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264 負けられぬ戦い。⑤
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――フォルside――
期限までの一カ月。
ボクはリディア姉の作るアイテムを見て過ごした。
エリクサーを作る時は、薬師たちが全員で訪れ、その様子を息を殺して見守った。
薬師のドミノさんがいうには、エリクサーを作るのはとても疲れるのだそうだ。
MPをかなりの量持っていかれ、疲労感も凄まじいのだと聞いた時……リディア姉を止めたくなった。
だが、負けられない戦いであることも分かっている。
だから、カイル兄も無言でリディア姉の額から流れ落ちる汗をタオルで拭いながら、付きっ切りで支えた。
ボクに出来ることは少ない。とても少ない。
けれど、リディア姉は言った。
「わたくしが作る物を、フォルもいつか作れるようになるわ。だから目を逸らさず見なさい。そして貴方が作る時は、わたくしが隣に立って支えながら教えていくわ。それが師匠であるわたくしのできる最大限の応援になるから」
そう言って薬を作り始めたリディア姉に、胸が苦しくなった。
話を聞いていたドミノさん達なんて、汗を幾つも落としながら真剣に薬を作るリディア姉に、何かを感じたのか何人かは涙を零していた。
エリクサーを10本作ったところで、リディア姉の顔色から血の気が引いている事に気が付いた。
それでも、リディア姉は立ち止まらなかった。
上級MPポーションを3本一気に飲み終えると、次は『破損部位修復ポーション』を作り始めた。
これにはカイル兄が流石に止めようとしたけれど、リディア姉は無言で首を横に振り、3本の薬を作ったところで意識を失った。
カイル兄が言うには、「破損部位修復ポーションはエリクサー以上にMPを持っていかれるらしいんだ」と口にし、ドミノさん達は声を殺して驚いていた。
リディア姉は最初の一週間で、作り慣れているアイテムを作ってから『ラストエリクサー』の作成に挑むのだと聞かされたが、三週間と言う時間を全て『ラストエリクサー』に挑むという事は、とてつもない作業になるのだと理解出来た。
――それから一週間。
『破損部位修復ポーション』を35本も作り、更に新薬である『禿げ治療薬』を作った。
一週間の間の最後に作った『禿げ治療薬』は、頭皮を癒し、毛根と言われる髪の毛の根本を生き返らせる薬なのだそうだ。
「即効性はないけれど、この瓶一本を使い切る頃には毛根は生き返って、髪の毛が生えてくるわ。治験したいところだけど、どなたかいらっしゃらないかしら?」
「でしたらオレが」
そう言って前に出たのは物書き師の一人で、若くして頭皮が寂しくなり始めたドウナさんだった。
治験としてまず一人、ドウナさんがやってくれることになり、使い方をリディア様から聞き、瓶の中身が消える一週間後から、どう変わっていくのかの経過観察を絵師に頼んでいた。
毎日自分の顔と髪の状態を絵に残して貰う様だ。
「結果が直ぐに出る訳でないにしろ、経過観察として絵を残して貰えるのは嬉しいわ!」
そう言って喜んでいるリディア姉は、一日だけ休憩として睡眠をタップリとり、翌日からついに――『ラストエリクサー』の制作準備に取り掛かった。
必要となる薬草はどれも高価なもので、その他に必要となるダンジョンコアを初めて見た時は、レインさんやノイルさん、そしてナインさんですら身が震えたと言っていた。
それ程までにレアなアイテムを使うのだから、どうなるのかは分からない。
どれだけのMPを持っていかれるのかも分からない。
過去の文献の話で、MPを持っていかれすぎて干からびた人間の話を聞いた時、もしリディア姉がそうなったらどうしようと震えた。
その震える手を――ファビーが握りしめてくれた。
「どうしたのよフォル、貴方らしくないわ」
「怖いのだよ。ファビーは怖くないのか?」
「怖いわ」
「ファビー」
「ラストエリクサーって、賢者の石を作るのにも使われるって聞いたことがあるの。賢者の石を作る際、何人ものロストテクノロジー持ちが死んだと聞いたわ。でもリディア姉に昔聞いたことがあったのよ」
「何を……?」
「『じゃあ、賢者の石の材料を作るとかだったら、死ぬことは無いんですか?』って。そしたらリディア姉は笑いながら『死ぬ事はないと思うわ』って。ただ……『後遺症は残るかもしれない』って」
「後遺症……?」
「どんな後遺症かは分からないわ。でも『もしラストエリクサーを作る時があったら、その時は誰かを守る為に作るのだと思うわ』って言っていたの。ねぇフォル、リディア姉は一体誰を守りたくて作っているの? 誰のために?」
「………ナジュ王太子殿下と、ナカース王国の為だとも思う。でも、それと同時に――ダンノージュ侯爵家と、箱庭の皆を守りたいんだと思う……」
ナジュ姫殿下がリディア姉に叩きつけた内容は、カイル兄から聞いている。
ナジュ姫殿下よりも質の悪いものを作れば、リディア姉はダンノージュ侯爵家から籍を外されることになる。だがそうなった場合、ボク達箱庭の面々は生きることは出来てもリディア姉が居なければ生活することは出来なくなり、路頭にまた迷うだろう。
……養子縁組されたボクたちもまた、貴族籍を抜かれることになるだろう。
リディア姉は。
リディア姉は……ナジュ王太子殿下とナカース王国の未来だけではなく、尤も守りたい、ダンノージュ侯爵家と箱庭に住むボク達、そして元スラムの皆を守る為に『ラストエリクサー』を作る決意をしたのだと初めて理解した。
ナカース王国で最も他の者に悪影響を与えるノジュ姫殿下を確実に追いやる為には、こちらも本気にならないといけないと思ったに違いない。
じゃなければ、何度も何度も嫌がらせもあるだろうし、下手をすればナジュ王太子殿下が暗殺される可能性だってゼロではない。
ナジュ王太子殿下は今、やっと王太子領の復興に向けて進んでいる。
陛下に頭を下げて借金をしてまで、リディア姉の言葉を――『民こそが財産である』と言う言葉を守るように、『専業特化地区』を作り、学園の建設に入ったと聞いた。
ボクはあまり知らなかったが、ザザンダさんがいうには、その特許地区を作る為の木材も、リディア姉の山から木を伐採して作られているのだと知った時、これほど王太子殿下や、ナカース王国の為に、ただの箱庭師であったリディア姉が役に立っている事に……そして、その養子になった事を誇りに思ったことは無かった。
リディア姉は何時もそうだ。
『誰かの為に』惜しみない援助と助けをしていくんだ。
孤児院や託児所と言う子供達だけではなく、今後は老人ホームも作って老人達の終の棲家を作るのだと意気込んでいた。
今ここで立ち止まる訳にはいかないのは分かっている。
リディア姉は、止めても絶対に止まらないだろう。
――先に見える、困っている人たちの存在を知っているから。
――そして、身近にいるボク達を守りたいから。
弱音も吐かず、ただ『守りたい』一心で、今から……どんな後遺症が出るかもわからない『ラストエリクサー』に挑むんだ。
「リディア姉……」
あらゆる器材が置かれた机に、目を閉じて集中するリディア姉に、箱庭の皆も固唾を飲んで見守っている。
ただ事じゃないと、老人達ですら感じ取ったのだから。
子供達も不安げな様子で見守っているが、誰も言葉を出そうとはしない。
けれどその時――。
「今からわたくしは少々無理を致しますわ。けれど、決して負けるつもりはありませんの。だから、皆さんは何時も通りの生活をしながら、少しだけわたくしの事を、頑張れって応援してくださいませね? それだけでわたくし、頑張れますわ!」
そう言って振り向いたリディア姉の優しい笑顔に、子供達も強く頷き、大きな声で「リディア姉負けるな!」「リディア姉頑張れ!」と応援を贈った。
爺様婆様達も応援して、「負けるな!」「ワシ等も見守っとるぞ!」とリディア姉に声を掛けていく。
そして最後に、カイル兄がリディア姉の肩を叩くと、小さく頷いてから真っ直ぐ前を向き、大きく息を吸って両手で頬を数回叩くと――。
「さぁ! 戦ですわ!! この戦い、負けられませんわ!!」
そう叫ぶと、たった一度きりの――『ラストエリクサー』製作へと入っていった。
期限までの一カ月。
ボクはリディア姉の作るアイテムを見て過ごした。
エリクサーを作る時は、薬師たちが全員で訪れ、その様子を息を殺して見守った。
薬師のドミノさんがいうには、エリクサーを作るのはとても疲れるのだそうだ。
MPをかなりの量持っていかれ、疲労感も凄まじいのだと聞いた時……リディア姉を止めたくなった。
だが、負けられない戦いであることも分かっている。
だから、カイル兄も無言でリディア姉の額から流れ落ちる汗をタオルで拭いながら、付きっ切りで支えた。
ボクに出来ることは少ない。とても少ない。
けれど、リディア姉は言った。
「わたくしが作る物を、フォルもいつか作れるようになるわ。だから目を逸らさず見なさい。そして貴方が作る時は、わたくしが隣に立って支えながら教えていくわ。それが師匠であるわたくしのできる最大限の応援になるから」
そう言って薬を作り始めたリディア姉に、胸が苦しくなった。
話を聞いていたドミノさん達なんて、汗を幾つも落としながら真剣に薬を作るリディア姉に、何かを感じたのか何人かは涙を零していた。
エリクサーを10本作ったところで、リディア姉の顔色から血の気が引いている事に気が付いた。
それでも、リディア姉は立ち止まらなかった。
上級MPポーションを3本一気に飲み終えると、次は『破損部位修復ポーション』を作り始めた。
これにはカイル兄が流石に止めようとしたけれど、リディア姉は無言で首を横に振り、3本の薬を作ったところで意識を失った。
カイル兄が言うには、「破損部位修復ポーションはエリクサー以上にMPを持っていかれるらしいんだ」と口にし、ドミノさん達は声を殺して驚いていた。
リディア姉は最初の一週間で、作り慣れているアイテムを作ってから『ラストエリクサー』の作成に挑むのだと聞かされたが、三週間と言う時間を全て『ラストエリクサー』に挑むという事は、とてつもない作業になるのだと理解出来た。
――それから一週間。
『破損部位修復ポーション』を35本も作り、更に新薬である『禿げ治療薬』を作った。
一週間の間の最後に作った『禿げ治療薬』は、頭皮を癒し、毛根と言われる髪の毛の根本を生き返らせる薬なのだそうだ。
「即効性はないけれど、この瓶一本を使い切る頃には毛根は生き返って、髪の毛が生えてくるわ。治験したいところだけど、どなたかいらっしゃらないかしら?」
「でしたらオレが」
そう言って前に出たのは物書き師の一人で、若くして頭皮が寂しくなり始めたドウナさんだった。
治験としてまず一人、ドウナさんがやってくれることになり、使い方をリディア様から聞き、瓶の中身が消える一週間後から、どう変わっていくのかの経過観察を絵師に頼んでいた。
毎日自分の顔と髪の状態を絵に残して貰う様だ。
「結果が直ぐに出る訳でないにしろ、経過観察として絵を残して貰えるのは嬉しいわ!」
そう言って喜んでいるリディア姉は、一日だけ休憩として睡眠をタップリとり、翌日からついに――『ラストエリクサー』の制作準備に取り掛かった。
必要となる薬草はどれも高価なもので、その他に必要となるダンジョンコアを初めて見た時は、レインさんやノイルさん、そしてナインさんですら身が震えたと言っていた。
それ程までにレアなアイテムを使うのだから、どうなるのかは分からない。
どれだけのMPを持っていかれるのかも分からない。
過去の文献の話で、MPを持っていかれすぎて干からびた人間の話を聞いた時、もしリディア姉がそうなったらどうしようと震えた。
その震える手を――ファビーが握りしめてくれた。
「どうしたのよフォル、貴方らしくないわ」
「怖いのだよ。ファビーは怖くないのか?」
「怖いわ」
「ファビー」
「ラストエリクサーって、賢者の石を作るのにも使われるって聞いたことがあるの。賢者の石を作る際、何人ものロストテクノロジー持ちが死んだと聞いたわ。でもリディア姉に昔聞いたことがあったのよ」
「何を……?」
「『じゃあ、賢者の石の材料を作るとかだったら、死ぬことは無いんですか?』って。そしたらリディア姉は笑いながら『死ぬ事はないと思うわ』って。ただ……『後遺症は残るかもしれない』って」
「後遺症……?」
「どんな後遺症かは分からないわ。でも『もしラストエリクサーを作る時があったら、その時は誰かを守る為に作るのだと思うわ』って言っていたの。ねぇフォル、リディア姉は一体誰を守りたくて作っているの? 誰のために?」
「………ナジュ王太子殿下と、ナカース王国の為だとも思う。でも、それと同時に――ダンノージュ侯爵家と、箱庭の皆を守りたいんだと思う……」
ナジュ姫殿下がリディア姉に叩きつけた内容は、カイル兄から聞いている。
ナジュ姫殿下よりも質の悪いものを作れば、リディア姉はダンノージュ侯爵家から籍を外されることになる。だがそうなった場合、ボク達箱庭の面々は生きることは出来てもリディア姉が居なければ生活することは出来なくなり、路頭にまた迷うだろう。
……養子縁組されたボクたちもまた、貴族籍を抜かれることになるだろう。
リディア姉は。
リディア姉は……ナジュ王太子殿下とナカース王国の未来だけではなく、尤も守りたい、ダンノージュ侯爵家と箱庭に住むボク達、そして元スラムの皆を守る為に『ラストエリクサー』を作る決意をしたのだと初めて理解した。
ナカース王国で最も他の者に悪影響を与えるノジュ姫殿下を確実に追いやる為には、こちらも本気にならないといけないと思ったに違いない。
じゃなければ、何度も何度も嫌がらせもあるだろうし、下手をすればナジュ王太子殿下が暗殺される可能性だってゼロではない。
ナジュ王太子殿下は今、やっと王太子領の復興に向けて進んでいる。
陛下に頭を下げて借金をしてまで、リディア姉の言葉を――『民こそが財産である』と言う言葉を守るように、『専業特化地区』を作り、学園の建設に入ったと聞いた。
ボクはあまり知らなかったが、ザザンダさんがいうには、その特許地区を作る為の木材も、リディア姉の山から木を伐採して作られているのだと知った時、これほど王太子殿下や、ナカース王国の為に、ただの箱庭師であったリディア姉が役に立っている事に……そして、その養子になった事を誇りに思ったことは無かった。
リディア姉は何時もそうだ。
『誰かの為に』惜しみない援助と助けをしていくんだ。
孤児院や託児所と言う子供達だけではなく、今後は老人ホームも作って老人達の終の棲家を作るのだと意気込んでいた。
今ここで立ち止まる訳にはいかないのは分かっている。
リディア姉は、止めても絶対に止まらないだろう。
――先に見える、困っている人たちの存在を知っているから。
――そして、身近にいるボク達を守りたいから。
弱音も吐かず、ただ『守りたい』一心で、今から……どんな後遺症が出るかもわからない『ラストエリクサー』に挑むんだ。
「リディア姉……」
あらゆる器材が置かれた机に、目を閉じて集中するリディア姉に、箱庭の皆も固唾を飲んで見守っている。
ただ事じゃないと、老人達ですら感じ取ったのだから。
子供達も不安げな様子で見守っているが、誰も言葉を出そうとはしない。
けれどその時――。
「今からわたくしは少々無理を致しますわ。けれど、決して負けるつもりはありませんの。だから、皆さんは何時も通りの生活をしながら、少しだけわたくしの事を、頑張れって応援してくださいませね? それだけでわたくし、頑張れますわ!」
そう言って振り向いたリディア姉の優しい笑顔に、子供達も強く頷き、大きな声で「リディア姉負けるな!」「リディア姉頑張れ!」と応援を贈った。
爺様婆様達も応援して、「負けるな!」「ワシ等も見守っとるぞ!」とリディア姉に声を掛けていく。
そして最後に、カイル兄がリディア姉の肩を叩くと、小さく頷いてから真っ直ぐ前を向き、大きく息を吸って両手で頬を数回叩くと――。
「さぁ! 戦ですわ!! この戦い、負けられませんわ!!」
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