うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第5章 戦争

勇者はメチャクチャのようです

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 桟橋に降り立ったジェイクは、初めて出会った時の余裕たっぷりといった表情は消え去り、疲れと苛立ちに満ちていた。
 彼は明らかに不機嫌そうな表情を浮かべたまま、交渉に出ていたリーダー格の男へと歩み寄った。

「おい、グラハム!何を手間取っている。何故僕達がこんなに待たされなければいけないんだ!」

 やつれた表情を見せるジェイクは、腹いせとばかりにグラハムと呼ばれた男の肩を突き飛ばした。

「ぐっ⋯⋯。ジェイク様、ここは私にお任せをと言ったはずです」

 グラハムは、突き飛ばされながらもジェイクを諌める様に立ちはだかった。

「何故だ!?誇り高きグリドールが、何故こいつらの都合を考えなければならない?どうせ、もうすぐグリドールの軍船が数百と入ってくる。我々が使ってやるというのだ。有り難く港を開くというのが筋ではないか!」

 高らかに宣言するジェイク。
 グラハムは、ジェイクのあまりの失言に額を押さえた。

「ふざけんな!」
「何がグリドールだ!ルールを守らないやつは帰れ!」

 ジェイクの失言に、港側の冒険者や町人が気色ばむ。

「静まりなさい!」

 ざわつく現場を一括するように、エレナが甲高い声をあげた。
 よく響く声に、周囲が一瞬にして静かになった。
 しかし、エレナの声には緊張が滲み出ており、彼女は緊張を抑え込む様に軽く息を吐いた。
 エレナは、ジェイク達に向かって進み出ると、感情を抑えこんだ声で話しかけた。

「私は、この港の管理を任せられているトナミカギルド所属のB級パーティー『蒼の灯台ブルートーチ』リーダーのエレナです。お察しの通り、我々は貴方方の無礼を快く思っておりません。救難依頼に対する荷物の積み込みは許可しましょう。それが終わったなら、即刻立ち去って下さい」

 エレナは、凛とした声でグラハムに告げた。

「はんっ!B級パーティー如きが偉そうなことを言うな!僕達はグリドールが誇るS級パーティー『希望の剣』だぞ。そして、そのリーダーである僕は栄えあるグリドールが誇る勇者、ジェイク=グリドールだ。これは、グリドールの王命と捉えてもらいたい!」

 酷すぎる。と、私は内心思ったが、肝心のジェイクはグラハムの真っ青になった表情を読み取ろうともせず、自信満々に胸を張った。
 自分の主張が、通らないことはないと信じ切っている表情に、トナミカ側の町人達は呆気にとられた様子だ。

 ──プッ

 今まさに、静寂を破ってトナミカ側の怒りが爆発するかと思った瞬間。
 それよりも、早く上がったのは笑い声だった。

「フハッ、その勇者様ってのは、わざわざレーベンからトナミカに逃げ帰ってきた臆病者じゃねぇのか?」

「誰だ!!今笑った奴は、前に出てこい!」

 人波の中から、烈火の如く顔を赤くしたジェイクの前に、一人の男性がひょっこりと顔を出した。
 青白い肌に人間離れした体躯。筋肉は盛り上がり、一目で、その男が人族でないことは見て取れた。
 男は、片手に空になったエール樽を持って、酔いが回った様に足元をふらつかせながら、ジェイクを指差した。

 やめとけって。

 そんな様子で周囲の男達が、魔族の男を諌める。しかし、すっかり出来上がった男は、ヘラヘラと笑うと事の重大さに気付いていないようだった。

「こ、こいつっ!魔族じゃないか!?何故魔族が人族の中に紛れ込んでいる!!」

「ジェイク様、以前お話した通りトナミカは魔大陸と交易をしております。ここは冷静に⋯⋯」

 しかし、ジェイクはグラハムの言葉を遮ると怒りに満ちた表情で進み出た。
 足取り荒く歩を進めると、腰に下げている剣を抜き放つと一直線に魔族の男に向かって歩いていく。
 流石の殺気に、魔族の男も自分の置かれた状況を把握したのか、エールの樽を落とすと、その顔からは血の気が引いた。

「それ以上進めば、トナミカに対する敵対と見なしますよ!」

 エレナも剣を抜くと、進路上に割って入る。

「うるさいっ!魔族を受け入れている時点で、この町は終わっている!我らグリドールが来たら、一人残らず根絶やしにして、その首をレーベンに送り返してやろう!」

「いくら、グリドールの王族といえどもさせません!」

 対峙するエレナだが、S級であるジェイクを前にして余裕はない。ジェイクは頭に血が上っているのか、片手で剣を掲げると、エレナごと吹き飛ばそうとした。

「クッ──!」

 私は、ジェイクが最早止まらないと確信すると、太腿に装着されたダガーを抜くと飛び出した。
 常人を遥かに超える動体視力が、ジェイクの剣筋を捉える。私はダガーをクロスさせると、ダガーの狭間でジェイクの剣を受け止めた。

 ──ギンッ!!

 甲高い音を立て、ジェイクの剣は私のダガーによって止まることとなった。

「──なっ!僕の剣を受け止めるとは何者だ!?」

「貴女は!?危ないですよ!」

 ジェイクとエレナが、突然の乱入者である私に驚きの声をあげた。

「キレていきなり斬りかかるなんて、勇者様らしくないですよ」

 ジェイクの問いを無視して、私は内心苛つきを抱えながらも、涼しい声を繕うと笑いかけた。

「魔族を抱え込んでいることこそ、邪法!我々は人族の脅威である魔族を殲滅するために行動している!グリドールが駐屯するこの町の魔族を滅ぼして何が悪い!」

 血走った眼をしたジェイクの表情に余裕はない。
 それは、レーベンでドルトン達との戦いにおいて、手を出すこともできずに敗走したという事実が、トラウマの様に重くのしかかっているのだろう。

「トナミカだと、自分より強い人はいないと思って、暴力を振るう。そんなのは、より強い力が現れた時に無力感を強めるだけじゃない」

「──クッ、よくも勇者である僕に、そんな言葉を吐けたな!魔族を庇う貴様も同罪だ!」

 ジェイクが叫ぶと、圧倒的な魔力が剣に込められる。
 その力は、勇者の物というより、禍々しいものを感じさせた。

「お止め下さい!ジェイク様!」

 グラハムの言葉はジェイクには届かない。
 一目で、その威力が解き放たれれば、私やその刃先の延長にいる魔族だけでなく、周囲の人族にも被害が出ることは明らかだった。

「ハハッ!魔族と、それに与する愚か者達よ、死ねっ!!」

 ──ジェイク様のこと、頼みましたよ。

 私の脳内に、ローガンの言葉が思い起こされた。

 仕方ない、ローガンの頼みだもんね。
 私は、今にも振り下ろされそうなジェイクの剣を、目にも止まらないスピードでダガーで絡め取るように弾く。
 強力な一撃は、ジェイクの剣を握る握力を上回り、呆気なくジェイクの剣は宙を舞った。

「何っ!」

 私は驚愕するジェイクの表情に、少しスッキリすると、ダガーを握っていた右手を放す。
 軽く開いた手に息を吐きかけると、少し怯えを含んだジェイクに向かって、ニッコリと微笑みかけた。

「許せないけど、今はこれで我慢してあげる」

 私は、満面の笑みで右手を振りかざすと、首がもげてしまわない程度の力でジェイクの左頬を打った。

 ──バチィンッ!!

 落雷が落ちたかの様に気持ちの良い音が、港に響くと、ジェイクの身体は文字通り、木の葉の様に宙を舞った。
 そのまま、桟橋から吹き飛ばされると、1回、2回、3回と水切りの様に水面を跳ねると、30メートル程先の薄暗い海面へと突き刺さった。

「フゥ、スッキリした」

 私は、呆気に取られた周囲の人々を振り返る。
 エレナを筆頭に、静まり返った町民からの反応にやりすぎたかと内心焦ったが、直ぐに返って来たのは、湧き上がる様な喝采だった。

「うおおおっ!凄いぞ姉ちゃん!」
「カーッ!スカッとしたぜ!!」
「何がグリドールだ!トナミカ万歳!!」

 町民達が、喜びに拳を高く突き上げる。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はあっ。急いで来てみれば、派手なことやっとるのぉ。何でユズキとやらは女になっておるのやら。ま、どのみち良い口実ができたのは感謝せんとな」

 湧き上がる喝采の中、港へと降りてきたニンムスは、騒動の成り行きに、呆れながらも、どこかスッキリとした表情でため息をつくのだった。

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