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190 年2回の行軍と、大口依頼を狙うリディア
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――カイルside――
王太子領のSランク冒険者、雪の園と朝の露がピリピリしているのは伝わっていた。
そして向かい合うダンノージュ侯爵領のSランク冒険者、鳥の瞳メンバーもまた、目の前にいる相手がSランク冒険者であることで互いに緊張しているようだった。
今回二つの冒険者を集めたのは、お泊り保育の際の怖くない冒険談の相談だったが、そちらは二つ返事でいい結果を貰うことが出来た。
お互いがお互いに一歩も引かない雰囲気に、やはり領が違う冒険者だとライバル心が強いのだろうというのは理解出来た。理解できたが――。
「すみません、両者少し気を緩めてください。ライトが怖がってます」
「全く情けないねぇ。そんなにライバル視しなくとも、互いがSランクってので胸張ってりゃいいのに」
「ははは、ロキシー嬢申し訳ないね。つい滾ってしまったのだよ」
「分かるわ、相手の強さを測る為に滾るよな」
「うむ」
「じゃあ滾るのはこれ位にして、少々現役冒険者の意見を聞かねばならないので、こちらに皆さん移動してください」
そう言うと、初めての箱庭と言うこともあってかナインさんは少し緊張した様子だったが、見えてきた【物】を見て目を見開くと、駆け寄り素早い勢いで全てをチェックし始めた。
その行動を笑う者はいない。
何故なら、朝の露と雪の園の面子も同じことをしたからである。
「カカカ……カイル君、これは!?」
「リディアの考えた、大型の屋外テントです。中には空気で膨らむベッドも置け、テント内でしたら小さな机一つと、椅子が2つは入ります」
「――素晴らしい」
「こちらは大人数用のテントらしいのですが、機能性としては雨風が防げて水を弾く仕様となっており、とても軽く地面に杭を打ち込んで飛ばなくしなくてはなりません」
「それだけでも画期的だとも!!」
「凄いですねナイン様!!」
「此方の道具たちは?」
「魔石で動く明りが広いランタンと、取っ手の付いた一人用の火起こし器、小型の炭を使ったキャンプストーブと火消しツボですね。どちらも軽く、冒険者が持ち歩くものとしては余り使い道は無いでしょうが、温かいご飯を食べたい時には最適だと思います」
そう、冒険者は基本的に一日ダンジョンに篭りはするが、一日一回は外に戻ってくる。
その間の食事と言えば携帯食であり、味は然程良くはない。腹を満たす為だけの食事だ。
長期遠征は国が依頼する大掛かりな討伐の場合は何日も戦う為にテントを張るが、それくらいしかテントと言うのは使い道がない。
それも、年に3回ほどの周辺の討伐の際に使われる程度だ。
「確かに年2回、だが、されど2回だ。軽く安全で使いやすいテントと言うのは、それだけで価値がある」
「ダンノージュ侯爵領だとそうなんだな、俺達王太子領だと、一人用テントの方が使い勝手が良さそうだけど」
「一人用テントだと?」
「お出ししますね」
そう言うとリディアが作ってくれていた大人用のワンタッチでテントになるものを用意し、ボタン一つでパン!と開いたテントに鳥の瞳サイドは声を上げた。
そして寝袋も取り出すと、非常に食いついてきた。
「カイル君、こちらは?」
「寝袋です。寝る際に外気温等をあまり気にせず使う事が出来て防水付与と汚れ落ちをよくするための付与がされています。軽くて暖かいです」
「これだけで年2回の戦闘が全く別物になるぞ。国が買いたがるほどの品だ」
「国ですか? 確かに防衛費が出ているとは聞いていますが」
「私からナカース王家に伝えても良いのだが、君はダンノージュ侯爵家の跡継ぎだったな……君から国に売り込む事をお勧めする」
まさか、リディアがお泊り保育の為に作ったアイテムが、国に売り込むべきアイテムだと言われるとは流石の俺も思っていなかったが、ナインさんは更に話を進めた。
「年々ナカース王国では防衛費が嵩み、少々問題になっている。その問題の一つに、テントや備品と言った物の高騰があるらしい。増えた魔物を倒すにしても国が所有する魔物討伐隊だけでは足りない為、我々冒険者も駆り出されるのだが、テントは水はけも悪く重く、汚れもつきやすい。
温かいご飯を食べようとすればそれだけで持ち物が増えて重くなり進軍が遅くなる。その為、食事も温かいものより冒険者の食べる保存食が主になるのだが、それが不味いと評判でな。
ナカース王は温かい食事を出したいそうで箱庭師を用意したが、元々進軍の為の箱庭師と言うのはいないし、食事処があるような広い箱庭もない。故に、食事の面では我慢しながらなんとか行軍するのだが」
「それって……なぁリディア。ファビーの箱庭が進軍に参加したらどうなると思う」
「凄い事になると思いますわ」
「と言うと?」
「ファビーの身の安全が保障されるのであれば、広い空間に温泉までついた三つの宿を貸し切って食事と休憩が可能ですわ。雑魚寝でしたら結構な人数が泊まれますけれど」
「100人単位で泊まれそうなのか?」
「雑魚寝なら100人は余裕ですわね」
「是非、年2回の行軍に参加して頂きたい! 冬の行軍は寒さと飢えとの戦いだ、私も多くの仲間を名誉の死として送ってきた。もしその名誉の死が無くなるというのであれば、このテントを王家に売り、ファビーと言う名の者を貸して頂ければと思う!」
まさか年2回のナカース王国の行軍にファビーを切望されるとは思ってもいなかったが、確かに俺もそれに似た王太子領の戦いで魔付きになったので、ダメとも言えない。
どうしたものかと喘いでいると――。
「次の行軍は何時頃なのかしら」
「冬の行軍はまだ3カ月も後だ。それまでに考えてはくれないだろうか」
「そうですわね……。ファビーに関しては彼女の意見が必要ですわ。ですが、テントに関してはアラーシュ様経由でお話をさせて頂こうと思います」
「助かる!」
「でもわたくしが知りたいのは、その行軍に参加する冒険者達のテント問題ですわ。大きなものは難しいにしろ、行軍時期にはテントは売れるのでしょう?」
「売れるな。私も毎年買い替えている」
「では、行軍時期に合わせて一人用テントを売りに出しましょう。簡易テントに寝袋、魔石ランタンのセットで、お幾らで売れると思います?」
「行軍に参加するのはBランク冒険者からだからな。Bランク冒険者になるとアイテムボックス持ちが増えてくる。大体……銀貨20枚くらいだろう。行軍時期は参加する冒険者にはそれ相応の金額が支払われる」
「銀貨20枚……良いでしょう。行軍時期近くで大口依頼をゲットしますわ」
「大口依頼ってまさか」
「王家に売りに出しましょう」
「本気かリディア」
「軍部が頷けば売れる品ですわ。売れなければそれまでですもの。それに名誉の死と言うのは頂けませんわ。寒さと飢えで動きが鈍って殺されるなんて、残される家族がどれだけ悲しい思いをしているか。それが孤児の増加に繋がるのでしたら止めねばなりませんわ。ただ、ファビーだけを貸せと言われたら断りますけれど」
「王命で貸し出せという命令が来るかもしれないんだぞ?」
「わたくし、ナカース王に貸しを作ってますもの。その貸しをファビーの自由の為に使いますわ。それに王太子にも貸しは作りましてよ?」
確かに貸しは作っていたが、作っていたが――俺の知らない所でナカース王にどんな貸しを作ったって言うんだリディア!! 聞くのが怖いぞ!!
「行軍は何週間くらい普段は掛かりますの?」
「大体一カ月だ。年の変わる前には終わらせるようにしている」
「ファビーの箱庭の値段はお高いとだけ伝えておきますわ。大勢の身の安全を守る為ですものね?」
「……感謝する」
うちの婚約者が商売上手過ぎてコワイ。
そうは思ったが、簡易テントセットの方を一般冒険者向けに、そして大型テントを王国側に売る事は決まった様だ。
しかし、国に売る為の道具になろうとは思いもせず、結局俺とリディア、ライトとロキシーを除いてSランク冒険者グループは温泉を満喫しに行ったが――。
「まさか、お泊り保育で使うモノが」
「国に売るアイテムになろうとは思わなかったねぇ」
「私もびっくりです。子供達凄いので寝ようとしてたんですね……」
「わたくしも驚いてますわよ? 防衛費ってお幾らくらい出ているのかしら」
「売り込む気満々じゃないか」
リディアのその度胸が少し羨ましい。
そう思ったのは――きっと俺だけではないと思いたい夜だった。
王太子領のSランク冒険者、雪の園と朝の露がピリピリしているのは伝わっていた。
そして向かい合うダンノージュ侯爵領のSランク冒険者、鳥の瞳メンバーもまた、目の前にいる相手がSランク冒険者であることで互いに緊張しているようだった。
今回二つの冒険者を集めたのは、お泊り保育の際の怖くない冒険談の相談だったが、そちらは二つ返事でいい結果を貰うことが出来た。
お互いがお互いに一歩も引かない雰囲気に、やはり領が違う冒険者だとライバル心が強いのだろうというのは理解出来た。理解できたが――。
「すみません、両者少し気を緩めてください。ライトが怖がってます」
「全く情けないねぇ。そんなにライバル視しなくとも、互いがSランクってので胸張ってりゃいいのに」
「ははは、ロキシー嬢申し訳ないね。つい滾ってしまったのだよ」
「分かるわ、相手の強さを測る為に滾るよな」
「うむ」
「じゃあ滾るのはこれ位にして、少々現役冒険者の意見を聞かねばならないので、こちらに皆さん移動してください」
そう言うと、初めての箱庭と言うこともあってかナインさんは少し緊張した様子だったが、見えてきた【物】を見て目を見開くと、駆け寄り素早い勢いで全てをチェックし始めた。
その行動を笑う者はいない。
何故なら、朝の露と雪の園の面子も同じことをしたからである。
「カカカ……カイル君、これは!?」
「リディアの考えた、大型の屋外テントです。中には空気で膨らむベッドも置け、テント内でしたら小さな机一つと、椅子が2つは入ります」
「――素晴らしい」
「こちらは大人数用のテントらしいのですが、機能性としては雨風が防げて水を弾く仕様となっており、とても軽く地面に杭を打ち込んで飛ばなくしなくてはなりません」
「それだけでも画期的だとも!!」
「凄いですねナイン様!!」
「此方の道具たちは?」
「魔石で動く明りが広いランタンと、取っ手の付いた一人用の火起こし器、小型の炭を使ったキャンプストーブと火消しツボですね。どちらも軽く、冒険者が持ち歩くものとしては余り使い道は無いでしょうが、温かいご飯を食べたい時には最適だと思います」
そう、冒険者は基本的に一日ダンジョンに篭りはするが、一日一回は外に戻ってくる。
その間の食事と言えば携帯食であり、味は然程良くはない。腹を満たす為だけの食事だ。
長期遠征は国が依頼する大掛かりな討伐の場合は何日も戦う為にテントを張るが、それくらいしかテントと言うのは使い道がない。
それも、年に3回ほどの周辺の討伐の際に使われる程度だ。
「確かに年2回、だが、されど2回だ。軽く安全で使いやすいテントと言うのは、それだけで価値がある」
「ダンノージュ侯爵領だとそうなんだな、俺達王太子領だと、一人用テントの方が使い勝手が良さそうだけど」
「一人用テントだと?」
「お出ししますね」
そう言うとリディアが作ってくれていた大人用のワンタッチでテントになるものを用意し、ボタン一つでパン!と開いたテントに鳥の瞳サイドは声を上げた。
そして寝袋も取り出すと、非常に食いついてきた。
「カイル君、こちらは?」
「寝袋です。寝る際に外気温等をあまり気にせず使う事が出来て防水付与と汚れ落ちをよくするための付与がされています。軽くて暖かいです」
「これだけで年2回の戦闘が全く別物になるぞ。国が買いたがるほどの品だ」
「国ですか? 確かに防衛費が出ているとは聞いていますが」
「私からナカース王家に伝えても良いのだが、君はダンノージュ侯爵家の跡継ぎだったな……君から国に売り込む事をお勧めする」
まさか、リディアがお泊り保育の為に作ったアイテムが、国に売り込むべきアイテムだと言われるとは流石の俺も思っていなかったが、ナインさんは更に話を進めた。
「年々ナカース王国では防衛費が嵩み、少々問題になっている。その問題の一つに、テントや備品と言った物の高騰があるらしい。増えた魔物を倒すにしても国が所有する魔物討伐隊だけでは足りない為、我々冒険者も駆り出されるのだが、テントは水はけも悪く重く、汚れもつきやすい。
温かいご飯を食べようとすればそれだけで持ち物が増えて重くなり進軍が遅くなる。その為、食事も温かいものより冒険者の食べる保存食が主になるのだが、それが不味いと評判でな。
ナカース王は温かい食事を出したいそうで箱庭師を用意したが、元々進軍の為の箱庭師と言うのはいないし、食事処があるような広い箱庭もない。故に、食事の面では我慢しながらなんとか行軍するのだが」
「それって……なぁリディア。ファビーの箱庭が進軍に参加したらどうなると思う」
「凄い事になると思いますわ」
「と言うと?」
「ファビーの身の安全が保障されるのであれば、広い空間に温泉までついた三つの宿を貸し切って食事と休憩が可能ですわ。雑魚寝でしたら結構な人数が泊まれますけれど」
「100人単位で泊まれそうなのか?」
「雑魚寝なら100人は余裕ですわね」
「是非、年2回の行軍に参加して頂きたい! 冬の行軍は寒さと飢えとの戦いだ、私も多くの仲間を名誉の死として送ってきた。もしその名誉の死が無くなるというのであれば、このテントを王家に売り、ファビーと言う名の者を貸して頂ければと思う!」
まさか年2回のナカース王国の行軍にファビーを切望されるとは思ってもいなかったが、確かに俺もそれに似た王太子領の戦いで魔付きになったので、ダメとも言えない。
どうしたものかと喘いでいると――。
「次の行軍は何時頃なのかしら」
「冬の行軍はまだ3カ月も後だ。それまでに考えてはくれないだろうか」
「そうですわね……。ファビーに関しては彼女の意見が必要ですわ。ですが、テントに関してはアラーシュ様経由でお話をさせて頂こうと思います」
「助かる!」
「でもわたくしが知りたいのは、その行軍に参加する冒険者達のテント問題ですわ。大きなものは難しいにしろ、行軍時期にはテントは売れるのでしょう?」
「売れるな。私も毎年買い替えている」
「では、行軍時期に合わせて一人用テントを売りに出しましょう。簡易テントに寝袋、魔石ランタンのセットで、お幾らで売れると思います?」
「行軍に参加するのはBランク冒険者からだからな。Bランク冒険者になるとアイテムボックス持ちが増えてくる。大体……銀貨20枚くらいだろう。行軍時期は参加する冒険者にはそれ相応の金額が支払われる」
「銀貨20枚……良いでしょう。行軍時期近くで大口依頼をゲットしますわ」
「大口依頼ってまさか」
「王家に売りに出しましょう」
「本気かリディア」
「軍部が頷けば売れる品ですわ。売れなければそれまでですもの。それに名誉の死と言うのは頂けませんわ。寒さと飢えで動きが鈍って殺されるなんて、残される家族がどれだけ悲しい思いをしているか。それが孤児の増加に繋がるのでしたら止めねばなりませんわ。ただ、ファビーだけを貸せと言われたら断りますけれど」
「王命で貸し出せという命令が来るかもしれないんだぞ?」
「わたくし、ナカース王に貸しを作ってますもの。その貸しをファビーの自由の為に使いますわ。それに王太子にも貸しは作りましてよ?」
確かに貸しは作っていたが、作っていたが――俺の知らない所でナカース王にどんな貸しを作ったって言うんだリディア!! 聞くのが怖いぞ!!
「行軍は何週間くらい普段は掛かりますの?」
「大体一カ月だ。年の変わる前には終わらせるようにしている」
「ファビーの箱庭の値段はお高いとだけ伝えておきますわ。大勢の身の安全を守る為ですものね?」
「……感謝する」
うちの婚約者が商売上手過ぎてコワイ。
そうは思ったが、簡易テントセットの方を一般冒険者向けに、そして大型テントを王国側に売る事は決まった様だ。
しかし、国に売る為の道具になろうとは思いもせず、結局俺とリディア、ライトとロキシーを除いてSランク冒険者グループは温泉を満喫しに行ったが――。
「まさか、お泊り保育で使うモノが」
「国に売るアイテムになろうとは思わなかったねぇ」
「私もびっくりです。子供達凄いので寝ようとしてたんですね……」
「わたくしも驚いてますわよ? 防衛費ってお幾らくらい出ているのかしら」
「売り込む気満々じゃないか」
リディアのその度胸が少し羨ましい。
そう思ったのは――きっと俺だけではないと思いたい夜だった。
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