推しの悪役令嬢を幸せにします!

みかん桜

文字の大きさ
36 / 44

再び王女殿下とお茶会

しおりを挟む
 全く待ち望んでいない日がやってきた。無能判断されたと思って安心していたのに、ついに王女殿下に呼び出されてしまったのだ。

「はぁぁ。何を言われるんだろう」

 物凄く帰りたい。何でこういう時ってスムーズに移動できてしまうんだろう。馬車が壊れるとか、王城の入口で止められるとか、そういうの期待していたのに。

「お待ちしておりました。ご案内いたします」
「ええ。お願い」

 王女様の気が変わってお茶会なくなりました、とかにならない………みたいね。案内された東屋には既に王女が席に着いているから。

「お待たせして申し訳ありません」
「いいから早く座りなさい」
「はい」

 むしろ気を使って少し遅れてきてよね。なんて言えないけど。

「何故ナターシャが予定と違う行動をしているの?」
「えっ!?」

 席に座った瞬間、いきなりそれですか。

「だからっ、なんでナターシャが攻略できてないのって聞いてるのよ」
「ハーロウ伯爵令嬢様は、お兄様と婚約関係になりたいと思っていないようですが…」
「それがなに?」

 えぇ……。

「ナターシャの気持ちなんてどうでもいいのよ。早くライナスを攻略してくれないと、私がライナスと婚約できないじゃない」

 色々と理解し難い…。お兄様との婚約は既定路線のように話しているけど、そもそも第三王子殿下の婚約者だって自覚ないの?

「私、協力してっていったわよね?」
「えっと…」
「転生者でもないくせに物語を変えるなんてありえないわ」
「そう言われましても…」

 王家も王家だよ。なんで婚約前にもっとちゃんと調べないかなぁ。

「去年はナターシャがライナス攻略に動いていたし、あなたもライナスと離れて兄離れをしていたから安心していたけど、全くナターシャに靡いてないじゃない」

 知らねーよって言いたいわ。

「お兄様やニーナ様と会う時間が中々取れず、お二人の近況を私はよく知らないのです」
「確かに…。今まで義姉になるからとニーナと仲良くしていたみたいだけど、ここ数ヶ月はニーナとの接触も控えているみたいね」

 この人…もしかしてずっと私に監視を付けてたの? ルーク様やお兄様に言われた通り、接触を控えておいてよかったわ。

「私に協力するって言ったんだから、ちゃんとしなさいよ」

 えぇっと、私って協力するって言ったっけ? 濁したよね?

「とりあえず、軌道修正なさい」
「あの…ちなみにですが、ハーロウ伯爵令嬢様からどのようにお兄様を奪う予定なのですか?」
「伯爵令嬢でしょう? なんとでもなるわ」

 おぉ、それはまた……力技で奪うってことなのね。でもそんな簡単に上手くいくとは思えないけど。

 ナターシャが譲る譲らないの前に、特に問題のない公爵令嬢との婚約を解消し伯爵令嬢と婚約。その時点で公爵家が黙っているはずがないし、更に伯爵令嬢との婚約も解消して我が国の王子の婚約者である他国の王女を奪うって…マーリン侯爵家終了しますが。

 そもそも、お兄様抜きにしたって今更ニーナ様を漫画通りの悪役令嬢になんてさせないわよ?

 ん? ちょっとまって? 王女殿下が何かしら問題行動を起こせば…第三王子殿下との婚約を解消できたりしちゃう? 国が絡むから難しいかしら? でもねぇ…この人お兄様を手に入れるためなら何でもしそうだし。
 正直なところ、ルーク様とナターシャの関係の方が私は気になっているのだけど。

「この1年で何とかなさい」

 おっと、危ない危ない。自分の世界に入り込んでしまっていたわ。

「1年ですか?」
「えぇ。だって卒業したらライナスが悪役令嬢と結婚しちゃうじゃない。好きでもない人と結婚させられるなんて、可哀想」

 お兄様はニーナ様を婚約者として大切にされているし、良い関係ではあると思うよ? そもそも貴族なんだから政略結婚なんて当たり前だし。なにより、まるでお兄様が王女殿下を好いているような言い方、やめてほしいわ。

「ちょっと! 聞いてるの!?」
「も、もちろんです」
「なら私が今なんて言ったか言ってみなさい」
「学園卒業後、お兄様がニーナ様と結婚すると…」
「聞いてないじゃない!」

 ゴンッ

「いたっ」

 えっ……今私、紅茶の入ったカップを投げつけられた? ちゃんと聞いていたのに? カップが額に当たってすごく痛い。紅茶が冷めていたのが不幸中の幸いね。

「っ! サナ様っ」

 あぁ…このメイド、名前で呼ぶことを許可されているのね。

 我が国の王宮では、メイドは給仕くらいしか主人と接点がない。そもそも殿下は母国から侍女を連れてきているしね。その侍女がメイドの態度を容認するほど、王女がこのメイドを気に入っているってことかしら。
 
「熱い紅茶が飲みたいわ」
「かしこまりました」

 拭く物を差し出すこともなく、着替えを誘導することもなく、私なんていないと思っているのか一切心配しないメイド。殿下専属でもないくせに。

 従順すぎる彼女がお気に入りなのね。

 はぁぁ。当たったところがたんこぶになってるじゃない。冷やせば治ると思うけど、前世と違って令嬢の怪我って悪いイメージが付いてしまうんだから! 本当やめてほしい。

 早く帰って冷やしたい。でもきっとまだ退席の許可をもらえないわよね。…なんて思っていたら、熱い紅茶を頼まれた先程のメイドが戻ってきた。嬉々としてカップに注ごうとしたメイドの手を止め、ティーポットを奪い取った王女。

「あなたは下がっていなさい」
「はい!」

 えっ? 何? なんでこっちに…何をする気なの!?

「きゃあ」

 あっつ! いくら身分が上だからってその行動は人としてどうなの? 王女が熱々の紅茶を私の頭に注ぎ始めたのだ。メイドも事前に知っていたのか、熱湯をかけられている私を楽しそうに見ている。

「で、殿下、お、おやめくださいっ」
「あなたが悪いのよっ!」

 いや、私は何も悪くない。熱湯をかけられるほど悪いことなんて一つもしてないじゃない。

「今後、努力いたしますのでっ」
「チャンスは長くあげたはずよ」
「今年中と先程っ」

 私が逃げられないよう腕を掴み、広範囲に火傷を負わせたいのか、ゆっくり的確に私に注いでくる。意地が悪すぎるわ。

「気が変わったわ。一ヶ月以内に何とかなさい。王族である私の話を聞いていなかったあなたが悪いのよっ!」

 何なのよこの人! 何で私がこんな目に合わなきゃいけないのよ。

「そもそもこの国にいるあなたが悪いのよ。ティーポットが小さかったことに感謝するのね」

 小説のように私が誘拐されなかった事を責められる筋合いなんてないわ!
 それにティーポットが小さいなんてことはない。だってどう見たって2人用の物ではなく、5~6人用の大容量のティーポットだから。

 全てをかけ終わったあと、一人の騎士が私達がいる東屋にやってきた。

「失礼いたします。王女殿下、そろそろお時間です」

 王女を呼びに来た騎士は私を見て一瞬驚いた顔をしていたけど、無視することに決めたみたい。仕方ないわよね。加害者と被害者が逆ならまだしも、この状況、自分を守るためには無視が一番正しいわ。

「すぐ行くわ。……いいわね、今度はちゃんとやるのよ」

 絶対火傷した。顔が痛いもん。たんこぶだけならまだ良かった。許しはしないけど痕は残らないから。火傷は…痕が残らないと言いけど…。

 流石に我慢ならないわ。お兄様と、お父様にも報告しましょう。……一応、ルーク様にもお伝えしたほうがいいわよね。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は反省しない!

束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢リディス・アマリア・フォンテーヌは18歳の時に婚約者である王太子に婚約破棄を告げられる。その後馬車が事故に遭い、気づいたら神様を名乗る少年に16歳まで時を戻されていた。 性格を変えてまで王太子に気に入られようとは思わない。同じことを繰り返すのも馬鹿らしい。それならいっそ魔界で頂点に君臨し全ての国を支配下に置くというのが、良いかもしれない。リディスは決意する。魔界の皇子を私の美貌で虜にしてやろうと。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

残念な顔だとバカにされていた私が隣国の王子様に見初められました

月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
公爵令嬢アンジェリカは六歳の誕生日までは天使のように可愛らしい子供だった。ところが突然、ロバのような顔になってしまう。残念な姿に成長した『残念姫』と呼ばれるアンジェリカ。友達は男爵家のウォルターただ一人。そんなある日、隣国から素敵な王子様が留学してきて……

もふもふ子犬の恩返し・獣人王子は子犬になっても愛しの王女を助けたい

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
カーラは小国モルガン王国の王女だ。でも、小国なので何かと大変だ。今国は北の大国ノース帝国と組んだ宰相に牛耳られており、カーラは宰相の息子のベンヤミンと婚約させられそうになっていた。そんな時に傷ついた子犬のころちゃんを拾う王女。 王女はころちゃんに癒やされるのだ。そんな時にいきなりいなくなるころちゃん。王女は必死に探すが見つからない。 王女の危機にさっそうと現れる白い騎士。でもその正体は…… もふもふされる子犬のころちゃんと王女の物語、どうぞお楽しみ下さい。

折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!

たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。 なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!! 幸せすぎる~~~♡ たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!! ※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。 ※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。 短めのお話なので毎日更新 ※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。 ※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。 《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》 ※他サイト様にも公開始めました!

実家を追い出され、薬草売りをして糊口をしのいでいた私は、薬草摘みが趣味の公爵様に見初められ、毎日二人でハーブティーを楽しんでいます

さら
恋愛
実家を追い出され、わずかな薬草を売って糊口をしのいでいた私。 生きるだけで精一杯だったはずが――ある日、薬草摘みが趣味という変わり者の公爵様に出会ってしまいました。 「君の草は、人を救う力を持っている」 そう言って見初められた私は、公爵様の屋敷で毎日一緒に薬草を摘み、ハーブティーを淹れる日々を送ることに。 不思議と気持ちが通じ合い、いつしか心も温められていく……。 華やかな社交界も、危険な戦いもないけれど、 薬草の香りに包まれて、ゆるやかに育まれるふたりの時間。 町の人々や子どもたちとの出会いを重ね、気づけば「薬草師リオナ」の名は、遠い土地へと広がっていき――。

追放令嬢の発酵工房 ~味覚を失った氷の辺境伯様が、私の『味噌スープ』で魔力回復(と溺愛)を始めました~

メルファン
恋愛
「貴様のような『腐敗令嬢』は王都に不要だ!」 公爵令嬢アリアは、前世の記憶を活かした「発酵・醸造」だけが生きがいの、少し変わった令嬢でした。 しかし、その趣味を「酸っぱい匂いだ」と婚約者の王太子殿下に忌避され、卒業パーティーの場で、派手な「聖女」を隣に置いた彼から婚約破棄と「北の辺境」への追放を言い渡されてしまいます。 「(北の辺境……! なんて素晴らしい響きでしょう!)」 王都の軟水と生ぬるい気候に満足できなかったアリアにとって、厳しい寒さとミネラル豊富な硬水が手に入る辺境は、むしろ最高の『仕込み』ができる夢の土地。 愛する『麹菌』だけをドレスに忍ばせ、彼女は喜んで追放を受け入れます。 辺境の廃墟でさっそく「発酵生活」を始めたアリア。 三週間かけて仕込んだ『味噌もどき』で「命のスープ」を味わっていると、氷のように美しい、しかし「生」の活力を一切感じさせない謎の男性と出会います。 「それを……私に、飲ませろ」 彼こそが、領地を守る呪いの代償で「味覚」を失い、生きる気力も魔力も枯渇しかけていた「氷の辺境伯」カシウスでした。 アリアのスープを一口飲んだ瞬間、カシウスの舌に、失われたはずの「味」が蘇ります。 「味が、する……!」 それは、彼の枯渇した魔力を湧き上がらせる、唯一の「命の味」でした。 「頼む、君の作ったあの『茶色いスープ』がないと、私は戦えない。君ごと私の城に来てくれ」 「腐敗」と捨てられた令嬢の地味な才能が、最強の辺境伯の「生きる意味」となる。 一方、アリアという「本物の活力源」を失った王都では、謎の「気力減退病」が蔓延し始めており……? 追放令嬢が、発酵と菌への愛だけで、氷の辺境伯様の胃袋と魔力(と心)を掴み取り、溺愛されるまでを描く、大逆転・発酵グルメロマンス!

そのご寵愛、理由が分かりません

秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。 幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに—— 「君との婚約はなかったことに」 卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り! え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー! 領地に帰ってスローライフしよう! そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて—— 「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」 ……は??? お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!? 刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり—— 気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。 でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……? 夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー! 理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。 ※毎朝6時、夕方18時更新! ※他のサイトにも掲載しています。

処理中です...