【完結】幸せの終わり

4.

　部屋から一歩もでずに過ごしていると、モネがやってきた。

「クリフ。いつまで部屋に閉じこもっているつもりなの？」

　部屋に入ってくるなり語気を荒げる。
　僕は気が強いモネの真剣な眼差しを見た。
　今までなら、強く惹かれ即モネの手を取り外の世界に赴いていただろう。だが、今の僕にそんな気は起こらなかった。
　
　僕には彼女がいる。
　僕を求める大事な女性が･･･。

「クリフ。エリカのことは･･･残念だったわ。最後をみとれなかったこと･･･、私だって罪悪感を感じてるわ･･･。でも、いつまでもこのままじゃ駄目よ。あまり食事もとってないんでしょう･･･」

　ー気持ち悪い･･･

　何故かモネの言葉が気持ち悪くて感じる。
　どうしてなのかわからない。
　
　一人で演技をしているようなモネを黙って見ていた。

「エリカのことを忘れてとは言わないわ。でも、もういないのよ。ねぇ、クリフ。
　これからのことを考えましょう。仕事のこともあるんだし、そうよ。エリカが死んだんだし、これからは公私ともいつも一緒にいられるのよ。前に言ってたでしょう。私と結婚したかっ「黙れ！！」っ」

　僕は思わず怒鳴った。
　自分でも初めて聞くような低い声。

「クリフ？」
「やめろ！エリカの何を知っている」

ーモネはエリカの死を喜んでいるのか？

　信じたくなかった。
　あんなにも仲が良かったはずなのに･･･。目の前にいるモネが知らない人物に見えた。

「何故、クリフがあんな根暗な女と結婚したのかわからないわ。いいじゃない。あなただっていつも文句を言ってたじゃない。毎日同じような笑みを浮かべて気持ち悪い。お金だけの結婚だって！」
「･･･っ」

　僕は息を詰まらせた。
　確かにエリカの実家の財力をあてにしていた。

　おとなしいエリカは僕の頼みを聞いてくれた。だから･･･僕はエリカを･･･愛していた。

「なのに今さら何？エリカが死んで後悔しているの？
　そうよね。病気で苦しんでいる彼女を置いて仕事をして、挙句に私と不倫してる最中に自殺されたんじゃぁ、世間体もないものね」

　クスクスと笑らいだす。

　ー思い出したくない･･･

　思い出したくない。
　
　僕は手で顔を覆った。

　そんな僕を後ろから彼女が優しく包んでくれる。

「エリ、カ･･･？」

　顔を上げると彼女が微笑んでくれていた。それだけで安心してくる。


「･･･エリカなの？いえ、違うわ･･･」

　モネが信じられないものを見たように顔を歪め震えているのが目の端に映った。

「モネ」

　彼女が笑う。
　赤い唇がニタリと動く。

「クリフ様はあげないわ。私の物よ」
「エリカ！」

　悲鳴のようにモネは叫んだ。
　恐怖からか動けないでいるモネに彼女はゆっくりと近づいていった。
　
「あなたは死んだの！」
「ええっ。そうね。私は死んだわ。でも未練があるの。モネを許せないから。クリフ様が欲しいから」
「消えて！消えなさいよ」

　叫びながら涙を流すモネに手を伸ばす。
　モネは小さく悲鳴をあげ身を固くした。


「許さないわ。ずっとずっと、親友だと思っていたのよ。なのに私を裏切った。その気持ち、あなたにわかる？どんな気持ちで私を見ていたの？見下してた？愚かだと笑っていたの？
　ねぇ、モネ？
　死んだはずの女が目の前にいてどう思う？」

　彼女の指はモネの髪、頬をたどり喉元へとかかる。

「いやっ･･･」

「私はあなたが死ぬまで許さないから」

　モネは恐怖に耐えきれなかったのか、悲鳴をあげてその場で失神したのだった。

　彼女は･･･、ふふふっと笑い声を出しながらモネを見下ろしていた。

「クリフ様」

　彼女は満足そうに僕を見てきた。

ーあぁ、綺麗だ

　僕は、一生彼女の姿に魅了され続けるだろう。
　
　僕はそんな彼女に捕らわれたのを自覚した。