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いたたまれないにも程がある
しおりを挟む空き教室の中で暫く身を寄せ合う。
もうそろそろ教室に行かなければ授業が始まってしまう。
それはわかっている。
わかっているけれど。
(……なんか、離れたくねえな)
以前はあんなに嫌で嫌で仕方がなかったのに。
オレよりも上背のある男に抱きしめられて、安心なんて出来るはずがないのに。
なのに、こうして一度想いを自覚してしまった後ではこの腕の中が心地よくて離れ難い。
(って、何考えてんだよオレ!)
自分の考えに自分で突っ込みを入れる。
(離れ難いじゃねえよ離れろよ授業始まるだろ……!離れろ!離れるんだ……!)
自分に必死でそう言い聞かせているというのに。
「森ちゃん」
「……っ」
肩口に埋めた顔をぐりぐりと擦り付けられ、愛おしそうに名前を呼ばれてしまえば全身から全ての力が抜け。
離れなければ、なんて思っていた事など遥か
彼方へと吹き飛んでいってしまった。
とはいえ、やはりずっとこのままでいられるはずもなく。
キーンコーンカーンコーン
「!」
「!」
鳴り響く予鈴の音に、二人で体を震わせる。
「……鳴っちゃったね」
「……ああ」
もぞもぞと動き、どちらからともなくゆっくりと腕の力を緩める。
温もりが離れると少し寒い気がする。
(……っ、恥ずい……っ)
改めて高塚と視線を合わせると、これ以上ないくらいの恥ずかしさが襲ってきた。
(赤くなってねえかな、くそっ、いたたまれねえ……っ)
思わず俯き、少しでも顔を隠そうと手の甲を口元に当てる。
頬は熱く火照っていて、きっと赤くなってしまっているだろう。
「ねえ森ちゃん」
「っ、な、何?!」
そんな頬をふにふにと弄られながら名を呼ばれ、びくりと過剰に反応してしまった。
高塚はそれを気にすることなく、にこにこと締まりのない笑みを浮かべている。
「あのさ、今日の帰り迎えに行ってもいい?」
「え?」
「嫌?」
「べ、別に嫌ってわけじゃねえけど……」
今まで伺いなんて立てた事なかったのに、何を今更と思いつつ返事をする。
「本当?それじゃあ授業が終わったら、ていうか昼休みにも一回来るからね!」
「……あ、ああ、わかった」
カップルみたいな会話にいたたまれなさが増した。
*
「……別に送んなくてもいいのに」
「いいからいいから!少しでも一緒にいたいの!」
「っ、バカじゃねえの……っ」
「へへっ、うん、バカだもーん」
その後、必要ないというのにわざわざ教室までオレを送ると言い張った高塚。
まだ素直になれないオレがしどろもどろで変な対応をしてしまうのにも始終笑顔を浮かべている。
この調子だとオレの気持ちなんてもうすでにバレバレなんだろうなあ。
「おー、高塚!なんだ久しぶりだなあ」
「あ、先生」
「まーた森に構ってんのか?もうすぐ授業始まるから自分の教室戻れー」
「わかってますって!」
やって来た先生とそんな話をした後。
「それじゃあね森ちゃん!また後で!」
「!!!」
「……わーお」
ついさっきまでの優しいものとは違った力強さで抱き寄せられた。
ぎゅっと一瞬だけ抱き締め颯爽と去って行く高塚。
すぐ傍で感心したように呟く先生と、一斉に騒がしくなる教室の中。
(あのバカ……っ、せっかく落ち着いてきてたのに……!)
あっという間にばくばくと激しく脈打つ鼓動に、いたたまれなさが最高潮に達したオレはダッシュで席へと戻ったのだが。
「……もしかして?」
「何も聞くな!言うな!」
「はっはーん」
何かを察したかのような石野の視線からは逃げる事が出来ず。
授業が終わると共に色々と話すハメになるんだろうなあと思いつつ、オレは火照りっぱなしの頬を静める事に集中した。
終わり
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