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1章・戦火繚乱編
40、この仕事が終わったら俺、結婚するんだ
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西伐将軍に任命されたハルアーダは同じく西伐将軍に任命されたエルグスティアと、一部の諸将を集め、地図を広げて話し合っていた。
まず、どちらがより上位者となるかという話だ。
船頭多くして船山に登るように、古来より指揮者が多いと集団は上手く立ち行かないものである。
それで、エルグスティアには帝都で総指揮官と帝都の防衛を兼任してもらい、ハルアーダ自身は前線指揮官として兵を率いる事にした。
「良いのか? 皇帝騎士として陛下のお傍に居るべきでは?」
エルグスティアは青髭を撫でながらハルアーダを見る。
ハルアーダは心配無用だと顔を左右に振った。
エルグスティアが帝都を睨んでくれれば反乱や革命などの心配はあるまい。
それに、口には出さないが、いざとなればカーンがハルアーダに帝都の情報を持って来てくれる事となっていた。
なので、カセイ国が攻めてきても問題無くハルアーダは出軍できるのだ。
ハルアーダが前線指揮を執ると言うのでエルグスティアが総指揮官となった。
それでエルグスティアがハルアーダの上位者に決まったとして、具体的な作戦はあるのかとエルグスティアが聞く。
「ひとまず――」ハルアーダは地図を指さす。
そこはかつてオルモードとカルシオスが陣を構えた関所地帯ラクペウスだ。
「ラクペウスの砦や関所を利用して戦うしかないな」
戦力がカセイ国より圧倒的に劣る帝国である。
砦や関所、狭隘や山岳を利用して戦力差を覆すつもりである。
しかし、エルグスティアは、そのような防戦ではいずれ物量の差に負けるので攻勢に出る機会を作らなければいけないと指摘した。
ハルアーダは腕を組み、唸る。
反撃に転ずる方法は思いつかないのだ。
「トルノットの時みたいに君一人でどうにか出来ないかね?」
エルグスティアがそのように聞くのだが、「あまり期待するな」とハルアーダは苦笑する。
そもそも、ハルアーダはエルフより授かったと言われる破魔の鎧と槍と剣が特別、トルノットの珍妙不可思議な術に効いただけの話。
ハルアーダ自身は別段、人から大きく逸れた力を持つわけでは無かった。
ではどうするか?
エルグスティアも呻いた。
良い手なんて何一つ無い。
人員の不足が根本的問題で、質の良い騎士団は揃っているが、その将や騎士を支える兵士が圧倒的に足りないのだ。
戦争とは究極の合理的世界であるからして、そこには不要なものなど一つもなく、雑兵雑兵と馬鹿には出来ないものである。
つまり、『お手上げ』という事だ。
ひとまずは兵を募ろうか? とエルグスティアが提案すれば、いや悠長な事は出来ないとハルアーダは徴兵を行うべきだとした。
つまり、強制的に兵役を化すのだ。
古の時代は普通の事であったが、アーランドラが帝国となってからは撤廃されて久しい事である。
ただでさえ生活苦の民草から反発があるだろう事は想像に難くない。
しかしながら、エルグスティアも徴兵に賛成せざる得ない。
今は少しでも戦力の補強が必要であった。
それでティタラへと徴兵を具申する手紙をしたためると会議は終わる。
ハルアーダが手紙をエルグスティアに託すので、エルグスティアは眉をひそめた。
皇帝騎士として皇帝の護衛をするのだから、ハルアーダの方が手紙を渡しやすいのでは無いかと思う。
しかし、ハルアーダは首を左右に振った。
少し、事情があって皇帝の護衛につくのは後になると伝える。
「なんだかお前はあまり皇帝陛下の護衛についてないような気がするな」
「ああ、俺もそう思う」
ティタラは口やかましいハルアーダを不愉快に思っていて、ハルアーダもハルアーダでティタラを守る為にやるべき事が沢山あった。
これからハルアーダはカーンに会うつもりだ。
ハルアーダが裏で暗躍する手足のカーンに会って、情報を収集するのである。
とにかくハルアーダは情報を欲した。
ティタラを皇帝として復権させる為に、この世の全ての動きを知らねば気が済まない程である。
さて、彼のこの行動は市中でも噂になっていて、「皇帝騎士はあまり陛下の護衛についていないらしい」と人伝に言われていた。
とは言っても噂は噂。
そんな噂はすぐに徴兵制が復活するらしいぞという噂に掻き消された。
噂が市中に広まるが速いか、あるいは通達が先だったのかは定かでは無いが徴兵制が復帰する。
人民の多くの働き手が強制的な兵役を課されて、街には女子供ばかりになった。
すると、強盗はやって来るし、帝都に訪れた旅人なんかでは品性下劣な人も居て、残された家人に酷い仕打ちをする者もいた。
もちろん、ティタラは帝都守護職の騎士に兵を預けて治安維持に努めさせる。
何人もの悪党を捕まえたが、男手の不足は補えるものではない。
衛兵の目を掻い潜っては犯罪が横行した。
そうなると民草は、これほどの苦痛は皇帝のせいだとティタラを恨んだ。
その憎悪の裏には、カセイ国の密偵よる流言飛語もあった。
旅人に扮したカセイ国の密偵は帝都の酒場や、井戸端の会議に混じってはティタラがいかにこの生活の困窮の原因なのかを煽り立てたり、山賊や盗賊に金を掴ませては積極的に悪事を遂行させたのである。
その密偵の男をリットと言い、彼は帝都のとある廃屋の地下に身を潜めていた。
元々は商人の家であったが、帝都が混乱の折に家財を持って家族が逃げた家である。
空気の淀んだ地下室で蝋燭を一本だけ光らせて、リットはカセイ国からの密書を読んでいた。
要約すれば、来月五月を目処に進軍するので、帝都に混乱を起こして欲しいという内容だ。
リットは密書を熟読して内容を頭に叩き込むと蝋燭の火にくべて燃やした。
マントのフードを目深に被り、乞食に成りすますと廃墟となりかけている都(みやこ)へと繰り出すのである。
やがて時は過ぎ五月。
日照りは暑く、稲穂が緑の壁を作る季節。
比較的寒冷なアーランドラでは風が吹くと汗を冷やして心地良い。
そんな季節に四人組の男女が帝都にやってきた。
モンタアナを逃げていたゴズ達四人だ。
彼らはモンタアナで幾度も強盗を繰り返しては糊口を凌ぎ、幾度も衛兵に追われた。
毎日毎日逃げに逃げて、ついに帝都へとやって来たのである。
「ふぅー」
ゴズは帝都の寂れた酒場で乱暴にコップを置くと、アルコールを吐き出すかのように息を深く吐いた。
「酷い所ね」
女は周囲を見渡す。
金をろくに持ってないだろう人達が酒を飲みながらうなだれていた。
幸いにも兵役を免れた人達だ。
いや、幸いという言葉は撤回しよう。
彼らの友人や家族、隣人は徴兵され、そして彼ら自身もいつ徴兵されるか分からない。
おまけに客なんかも徴兵されてしまったから商売も立ち行かないのだ。
そういった苦しさから逃れる為に酒を煽っている。
中には、家族を犯罪者に襲われた者も居たかも知れない。
なんにせよ、何がしかの苦痛と悲哀を持った人達が酒に逃げていた。
「レイナ。ここは誰もが貧乏だし、衛兵はそこらを見回ってるぜ。強盗するにゃ割に合わん」
ゴズはテーブルに身を乗り出して、女へとヒソヒソ話す。
レイナと言われた女は槍を抱えたまま腕を組み、眉に皺を寄せたままフンと鼻で息を吐く。
「情けない事を言わないでよ。だったら南か西か、とにかく豊かな方へ行きましょ」
レイナの言葉を聞いても、ゴズと二人の団員はゲンナリした顔をしたままだ。
彼らは強盗をしては衛兵に追われる暮らしに疲れ切っていた。
このまま西方のカセイ国や南方のルルム地方へ向かった所で、その暮らしに変わりは無いだろう。
ゴズはレイナに、もう強盗なんて辞めようじゃないかと提案した。
二人でどこか静かな所で暮らしたい。
しかし、レイナは、そんな金なんて無いだろうと指摘した。
確かにその通りである。
だけど、どこかでコツコツと金を貯めようじゃないか。
ゴズはそう思ったし、団員二人も頷いた。
もう二度と悪さなんてしない。
真面目に暮らして行く幸福というものを良く分かった。
だけど、レイナはコロコロと笑う。
「真面目に働く? それよりも強盗してた方が楽に生きていけるわよ」
彼女は真面目に暮らして行くつもりなど毛頭無かった。
ゴズはこのレイナという女性と一ヶ月暮らして分かったが、どうにもレイナは社会良識というものが欠如していた。
というのも、彼女の祖父はさる高名な騎士であったが、その祖父は山に篭って腕前を磨いていたらしい。
レイナはその祖父に連れられて、最近まで野山で暮らしていたそうだ。
そういうわけで著しく社交性を失っていた。
そんなレイナの様子を酒場のカウンターから見ていたのがリットである。
彼は読唇術が使えた。
レイナという女がそれなりに腕の立つ武人で、しかも社会良識に欠けていると分かる。
リットは椅子を引いて立ち上がると、彼らのテーブルの隣へと立った。
フードを目深に被った怪しい男にゴズが目線を鋭く向ける。
なんだと聞くと、リットはニヤリと笑って、良い報酬の仕事があるのだがやらないか? と言った。
「良い報酬?」
「そうさ。あんたら、見た所じゃ腕が立ちそうだからよ、お願いしたい」
ゴズや二人が警戒しながらジロジロと見ていると、レイナが笑って「良いじゃないか。聞くだけ聞いてやるよ」と言った。
これにリットは話が早いと椅子を一脚持ってきて同席すると、声を潜めて彼女達に依頼したい事を話した。
それは、つまり、皇帝の暗殺だ。
皇帝騎士ハルアーダは最近、皇帝の護衛についていない事が多く、また、カセイ国の侵攻に合わせて暗殺を計画すれば必ずや成功するだろうと説明した。
成功すれば多額の報酬を出すぞとリットは言う。
四人はどうするかと顔を見合わせた。
それでレイナ以外の三人はこの暮らしに疲れ果てていたから、一つその口車に乗って、報酬から店でも経営しようじゃないかと話す。
皇帝暗殺だなんて普通は快諾する訳ない。
普通なら躊躇の一つくらいあるものだが、彼らは救われたかったから快諾したのだ。
とにかく疲れ果てて困窮していた彼らは、今すぐに今の状況から脱却出来る方法に縋り付いて安心したかった。
レイナは別に放浪暮らしでも良かったけど、生き方にこだわりは無かったから、三人に従う事とした。
するとゴズはニヤニヤと笑って、「そしたらレイナ! この仕事が終わったら結婚してくれよ」と言うのであった。
まず、どちらがより上位者となるかという話だ。
船頭多くして船山に登るように、古来より指揮者が多いと集団は上手く立ち行かないものである。
それで、エルグスティアには帝都で総指揮官と帝都の防衛を兼任してもらい、ハルアーダ自身は前線指揮官として兵を率いる事にした。
「良いのか? 皇帝騎士として陛下のお傍に居るべきでは?」
エルグスティアは青髭を撫でながらハルアーダを見る。
ハルアーダは心配無用だと顔を左右に振った。
エルグスティアが帝都を睨んでくれれば反乱や革命などの心配はあるまい。
それに、口には出さないが、いざとなればカーンがハルアーダに帝都の情報を持って来てくれる事となっていた。
なので、カセイ国が攻めてきても問題無くハルアーダは出軍できるのだ。
ハルアーダが前線指揮を執ると言うのでエルグスティアが総指揮官となった。
それでエルグスティアがハルアーダの上位者に決まったとして、具体的な作戦はあるのかとエルグスティアが聞く。
「ひとまず――」ハルアーダは地図を指さす。
そこはかつてオルモードとカルシオスが陣を構えた関所地帯ラクペウスだ。
「ラクペウスの砦や関所を利用して戦うしかないな」
戦力がカセイ国より圧倒的に劣る帝国である。
砦や関所、狭隘や山岳を利用して戦力差を覆すつもりである。
しかし、エルグスティアは、そのような防戦ではいずれ物量の差に負けるので攻勢に出る機会を作らなければいけないと指摘した。
ハルアーダは腕を組み、唸る。
反撃に転ずる方法は思いつかないのだ。
「トルノットの時みたいに君一人でどうにか出来ないかね?」
エルグスティアがそのように聞くのだが、「あまり期待するな」とハルアーダは苦笑する。
そもそも、ハルアーダはエルフより授かったと言われる破魔の鎧と槍と剣が特別、トルノットの珍妙不可思議な術に効いただけの話。
ハルアーダ自身は別段、人から大きく逸れた力を持つわけでは無かった。
ではどうするか?
エルグスティアも呻いた。
良い手なんて何一つ無い。
人員の不足が根本的問題で、質の良い騎士団は揃っているが、その将や騎士を支える兵士が圧倒的に足りないのだ。
戦争とは究極の合理的世界であるからして、そこには不要なものなど一つもなく、雑兵雑兵と馬鹿には出来ないものである。
つまり、『お手上げ』という事だ。
ひとまずは兵を募ろうか? とエルグスティアが提案すれば、いや悠長な事は出来ないとハルアーダは徴兵を行うべきだとした。
つまり、強制的に兵役を化すのだ。
古の時代は普通の事であったが、アーランドラが帝国となってからは撤廃されて久しい事である。
ただでさえ生活苦の民草から反発があるだろう事は想像に難くない。
しかしながら、エルグスティアも徴兵に賛成せざる得ない。
今は少しでも戦力の補強が必要であった。
それでティタラへと徴兵を具申する手紙をしたためると会議は終わる。
ハルアーダが手紙をエルグスティアに託すので、エルグスティアは眉をひそめた。
皇帝騎士として皇帝の護衛をするのだから、ハルアーダの方が手紙を渡しやすいのでは無いかと思う。
しかし、ハルアーダは首を左右に振った。
少し、事情があって皇帝の護衛につくのは後になると伝える。
「なんだかお前はあまり皇帝陛下の護衛についてないような気がするな」
「ああ、俺もそう思う」
ティタラは口やかましいハルアーダを不愉快に思っていて、ハルアーダもハルアーダでティタラを守る為にやるべき事が沢山あった。
これからハルアーダはカーンに会うつもりだ。
ハルアーダが裏で暗躍する手足のカーンに会って、情報を収集するのである。
とにかくハルアーダは情報を欲した。
ティタラを皇帝として復権させる為に、この世の全ての動きを知らねば気が済まない程である。
さて、彼のこの行動は市中でも噂になっていて、「皇帝騎士はあまり陛下の護衛についていないらしい」と人伝に言われていた。
とは言っても噂は噂。
そんな噂はすぐに徴兵制が復活するらしいぞという噂に掻き消された。
噂が市中に広まるが速いか、あるいは通達が先だったのかは定かでは無いが徴兵制が復帰する。
人民の多くの働き手が強制的な兵役を課されて、街には女子供ばかりになった。
すると、強盗はやって来るし、帝都に訪れた旅人なんかでは品性下劣な人も居て、残された家人に酷い仕打ちをする者もいた。
もちろん、ティタラは帝都守護職の騎士に兵を預けて治安維持に努めさせる。
何人もの悪党を捕まえたが、男手の不足は補えるものではない。
衛兵の目を掻い潜っては犯罪が横行した。
そうなると民草は、これほどの苦痛は皇帝のせいだとティタラを恨んだ。
その憎悪の裏には、カセイ国の密偵よる流言飛語もあった。
旅人に扮したカセイ国の密偵は帝都の酒場や、井戸端の会議に混じってはティタラがいかにこの生活の困窮の原因なのかを煽り立てたり、山賊や盗賊に金を掴ませては積極的に悪事を遂行させたのである。
その密偵の男をリットと言い、彼は帝都のとある廃屋の地下に身を潜めていた。
元々は商人の家であったが、帝都が混乱の折に家財を持って家族が逃げた家である。
空気の淀んだ地下室で蝋燭を一本だけ光らせて、リットはカセイ国からの密書を読んでいた。
要約すれば、来月五月を目処に進軍するので、帝都に混乱を起こして欲しいという内容だ。
リットは密書を熟読して内容を頭に叩き込むと蝋燭の火にくべて燃やした。
マントのフードを目深に被り、乞食に成りすますと廃墟となりかけている都(みやこ)へと繰り出すのである。
やがて時は過ぎ五月。
日照りは暑く、稲穂が緑の壁を作る季節。
比較的寒冷なアーランドラでは風が吹くと汗を冷やして心地良い。
そんな季節に四人組の男女が帝都にやってきた。
モンタアナを逃げていたゴズ達四人だ。
彼らはモンタアナで幾度も強盗を繰り返しては糊口を凌ぎ、幾度も衛兵に追われた。
毎日毎日逃げに逃げて、ついに帝都へとやって来たのである。
「ふぅー」
ゴズは帝都の寂れた酒場で乱暴にコップを置くと、アルコールを吐き出すかのように息を深く吐いた。
「酷い所ね」
女は周囲を見渡す。
金をろくに持ってないだろう人達が酒を飲みながらうなだれていた。
幸いにも兵役を免れた人達だ。
いや、幸いという言葉は撤回しよう。
彼らの友人や家族、隣人は徴兵され、そして彼ら自身もいつ徴兵されるか分からない。
おまけに客なんかも徴兵されてしまったから商売も立ち行かないのだ。
そういった苦しさから逃れる為に酒を煽っている。
中には、家族を犯罪者に襲われた者も居たかも知れない。
なんにせよ、何がしかの苦痛と悲哀を持った人達が酒に逃げていた。
「レイナ。ここは誰もが貧乏だし、衛兵はそこらを見回ってるぜ。強盗するにゃ割に合わん」
ゴズはテーブルに身を乗り出して、女へとヒソヒソ話す。
レイナと言われた女は槍を抱えたまま腕を組み、眉に皺を寄せたままフンと鼻で息を吐く。
「情けない事を言わないでよ。だったら南か西か、とにかく豊かな方へ行きましょ」
レイナの言葉を聞いても、ゴズと二人の団員はゲンナリした顔をしたままだ。
彼らは強盗をしては衛兵に追われる暮らしに疲れ切っていた。
このまま西方のカセイ国や南方のルルム地方へ向かった所で、その暮らしに変わりは無いだろう。
ゴズはレイナに、もう強盗なんて辞めようじゃないかと提案した。
二人でどこか静かな所で暮らしたい。
しかし、レイナは、そんな金なんて無いだろうと指摘した。
確かにその通りである。
だけど、どこかでコツコツと金を貯めようじゃないか。
ゴズはそう思ったし、団員二人も頷いた。
もう二度と悪さなんてしない。
真面目に暮らして行く幸福というものを良く分かった。
だけど、レイナはコロコロと笑う。
「真面目に働く? それよりも強盗してた方が楽に生きていけるわよ」
彼女は真面目に暮らして行くつもりなど毛頭無かった。
ゴズはこのレイナという女性と一ヶ月暮らして分かったが、どうにもレイナは社会良識というものが欠如していた。
というのも、彼女の祖父はさる高名な騎士であったが、その祖父は山に篭って腕前を磨いていたらしい。
レイナはその祖父に連れられて、最近まで野山で暮らしていたそうだ。
そういうわけで著しく社交性を失っていた。
そんなレイナの様子を酒場のカウンターから見ていたのがリットである。
彼は読唇術が使えた。
レイナという女がそれなりに腕の立つ武人で、しかも社会良識に欠けていると分かる。
リットは椅子を引いて立ち上がると、彼らのテーブルの隣へと立った。
フードを目深に被った怪しい男にゴズが目線を鋭く向ける。
なんだと聞くと、リットはニヤリと笑って、良い報酬の仕事があるのだがやらないか? と言った。
「良い報酬?」
「そうさ。あんたら、見た所じゃ腕が立ちそうだからよ、お願いしたい」
ゴズや二人が警戒しながらジロジロと見ていると、レイナが笑って「良いじゃないか。聞くだけ聞いてやるよ」と言った。
これにリットは話が早いと椅子を一脚持ってきて同席すると、声を潜めて彼女達に依頼したい事を話した。
それは、つまり、皇帝の暗殺だ。
皇帝騎士ハルアーダは最近、皇帝の護衛についていない事が多く、また、カセイ国の侵攻に合わせて暗殺を計画すれば必ずや成功するだろうと説明した。
成功すれば多額の報酬を出すぞとリットは言う。
四人はどうするかと顔を見合わせた。
それでレイナ以外の三人はこの暮らしに疲れ果てていたから、一つその口車に乗って、報酬から店でも経営しようじゃないかと話す。
皇帝暗殺だなんて普通は快諾する訳ない。
普通なら躊躇の一つくらいあるものだが、彼らは救われたかったから快諾したのだ。
とにかく疲れ果てて困窮していた彼らは、今すぐに今の状況から脱却出来る方法に縋り付いて安心したかった。
レイナは別に放浪暮らしでも良かったけど、生き方にこだわりは無かったから、三人に従う事とした。
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