【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

文字の大きさ
75 / 274

75 戦場の店内と、道具店サルビアが陰でやっていた支援。

しおりを挟む
――カイルside――

前日、布団を作っているところに業務提携を頼むと、即了承を貰えた。
『英雄を陰から守った守護の店』との業務提携は思いの外ありがたいらしい。
更に洋服店にも『ひんやり糸』を持って服を作って欲しいと頼むと、泣きながら喜ばれた。
此方も『英雄を陰から守った守護の店』との業務提携のお陰で店の売り上げがドンドン上がっているのだそうだ。

そして夜、出来上がったポスターを持って業務提携している店以外の店にもポスターを貼って貰えないかと聞いたところ『ご利益のあるポスター』として貼りだされることが決まった。

――此れで、全ては整ったと言えるだろう。
朝、箱庭で一日の業務連絡をしたのち、俺は皆に宣言した。


「良いか皆、今日は忙しくなるぞ、いつも以上に!!」
「何時も忙しいのに、それ以上に忙しくなるのかい?」
「そりゃそうだよ、リディアの作った新商品の発売日は決まって地獄さ」

ロキシーの言葉に朝の露のメンバーと雪の園のメンバーが震えあがった。
ロキシーの死んだ魚のような目が全てを物語っていたのだろう……。


「どれだけ早くお客様を捌けるかが勝負になる。袋に商品を詰める時は手洗いの小さめのポスターと洗い方を書いた紙を忘れず入れてくれ」
「そこまで徹底するのかい?」
「徹底しますわ。手洗いこそが基本でしてよ」
「そ、そうか」
「皆さま、頑張ってきてくださいませ!」


リディアの応援は何にも勝る!!
そう思っている俺とは反対に、どれだけ忙しくなるのか見当がつかないメンバー達は困惑気味だったが、店の開店と同時に『新商品』として並ぶ石鹸や泡石鹸、そしてリンスインシャンプーにボディーソープを見つけたお客様達は、猛獣のように新商品へと押しかける。


「店主! この石鹸や泡石鹸は同じ内容なのか!?」
「はい! どちらもお好きな方を。家で使い勝手が良いのは泡石鹸ですが、外で使い勝手が良いのは石鹸だと思います」
「手から病気になるなんて思いもよらなかったな」
「うちの子小さいから病気は気にしてたのよ。石鹸で手を洗う事を習慣付ければいいのね」
「あら、この石鹸いい香りがするわ!」
「髭剃りにも良いかもしれないな……」
「髭剃りの時間が短縮できるなら俺は泡石鹸だな!」


と、ポスターを見たお客様はどんどん押し寄せてくる。
急ぎリディアに追加をお願いすると、既に作ってくれていた様だが、ドンドン商品が消えていく。


「アタシたちみたいな女性は髪が長いから、お貴族様が使うようなリンスの入ったシャンプーに憧れてたんだよ~!」
「香りも良さそうだね」
「このボディーソープってのは、体の汚れを綺麗にとってくれるのかい?」
「うちの旦那は汗臭いから丁度いいわ!」


と、シャンプーにボディーソープも売れる売れる。
ドンドン売れて三回ほど補充したがまだ売れる。
石鹸は既に5回目の補充だ。
嬉しい悲鳴だが、朝の露のメンバーと雪の園のメンバーは目を回している状態だった。


「カイル! 私は5分休憩してくるよ!」
「はい!」
「レイスが休憩終わったら俺も5分休憩してくる……」
「了解しました!」
「わたしたちはまだやれる!」
「お客様を待たせることは許されない」
「ナナノさんにハスノさん頼もしい!!」
「補充です!」
「こちらは泡石鹸です!」
「ハーレスさんジュノさん有難うございます!」
「カイル! アタシはちょっとネイルサロンのヘルプに行ってくるよ!」
「いってらっしゃいませ!」


と、この様にリディアの新商品がでた日は数日忙しい日々が続くのだ。
新商品売り場を広げてもきりがない程に。
しかも、他のアイテムもついでに売れる。


「石鹸で手を洗った後、指先を保護するのにハンドクリームは欲しいねぇ」
「ハンドクリームは二階に売ってあったね。支払いが終わったら二階に行くよ!」
「店長! 『ひんやり肌着』の在庫はまだあるかい?」
「どいたどいた! 店長護符とポーション!! あと石鹸二種類な!」
「畏まりました!!」


レジを三つに増やして何とか対応するが、その戦いは閉店近くまで続き、終わる頃にはナナノとハスノは口から魂が出そうになっており、閉店すると雪の園と朝の露メンバーが床に倒れ込んでいた……。


「おやおや、近年のSランク冒険者はだらしがないねぇ」
「うう……ロキシー姉さん強すぎる」
「あの客の多さを舐めてた……」
「目が回るってこういう事なんだな……」
「は……早く箱庭に戻りたいっ」
「箱庭で秘蔵の紅茶……」
「箱庭の温泉……頑張ろうっ」


早くも箱庭の魅力に取りつかれたメンバー達はノソノソと立ち上がり店の閉店後の補充や掃除を始めてくれた。
それでも全員でやれば早く終わるもので、本日の売り上げは何時も以上に多かった。
最近はリディアと相談して、月に纏めて幾らか孤児院に寄付している。
また、孤児院にはポスターが貼っており『子供と一緒に逃げたい女性は是非このポスターをシスターに!』と言う暗号めいたやり取りをしており、二組の子連れの女性が箱庭に避難及び安全な生活を送っている。
無論、仕事はして貰ってはいるが、逃げられる場所くらいは用意できるだけの財力と箱庭の広さが出来たのも大きい。


「今月も纏まった額を孤児院に寄付できそうだ」
「店長たちは偉いねぇ……。そんな活動までしてるのかい?」
「子は宝ですから」
「ダンノージュ侯爵領は、カイルの時代でもっと住みやすい場所になりそうだねぇ」
「そう言って下さると嬉しいです」


心から笑顔でそう答えると、ナナノとハスノが「店長の笑顔が純粋過ぎて涙がでる」と口にしていた。
売り上げ用と言うより、最早お金専用のアイテムボックスに売り上げを布にくるんで日にちを書いた紐で縛り仕舞いこむと、やっと店の仕事は終わりだ。
皆で箱庭に戻り、今日の報告をすると、リディアは嬉しそうに「やはり手からですわよね!」と意気揚々と語った。


「ネイルサロンが指先だけではなく、手を綺麗にするってので、ネイルサロン・サルビアの方はとんでもない状況だったよ。客は長蛇の列だったし、貴族相手の今回の新商品は凄い売り上げだった。外は貴族の馬車が凄い並んでよ」
「それは、一度は見てみたい光景ですわね……」
「俺は絶対に遠慮したいね……。貴族がそれだけ押し寄せる店って恐怖だよ」
「イルノは貴族嫌いだねぇ。てか、アンタ達のメンバーは貴族嫌いが多いねぇ」
「良い貴族も中にはいるけれどね」
「やっぱり疲れます」
「少なくとも、この忙しさは5日は続くと思って下さいね」


俺がそう告げると、メンバーの顔に死相が出来たが、笑顔で「頑張ってください!」と応援すると「商売人の強さは計り知れねぇ」とイルノさんが呟いていた。


「しかし凄いね、冒険者で働いているのが馬鹿らしくなる売り上げだよ毎日が」
「それは言えてる。報酬が金貨10枚とかが普通なのに」
「道具店サルビアは一日の売り上げがそんな感じだろう?」
「ええ、そうですね」
「金銭感覚狂わないか?」
「狂いはしません。必要経費があれば遠慮せず出しますが、そうだ、必要経費で思い出した。リディア」
「はい?」
「新店舗の前にある小さな店を買おうと思うんだ。良いかな?」
「ええ、構いませんわよ」
「でも、何の店にしますの?」
「ああ、調理師のスキルを持った人たちが結構いるだろう? だからシフトを決めて、彼女たちの店を用意しようと思うんだ。調理師の皆を今度集めて、どんな店にしたいか話しを聞いててもらえるか?」
「ええ、忙しさが落ち着いたら聞きますわ」


そう、保護した女性達の中には調理師スキルを持った女性が多くいた。
彼女たちの姿が見えない厨房を用意して、軽食やかカフェ、その辺りを開いても良いだろう。
イルノからは「そうやって店をポンと買える時点で金銭感覚が……」と言われたが、ソレはソレ。必要経費だ。


「道具店にネイルサロンに洋服とガーゼ専門店、更に料理屋か……。サルビアはドンドン手広く、そして愛される店になりそうだね」
「そうなる事を目標に頑張ってますから。人に優しく、子供に優しくがモットーです」


そう言って笑うと、リディアが俺に抱き着いてくれた。
嬉しいサプライズで、明日も頑張ろうと思えた。幸せだ……。


「さ、俺達も明日に備えて!」
「男性陣は先に風呂だ! 疲れを癒すぞ!」
「ナナノとハスノたちはロキシー姉さんとリディア姉さんと話をする」
「お菓子のお店なら大変だから」


甘党のハスノとナナノを残し、男性陣はその後温泉でシッカリと疲れを癒し、入れ替わりに女性陣が温泉に入って眠った日から5日間。
毎日が戦争だった。
5日目は流石に倒れ込みそうだった。
戦争だったが、明日は休みだ……。


「明日はリディアとデートしながら色々話をするか」


そう思って眠ったのに――……忙しさのあまり忘れていたんだ。
思いがけない出来事ってのは突然来るんだなって思うことになろうとは、その時思いもしなかったよ……。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

俺だけLVアップするスキルガチャで、まったりダンジョン探索者生活も余裕です ~ガチャ引き楽しくてやめられねぇ~

シンギョウ ガク
ファンタジー
仕事中、寝落ちした明日見碧(あすみ あおい)は、目覚めたら暗い洞窟にいた。 目の前には蛍光ピンクのガチャマシーン(足つき)。 『初心者優遇10連ガチャ開催中』とか『SSRレアスキル確定』の誘惑に負け、金色のコインを投入してしまう。 カプセルを開けると『鑑定』、『ファイア』、『剣術向上』といったスキルが得られ、次々にステータスが向上していく。 ガチャスキルの力に魅了された俺は魔物を倒して『金色コイン』を手に入れて、ガチャ引きまくってたらいつのまにか強くなっていた。 ボスを討伐し、初めてのダンジョンの外に出た俺は、相棒のガチャと途中で助けた異世界人アスターシアとともに、異世界人ヴェルデ・アヴニールとして、生き延びるための自由気ままな異世界の旅がここからはじまった。

石しか生成出来ないと追放されましたが、それでOKです!

寿明結未
ファンタジー
夏祭り中に異世界召喚に巻き込まれた、ただの一般人の桜木ユリ。 皆がそれぞれ素晴らしいスキルを持っている中、桜木の持つスキルは【石を出す程度の力】しかなく、余りにも貧相なそれは皆に笑われて城から金だけ受け取り追い出される。 この国ではもう直ぐ戦争が始まるらしい……。 召喚された3人は戦うスキルを持っていて、桜木だけが【石を出す程度の能力】……。 確かに貧相だけれど――と思っていたが、意外と強いスキルだったようで!? 「こうなったらこの国を抜け出して平和な国で就職よ!」 気合いを入れ直した桜木は、商業ギルド相手に提案し、国を出て違う場所で新生活を送る事になるのだが、辿り着いた国にて、とある家族と出会う事となる――。 ★暫く書き溜めが結構あるので、一日三回更新していきます! 応援よろしくお願いします! ★カクヨム・小説家になろう・アルファポリスで連載中です。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

処理中です...