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閑古鳥武器屋休業中
突撃お城訪問
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俺の名前はアルジュ。
容姿性格共に、特に目立ったところもない平々凡々な町人だ。
親父の跡を継いでペリトルスという小さな町で武器屋を営んでいるものの、まあ売れ行きはそんなに良いとはいえない。
今日も今日とて閑古鳥が鳴く店内は……と続けるべきところだけど、最近は毎日が騒がしい。正確に言うと俺が騒がしくしているんだけど。
その原因は、一人の常連さん。
もっと正確に言うと、この世界の魔王様だ。
「…………あの、まお……じゃなくて、セ、セイ」
「何?」
「その、さ。ちょっと距離近くない、か?」
「近付いてるんだから当たり前だろう」
「おっ、おおお俺の顔なんて見てもちっとも面白くないだろ?」
「そんなことはないさ。どれだけ眺めていても飽きないよ」
現在地、ペリトルス町の武器屋。
いつもの所定位置に座る俺の横に、わざわざ椅子を持ってきて座った挙げ句、身体を密着させるようにして顔を寄せてくるのは、何様私様魔王様なルダセイク。
一般人で何の力もない俺は、その重圧めいたオーラにただただ耐えるしかない。それに加え、魔王と呼んでしまうと罰と称してキッ…………キスをしてこようとしてくるおまけ付きだ。何これしにたい。嫌がらせにも程がある。……なんて、本人には言えないけど!そもそも、どうしてルダセイクが俺に構うのかが分からない。
これといって悪いことはしてないはずだし……、からかって俺の反応を楽しんでるだけなのかな。
そんなの隣にいる相手に聞けばすぐ分かるってことは重々承知している。ただ、怖くて聞けないんだよ……!
僕のやることに文句でも?って絶対零度の視線と一緒に返ってくるのが容易に想像出来てしまう。うわ、自分の想像で軽く鳥肌立った。
別のこと!別のことを考えよう!
「そっ、そういえば、まぉ……セイ。少し前に城に戻らなくても大丈夫って言ってたけど、こ、こんなに長い間トップが不在のままで本当に平気なのか……?」
「アルジュが気にすることじゃないよ。……それとも何?暗に帰ってほしいって言ってるのかい?」
「ち!ちちちがっ……!!」
冷や汗がたらりと背中を伝う。
確かに元の平穏な日常に戻りたいという気持ちはあるけれど、魔王様に向かって帰れだなんて……自分で死亡フラグを立てているようなもんじゃないか。
弁解するために一度息を整えて、再び口を開いた、刹那。
「…………ルダ様、見ーっけた」
何とも緊張感のない間延びした声と共に、何もなかった空間にいきなり人が現れた。
ルダセイクもこの転移という魔法をよく使って現れてるから、それ自体に驚きはしなかったんだけど。
その現れた人が、なんというか、でかい。
え、アークよりもでかいんじゃないか?それなりに高い天井が低く感じられる。うわ、何食べたらこんなに成長するんだよ。あれか、何故かその手に持ってる大量のお菓子か。あと無駄にイケメンだな。
人並みはずれた身長にビックリしている俺を余所に、その人はルダセイクの方へゆっくりと歩みを進めてきた。
「ふーん、本当に人間に付きっきりなんだ。レオから聞いた時は嘘だと思ってたけど」
「……何の用だ、クーロン」
「そのレオが大変なことになってんの。医者もお手上げでさー。ルダ様なら対処法分かるかなーと思って」
「レオルガが?…………分かった、詳しい話は城で聞く」
クーロン、と呼ばれたでっかい人とルダセイクの会話を、傍観者の俺はただ黙って聞いていた。
聞く限りではどうやらルダセイクは城に戻ることになったようだ。……と、いうことは。
「(お帰り俺の平穏ライフ!)」
「アルジュ、行くよ」
「…………え?」
「何だい、その間抜けな顔は。折角だから僕の城に招待してあげるよ」
「いっ、いやいやいやいやそんな恐れ多いっ!!!」
「城の主である僕がこう言っているんだ。……それとも、簀巻きにして連行される方がいいのか?」
「喜んでご一緒させていただきます!」
ああ……、平穏が更に遠ざかってしまった気がする…………。
城に拉致……もとい出かけている間に泥棒に入られたら困るから急いで店を施錠していると、不意に大きな影が落ちた。
そっと横を見やると、俺をじっと見下ろしているクーロン君がいた。背が高い分、ルダセイクとは違った威圧感をひしひしと感じて顔が強張る。
一体何だろうと身構える俺に、クーロン君は聞き取るのがやっとな小さい声で話しかけてきた。
「……あのさ、人間」
「はっ、はひ!?」
「ルダ様のこと、幸せにしてね」
「……へ?あの、何のことだか」
「……俺じゃ、ダメだったから」
「いやだから俺に分かるように喋ってほしいなー……なんて」
「んー、いずれ分かるんじゃない?」
クーロン君はそんな投げやりな返答をした後、俺の疑問を解消することもなく、ルダセイクに一言声をかけて姿を消してしまった。
最後にちらりと目に入った横顔がどこか寂しげに見えたのは、俺の気のせいだろうか。
「……クーロンと何か話してたみたいだけど」
「え、あ、いや、は、話してたっていうか……意味がよく分からないことを言われたっていうか」
「…………そう。まあ妖精の言葉は時々不可思議なものがあるからね」
「へぇ、そうなん──…………ん?よう、せい?」
「ああ。言ってなかったけどクーロンはお菓子の妖精だよ。城に住んでる訳じゃないけど、僕の大切な友人の一人さ」
「……………………」
クーロン君はどう見ても巨人カテゴリだったとか、魔王様にも友人という定義があるんだとか、色々と言いたいことはあったけどいつものごとく呑み込んで。
その代わりに、行く準備が完了したという旨を伝えた。
「じゃあ、行こうか」
差し出された手を恐る恐る握ると同時に、俺の視界が真っ白に染まった。
容姿性格共に、特に目立ったところもない平々凡々な町人だ。
親父の跡を継いでペリトルスという小さな町で武器屋を営んでいるものの、まあ売れ行きはそんなに良いとはいえない。
今日も今日とて閑古鳥が鳴く店内は……と続けるべきところだけど、最近は毎日が騒がしい。正確に言うと俺が騒がしくしているんだけど。
その原因は、一人の常連さん。
もっと正確に言うと、この世界の魔王様だ。
「…………あの、まお……じゃなくて、セ、セイ」
「何?」
「その、さ。ちょっと距離近くない、か?」
「近付いてるんだから当たり前だろう」
「おっ、おおお俺の顔なんて見てもちっとも面白くないだろ?」
「そんなことはないさ。どれだけ眺めていても飽きないよ」
現在地、ペリトルス町の武器屋。
いつもの所定位置に座る俺の横に、わざわざ椅子を持ってきて座った挙げ句、身体を密着させるようにして顔を寄せてくるのは、何様私様魔王様なルダセイク。
一般人で何の力もない俺は、その重圧めいたオーラにただただ耐えるしかない。それに加え、魔王と呼んでしまうと罰と称してキッ…………キスをしてこようとしてくるおまけ付きだ。何これしにたい。嫌がらせにも程がある。……なんて、本人には言えないけど!そもそも、どうしてルダセイクが俺に構うのかが分からない。
これといって悪いことはしてないはずだし……、からかって俺の反応を楽しんでるだけなのかな。
そんなの隣にいる相手に聞けばすぐ分かるってことは重々承知している。ただ、怖くて聞けないんだよ……!
僕のやることに文句でも?って絶対零度の視線と一緒に返ってくるのが容易に想像出来てしまう。うわ、自分の想像で軽く鳥肌立った。
別のこと!別のことを考えよう!
「そっ、そういえば、まぉ……セイ。少し前に城に戻らなくても大丈夫って言ってたけど、こ、こんなに長い間トップが不在のままで本当に平気なのか……?」
「アルジュが気にすることじゃないよ。……それとも何?暗に帰ってほしいって言ってるのかい?」
「ち!ちちちがっ……!!」
冷や汗がたらりと背中を伝う。
確かに元の平穏な日常に戻りたいという気持ちはあるけれど、魔王様に向かって帰れだなんて……自分で死亡フラグを立てているようなもんじゃないか。
弁解するために一度息を整えて、再び口を開いた、刹那。
「…………ルダ様、見ーっけた」
何とも緊張感のない間延びした声と共に、何もなかった空間にいきなり人が現れた。
ルダセイクもこの転移という魔法をよく使って現れてるから、それ自体に驚きはしなかったんだけど。
その現れた人が、なんというか、でかい。
え、アークよりもでかいんじゃないか?それなりに高い天井が低く感じられる。うわ、何食べたらこんなに成長するんだよ。あれか、何故かその手に持ってる大量のお菓子か。あと無駄にイケメンだな。
人並みはずれた身長にビックリしている俺を余所に、その人はルダセイクの方へゆっくりと歩みを進めてきた。
「ふーん、本当に人間に付きっきりなんだ。レオから聞いた時は嘘だと思ってたけど」
「……何の用だ、クーロン」
「そのレオが大変なことになってんの。医者もお手上げでさー。ルダ様なら対処法分かるかなーと思って」
「レオルガが?…………分かった、詳しい話は城で聞く」
クーロン、と呼ばれたでっかい人とルダセイクの会話を、傍観者の俺はただ黙って聞いていた。
聞く限りではどうやらルダセイクは城に戻ることになったようだ。……と、いうことは。
「(お帰り俺の平穏ライフ!)」
「アルジュ、行くよ」
「…………え?」
「何だい、その間抜けな顔は。折角だから僕の城に招待してあげるよ」
「いっ、いやいやいやいやそんな恐れ多いっ!!!」
「城の主である僕がこう言っているんだ。……それとも、簀巻きにして連行される方がいいのか?」
「喜んでご一緒させていただきます!」
ああ……、平穏が更に遠ざかってしまった気がする…………。
城に拉致……もとい出かけている間に泥棒に入られたら困るから急いで店を施錠していると、不意に大きな影が落ちた。
そっと横を見やると、俺をじっと見下ろしているクーロン君がいた。背が高い分、ルダセイクとは違った威圧感をひしひしと感じて顔が強張る。
一体何だろうと身構える俺に、クーロン君は聞き取るのがやっとな小さい声で話しかけてきた。
「……あのさ、人間」
「はっ、はひ!?」
「ルダ様のこと、幸せにしてね」
「……へ?あの、何のことだか」
「……俺じゃ、ダメだったから」
「いやだから俺に分かるように喋ってほしいなー……なんて」
「んー、いずれ分かるんじゃない?」
クーロン君はそんな投げやりな返答をした後、俺の疑問を解消することもなく、ルダセイクに一言声をかけて姿を消してしまった。
最後にちらりと目に入った横顔がどこか寂しげに見えたのは、俺の気のせいだろうか。
「……クーロンと何か話してたみたいだけど」
「え、あ、いや、は、話してたっていうか……意味がよく分からないことを言われたっていうか」
「…………そう。まあ妖精の言葉は時々不可思議なものがあるからね」
「へぇ、そうなん──…………ん?よう、せい?」
「ああ。言ってなかったけどクーロンはお菓子の妖精だよ。城に住んでる訳じゃないけど、僕の大切な友人の一人さ」
「……………………」
クーロン君はどう見ても巨人カテゴリだったとか、魔王様にも友人という定義があるんだとか、色々と言いたいことはあったけどいつものごとく呑み込んで。
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