【完結】幸せの終わり

彩華(あやはな)

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 僕は妻の悲報を愛人であるモネの家で聞き、急いで屋敷に帰っていた。

 揺れる馬車の中で自分の心臓が激しく鼓動している音が聞こえる。落ち着こうとしても手が震えていた。

 ー嬉しい?
 ー悲しいのか?

 自分の感情がわからないでいる。


 3年前、僕は幼馴染であるエリカと結婚した。エリカは美しくおとなしい女性。僕の言うことすることに文句一つ言わず、献身的に支えてくれる。側にいてくれるだけで安らぎ、彼女の存在に満足していた。

 なので、時たま刺激がほしくなることもある。

 だからこそ僕はもう一人の幼馴染のモネと関係をもっていた。
 モネはエリカとは対象に明るく、誰からも
慕われるような女性。会話をすれば必ずほしい言葉をくれる。アドバイスをくれた。それが楽しくて、お互いに高め合っているような気にさせてくれる。

 二人とも幼い頃から一緒にいるせいか、僕にとってかけがえのない存在なのだった。

 生涯を共にするならエリカ。人生を楽しむならモネ。
 
 そう思って今まで生きていた。


 そんな中にもたらされたエリカのこと。

 ーエリカに何があった?
 ーなぜ、エリカが死ななければ?


 わからなかった。
 そんな時、ふっと思う。

 ーいつからエリカに会っていない?

 
 思い返せば最後にエリカに会ったのは3ヶ月以上前、自分の屋敷だったはずだ。あの頃、モネと始めたフロリアン商会の仕事が忙しくなった時で、出張に行く前に挨拶をするために会った。
 その時、エリカは体調を崩して自室で寝ていた。ベットに横たわる彼女は血の気が失せた真っ青な顔で穏やかに笑って「いってらっしゃいませ」と声をかけてきたのを覚えている。

 あの時の仕事は無事に大成功を収めた。ビジネスパートナーでもあるモネと打ち上げと称して旅行をしたのは当然のことだった。2週間に及ぶ愛人との蜜月。
 その間に次の仕事の発想も固まる。何もかも順調だと疑っていなかった。

 だが・・・。


 屋敷に着くと急いでエリカの部屋に向かった。
 屋敷内は陰を落としたように暗い。
 働いている人間の誰もが俯き涙を見せていた。

 部屋を開けるとベッドには横たわったエリカの姿。
 僕はエリカを見て愕然とした。
 死んだことに対してではない。
 ベッドの上のエリカが老女のように痩せ細っていたからだ。
 胸元に置かれた骨張った指先。血管が浮き出た皮一枚の細い手首。強調した鎖骨。水分を失ったかのようなしわの寄った青い唇。頬は肉が落ち、目元は窪んで影が濃い。そして、流れるような張りのあった髪はパサパサになっていた。
 
 あの美しかったエリカからは想像できない姿がそこにあった。
 気持ち悪いと思い、反射的に吐き気が込み上げ、口を覆ってしまう。

 ーエリカなのか?・・・

 そう思ってしまった。


「旦那様」

 執事の声に振り返る。そこには無表情に近い執事が立っていた。

「ははっ。なんの冗談だ。エリカと仕組んだんだな。たちの悪いことはやめてくれ」

 乾いた笑いが出た。
 だがー。

「奥様は昨日、亡くなられました」

 静かな声が返ってきた。

 執事やメイドたちが僕を責めるような目で見てくる。

 なぜ早く帰ってこなかったのかとー。

 他にも執事は何か言ってはいたが、僕には言葉が入ってこず、ただ立ち尽くしすだけだった。

 
 


 

  
 

 
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