インビジブル(超・本格推理小説)

冨井春義

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2019年7月

第三の死体

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「忙しいところ、時間を取らせてすまなかったな。俺たちは少し社内を見物させてもらうよ」

 花城由紀恵と松下真一からの聞き取り捜査を終えた山科が言った。

「隠すものなんて何もありませんから、ご自由にご覧ください」

 花城由紀恵がそう応えた。

 山科警部と宮下真奈美のふたりは階段で三階に上った。そこは広いスペースに何かの機材がたくさん置かれているが、誰も居ないし、何も動いていない、ただ閑散とした空間であった。

 ここで山科が真奈美に問いかけた。

「なあ宮下君、やつらふたりの証言に嘘はなかったか?」

「はい、嘘は無いようです」

「やつらが犯人という可能性は」

「ありませんね。あのふたりは犯人ではなさそうです」

「そうか。しかし以前の事件のように、やつらが心で嘘をついている可能性は無いかね」

 真奈美は少し考えながら答えた。

「可能性はゼロではありませんが、それは彼らが私のサトリの能力に気づいている場合です。しかも、かなりの精神力の強さが要求されます。ですのでその可能性はかなり低いと思います」
「するとあのふたりは容疑者から除外するとして、やはり残るは三上、そして山口か」

 真奈美は三階のフロア内を歩きながら、ふとした疑問を口にした。

「ここの社長は秘密主義で、この三階には井土さんと由紀恵さんしか入れないということでしたが、このフロアの入り口も、その研究室の扉も鍵がありませんよね。これなら誰でも自由に出入りできるじゃないですか」

「本当だな。ただ社長がそう命じていただけで、社員はそれに従っていたに過ぎない。実際は誰もが社内を自由に歩き回れたわけだ。つまり屋上だって、誰でも上れたはずだ」

「このビルはすべての出入り口は監視カメラで監視されています。しかし社内にはカメラはありません。いったん社内に入れば、どこへでも自由に動き回れるんですよね」

「だが出入り口が監視されているということは、やはり外部犯の線は消える。そして井土が亡くなり、花城由紀恵と松下真一も容疑者から除外された。つまり犯人は、三上か、それとも山口かのいずれかだ。山口がいちばん怪しいが、次は三上の聞き取り捜査からだな。行こう」

 (ああ、やはり山口君が第一容疑者なんだ・・・)

 真奈美はかなり暗い気持ちになった。

 そのときであった。どこからかボンとなにかが破裂するような音が響いて来た。かなり大きな音である。山科がとっさに姿勢を低くして身構えた。真奈美は耳を押さえて目を瞑っている。

「なんだ、今のは。爆発音みたいだったぞ」

「警部、裏手の方が何か騒がしいです。あ、ここの工場ですよ」

「行ってみよう。急ぐぞ」

 ふたりは慌てて階段を駆け下りた。二階に居たふたりも、後から降りてきているようだが、構っている暇は無い。

「一階には裏口があります。そこから工場の方に出られるはず」

 真奈美の言う通り、裏口を開けるとそこから平屋建ての大きな工場が見えた。開け放したシャッターの入り口から炎と黒い煙が立ち上っている。

「警部、人です・・燃えてる!」

 まさに真奈美の言いう通り、シャッターの入り口から火だるまの人物が飛び出して来た。
 そのとき工場の近くに停まっていた古い型のベントレーの中からひとりの男が飛び出し、自ら着ていたスーツの上着を素早く脱ぐと、火だるまの人物に被せながら叫んだ。

「誰か、早くもっと何かかける物を!消火器も!早く火を消し止めなければ」

 山科と真奈美もスーツの上着を脱いで、その人物に被せた。三人の必死の消化でなんとか燃えていた人物の火は消し止められたが、全身に酷い火傷を負っていて、もはや虫の息である。

「君たちはいったい何をやっていたんだ!」

 最初に火を消しにかかっていたスーツの男が山科と真奈美を怒鳴りつけた。

「ん、あんたは・・」

「あ、金田耕一郎さん?」

 間違いなくその男は、21世紀の金田一耕助こと、名探偵・金田耕一郎その人であった。

「あ、ちょっと待て宮下真奈美君、私に近づくな。君が超能力捜査官であることは分かっている」

 そう言って真奈美から大きく間合いを取るように飛びのいた金田は、胸ポケットからイヤホンを取り出し耳に装着した。宮下のサトリの耳に、リズミカルな声が鳴り響く。

 (これは・・・般若心経?)

「これで君にも私の心は読めまい。山科さん、宮下君。あなたたちが居てなんという失態だ。新たな犠牲者を出してしまったじゃないか」
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