10 / 44
ピクニック
しおりを挟む
「ついたー!」
「わぁ、素敵なところね」
「あの木の下にセッティングしようか」
シートを引いた上に座って食事をとる。本来貴族…しかも私達みたいな高位貴族がすることってそうないらしい。でも前世を思い出した私はどうしてもやりたくて、ピクニックを提案したのだ。
「エレナ、走ったら危ないよ」
そう言って私が走らないよう手を握るお兄様。ちょっと走るくらい危なくなんかないのに。
4人並んで目星をつけた木の下まで移動すると、ルーク様の場所指定のあとすぐに動いた使用人の手によってシートが既に敷かれていた。でもこれ、シートって言うにしてはしっかりしすぎてる気が…。
「ふわふわだ」
「寝転んでも痛くないよ」
そのちょっと地面を感じるのがいいのに。
ちょうど小石があるところ踏んじゃった。とか、ちゃんとシートの上に座れてる? って疑問に思うくらい地面の冷たさが伝わってきたりとか…貴族だからこそ、よりそういう事が思い出の一つになるのに。
思ってたのとはちょっと違うけど、まぁ仕方ないか。
「私、ニーナ様の隣ね!」
「ふふっ、嬉しいわ」
「なら僕はエレナの隣に座るから、ルークはニーナ様の隣に座りなよ」
「何でそうなるんだ」
何やらまた揉め出した二人は放っておいて、私はニーナ様にりんごの焼き菓子を勧める。細かく刻んだりんごを練り込んだパウンドケーキはいくらでも食べられちゃうくらい大好き。
「ニーナ様、これとっても美味しいんですよ」
「エレナ、デザートは後にしないと」
「ふふ。ありがとう、後でいただくわ」
決着がついたのか私の隣にお兄様、その隣にルーク様、その隣はニーナ様…要するに円になって座っているのだけど、むしろ私は最初から円になるつもりで横並びで座る発想はなかったわ。
ちなみにメニューは具だくさんサンドイッチとスコーン。デザートも外で食べやすいよう焼き菓子と果物にしてもらった。本当は唐揚げとか卵焼きとか、野菜も工夫して持ってきたかったけど、今回は断念したの。厨房に入れてもらえなかったのもあるけど、事前に料理長に確認したらそれだけでも結構な量だったから。
ちょっと炭水化物が多い気がしないでもないけど今日は特別ってことで。
「これは……?」
「ルークが今手に取っているのはサンドイッチって言うんだ。お父様が執務中でも手軽に食べられるようエレナが考案したもので、今ではうちの定番メニューだよ」
「へぇ」
「エレナが考案したの? すごいわね」
「えへへ」
推しに褒められちゃった。それにしても…ニーナ様って今日お兄様と会話した? 会った時もルーク様に気を取られて挨拶すら交わしてないんじゃない?
ニーナ様ってお兄様のことが好きなのよね?
「なぁに? さっきからずっと私の顔を見ているけど…」
「ニーナ様はお兄様のことが好きなのですか?」
「えっ!?」
「ごほっ、ごほっ」
えぇ、ちょっとお兄様汚いよぉ。すかさずハンカチを差し出すメイドはさすがね。
「きゅ、急に何!? す、好きじゃないわっ。婚約はお父様が決めた事で私は……」
好きなのね。すぐ隠しちゃったから顔が赤くなってるか分からなかったけど、この反応は間違いないわ。
「急に変なこと言わないで? 貴族は政略結婚が普通なんだよ。僕たちは何故か少し早く決まってしまったけど、エレナもあと3.4年したら婚約者が決まる……エレナに婚約者………」
「お兄様?」
「僕がエレナと婚約しようかな。って、睨むなよライナス。落ち込んだり怒ったり忙しいな」
それにしてもニーナ様はお兄様のどこが好きになったのかしら? 顔? もちろん優しいし性格も良いけど…私が見た限りではあまり話してない2人が性格を知っているとは思えないのよね。
「ニーナ様っ、あっちへ行きましょう」
お腹もいっぱいになったし、食べた分動かないとね。花がたくさん咲いている場所へと移動し、ニーナ様に花冠をプレゼントしよう。
「何を作っているんだ?」
「あっ、ルーク様。花冠です。コレをこうしてこうやって…それでコレをこうして……あれ? あんまり上手くできない」
「貸して」
ルーク様に渡すとあっという間に私が作りたかったものを作り上げてくれた。隣で見ていたニーナ様も完璧に作っているし、もしかして私って不器用? ………違うわね、お兄様の手にあるものも歪だから私達兄妹が不器用なんだわ。
「エレナにあげる」
「ニーナ様にあげたかったのに」
「ふふ。ありがとう。私もこれをエレナにあげるわ」
「僕のも…ちょっと歪だけどエレナにあげる」
お兄様はニーナ様に渡してほしかったけど…しつこくしすぎても逆効果になりそうだから、今日のところはいいことにしよう。それにしても花冠3つってめちゃくちゃ欲張りなお姫様みたい。
「そろそろお茶にしよう。はい、お手をどうぞ」
「ふふっ、ありがとうございます。ルーク様」
「あっエレナ…………えっと、お手をどうぞ?」
「っ! ありがとうございます」
お兄様がニーナ様をエスコートしてる!! 何あれめちゃくちゃ絵になる!! 写真…写真を撮りたい!
「エレナ? ライナスを取られて悲しいって感じでは…ないね。何してるの?」
「せめて手カメラで脳内に収めようかと思いまして」
誰かカメラを開発してくれないかな。贅沢は言わない。動画は我慢するからせめてカメラを!! あぁ、お父様がよく絵師を呼ぶのってこういうことだったのね。
「ふはっ、なにそれ」
仕方がないからルーク様にも教えて差し上げましょう。
「こうやって親指と人差指で四角を作ってそこに収めるのです」
「それが手カメラってやつなの?」
「はいっ!」
「可愛いね」
「そうですか? どちらかといえば美しいの方があっている気がします」
「ははっ、鈍感なところも魅力的だよ」
?? 鈍感? もしかしてっ!? ルーク様はニーナ様が好きなのね? 三角関係じゃない!!
「多分間違ってるよ」
「えっ?」
「全力で誤解してると思うけど、今はまだそのままでいいよ」
「???」
シートに戻り、それぞれ同じ場所に座ってお茶をいただく。本当はもう少しここにいたかったけど、私が眠くなってしまったので屋敷に戻ることになった。
*
「本当仲良いいよね。ニーナ嬢もそう思うでしょ?」
「でも…エレナを可愛がってしまう気持ちは分からなくもないです」
そう言って自身の膝を枕にして眠る彼女の頭を撫でるニーナ。
「でしょ? 僕の妹は世界で一番可愛いんだ」
「それは同感だけどね。でもさ、君たち婚約者同士なんだからもう少し歩み寄りなよ。さっきもエレナは……いや、何でもない」
「気になるだろ、教えろよ。ニーナ様も気になるでしょ?」
「えぇ、少し」
「僕とエレナの秘密だよ」
馬車の中で3人がこんな話をしていたなんて、推しの膝枕で爆睡してしまっていた私の耳には届かなかった。
推しの膝枕で寝た記憶がないなんてっ!!
「わぁ、素敵なところね」
「あの木の下にセッティングしようか」
シートを引いた上に座って食事をとる。本来貴族…しかも私達みたいな高位貴族がすることってそうないらしい。でも前世を思い出した私はどうしてもやりたくて、ピクニックを提案したのだ。
「エレナ、走ったら危ないよ」
そう言って私が走らないよう手を握るお兄様。ちょっと走るくらい危なくなんかないのに。
4人並んで目星をつけた木の下まで移動すると、ルーク様の場所指定のあとすぐに動いた使用人の手によってシートが既に敷かれていた。でもこれ、シートって言うにしてはしっかりしすぎてる気が…。
「ふわふわだ」
「寝転んでも痛くないよ」
そのちょっと地面を感じるのがいいのに。
ちょうど小石があるところ踏んじゃった。とか、ちゃんとシートの上に座れてる? って疑問に思うくらい地面の冷たさが伝わってきたりとか…貴族だからこそ、よりそういう事が思い出の一つになるのに。
思ってたのとはちょっと違うけど、まぁ仕方ないか。
「私、ニーナ様の隣ね!」
「ふふっ、嬉しいわ」
「なら僕はエレナの隣に座るから、ルークはニーナ様の隣に座りなよ」
「何でそうなるんだ」
何やらまた揉め出した二人は放っておいて、私はニーナ様にりんごの焼き菓子を勧める。細かく刻んだりんごを練り込んだパウンドケーキはいくらでも食べられちゃうくらい大好き。
「ニーナ様、これとっても美味しいんですよ」
「エレナ、デザートは後にしないと」
「ふふ。ありがとう、後でいただくわ」
決着がついたのか私の隣にお兄様、その隣にルーク様、その隣はニーナ様…要するに円になって座っているのだけど、むしろ私は最初から円になるつもりで横並びで座る発想はなかったわ。
ちなみにメニューは具だくさんサンドイッチとスコーン。デザートも外で食べやすいよう焼き菓子と果物にしてもらった。本当は唐揚げとか卵焼きとか、野菜も工夫して持ってきたかったけど、今回は断念したの。厨房に入れてもらえなかったのもあるけど、事前に料理長に確認したらそれだけでも結構な量だったから。
ちょっと炭水化物が多い気がしないでもないけど今日は特別ってことで。
「これは……?」
「ルークが今手に取っているのはサンドイッチって言うんだ。お父様が執務中でも手軽に食べられるようエレナが考案したもので、今ではうちの定番メニューだよ」
「へぇ」
「エレナが考案したの? すごいわね」
「えへへ」
推しに褒められちゃった。それにしても…ニーナ様って今日お兄様と会話した? 会った時もルーク様に気を取られて挨拶すら交わしてないんじゃない?
ニーナ様ってお兄様のことが好きなのよね?
「なぁに? さっきからずっと私の顔を見ているけど…」
「ニーナ様はお兄様のことが好きなのですか?」
「えっ!?」
「ごほっ、ごほっ」
えぇ、ちょっとお兄様汚いよぉ。すかさずハンカチを差し出すメイドはさすがね。
「きゅ、急に何!? す、好きじゃないわっ。婚約はお父様が決めた事で私は……」
好きなのね。すぐ隠しちゃったから顔が赤くなってるか分からなかったけど、この反応は間違いないわ。
「急に変なこと言わないで? 貴族は政略結婚が普通なんだよ。僕たちは何故か少し早く決まってしまったけど、エレナもあと3.4年したら婚約者が決まる……エレナに婚約者………」
「お兄様?」
「僕がエレナと婚約しようかな。って、睨むなよライナス。落ち込んだり怒ったり忙しいな」
それにしてもニーナ様はお兄様のどこが好きになったのかしら? 顔? もちろん優しいし性格も良いけど…私が見た限りではあまり話してない2人が性格を知っているとは思えないのよね。
「ニーナ様っ、あっちへ行きましょう」
お腹もいっぱいになったし、食べた分動かないとね。花がたくさん咲いている場所へと移動し、ニーナ様に花冠をプレゼントしよう。
「何を作っているんだ?」
「あっ、ルーク様。花冠です。コレをこうしてこうやって…それでコレをこうして……あれ? あんまり上手くできない」
「貸して」
ルーク様に渡すとあっという間に私が作りたかったものを作り上げてくれた。隣で見ていたニーナ様も完璧に作っているし、もしかして私って不器用? ………違うわね、お兄様の手にあるものも歪だから私達兄妹が不器用なんだわ。
「エレナにあげる」
「ニーナ様にあげたかったのに」
「ふふ。ありがとう。私もこれをエレナにあげるわ」
「僕のも…ちょっと歪だけどエレナにあげる」
お兄様はニーナ様に渡してほしかったけど…しつこくしすぎても逆効果になりそうだから、今日のところはいいことにしよう。それにしても花冠3つってめちゃくちゃ欲張りなお姫様みたい。
「そろそろお茶にしよう。はい、お手をどうぞ」
「ふふっ、ありがとうございます。ルーク様」
「あっエレナ…………えっと、お手をどうぞ?」
「っ! ありがとうございます」
お兄様がニーナ様をエスコートしてる!! 何あれめちゃくちゃ絵になる!! 写真…写真を撮りたい!
「エレナ? ライナスを取られて悲しいって感じでは…ないね。何してるの?」
「せめて手カメラで脳内に収めようかと思いまして」
誰かカメラを開発してくれないかな。贅沢は言わない。動画は我慢するからせめてカメラを!! あぁ、お父様がよく絵師を呼ぶのってこういうことだったのね。
「ふはっ、なにそれ」
仕方がないからルーク様にも教えて差し上げましょう。
「こうやって親指と人差指で四角を作ってそこに収めるのです」
「それが手カメラってやつなの?」
「はいっ!」
「可愛いね」
「そうですか? どちらかといえば美しいの方があっている気がします」
「ははっ、鈍感なところも魅力的だよ」
?? 鈍感? もしかしてっ!? ルーク様はニーナ様が好きなのね? 三角関係じゃない!!
「多分間違ってるよ」
「えっ?」
「全力で誤解してると思うけど、今はまだそのままでいいよ」
「???」
シートに戻り、それぞれ同じ場所に座ってお茶をいただく。本当はもう少しここにいたかったけど、私が眠くなってしまったので屋敷に戻ることになった。
*
「本当仲良いいよね。ニーナ嬢もそう思うでしょ?」
「でも…エレナを可愛がってしまう気持ちは分からなくもないです」
そう言って自身の膝を枕にして眠る彼女の頭を撫でるニーナ。
「でしょ? 僕の妹は世界で一番可愛いんだ」
「それは同感だけどね。でもさ、君たち婚約者同士なんだからもう少し歩み寄りなよ。さっきもエレナは……いや、何でもない」
「気になるだろ、教えろよ。ニーナ様も気になるでしょ?」
「えぇ、少し」
「僕とエレナの秘密だよ」
馬車の中で3人がこんな話をしていたなんて、推しの膝枕で爆睡してしまっていた私の耳には届かなかった。
推しの膝枕で寝た記憶がないなんてっ!!
57
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は反省しない!
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。
性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……
もふもふ子犬の恩返し・獣人王子は子犬になっても愛しの王女を助けたい
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
カーラは小国モルガン王国の王女だ。でも、小国なので何かと大変だ。今国は北の大国ノース帝国と組んだ宰相に牛耳られており、カーラは宰相の息子のベンヤミンと婚約させられそうになっていた。そんな時に傷ついた子犬のころちゃんを拾う王女。
王女はころちゃんに癒やされるのだ。そんな時にいきなりいなくなるころちゃん。王女は必死に探すが見つからない。
王女の危機にさっそうと現れる白い騎士。でもその正体は……
もふもふされる子犬のころちゃんと王女の物語、どうぞお楽しみ下さい。
折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!
たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。
なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!!
幸せすぎる~~~♡
たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!!
※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。
※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。
短めのお話なので毎日更新
※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。
※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。
《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》
※他サイト様にも公開始めました!
実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます
さら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。
生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。
「君の草は、人を救う力を持っている」
そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。
不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。
華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、
薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。
町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。
追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~
メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」
公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。
「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」
王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。
辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。
「それを……私に、飲ませろ」
彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。
アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。
「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」
「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……?
追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる