推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜

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りんご農園

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「お待たせしました。お兄様じゃなく私に用って…?」
「まぁ座ってよ」

 ルーク様は我が物顔でソファーに座ってるけど、ここ私の家だからね。

「この間のピクニックは楽しかったね」
「はい! また行きたいです。それで…どうされたんですか?」

 質問には答えずメイドに頼んでお茶を淹れてもらい、優雅に飲んで……いや、ここ私の家だからね。大事なことだから2回言っちゃったよ。
 
「そんな急かさなくてもいいじゃないか。それよりエレナはりんごが好きなの?」
「そうですけど…」
「うちの公爵領はりんご農園がたくさんあるんだ。もぎたてのりんご、食べたくない?」

 それは…なんて魅力的な話なのっ! 前世は特段りんごが好きというわけじゃなかった。でも風邪をひいた時にすりおろしりんごをねだったらすごく懐かしい気持ちが広がって、それからりんごを食べると心がぽかぽかするから大好きになったの。

「ふっ。気になるみたいだね。もうすぐ収穫期に入るから視察を兼ねて一緒に行こう」
「本当ですかっ!? りんご、楽しみですっ! えっと…今日はその誘いに来てくださったのですか?」
「まぁね。ライナスには内緒だよ」

 内緒は……難しいんじゃないかな。私も嘘が下手だし。

「もちろん僕も行くよ」

 !?

「はぁぁ。来るの早すぎだよライナス」

 実は元々お兄様と約束していたようで、その後2人は剣術がどうとか、今こういう勉強をしていてとか、最終的にはりんごのメニューをどれだけ知っているかとか、私を蚊帳の外にして話をしだしたので、仲良いなぁってぼーっとしていたらいつの間にか寝てしまっていた。

 どこでも寝るねって言われたのは前世だったか今世だったか…それにしてもわずか数秒しかお兄様に内緒にできなかったな。







「孤児院…?」
「そう。ここは孤児院がやってるりんご農園で、僕は去年から数回ここに来ているけど、収穫期に来るのは初めてなんだ」
「私もお兄様と領内の孤児院に行ったことがあるんですけど…」
「全然違うね」

 うちの侯爵領内の孤児院だって別に悪いところはない。清潔にしてあるし、3食問題なく食べているみたいだし、みんな仲が良くて楽しそうにしていた。

「12歳になったら孤児院から出なければならないし、困らないようこのりんご農園や他にも仕事を覚える場を設けているんだ」
「そうなんですね」

 確かうちの領も12歳って聞いた気がする。小学校卒業と同時に社会に放り出されるって…いくら前世より早熟な世界とはいえ何も持ってない状況って不安よね。

「お兄様…」
「うん。帰ったらお父様に相談してみよう」

 まぁ貴族の私達も前世と比べ物にならないくらい幼いうちから大人な対応を求められるし…私は大人だった記憶があるからだけど、小学生が孤児院の子供達の将来を考えるって思うと変な感じね。

「それじゃあ向かおうか」

 孤児院の裏にあるりんご農園は思っていたより大きくなかったけど、他にも色々育てているようだった。
 
 こうやって仕事を手伝っているのは10歳から12歳の私より少し年上の子供たちが中心のよう。よかった…もっと小さい頃から働かなきゃいけないとかじゃなくて。

「あっ、ルーク様だ!」
「ほんとだっ」
「ルーク様~」
「一緒にいるのって誰だろ?」
「お友達かな?」

 お兄様やルーク様よりも背の高い子が近付いてきて、こうやってみると2人はまだまだ子供なんだなぁと、それなのにしっかりしていて偉いなぁなんてしみじみと思ってしまう。

 ルーク様が私達をみんなに紹介し、私は今からりんごの収穫へ向かう女の子に教えてもらいながらりんご狩りへ行くことに。まぁ、収穫なんだけどね? もちろんちゃんとするけど、いちご狩りが楽しかった記憶のある私の気分は、りんご狩りなの。

「エレナ様、食べてみますか?」
「いいの? ありがとう」

 いくつか収穫した後、味に問題がなくてもキズがあって出荷は難しいであろうりんごを手渡してくれた。

 ん~。甘くて美味しい。もぎたてだからとってもジューシー。

「可愛い…」
「えっ?」
「いえっ。美味しいですか?」
「とっても! いつものより甘い気がするわ」

 他にも出荷できないりんごを使って夕食を作るから、ぜひ食べていってほしいと言われお言葉に甘えることに。

「私、もうすぐここを出て、りんご農園をやっている老夫婦のところでお世話になるんです。今よりもっと大きな農園で、今から楽しみで…でもきっとエレナ様にはもう会えないですよね?」
「そんなことないわ! 必ず会いに行くって約束する」

 ありがとうございますと涙を流しながら喜んでくれた彼女を見て、自領の孤児院へもっと行こうって思えた。それにどこかよそよそしい貴族令嬢達よりちゃんと友達になれそうだし、気を張らずにいれるこの場所は落ち着くしね。

「楽しんでるみたいだね」
「ルーク様っ!」

 収穫の途中でルーク様は責任者の方と出荷先、数や価格の相談に行ってしまわれ、勉強のためとお兄様も同席していた。だから私は孤児院のみんなと夕食の準備をしていたのだけど…。

「何を作っているの?」
「りんごのクッキーです。実はさっき昨日作った物を1枚頂いて、とっても美味しかったので作り方を教わっていたんです」

 こりゃ侯爵家のデザートに出ないはずだわって納得するほどシンプルな見た目だけど、知ってしまったからには明日から作ってもらうつもり。

「お兄様とルーク様も一緒にどうですか?」
「いいよ。何をすればいい?」
「僕も手伝うよ」

 みんなで作ったクッキーは他のどの料理よりも美味しく感じたし、何よりすっごく楽しかった。普段料理なんてしないから余計にそう思ったのかもしれないけど…。

 今度はニーナ様もお誘いして、またみんなで作りたいな。



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