黒の瞳の覚醒者

一条光

文字の大きさ
288 / 470
番外編~フィオ・ソリチュード~

大事なもの、拾った

しおりを挟む
「やっと着いた」
 ピンクに邪魔されて時間を無駄にしたから、夜通し走った。それで漸くまだ捜してない地域の村に辿り着いた。もう少しで夜が明けるけど、まだ村は眠ってる。今行っても怪しまれるだけ、そう思って近くの木の上で少し眠る事にした。

「あのなフィオ、水浴びくらい毎日しなさい」
 今はしてる、今日はまだだけど、後でする。なんで困った顔するの? ちゃんとしてる! …………? 聞こえてないの? 会えたのに、話したいのに、なんで? どこに行くの? ワタルが離れてどこかに行く。なのに身体が動かない、置いて行かれる。
「ワタル! …………夢?」
 やっと会えたと思ったのに…………がっかりするから夢になんか出て来ないでほしい。会いたいが凄く強くなって胸が苦しくて痛い、こんな事しないで。
「ワタルの、ばか」
 日が昇ってる。村でワタルの事聴かないと、昨日は殆ど何も出来なかったから、今日はいっぱい捜したい。早く会いたい。

「ああ? 黒髪の人間? お前なんでそんなの捜してるんだ?」
「…………珍しいから見てみたい」
「はあ~!? 小せぇのにそんな理由で旅してんのか!? 確かに黒髪はヴァーンシアの人間では滅多に居ないから珍しいが……黒髪は異界者の事が多いんだぞ? お前みたいに小せぇのが異界者に捕まったら食われちまうぞ?」
 二回も言った……我慢、我慢、ワタルを捜す為、騒ぎを起こしたら捜せなくなるから…………ニヤニヤした笑顔がイライラする。異界者くらいじゃ私には何も出来ないのに。
「知らないならもういい」
 この村はハズレ、情報も無いし、馬鹿にされてイライラしたから早く次に行く。じゃないとイライラが我慢できなくなる。
「まぁ待てって、知らないとは言ってないぞ? 黒髪、見たいんだろ? 何も聞かずに行っちまっていいのか?」
「っ!? 知ってるの!?」
「すっ、すげぇ食い付きだな。そんなに黒髪が見たいのか? …………もしかして黒髪の奴に家族を殺されたとかで、それで仇として捜してるのか? ナイフ持ってるし、仇討ちの旅か? それなら止めておけ、お前みたいに小せぇのが人を殺す様な奴に勝てるはずねぇ。軍に報告して討ち取ってもらえ」
 変な勘違いされてる……面倒。余計な事考えずに情報だけ教えてくれればいいのに、アドラの人間のくせに、他人なんだからほっといて。
「珍しいから見たいだけ、教えてくれないならもう行く」
「お、教えねぇとは言ってねぇだろ、行商人に聞いた話だが、北西にあるフリージアの町って知ってるか? そこに最近黒髪の奴が現れたらしい、黒髪なんて珍しいからな、噂に――っておい!? ――」
 まだ何か言ってたけど、無視して走り出した。
 最近、黒髪、フリージアは隠れ家から少し遠いけど、ワタルが居なくなってから結構日数が経ってる。そこまで行っててもおかしくない。
 それよりも、なんでアドラの人間に見つかったの? 危険だって知ってるのに、なんで近付いたの? …………フリージアは結構大きい町だったはず、異界者を見つけても殺したりしない……ワタルは無事、生きてる、捕まってるだけ、だから助け出す。

「少し、疲れた」
 あの村からフリージアまでは遠過ぎた。町に着いたらすっかり夜になってた。でも、丁度いい、夜なら動いてる兵士が減る。牢を見に行くのも簡単になる。
 門が閉まってるから壁を跳び越えて町に侵入した。
「牢」
 この町の牢はどこ? 早くワタルに会いたい。町の北に見える少し大きめの建物だけ他と形が違う、あそこから調べよう。壁から建物の屋根へ跳んで屋根伝いに移動する。
 もうすぐ会える、なのに…………胸の痛みが増した。不安? ワタルは死んでない、腕が折れてた、痛めつけなくても簡単に捕まえられる。無事でいる……でも、ワタルは無茶をする…………。
「急ぐ」

 アタリだった。やっぱり牢、外の見張りは居ない。
「手抜き」
 楽でいいけど……中も、動いてる人間の気配が殆ど無い。仕事をサボって寝てるんだ。牢が並ぶ場所の入り口に兵士が居るけど寝こけてる。そのまま脇を通り過ぎて奥に入って牢を確認していく。
「臭い」
 ワタルに言われた通りに水浴びをして、綺麗にするようになってから、今まで気にならなかった臭いも気になるようになった。
「んん? なんでこんな場所にガキが居るんだぁ? 俺ぁ寝惚けてんのか?」
 起きてる囚人が居た。
「異界者、知らない? 教えてくれたら出してあげる」
「っ! ほ、本当か!?」
「煩い」
「す、すまねぇ。しかし異界者か、俺は大分前からここに入れられてるが、異界者なんて入れられて来てないぞ? 黒髪黒目なんて他と違うからな、入ってきたらすぐに分かるだろうし、兵士共も大なり小なり騒ぐだろう? そういった事もなかったからここには異界者は居ねぇぞ」
 居ない…………? なら黒髪の噂は? 村で騙された?
「この町に黒髪が居るって聞いた」
「黒髪? …………そういえば兵士共が宿屋がどうのって話してたのを聞いたかもしれねぇが――」
「どこ?」
「あ? ああ、宿屋は町の西側に――」
 これだけ聞けたら充分、牢の鍵を壊してすぐに宿を探しに外へ出た。

 西側、宿屋だから他より大きい建物…………でもなんで宿屋? 勝手に異界者を捕まえて奴隷にしてるの? ……普通は見つけたら軍へ報告義務がある、兵士が知ってるなら捕まえて連れて行くはずなのに。
「――っ!」
 ? 声……深夜でも起きてる人間が居るんだ。
「――っ!」
 女の声? でも…………聞いた事がある? 聞いた事があるなんて変な感じがして声のする方へ向かった。
「ここ、宿屋?」
 看板がある、宿屋で間違いない。ここにワタルが居るの?
「――っ!」
 まだ声がする。入り口の鍵を壊して中に忍び込んだ。声がするのは……下? でも下に下りる階段なんて見当たらない。
 ? 踏むと妙に軋む床板があった。空気の流れもある、ここ? 床板を切り裂いたら隠し階段があった。地下…………奴隷を住まわせるには丁度いい場所かもしれない。
 階段を下りて確認した声は、やっぱり聞いた事のある声だった。
「止めてください! どうしてこんなっ! お仕事の話だって言ったじゃないですかっ」
 この声……ワタルを助けた人、ワタルが護った人、ワタルが優しいって言ってた他とは違う特別な人。
「こんな時間にのこのこついてきて何言ってやがる。金が欲しいんだろう? だから手っ取り早い方法を教えてやろうとしてるんだ、大人しくしろ。ヴァーンシアの人間で黒髪なんて珍しいからな、こんな女を抱ける機会滅多にない。充分な金はやる、だから俺の相手をしろ。それにこの容姿だ、娼婦になりゃあ金なんてすぐに貯まる」
 男はこんなのばかり。
「嫌です! 手を放してくださ――きゃあ!」
「もうスイッチが入っちまったから抑えが利かねぇんだよ! このままやるぞ」
「お願い、やめてください。私初めて――それに好きな人が――」
「うっせぇ! こんなご馳走を前に止められるかっ! そいつが愉しめるように俺がしっかり仕込んでや――なんだお前はっ! ……ガキ?」
 ドアを蹴破って中に入ると男があの人にのしかかってた。
「あなた!? どうしてこんな――」
「その人から降りて、じゃないと殺す」
 こんなのに犯されたらワタルが護った意味が無くなる。あんなに必死に護ったのに……ワタルがした事を無駄にしようとしてるこの男を見ると凄くイライラする。
「殺すぅ? ガキが何言ってんだ! 大体どうやって入って――がぺっ!?」
 殺さないつもりだったのに……気が付いたら蹴ってた。ワタル、怒る? でもワタルが大事にしてた人、護った。これなら怒らない?
「が……うぅ…………」
 死んでなかった。これなら怒られないし嫌われない。
「来て」
「え? ちょっと」
 とりあえず、もうここにはいられない。あれが起きたら騒ぎになる。その前に町を離れないと。

「ちょっと待ってください、なんであなたがこんな所に居るんですか?」
 それはこっちが言いたい。なんであんな場所に居たの? ワタルがせっかく助けたのに無駄になるところだった。
「なんであんな所に入ったの? 警戒が足りてない」
「そ、それは……少し前から働かせてもらっていて、お金を貯める為にお仕事を増やしてもらえないか相談したら、夜になってから地下に有るお酒の管理について教える、って言われて……夜遅かったですけど、お金が必要だったから少しくらい無理しないとって思って――そんな事よりワタルは無事なんですか? 生きてますよね? 酷い事とかされてませんか?」
 それも私が知りたい事。
「居なくなったから知らない。なんでお金が要るの?」
「居なくなった? ワタルは無事に逃げ出したんですか!?」
 凄く嬉しそうにして――泣いてる……ワタルと同じ、他と違う人。
「そう、でも無事かどうかは分からない。捜してるけど見つからないし」
「捜してる? ワタルを連れ戻す為に捜してるんですか!?」
 怒って私から離れた。ワタルの為に怒ってるの?
「違う。ワタルに会う為に盗賊は辞めた、私はワタルに会いたいだけ」
 だから捜してるのに、全然見つからない。この町もハズレだった、噂になってたのはたぶんこの人、だからここにもワタルは居ない。
「会いたい? どうしてですか?」
「…………ワタルは私に楽しいをくれるから。私は答えた、今度はそっちの番、どうしてお金が要るの?」
「それは……私もワタルに会う為です。無事に逃げられたならワタルは他の国に行くために大きな港町に行くはずだから、そこに行く為の旅費が必要だったんです」
「っ! それ、本当?」
「ええ――っ! 待って!」
 っ!? 走り出そうとしたら腕を掴まれた。
「なに?」
「本当に、ワタルに酷い事をする目的じゃないんですか? あなたは、私の町を、家族を殺して私たちをあんな目に遭わせた盗賊なのに――」
「さっきも言った。盗賊は辞めた、それにあなたの町じゃ私は誰も殺してない」
「本当に?」
「別に私は好きで盗賊だったんじゃない、ヴァイス達みたいに殺すのも楽しくなんてない。信じなくてもいいけど」
 別に信じてくれなくてもいい。ワタルの情報をくれただけで充分。
「…………信じます。あなたはあの時見逃してくれましたし、今回の事も……お礼が遅くなってごめんなさい。助けてくれてありがとう」
 っ!? この人も私にお礼、言った……ワタルと同じ、変わった人、特別な人。

「あのー、どうして私も連れて行ってくれるんですかー?」
「ワタルが喜ぶと思っただけ」
 一人で港町に行こうと思ったけど、あの町に置いて行ったらまた捕まるかもしれないし、黒髪は目立つ。追いかけられたらこの人の足じゃ逃げ切れない。
「うぅ、でも……まさか年下の娘におんぶされるなんて…………」
「嫌なら置いて行く」
 ワタルが知ったら怒るだろうから置いて行かないけど。
「あ、う……それは…………そうだ、私はリオです。リオ・スフィール、あなたの名前を教えてくれますか?」
「フィオ・ソリチュード」
「フィオちゃん、迷惑掛けちゃいますけど、よろしくお願いします」
「ん」
 おぶってるリオが私を抱き締めた。温かくて柔らかい、それにいい匂いもする。まだ、よく分からないけど、リオと一緒に居る事も、嫌いじゃない、かも?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

異世界亜人熟女ハーレム製作者

†真・筋坊主 しんなるきんちゃん†
ファンタジー
異世界転生して亜人の熟女ハーレムを作る話です 【注意】この作品は全てフィクションであり実在、歴史上の人物、場所、概念とは異なります。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

処理中です...