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第1章 星環ノ試練篇
第7話 星環ノ断魔閃
しおりを挟むアストラリアへ入学してから初めて迎える召還実技演習。Eクラスの生徒達は、実技演習棟にて初の実技授業に臨んでいた。
その最中、突如として起きた魔力の暴走。
シオン・バレッタが展開していた召魂式印。その構築中に自らの魔力を制御し切れず、膨れ上がった魔力が暴走を引き起こす。幾重にも重なった魔術陣が地面を這うように広がり、彼の周囲には竜巻のような風が唸りを上げて渦巻いていた。
「くっ、仕方ない!」
召還実技を担当する教師が、暴走する魔力を前に判断を下す。虚空へ素早く魔術陣を描き、制止の術を発動させようとする。
「レイン・クロフォード! 離れておけ!」
教師の叫びに応じて、レインはシオンから距離を取った。
教師はシオンの周囲に次々と魔術陣を展開していく。魔力を吸収し抑えるための封印術式。しかし、シオンの暴風がそれらをなぎ払い、ますますその力を膨れ上がらせていく。
「なにィ!?」
想定外の暴走に、教師は自らの術が破壊されたことに動揺を隠せないようだった。
周囲の生徒たちもざわつき始め、狼狽する声があちこちから上がる。
「……まずいな」
レインは冷静にシオンを見つめる。魔力を持たない彼には、暴走を止める術はない。
このまま教師がなんとかしてくれるのを待つしかない。そう思っていた、矢先。
「きゃあぁ!」
一人の生徒が悲鳴を上げた。
暴風は封印術式を破壊したあと、辺り一帯へと広がっていた。そしてそれは、まるで意思を持ったかのように、列をなして待機していた生徒達を襲い始めたのだ。
「……っ!」
一瞬だった。
レインはどこからともなく剣を取り出し、暴風に斬り込む。生徒達は無事だったが、暴走が止んだわけではない。むしろ斬りつけたことで風は二手に分かれ、今度はその鋭さを増して、レインに向かって襲いかかってきた。
「……っ! レイン!」
セフィルス・ルクレティアは声を上げる。
襲い掛かる暴風を前に、ただ隙を窺うようにして立ち止まるレイン。刀身を低く構え、一瞬すらも見逃さない。
「悪く思うなよ。シオン」
レインは小さくそう呟く。
そして、今にも襲われそうになった瞬間に、動いた。
「――『星穿』」
瞬間、剣閃が夜空を貫く流星のように閃いた。気付けばレインはシオンの背後に立っていた。
そのひとつひとつの動作には無駄がなく、一気に斬りかかる。
シオンの魔力を断ち切る一閃。レインが剣を納める頃には、シオンの目の前に立っていた。その動きは誰の目にも追うことは出来ず、生徒達はおろか、横で見ていた教師すら何が起きたか分からなかった。
だが、いつの間にか魔術陣は消えていて、シオンはその場で崩れ落ちる。その寸前、レインは無言で一歩踏み出し、肩で支えた。
「お前が悪いんじゃない」
ぽつりと呟いた声は、シオンには届かず、ただ虚空に消えていった。
そして、しばらく沈黙が続き、レインがハッとクラスの生徒達を見上げると、盛大な拍手が包み込んだ。
「す、すげぇ。なんだ今の!?」
「あれ剣術じゃない? 初めて見たわ!」
演習場内に響き渡る声の数々に、レインは少し恥ずかしくなった。
「レイン・クロフォード……」
その歓声の中、教師がふらりと歩いてきてレインの名を呼ぶ。
「お前のその動き……ただの剣術じゃないな? いや、今はいい。シオン・バレッタを医務室に運ぶ」
そう言うと、レインの肩で眠るシオンを抱き抱え、教師はその場を後にする。そのタイミングで一限目の終わりのチャイムが鳴り、召還実技演習の授業は終了を告げた。
「なあなあ! 今のなんだあれ?」
「あれが剣術なの!? もっと他に技とかあるの?」
レインは教室へ戻ろうとしたのだが、残っていた生徒達がレインの前に立ち塞がり、質問攻めを受ける。
「あ、あはは……そんないいものでもないよ……」
レインは多少の戸惑いを見せながらも、そう答える。
しかし質問ばかりされて困り果て、次第には逃げ出すように実技演習棟を出て行った。悪い気はしないが、どうにも慣れないあの感覚にレインは頭を悩ませた。
ようやく人だかりから抜け出したレインの隣に、そっとルクが並ぶ。
「お見事でした。レイン」
彼女は微笑みながらレインに言葉をかけた。
「あぁ、ありがとう」
その言葉を素直に受け取り、ひとつため息をついた。あまり目立ちたくはなかったが、あんな事があったのだから仕方がないと自分に言い聞かせる。
「どうしたのですか?」
その様子を見て、すかさずルクが顔を覗き込んできた。
「いや……ルクならもっと穏便に済ませたのかなと思ってさ」
レインは思ったことを口にする。
するとルクは真面目な顔つきになり、レインをまっすぐ見据えた。
「あれを止められたのは、レインだからこそです。……私には、あの暴走を止める術はありません」
そして、言い放った。その目には嘘をついているようには見えない。けれど本当は、どうにでもできたんじゃないか。そんな思いが、レインの中に渦巻いていた。
先程の剣術、『星穿』は魔力そのものを断ち切る剣技。暴走を食い止められたのはそれのおかげでもあるが、シオンの魔力は分断されてしまう技でもあった。
それを使ったということは、彼の可能性すらも断ち切ってしまったのではないかと、レインは心の中で後悔していた。
「……次の授業が始まります。教室に戻りましょう」
その事を分かっていたルクも、それ以上は言わなかった。
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