平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法

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僕にはとんでもない美形で優しい恋人がいる。
名前は九條隼人。

名前からしてかっこいい。
背も高いし、顔も整いすぎてて、歩けば女の子どころか男まで振り返る。

……いや、ホントに振り返るんだよ?この前なんて商店街を歩いてたら、道端で将棋打ってたおじいちゃんまで手を止めて振り返ってたからね。盤面の桂馬が泣いてるよ。

……はっきり言って僕には勿体ない。
でも大好きだから、絶対に別れたくない。

ただ――僕には一つ大きな悩みがある。

「優希ぃ~!!隼人くんが!!手を出してくれないんだよぉ!!」

大学の学食。昼休みのざわついた空間に、僕の悲痛な叫びが響き渡る。
一瞬で周囲のテーブルが静まり返り、何十もの視線がグサグサ刺さってきた。
……まあいいや。僕の悩みの重さに比べたら、世間の目なんて蚊みたいなもんだ。

「……まだ言ってんのかお前。惚気なら他所でやれ、クソが」

唐揚げ定食を前に、箸を止める気配もない毒舌の主は、僕の友達・石川優希。
同じ希望の“希”の字が名前に入ってたから親近感湧いて、無理やり絡んで仲良くなった。
口は悪いけど根はいいやつで面倒見がいい。もし優希がいなかったら、僕の大学の単位は今ごろ川に流されて行方不明になってると思う。

隼人くんが『繊細で影のある美形』なら、優希は『ワイルド系の男前』。体格もいいし、腕っぷしも強そうだし、女の子に普通にモテる。
……いや本当なんで僕の周り、イケメンばっかなんだろう。僕なんて平凡オリンピック日本代表なのに。世界は平凡男子にもう少し優しくしてくれてもいいと思う。せめて一人ぐらい、鼻毛出てる友達が欲しい。

「だってさ!もう付き合って1年だよ!?大学2年の時に付き合って、もう3年生になっちゃった!!」

「知らんわ。就活しろ」

「就活どころじゃないよ!!」

机をバンッと叩く僕。
横のテーブルの女の子たちがビクッて肩揺らしてた。……ごめんね。でも緊急事態なんだ。

「だって隼人くんって!もう、すっごい“慣れてる”って感じなんだよ!? 仕草とか言葉とか、全部!女慣れしてる!!」

「お前女だったのか?」

「男だけどさ!!」

「……………」

はい、優希の冷たい目いただきました。
あの目、地球温暖化防止に使えるレベルで冷たい。

「いやでもさ!わかる!?女の子の扱い慣れてる人って、ドリンク渡すだけでも仕草が違うんだよ!?手首の角度が優雅っていうか!」

「知らねぇよ」

「ほら!飲み物持ってきたときとか、サッと椅子引いてくれるときとか!あれはモテ男の動きだよ!!」

「お前の観察ポイントおかしいだろ」

優希は呆れ顔で唐揚げをもぐもぐ。唐揚げの方が羨ましい、僕も優希にそんな真剣な目で見られたい。

「……九條が女慣れしてんのは当然だろ。あいつ、中高ん時は相当なヤリチン野郎だったからな」

「………………え?」

僕の脳内で時間が止まった。
頭の中で「ザ・ワールド」って声が聞こえた。

「ゆ、優希!?それ本当!?」

「本当だっつーの。大学入ってからは猫かぶってるけどな」

「……はぁぁぁぁぁ!? 嘘だぁぁぁぁぁ!!!あんな清廉潔白な……」

思わず机に突っ伏す僕。トレーの味噌汁がグラグラ揺れて、横の人に迷惑かかりそう。あっ睨まれた。

「清廉潔白?笑わせんなよ。学校中の可愛い女の子食ったって噂だったぞ。」

「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

顔を両手で覆う僕。いや、耳から煙出そう。

「というか!!なんで知ってるの!?週刊誌の記者?」

「……はぁ、実はな、俺はあいつと中高の同級生」

「な、なんで教えてくれなかったの!?1年間!」

「聞かれなかったからな。仲も悪いし。はっきり言って俺はあいつを好かん。」

「隼人くんを好かん人間とか存在するの!?そんなの存在していいの!? 隼人くんは神だよ!?女神ならぬ男神だよ!?」

「いるさ、ここに1人な」

優希は親指で自分を指差した。ドヤ顔で。ちょっとムカつく。

「ううぅ……それにしても嫉妬する……。どうしても隼人くんの初めての男になりたい……だって僕は平凡だもん!!平凡男子の唯一の夢は、好きな人の“初めて”になることなんだよ!!」

「いや無理だろそれ。あいつ全身“経験済み”だろ」

グサッ。心臓に刺さった。
優希のツッコミは言葉の刃物。ひどいよぉ……。

「じゃあさ、慣れてるなら、僕にだって手を出してくれてもいいじゃん!!」

「そこは俺も謎だな。……まあお前に気ぃ遣ってんじゃねぇの?」

沈黙。数秒後、僕の脳内で電球がパチンと光った。……いや、電球っていうか核爆弾だった。

「………………わかっちゃった」

「……は?」

「隼人くんには……!他に好きな人がいるんだ!!僕はその代わりなんだ!!」

声が裏返って響いた。
言葉にした瞬間、頭の中で映像が鮮明に浮かぶ。
隼人くんが、僕の知らない誰かを想って微笑んでいる姿。
夜、スマホを見つめて切ない表情をしている姿。
僕と一緒にいても、心の奥では別の誰かを追いかけている姿。

「………はぁぁぁぁぁ!? 何言ってんだお前!?」

優希のツッコミが飛んできたけど、もう耳に入らない。

「やっぱり僕みたいな平凡と付き合うには理由があると思ったんだよぉ……!くそぉ、早く気づくべきだった……」

僕は机に顔を伏せてガンガン叩く。もう学食の注目度MAX。誰か動画撮ってるかもしれない。
だが真実がわかったのだ。
真実はいつもひとつ。じっちゃんの名にかけて。

「おい光希。1年付き合ってて愛情感じなかったのかよ」

「感じてたさ!感じてたけどさ!隼人くんって誰にでも優しいから………」

そうなんだ。優しさは確かにあった。
僕に向けられる笑顔も、頭を撫でる手も、抱きしめてくれる腕も。
でも――あの人は誰にでも優しい。僕だけのものじゃない。

「………………」

優希のため息が重い。唐揚げもさすがにしなしなになってる。

「よし!決めた!優希!!協力してもらう!!」

僕は椅子をガタッと引いて立ち上がった。
体の奥から熱がこみ上げてくる。これが使命感ってやつだ。
今こそ行動すべきなんだ。

「……は?なんで俺が」

優希が怪訝そうに顔を上げる。

「隼人くんの本当の気持ちを確かめたいんだ!成功しても失敗しても、僕は隼人くんの幸せを願う!!」

そうだ。僕は平凡だから。凡人だから。
せめて、好きな人の幸せを祈る役に徹するしかない。
たとえその幸せに、僕が含まれていなくても――。

「いや絶対嫌だわ。どっちに転んでも俺が九條に恨まれるだろ。最悪殺される。」

「隼人くんは人を恨んだりしない!!殺したりもしない!そんな俗な感情は持ってない!!」

「……お前さぁ……彼氏をもうちょい“人間”として見ろ」

優希は箸を置いて、呆れたように僕を見た。
でもその目には、ほんの少しだけ心配の色が混じっていた。
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