今日も武器屋は閑古鳥

桜羽根ねね

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閑古鳥武器屋営業中

ひとときのエンドロール

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 何もかもが一瞬だった。

 セイ……魔王ルダセイクがボールペンで何かをしたというのは分かるんだけど、速すぎて詳細までは分からなかった。

 気が付いた時には三人組がボロボロになって倒れていて、トドメを刺そうとする魔王を、俺と、騒ぎを聞きつけてやって来たメリダールとアークとで全力で押さえて止めた。
 人殺しはしてほしくないと叫んだ俺の声が届いたのかな……なんて、これは都合のいい妄想だけど。

 その後その三人を警吏に突き出すと、こいつらは色んな町で同じようなことを繰り返してきたらしいことが分かった。三人のその後は知らないけど、多分牢屋の中で幸せに暮らしていることだろう。

 そして、俺はというと。

「アルジュ」
「ひゃいっ!ごめんなさい!」
「……呼んだだけなんだけど」
「あ、ああ、その、何かご用でしょうか」
「敬語はいらないって言ったはずだよ」
「ひっ……、すすすすいません……っ!」

 どうしてか。
 何故か。

 あれからも頻繁に武器屋を訪れる魔王様にビビっております、はい。

 いやだって圧倒的な力を持つ魔王様に対して普通に接するのなんて無理無理無理無理絶対無理!!
 セイなんて気軽に呼んでいた自分を殴りに行きたい!!!

 あとなんか俺、魔王様に向かって魔王に助けられたことあるんだぜ的なことすげぇドヤ顔で話してしまったようなああああぁ恥ずかしい恥ずかしい穴を掘って潜りたい……!!

「こんにちは……って、まだ怯えてるんですかアルジュ君」
「俺等以上に一緒に話したりしてたんだろ?いい加減慣れろよ」
「うぐっ……、メ、メリダールとアークの精神が異常すぎんだよ……!どうしてそんなに普通に馴染んでるんだ……!」
「まあ確かにあの時はビックリしましたけど、貴重な体験も出来てますし」
「魔王様といえども思考は人間と似通ってんだな」

 二人仲良く来店したメリダールとアークが、にやにやしながら俺達を見てくる。何だってんだ一体。

「……アルジュ」
「はいっ、何でしょうか魔王様!」
「次、魔王様って呼んだら罰を与えるからね」
「了解です魔王様!」

 反射的に叫んで瞬間的にマズいと悟った。
 ば、ばば罰って何!?いきなりすぎて反応出来なかったんだけど!

 涙目になる俺にゆっくりと近付いてくる魔王様の瞳は、金色のままだ。
 林檎飴じゃなくても、べっこう飴のように綺麗なそれがどんどん近付い、て?

 一拍後、唇に柔らかい感触。

 え、と思う暇もなく離れていった魔王様は、妖艶な笑みを口元に浮かべていた。
 ……何をされたか分からない程、俺は馬鹿じゃない。

 青ざめるべきか赤らめるべきか迷ったらしい俺の顔は、どうやらオーバーヒートすることを選んだようだ。


【閑古鳥武器屋営業中】


(魔王様からの恋愛相談だなんて滅多に出来ない体験ですよね)
(アルジュは鈍感なとこあるし、もっと積極的に攻めさせりゃいいんじゃね?)
(……君も相当鈍感ですけどね)
(そうか?)
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