うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo

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第5章 戦争

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 戦況は拮抗している。
 女神の調律を発動しながら、私はそう感じていた。
 止むことのない旋律は味方を鼓舞し、数的な劣勢を跳ね返すために味方に強化を与え続ける。
 しかしその拮抗が崩れた時、トナミカの抵抗線は一気に崩壊するだろう。

 能力だけでなく、ユズキが持っているレベルは循環機構の様に、トナミカの兵達に譲渡と回収が繰り返されていた。

「ユズキさん!フォローします!」

 セラ様が、私だけでは手の足りない所をフォローするため音を紡ぎ出す。

「クソッ、上だ!!」

 前方の敵を抑えていたグスタフの上空を、飛翔する魔族が飛び越える。

 その敵は、ニヤリと笑みを浮かべると女神の調律を解けない二人を目掛けて、急降下を開始した。

「クッ!」

 女神の調律を一瞬でも止めて、回避を試みようとしたユズキだったが、その動きは降下を開始した敵が動きを止めたことで中止された。

「ユズキさん!助けに来ましたよ!」

 空から降ってきた声に眼を凝らすと、上空の魔族は白い魔力の矢を受けて絶命していた。
 耳に飛び込んでくる声は、私にとって大切な存在。イスカの声だ。

「ん。ここは、私達に任せる」

 続けてフーシェの言葉が聞こえてくる。
 近付いてくるイスカとフーシェは、『限定覚醒進化』によりその姿を変えていた。
 イスカの右眼はエルフの特徴である金色に輝き、纏う雰囲気が一気に変化したことに気付くことができる。周囲にはキラキラと緑の光が飛び交い、それらがマナを含んだ物であることにユズキは気づいた。
 イスカの隣に立つフーシェの背丈は、いまやイスカを超え、普段のショートカットの黒髪は、限定覚醒の時と同じ金髪に変わっていた。
 瞳は漆黒に染まり、その中には頭頂部を超えない程の二対の紫の角と同じ光が宿っている。

「イスカ!フーシェ!!」
「お二人共!」

 私とセラ様が喜びの声を挙げる。
 二人は一瞬で距離を縮めると、グスタフが押し留めていた魔族を瞬きの内に倒してしまった。

「ふぅ、今ならハッキリ分かるぜ。絶対あんたらとは敵対しないが吉だとな」

 グスタフは大盾を握り直すと嘆息した。

「ん。こいつは」

 フーシェの、グスタフに対する冷たい視線に、私は慌てて待ったをかけた。

「今は味方だよ。ジェイクもアマラのせいでおかしくなっていたけど、今は味方として手伝ってくれてるわ」

 その言葉を聞いて、フーシェはアースブレイカーを握る手の力を弱めた。

「二人が来てくれて心強いわ。きっとメナフは仕掛けてくるはずよ」

 私の言葉に、イスカとフーシェは頷いた。

「メナフって、まさかあのドミナントの『魔王』か?そんな大物が来てるとは──って、さっきお前ユズキとか言われてなかったか?お前女だったのかよ!」

 驚きの声をあげるグスタフに、私はしまったと顔をしかめたが、説明する暇はない。

「スキルの特徴よ。そんなことより、ここでトナミカを守っていても消耗戦だわ。あの島に向かわないと、敵がどれだけ残っているかも分からないもの」

 指を休めることなく説明する私に、イスカは眉をひそめた。

「ですがユズキさんがスキルを止めてしまうと、戦線が崩壊してしまいます」

 イスカの言っていることは正しい。
 だが、リズのいないこの状況下では敵の総力を読み取ることができず、攻め込むことができないのは事実だ。

「それに、あの降ってきた島に行くって言ったって船がないと行けないぞ」

「ん。この姿の私でも長距離を飛ぶことは不可能」

 確かに。
 私が『浮遊』を魔法で発動したとして、数キロ沖合の島まで飛行することは不可能だ。
 必ず敵の迎撃に合うだろうし、私が『女神の調律』を止めている間に、トナミカの形勢は逆転してしまう。

「ここに飛来している敵も、きっと露払いなはず。飛行能力を持たない敵が本陣として、あの島に残っているはずです」

 イスカが島を指差したその時だ。

「──!!」

 突如、黒色の線が闇夜を切り裂いたと思うと、文字通りユズキ達がいる場所の100メートル程横の空間が音もなく削り取られた。

「これは!メーシェの『消失エリミネーション』!!」

 直線上に削り取られた空間の幅はおよそ10メートル程、しかしそこには先程まで戦っていた筈のトナミカ兵と魔族の姿はなかった。
 完全に『消失エリミネーション』によって、その存在を消去されてしまったのだ。

 あの一撃が、もし直撃していたら。
 そう考えると、背筋が凍る思いだ。

「な、なんだ今のは!?音も予兆もなかったぞ!!」

 グスタフの困惑は理解できた。
 もし、その射線上にいれば完全に対策のできない一撃。
 それが、数キロ離れたドミナントの島から放たれたのだ。
 回避がほぼ不能な攻撃に、皆が戦慄した。

 しかし、現状この場を離れることは⋯⋯

 私が逡巡していると、突如足音が響いた。

「ユズキ!!」

 振り返ると、そこには大きな翼を広げ舞い降りるリズと、街を駆け抜けてきたローガンとマルティの姿があった。

「うむ?グスタフ!」

 ローガンが、私達を護っているグスタフを見て眼を丸くした。
 マルティも一瞬だけ驚きの表情を浮かべたが、直ぐにローガンの後ろに所在なさげに隠れてしまった。

「はっ、ローガン爺さんが昔言ってたことが当たりだったぜ。でも、今だけはこの町を守るのを手伝わせてくれ」

 グスタフの言葉にローガンは、ピクリと髭を動かした。
 しかし、次には優しい眼差しを向けると、穏やかに口を開いた。

「ふむ、やはりグスタフには人を護る姿が似合ってますよ」

 その言葉を聞いたグスタフは、少し恥ずかしそうに頬をかいた。

「今の一撃は──メーシェの『消失エリミネーション』よね」

 リズの言葉に私は頷いた。
 リズは私の同意を確認すると、一気に近づくと宣言した。

「今すぐ、私達であの島。『ルドミナス』に跳ぶわよ、次の『消失エリミネーション』で、ユズキかセラが消えたら⋯⋯世界が滅ぶわよ」

 真剣な眼差しのリズの言葉には、有無を言わせない響きがあった。
 その言葉に、セラ様が調律を続ける手をピタリと止めてしまう。

 無差別な攻撃、あの一撃が次に私とセラ様に命中したら?
 それこそ、メナフと女神アマラの思う壺なはずだ。

「あの攻撃、きっと連発はできないわ。その前に懐に飛び込んで──メーシェとお父様⋯⋯メナフを止めるしかないわ」

 リズの苦渋の決断の顔には悲壮感が漂っていた。
 そう、それはこのトナミカにかけている強化を解くことと同義であった。
 あの島に乗り込むとすれば、『譲渡』の力を残しておくことはできない。何しろ、少しの隙で私やセラ様が倒される可能性も多分にあるのだ。

「リズ⋯⋯」

 私の言葉に、ポンと肩を叩く人物がいた。

「──ローガン?」

 女性の身体では見上げる背丈のローガンが、優しく私の肩に手を置いていた。

「ユズキ殿、ここは私達。『希望の剣』に任せて下さい、大局を見誤ってはいけません。私達は、私達の。貴方には、貴方にしかできないことを成して下さい」

「──!!」

 ローガンの言葉に、隣に立つマルティが眼を見開いた。

「ジェイクも⋯⋯この街を助けるために戦っている。爺さんを追い出した俺達が言うのは筋が通っていないが、もう一度、俺達を導いてくれないか?」

 振り絞る様なグスタフの言葉に、一瞬だけローガンは眼を潤ませると、静かに瞳を閉じた。
 瞳を開いたローガンは、優しい視線をグスタフとマルティに向ける。

「いえ、今の貴方達には私が導く必要はありません。何故なら、成すべきことが分かっているのですから。そのためには、この老骨、最後までパーティーの為に使いましょう」

 ローガンはそう言うと、私に向き直る。

「すみません、私はここで皆さんをお待ちしています。ですから、ユズキ殿。私にかけてくれていた『レベル譲渡』、こちらもお返しします」

 そう言うと、ローガンは胸に手を当てると白い光を導き出し、私へと光を還した。

 膨大な譲渡により、ほぼ枯渇していたレベルが私の中へと戻ってくる。
 その光景を見ていた、トナミカの兵達が一斉に頷くと胸に手を当てた後、『譲渡』していたレベルや能力を開放し始めた。

 光は、まるで流星の様に駆けると一斉に私の身体を満たしていく。私は、自分の中に力が戻ってくるのを感じていた。

「ユズキ、跳ぶわよ!」

 リズが手を差し出す。
 私はその手を掴むと、一気に転移魔法陣を描き出した。
 跳ぶべき場所はリズが導いてくれる。

 イスカ、フーシェ、セラ様、そしてリズ。最後に私の5人が転移の光に包まれる。
 次の瞬間、私達の身体は軽い浮遊感を残し、ルドミナスへと転移した。


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