【R-18】呪いを解かない神官ちゃん

右折坊太郎

文字の大きさ
19 / 19
呪いの発現編

19、呪いを解かない神官ちゃん【終】

しおりを挟む
 翌朝。

 目を覚ましたユーリとミューは身支度を整えると、一階にある酒場のカウンターでローザに挨拶する。
『おはようございます』

「おはようっ!」
 ローザは明るく返し、他愛ない会話をしつつも、昨日とは二人の雰囲気が違うことを、すぐに察した。

(なるほどねぇ……)

 彼らが並んでいる時も、肩がもう少しでぶつかりそうなほど、距離が普段より近い。
 会話をしている表情に硬さはなく、頬が微かに赤みを差していた。

 互いに向ける瞳が、他者に向ける者とは違い、愛情を感じさせるようだ。

 今日の二人は、近場で出来る、簡単な薬草採取の依頼を受けるらしい。
 時間もそうかからず、午前中には終わってしまうことだろう。

 ローザは依頼の手続きを受理すると、笑みを浮かべて言う。
「ユーリ、ちょっとミューを借りるよ」
「はい、どうぞ」

 ミューは酒場の清掃業務もあるため、その件で何かあったのだろうと考え、ユーリは特に気に掛ける様子はなく、応じた。

「じゃあ、ミュー。ちょっとこっちに来な」
「は、はい……っ!」

 奥の別室へと行くローザの背を、慌ててミューは追いかける。

 ローザが扉の鍵を閉め、ミューは何かあったのか、不安になってオロオロとしていた。

 慌てふためく彼女に、ローザは微笑む。
「進展したみたいだね……」

 その声は優しく、ミューは安堵すると、頬を染めながら口を開いた。
「はい……っ。その、恋人になるとか、そういう話にはならなかったんですけど、エッチなこと、しました……っ!」

「――おめでとう!」
「ひゃぅうんっ!?」

 パァンと背中を強くローザに叩かれ、ミューは身体を跳ねさせた。

「これで、一歩前進って訳だ」
「うぅ……でも、良かったんですか……ローザさん?」

 背中にローザの手形がついてしまったのではないか、と思うほどの衝撃で、前のめりになりながら、彼女を見上げる。

「何がだい?」
「私が、ユーリさんの初めてを……」

「そのことかい? アタシは最初からそのつもりだったけどねぇ……」
「えっ……?」

「前も言っただろ? アタシには昔の男がいた。幸運にも、初めて同士で結ばれることが出来たんだ。その時の幸せな気持ちを、アンタにも知って欲しくてね。人間、初めてのことってのは、大事にしたいもんだろ?」

「そう、ですね……」
 ミューは昨夜の出来事を思い返し、ユーリの温もりと、互いを求め合う幸福に溢れた時間を、噛み締める。

「それにねぇ、ユーリにとっても、その方がいいと思ったんだよ」
 ローザの言葉に、ミューは首を傾げて、続きを待った。

「アタシは性経験があるし、どうしてもコッチがリードする流れになるだろうからね。初々しい初エッチってのも、体験させてやりたかったのさ」
 自信満々な表情で、ニヤリと笑う。

 ミューは、ユーリとローザが身体を重ねる姿を想像するが、ローザが余裕を失う光景が浮かばなかった。

 ローザには到底敵わないと、ミューは痛感しながら、
「――本当にありがとうございます」と晴れやかな顔で、笑った。

「さて、このまま引き止めるのも悪いね。今日の冒険に行ってきな!」
「はいっ!」

 二人は別室を出て、酒場のカウンターの方へと戻っていく。

「おかえり、ミューさん。それじゃあ、行こうか」
 待っていたユーリが、これまでより柔らかな笑顔を、向けてくる。

「はいっ!」
 ミューの返事は、自信に溢れていた。

 しかし、
「ちょっと、いいかいユーリ?」とローザが口を挟んだ。

「どうしました?」
 ユーリは警戒することなく、ローザに近付く。

 すると、ローザはごく自然な動きで、ユーリを抱きしめた――。

「へっ……?」
 何が起きたか理解出来ないユーリと、
「な、ななな……っ!?」
 顔を真っ赤に染め、動揺を隠せないミュー。

「――今日も頑張ってきな」
 ローザは、ユーリの耳元に、甘く囁く。

 立ち上ってくる、バラの香水と彼女の体臭が混ざったいい香り。
 ユーリの胸板に押し付けられている、柔らかく豊かな乳房。
 そして、好意を寄せている女性に、抱きしめられているという事実。

 ようやく理解したユーリは、身体を震わせ、タコのように顔が赤色になりながら、
「ろ、ろろろ、ローザさんっ……!?」と慌てている。

 ローザは艶やかに微笑み、ユーリの身体を離すと、
「さぁ、行った行った」と何事もなかったように言い放った。

 朝は集まっている冒険者達が少ない。
 今こちらを見ている者は誰もいない、と確認した上で、ローザは行動していた。

 頬が赤いまま、ユーリはローザに言われるままに、歩き出す。

 共に歩きながら、ミューは彼の横顔を見て、
(うぅ……私にはあんな大胆なこと、出来ないですぅ……っ!!)と自身が恋愛において、まだまだ未熟ということを感じずには、いられなかったのだった――。



 時刻は、昼。

 街のオープンカフェで、優雅に紅茶を飲んでいる女性が一人。

 ピンク色の髪に、美しい顔。
 色香を振りまく、大きな胸と尻。

 一般的なこの街の住民が着ているような、派手すぎないドレスを着ている。

 普通の人間のように見えるが、ユーリとミューに呪いをかけた、あのサキュバスだった。

 人間に化け、角や尻尾といった魔族の特徴になるものは消してある。

「――本当に美味しいわぁ~♪」
 ほんわかとした笑みで、頬に手を添えて、味を堪能している。

「気に入って頂けましたら、幸いです」
 近くにいた給仕の男が、彼女に見惚れつつ、ニッコリと笑った。

「――えぇ。とっても♪」
 サキュバスは、意味深に微笑んだ。

 確かに紅茶は、とても美味ではあった。
 だが、彼女の笑みは、そのことだけが理由ではない。

 現在、呪いを通して彼女に流れこんでくる――魔力。

 薬草採取の依頼を終え、ユーリとミューは酒場に戻った。
 呪いが発動したのか、二階にある彼の部屋で、二人は今、身体を重ねている。

 彼らがどのように愛し合っているかを、サキュバスは呪いを利用して、この場所で見ていた。

(良かったわねぇ……神官のミューちゃん♪)
 生じる魔力から、互いに向ける愛情がどんなものかを、彼女は感じている。

(愛し合う男女……やっぱりイイわぁ♡ ずっと、この二人の魔力を吸えるなんて、幸せぇ♪)
 また一口、紅茶を飲む。

 カップをテーブルに置き、一息つくと、ふと彼女は思った。

(愛の味は素晴らしいわぁ……でも、実際に愛されると、どれほど幸せな気持ちになれるのかしら?)
 サキュバスである彼女は、魔族として生まれ、自身が愛されたことがなかった。

 強大な力は持っていても、恐れられるばかりで、人を傷つけることを好まない彼女は、周囲から孤立してしまう。
 その結果が、同族である魔族によって、遺跡へ封じられることとなったのだ。

 魔族からは思想の違いから愛されず、かといって人間からは魔族として恐れられ、愛されることもない。

 愛されるという、実感。
 彼女は魔力を通して、ぼんやりとその気持ちを感じることが出来たが、その愛情は、自身に向けられたものでは、決してない。

 恋愛というものに対する興味が、ユーリとミューによって掻き立てられ、彼女の中に、ひとつの想いが生まれる。

 ――私も愛されたい。

 サキュバスは紅茶を飲み終え、何処で手に入れたやら、料金をしっかり払う。
 給仕の男達の感謝の声を背に、店を後にする。

 街へ繰り出す彼女の表情は、実に活き活きとしていて、楽しそうだった。

(ミューちゃんは、しばらく呪いを解かないでしょうし――私も混ざろうかしらぁ♪)

 幸い、ユーリはサキュバスのことを、認識している。
 交渉のやりよう次第では、仲良くなれる可能性もあるだろう。

 もっと愛を知るために、彼女は動き出す。

 呪いを解かない神官、ミューの恋路は、まだまだ波乱が続きそうであった――。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

憧れのお姉さんは淫らな家庭教師

馬衣蜜柑
恋愛
友達の恋バナに胸を躍らせる教え子・萌音。そんな彼女を、美咲は優しく「大人の身体」へと作り替えていく。「ねえ萌音ちゃん、お友達よりも……気持ちよくしてあげる」眼鏡の家庭教師が教えるのは、教科書には載っていない「女同士」の極上の溶け合い方。 女性向け百合(レズビアン)R18小説。男性は出てきません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【魔法少女の性事情・1】恥ずかしがり屋の魔法少女16歳が肉欲に溺れる話

TEKKON
恋愛
きっとルンルンに怒られちゃうけど、頑張って大幹部を倒したんだもん。今日は変身したままHしても、良いよね?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

処理中です...