは、父親と母親がフーシェに対して『封印』を施したというのは?
僕の心の中の疑問に答えるように、フーシェは口を開き始めた。
「もともと、レーベンはドミナントと中が悪かった。だから、魔法を極めることで、ドミナントからも人族がいる大陸から攻められないように自衛の研究にいそしんできた。そこで、目をつけたのが──」
「『神喰らい』ですか?」
眼を腫らしたイスカがフーシェに質問する。
イスカの言葉にフーシェは小さく頷いた。
「パパは、『重力魔法』の派生から、相手を消滅する魔法を研究していたみたい。触れると、消えてしまう。そんな魔法があれば、誰もレーベンに攻めてこないはずだと。そして、人族の血が入った私が産まれたことで、私には『消失』という特性が入っていることにパパは気付いた」
「ドルトンが失敗作と言ったのは⋯⋯?」
「──ん。私が、感情に任せて『神喰らい』でレーヴァテインを壊したから、パパとママは、私の力を知ったメナフがその研究を奪いに来るのを恐れて、私に『封印』をかけたの。だから、この『封印』をかけた本当の理由は、パパとママが私の魔力を封じることで、私のことを隠し守るため。パパが殺された時に、『封印』は解けたんじゃない。私が本当は、もともと解呪の方法を知っていたから。でも、パパを殺されたことで、私は自分の記憶をなかったことにした──うっ、パパ──」
喋ったことで、目の前で先程の記憶の中の光景が蘇ったのか、再びフーシェは僕の胸に顔を押し付けた。
辛すぎて忘れることを選んだ記憶。自分の親の死をもう一度見ることになった辛さは想像を絶するだろう。
同じ辛い記憶を見たはずのイスカが、そっとフーシェを抱きしめた。
フーシェは一通り泣いた後、顔をあげた。
その顔には、まだ消化しきれていない様々な感情が残っていたが、その瞳には力が宿っていた。
「ん。辛い記憶だけど、それ以上に良かった。パパも、ママも私を愛してくれたんだって知れたから。パパが死んじゃった時をもう一度見たことは辛いけど、忘れていたパパと、そして、ママの顔も今はちゃんと思い出せるから」
そう言うと、フーシェの姿が光輝いた。
「これは!」
この光を僕は知っている。
昨日にも見た、『限定進化』の光だ。
光が収束すると、そこには小柄なフーシェの姿はなく、『限定進化』によって立派に成長したフーシェの姿があった。
だが、昨日の様に魔力を消費している様子はない。
それどころか、『限定覚醒』の時と同じくらいの余裕を感じさせた。
僕がフーシェの進化に驚いていると、隣に立つイスカも魔力を集める。すると、世界樹にアクセスさた時と同様に、イスカの右眼が金色に輝いた。
「ユズキさん。私達異なる血を持つ者が、『覚醒』や『進化』をするための、本当の条件は、異なる血を心の底から受け入れることだったんです。私は、父さんや母さんの事を知っていましたが、この血がエルフからも人族からも良く思われていないことに、心の底から自分の事を認められない私がいたんです。でも──」
そう言うと、イスカは懐から一枚の封書を取り出した。
「これ、ユズキさんが屋敷に潜入しているとき、私達が泊まっていた宿に隠されていた、お父さんの手紙です。フーシェが見つけてくれたんですよ!この手紙の⋯⋯父さんの思いを知ることができて、私は本当に自分の事を好きになれた。その力が作用して、本来苦手としていたエルフの象徴であるこの瞳と、父さんの人族としての力を使えるまでになりました」
「じゃあ、『限定』というのは?」
その言葉の続きは、フーシェが引き継いだ。
「ん。私達は、ユズキからレベルを譲渡されてるから。本当に『覚醒』や『進化』に必要なための力を『レベル譲渡』分を燃料とすることで使ってるんだと思う。本来『覚醒』や『進化』できるレベルまで成長したら、普通にこの状態になれるはず」
フーシェが言い終えると、イスカとフーシェは再び元の姿へと戻った。
「ん。イスカ──パパを守ってくれてありがとう」
フーシェは、イスカに抱きつくとお礼を言った。
一瞬驚いた様子のイスカだったが、優しく微笑むとイスカも強くフーシェを抱きしめるのだった。
実の父親の姿に絶叫した幼いフーシェが、カストールの腕の中でガタガタと震えている。
「すま⋯⋯ないな。パ、パパはここまでのようだ──」
力を振り絞るように、国王はフーシェに向かって手を差し出す。その手はフーシェの頭に優しく置かれると、国王は愛おしむようにフーシェの頭を撫でた。
「嫌っ!嫌!」
泣き叫ぶフーシェに国王はにっこりと微笑む。
「お前の力を隠す為に⋯⋯封印をつけたのだが、ドミナントに目をつけられたのが──この結果だ」
「いいの!パパが、魔法の研究のために、お母さんと結婚して私を産んだことは知ってる!でも、それでもお母さんとパパは、私は大好きだよ!」
泣きながら叫ぶフーシェに、国王は少し驚いた顔をした。
「そう⋯⋯か。それは、辛い思いをさせたな。一分の輩はそう言ったかもしれないが、レーベンに流れついたママに──惚れたのは私だ。大丈夫⋯⋯お前は立派に私達の愛すべき娘だよ」
カストールが必死に回復魔法をかけてはいたが、国王の身体は目に見えて生気を失っていく。
背後では、ヴェインが必死になってメナフの攻撃を防いでいた。
「回復が効かない──!」
カストールが顔を真っ青にしながら叫ぶ。
その言葉に国王は静かに顔を横に振る。
「よい。呪いを含んでいる傷だ。──だが、勇敢なエルフのお陰で、娘と話す事ができたこと──感謝する」
国王は最後の力を振り絞り、そっと膝を落とすと幼いフーシェを抱き寄せた。
その力に、フーシェも震える手で国王の背中に手を回す。
「ありがとう──フーシェ、私の愛しい娘よ。お前の人生が幸多い物にならんことを──心から、先立った妻と共に、願っているよ」
それが、国王の最後の言葉だった。
国王の僅かに脈打っていた命の灯火が完全に消えた。
静かに、まるで眠るように国王はフーシェを抱き寄せたまま息絶えていた。
「パパ⋯⋯?パパ?」
物言わぬ骸となった国王に、フーシェが言葉をかける。
返答はない。
よろよろと、幼いフーシェは国王の体から身を離す。
絶命したはずの国王の身体は、しっかりとフーシェを抱き寄せた形のまま事切れていた。
その穏やかな、眠った様な表情にフーシェの感情が爆発した。
「イ、イヤヤァァッ!!」
──ゴウッ
凄まじい魔力の渦が生まれた。
「ウワツ!」
「クッ!」
「キャッ!」
カストールとミドラ、そして背負われているミミルが、その暴力的な魔力によって吹き飛ばされた。
見ると、幼いフーシェの首に赤黒い『封印』の輪が浮かび上がる。ドラゴンと相対した時に僕が『魔力譲渡』によって破戒した、あの『封印』だ。
封印の輪は、魔力を封じ込めようとフーシェの首に戻ろうと力を込める。
しかし、幼いフーシェはまるで簡単なパズルを解くように、一瞬で『封印』の術式を正しい方法で解呪すると、溢れ出す魔力を一気に集中させた。
「『神喰らい』」
視界を共有するフーシェが呟いた。
僕は、目の前に浮かぶ『神喰らい』の数に目を疑った。
ざっと、数を数えても50個はくだらない、サッカーボール大の漆黒の球体が、音も光も吸収するように静かに宙に浮かんでいた。
「──全部、消して」
まるで、最後の言葉を振り絞るかの様に幼いフーシェが呟いた。
その言葉を最後に、フーシェの身体はクラッと一回揺れると、真横に倒れ込んだ。
慌てて、カストールがその身体を支える。
カストールの視界には、役目を終えた『封印』が再び組み直されると、フーシェの首へと戻っていくのが見えた。
そして、カストールが不穏な雰囲気を纏って漂う漆黒の球体を見上げると、『神喰らい』は、まるでくびきからから解き放たれた様に宙を舞った。
「なっ!なんだこれは!!みんな、触れるなよ!」
球体が触れる度に、空間が削り取られたかのように、床や壁が穴を開けていく。
「フハッ!素晴らしい!素晴らしいぞ!!これが魔導都市レーヴァテインの成果!その力こそ我が覇道に相応しい!」
制御を失った球体が、ヴェインとメナフに向かって飛来する。
カストールは、メナフの方を見る余力は最早なかった。
腕の中で、涙で頬を濡らす幼いフーシェをしっかりと抱きかかえると、必死に扉へと走る。
「ヴェイン!あなたも!」
カストールが近くを通り過ぎた球体を避けると、背後のヴェインに声をかけた。
「なぁに、こいつを倒したら向かうさ!先に行け!ミドラ。何かあったらお姫様のこと、頼んだぞ!」
「娘に何も言わずに出てきたんだろ?死んだら承知しないよ!」
ミドラが怒りをはらんだ声で叫んだ。
「イスカ!父さんはなぁ!姫様の父さんに負けないくらい、世界で一番、イスカを愛してるぞぉ!!」
ヴェインは、すうっと大きく息を吸い込むと、城内が震える程の大音量で叫んだ。
その魂の叫びは、確かに時空を越えてイスカの胸に届いたようだ。
「──父さん!いつか、私がエルフの力でこの光景を見ることを信じてたんだね」
嗚咽するように、イスカが叫ぶ。
ヴェインが、カストールの視界の端で、メナフに向かって跳躍する姿が見えた。
「行くよ!」
戦斧で瓦礫を吹き飛ばしたミドラの後をカストールが続く。
「ヴェイン!頼みましたよ!」
「死なないで!」
カストールとミミルの声が、背後のヴェインへと送られる。
そして、廊下へと足を踏み入れた瞬間、カストールの記憶は終了することになった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
長い夢を見ていたような浮遊感。
ハッと気付くと、僕達はイスカの手を握った先程と同じ立ち姿のままで、レーヴァテイン城のバルコニーに立っていた。
「──戻ってきた。イスカ、フーシェ⋯⋯」
僕の言葉が終わるより早く、二人は声を押し殺して胸元へと飛び込んできた。
二人は身体を震わせながら、強く僕の服を掴むと、顔を押し付けた。
「──」
かけられる言葉がなかった。
僕に出来ることは、彼女達をしっかりと抱きしめてあげることだけだ。
「私、思い出したよ」
しばらくして、ポツリとフーシェが口を開いた。
その口調は、先程カストールの視界を通して見た幼いフーシェの口調に似ていた。
「私は、このレーヴァテインの最後の国王、ベルリ=レーヴァテインの娘。フーシェ=レーヴァテイン。ママは難破船でレーベンに辿り着いた人族で名前はセレナ。私は自分で辛かった記憶を自分で消していた⋯⋯」
それでは、父親と母親がフーシェに対して『封印』を施したというのは?
僕の心の中の疑問に答えるように、フーシェは口を開き始めた。
「もともと、レーベンはドミナントと中が悪かった。だから、魔法を極めることで、ドミナントからも人族がいる大陸から攻められないように自衛の研究にいそしんできた。そこで、目をつけたのが──」
「『神喰らい』ですか?」
眼を腫らしたイスカがフーシェに質問する。
イスカの言葉にフーシェは小さく頷いた。
「パパは、『重力魔法』の派生から、相手を消滅する魔法を研究していたみたい。触れると、消えてしまう。そんな魔法があれば、誰もレーベンに攻めてこないはずだと。そして、人族の血が入った私が産まれたことで、私には『消失』という特性が入っていることにパパは気付いた」
「ドルトンが失敗作と言ったのは⋯⋯?」
「──ん。私が、感情に任せて『神喰らい』でレーヴァテインを壊したから、パパとママは、私の力を知ったメナフがその研究を奪いに来るのを恐れて、私に『封印』をかけたの。だから、この『封印』をかけた本当の理由は、パパとママが私の魔力を封じることで、私のことを隠し守るため。パパが殺された時に、『封印』は解けたんじゃない。私が本当は、もともと解呪の方法を知っていたから。でも、パパを殺されたことで、私は自分の記憶をなかったことにした──うっ、パパ──」
喋ったことで、目の前で先程の記憶の中の光景が蘇ったのか、再びフーシェは僕の胸に顔を押し付けた。
辛すぎて忘れることを選んだ記憶。自分の親の死をもう一度見ることになった辛さは想像を絶するだろう。
同じ辛い記憶を見たはずのイスカが、そっとフーシェを抱きしめた。
フーシェは一通り泣いた後、顔をあげた。
その顔には、まだ消化しきれていない様々な感情が残っていたが、その瞳には力が宿っていた。
「ん。辛い記憶だけど、それ以上に良かった。パパも、ママも私を愛してくれたんだって知れたから。パパが死んじゃった時をもう一度見たことは辛いけど、忘れていたパパと、そして、ママの顔も今はちゃんと思い出せるから」
そう言うと、フーシェの姿が光輝いた。
「これは!」
この光を僕は知っている。
昨日にも見た、『限定進化』の光だ。
光が収束すると、そこには小柄なフーシェの姿はなく、『限定進化』によって立派に成長したフーシェの姿があった。
だが、昨日の様に魔力を消費している様子はない。
それどころか、『限定覚醒』の時と同じくらいの余裕を感じさせた。
僕がフーシェの進化に驚いていると、隣に立つイスカも魔力を集める。すると、世界樹にアクセスさた時と同様に、イスカの右眼が金色に輝いた。
「ユズキさん。私達異なる血を持つ者が、『覚醒』や『進化』をするための、本当の条件は、異なる血を心の底から受け入れることだったんです。私は、父さんや母さんの事を知っていましたが、この血がエルフからも人族からも良く思われていないことに、心の底から自分の事を認められない私がいたんです。でも──」
そう言うと、イスカは懐から一枚の封書を取り出した。
「これ、ユズキさんが屋敷に潜入しているとき、私達が泊まっていた宿に隠されていた、お父さんの手紙です。フーシェが見つけてくれたんですよ!この手紙の⋯⋯父さんの思いを知ることができて、私は本当に自分の事を好きになれた。その力が作用して、本来苦手としていたエルフの象徴であるこの瞳と、父さんの人族としての力を使えるまでになりました」
「じゃあ、『限定』というのは?」
その言葉の続きは、フーシェが引き継いだ。
「ん。私達は、ユズキからレベルを譲渡されてるから。本当に『覚醒』や『進化』に必要なための力を『レベル譲渡』分を燃料とすることで使ってるんだと思う。本来『覚醒』や『進化』できるレベルまで成長したら、普通にこの状態になれるはず」
フーシェが言い終えると、イスカとフーシェは再び元の姿へと戻った。
「ん。イスカ──パパを守ってくれてありがとう」
フーシェは、イスカに抱きつくとお礼を言った。
一瞬驚いた様子のイスカだったが、優しく微笑むとイスカも強くフーシェを抱きしめるのだった。
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