【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

寿明結未

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268 負けられぬ戦い。⑨

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――ナノside――


結論から言うと――二人から発せられた威圧と殺気で気を失った。
俺もロットもだ。
こんな化け物じみた人間見たことが無い……。
二人に気付け薬を飲まされたのか、目を覚ますと二人はとてもいい笑顔で椅子に座った。
そして――。


「実にふざけた依頼だ。ああ、とても不愉快だ……。なぁ? ノイル?」
「そうだな、俺達の命の恩人である人たちを害するだけでは飽き足らず、ダンノージュ侯爵家の商売……カイルとリディアちゃん達が頑張ってきた商売も横取りなんて、なぁ?」
「本当に命がいらないんだね? 思う存分何度も何度も殺したやりたい気分だよ」
「ははは、俺もだぜ」
「……つ」
「「つ?」」
「……次に、ナカース国王陛下からの依頼です。宜しいでしょうか?」
「聞こう」
「どちらが勝っても負けても、ノジュ姫殿下はダンノージュ侯爵を害そうとするだろうと。その為、Sランク冒険者の皆さんにはダンノージュ侯爵家全員を守って欲しいとの事です。またクソ女……ノジュ姫殿下が現れた場合、殺害しても罪には問わないとの事です」


そう伝えると、レインと言う男はとってもいい笑顔で「そうかそうか!」と喜び、ノイルと呼ばれた男は「寛大な処置感謝するとお伝えください」と笑顔で答えていた。


「陛下からの許可があるのなら、思う存分暴れられそうだね」
「そうだな。で? アンタらはこの話をダンノージュ侯爵領にいるSランク冒険者、鳥の瞳にもするつもりか?」
「はい」
「俺達も着いて行った方が良いな」
「下手すると瞬時に君たち斬り殺されるよ? 彼はライトくんを崇拝してるからね」
「「え……」」
「俺達の後ろにいても守ってやれるかどうかなんてわかんねーからな。覚悟しとけ」


命がけの依頼になりそうだ……。
俺とロットはゴクリと生唾を飲み込むと、強く頷いてからその場で箱庭を開き、ダンノージュ侯爵領へと飛んだ。


無論、結果から言えば――殺されかけた。
流石の俺達も失禁した。
あんな化け物を相手にどうしろって言うんだっていうくらいに怖かった……。
脚は震え立つことも出来ず、ロットも何とか立とうとしたが、威圧を掛けられ俺とロットは地面に叩きつけられた。


「それで……この世との別れは済んだかな?」
「待て待て待て待て! ナインストップだ!!」
「面白い依頼を聞けなくなっても良いのかい? 君の大事なライトくんに関する依頼も、あるんだけどねぇ?」
「ほう……?」
「話を聞くだけでも聞いてあげてくれ。私とノイルは依頼を受けることにしているよ」
「……本当か?」
「ああ、ダンノージュの為にね」
「そうか……では、話を聞かせて貰おう」


ダンノージュ侯爵領の道具店サルビアの前での騒動に、奥から黄金に輝く金髪の美しい少年と、見たこともない程のいい女が現れた。


「何だい何だい? 行き成り店の前で物騒だねぇ」
「すまないなロキシー殿。こ奴らから話を聞かねばならなくてな……。怒りでどうかなってしまいそうだが、奥の部屋を借りても宜しいか?」
「ええ、構いませんよ。私も聞かせて頂きます」
「アタシも話を聞こうかねぇ……。内容によっちゃぁ、アタシも手が出るかもしれないけど」


なるほど、彼がダンノージュ侯爵家の末の孫、ライトか。
それにしても隣の女性、凄い美人だ、ロキシーと呼ばれていたが……ロキシー?
元Sランク冒険者の紅蓮の華のロキシーか!?
あの最強と謳われた伝説の!?


そう思ったが、ナインと言う冒険者に俺とロットは首根っこを掴まれ、ズルズルと店の奥に連れていかれると、物を扱うようにテーブル席の近くに投げ飛ばされた。
大の大人を片手で引きずっていくだけでも凄いのに、俺達と小石同然に投げたナインの力に身体が震える。


「ナインさん、シッカリ話を聞きましょう。碌な話では無いかも知れませんが、もしかしたら有利になる話もあるかも知れない」
「ライト……そうだな。少し怒りを鎮めよう」
「ええ、リディア姉さんが頑張っている今だからこそ、冷静に物事を見なければ……。私はリディア姉さんの足を引っ張りたくはない」
「流石だライト。俺の見込んだ少年なだけはある」
「そう言って頂けると嬉しいです」


あの殺気を駄々洩れにしているナインに笑顔で話が出来るなんて……ライトと言う少年は規格外じゃないか!?
俺達ですら足が震えてまだ立てないというのに。


「そこに座ったままでも構いませんよ。レインさん、あのアイテム持ってきてます?」
「盗聴防止用だね、持ってきているよ。では動かそうか」


そう言って王太子領でも使った盗難防止用の付与アイテムが発動すると、俺たちを薄い膜が覆い、話をする準備が出来たようだ。
先に不快な思いをさせることを謝罪し、ノジュ姫殿下の話をした。
ナインを含む鳥の瞳のメンバーからは窒息しそうなほどの殺気と威圧を喰らったが、ロットと手を握り合い何とか耐えた。
次に震えながらナカース国王陛下の依頼を話すと、途端に殺気は緩やかになり、威圧も無くなった。


「なるほど、我々は単純に、あの女からダンノージュ侯爵家を守ればいいのだな?」
「そ……そうなります」
「しかも、姫殿下の生死は問わぬと。無論殺しても罪には問わぬと言う事だな?」
「はい」
「よし、陛下の依頼をうけようではないか! ジックリと追い詰めて殺らねばなるまい」
「だから話を聞こうって言ったんだよ」
「でも、姫殿下は馬鹿なのか? ライトの婚約者があのロキシーであると知らないのか?」
「知らないんじゃないかねぇ? アンタ達、アタシと殺りあう覚悟あるかい?」
「無いね」
「俺もパス。本気で戦ってもこっちが負けるのは目に見えてる」
「俺とロキシー殿で戦ったとしても、無事ではすまぬだろう。負けを認めて降参するのが最善の手だ」
「ロキシーは……それほどまでに強いのか?」


こんな美しい女性がそこまで強いのかと思ったが、三人のSランク冒険者は遠い目をしながら「そうだな」と答えた。


「我々はリディア様の箱庭で手合わせをすることが度々あるのだが」
「勝てたためしはないな」
「同じく」
「「それ程までに……」」
「規格外に強いんだよ、ロキシーは」
「Sランクなんて生ぬるい、その上の冒険者と言っても過言ではないだろう」
「あはははは! とは言っても、経歴は元Sランク冒険者には違いはない。アタシはリディアちゃんやカイル、それに愛しい将来の旦那様を守る為なら幾らでも強くなるよ」
「私の婚約者は素晴らしいでしょう?」


そう言って笑顔で答えたライトに、俺とロットは呆然としながら頷いた。
確かにあのナインの殺気と威圧ですら平然としていたライトだ……。あのナインの上を行く婚約者と常に一緒ならば、耐性もつくだろうと納得することが出来た。


「ですがそうですか……其方がそのつもりでくるのであれば、そうですね、その姫殿下とか言う方を騙して貰う事は可能ですか? 冒険者達から承諾を受けたと。その上で、現れた彼らに歯向かわれたらどうなるでしょう?」
「全員で全力の威圧と殺気をぶつけてやろうか?」
「それは最初の挨拶だろう?」
「でも、それで息の根が止まっては元も子もありませんよ?」
「何時襲うか分からない威圧と殺気と言うのも一つの手だね。恐怖で失禁くらいはして貰わないと」
「どうですか? 騙せそうですか?」
「騙すことは簡単だ」
「あの女は阿呆だからな」
「では、騙しておいてください。そして我がダンノージュ侯爵家を害そうとした時、彼らがダンノージュ侯爵家に寝返った瞬間の顔がとっても見ものですから」
「その女に加担する奴らは殺しちゃ駄目なのかい?」
「陛下は多分了承してくださるかと」
「そりゃよかった。牙を剥いてくる奴らは全員その牙をおっておかないとねぇ?」
「血抜きしても食べられそうにはない獲物だがな」
「けど、ただの護衛者までは殺しては可哀そうだと思いますので、そこは皆さんの判断に任せます」
「そう言ってくれると助かるよ」


トントン拍子に話は進み、あの阿呆の依頼を受けたという偽情報を流しておいて、ダンノージュ侯爵家を攻撃する際は寝返って阿呆を殺す。
そう言う算段になったようだ。
アレだけの威圧や殺気の中、平然とし、知恵を出し、冒険者達を纏め上げたライトと言う少年の凄さは……計り知れない。


「では、今にも心労で倒れそうな陛下によろしくお伝えください。あと……自分の娘すらまともに育てられなかった事を、お悔やみくださいとお伝えください」
「「分かりました……」」
「それから、かなりの被害が既に出ていると思いますが、これ以上被害を出さない為に姫殿下を孤立させることをお勧めしますよとも」


そう口にしたライトだが――目はドロリと淀み、怒りを胸に話していることが分かる。
確かにこれ以上メイドや貴族女性の被害が出ぬよう、孤立させることは大事だと今更ながらに思いついた。


「――必ずや、陛下にお伝えします」
「ええ、無駄な血は流さないほうが良いかとも思いますので……宜しくお願いしますね?」


――王者の風格。
それを肌で感じ取ると、俺達は何度も頷いて陛下の元へと戻った。
そして、陛下は俺達の状態を見てただ事ではないと思ったようで、事の内容を伝えると陛下は安堵しつつも、阿保女の周りからメイドを全員引き下がらせることを伝えた。
無論、それがどうなるかなど、明白なのだが――陛下もこれ以上の被害を出すことを恐れたらしい。


そして、呼び出された姫殿下は父親からメイドを全員下がらせることを伝えられ、全てを一人でするように命令された上に、部屋での謹慎を言い渡され、それが出来ないのであれば、貴族牢に入れると伝えられると、喚きながら兵士に自室へと連れていかれたようだ。

メイド達がいなければ何もできないアイツにはピッタリだろう。
外に出ることも出来なくなるだろうし、ドレスを着る事も出来ない。
だが――毒抜きは必要で、時折俺とロットがドア越しに話をすることは依頼された。


「陛下も早くに動いてくださっていたら、被害は最小限にすんだんですけどね」
「ああ、不甲斐ないことこの上ない。ナジュの王太子領が落ち着いたら、王位を継がせ引退しようかと思っているくらいだ」
「まともな判断ができないのであれば、それが宜しいかと」
「手厳しいな、だがその通りだな」


それから薬の発表までの数日間。
ノジュ姫殿下の部屋からは奇声と物が壊れる音が消えることは無く、ドアを破壊されたこともあったが、その後鉄格子のドアに代わり、城中に奇声が響き渡っていた。
それでも、俺とロットが向かうとすすり泣きながら「ただ楽しんでいただけなのに」と反省の色すら見せない阿呆な女に、俺とロットがゴミを見るような目線を送っている事など――気づきもしなかった。
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