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24 文化祭!
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とうとうやってきた、文化祭当日。
朝起きて一番に、文芸部と、クラスの宣伝のシフトを確認した。うちの学校の文化祭は一般公開されていて、外部からのお客さんもいっぱい来る。だからかなり忙しくなることは、去年の経験から分かっていた。
僕は午前中にクラスの宣伝、午後に文芸部の店番。自由時間は、お昼の間の二時間くらい。
特に見たい出し物もないから、ちょうどいいだろう。
リュックを背負って、家を出た。通学路は初秋の明るい朝日で、さんさんと照らされている。
学校に着いたら、真っ先に文芸部の部室へ向かった。在庫を外へ移動しなければいけないから、人手がいる。
購買横が、毎年の販売場所。前日に部室から引っ張り出してきた机の下に、本の詰まった段ボールを置いていく。
学校中から、活気のある声が響いていた。
それから今日は、三年生が引退する日でもあった。
「よし。こんなものかしら」
今の部長が、鈴木くんの肩を叩く。部長はスカートを揺らして、机の前に仁王立ちした。しみじみとした口調で呟く。
「今日が最後か……。ありがとう、鈴木くん。私が出られなくて、迷惑かけちゃったね」
「いえ、そんな。当然のことをしたまでです」
部長と鈴木くんは、和やかな雰囲気で会話している。微笑ましい。ふと視界の端に、大柄な男子が映った。
桂木くんだ。目を見開いて、鈴木くんと部長が話しているのを見ている。
何か、用事があるんだろうか。一応手を振ってみると、彼は慌てた様子でどこかへ走っていってしまった。
どうしたんだろう。僕が首を傾げている間に、設営が終わる。
朝いちばんの当番以外のメンバーは、各々のクラスへ解散だ。僕も自分のクラスに戻る。
リョウちゃんは、クラスメイトたちと駄弁っている。僕は横眼でそっと見ながら、開始時間を待った。
そしていよいよ、その時が訪れる。
校内放送で、外部からの入場を開始したアナウンスが流れた。クラスがわっと沸き立って、拍手が鳴り響く。僕も、じんわりと胸が熱くなって、不思議な感慨があった。
とうとう、文化祭が始まった。
少しずつ、廊下に制服姿じゃない人が増えていく。他校の生徒に、地元の人たち。次々入ってくるお客さんたちの対応に追われた。
「ハルくん、はい。看板お願い」
僕は段ボールでできた看板を受け取って、こくりと頷いた。すっとリョウちゃんが出てきて、僕の隣に並ぶ。
「行こう。ハルくん」
ひゃ、と変な声が出た。ひらひらの服を着てちょっと血のりの着いたリョウちゃんは、色気がすごい。
それにしても、リョウちゃんは僕と同じシフトに入っていただろうか。
「代わってもらったんだ」
そうさらりと言って、リョウちゃんが歩き出す。僕は慌てて、その後についていった。
看板を持ち上げて、クラス名、「お化け屋敷」と繰り返すだけの簡単なお仕事。大きな声を出すのを恥ずかしがっている僕の隣で、リョウちゃんは堂々と宣伝をしていた。やっぱり、リョウちゃんはかっこいい。
こっそりメロメロになっていると、かっこいいリョウちゃんを見て何人もの人たちが寄ってきた。写真を撮ろうとしていたから、咄嗟に引き寄せて看板で顔を隠す。
「む、無断撮影は、やめてください!」
がんばって叫んだ。ちょっと声が裏返って、情けない。リョウちゃんは僕の手から、看板をそっと取り上げる。僕と距離を詰めて、力強く肩を組んだ。
「そういうこと。撮っちゃダメだよ」
きゃあ、と黄色い悲鳴が上がる。僕は茫然とリョウちゃんを見上げた。かっこよすぎる。
だけどすぐに、大きな手はぱっと離れて、体温が遠ざかった。それがちょっとだけ寂しい。
「行こう。ハルくん」
リョウちゃんは端的に言って、僕を振り返った。
微笑みは優しい。だけどどこか、据わった目つきをしているような気がした。
看板が、僕の手へ返される。それをぎゅっと握りしめて、リョウちゃんを見上げた。頷いて、隣に並ぶ。
「うん。行こう」
今日の僕は、こんなことで怯んでいられない。僕は意気揚々と歩き出した。
なんせ、今日の後夜祭で、告白するんだから。
購買の前に差し掛かる。自動販売機の横を通りかかって、何かを忘れている気がした。首を傾げると、はしゃいだ声が聞こえてくる。
「ソーダ買っちゃった。今のうちに買わないと売り切れちゃうもんね」
「告るんでしょ? マジで応援してる。ファイト」
は、と足が止まった。忘れていた。
僕はリョウちゃんに告白する。この学校には、後夜祭で「振らないで」とソーダを渡す告白が、伝統として引き継がれている。
それなのに僕は、ソーダを買っていない!
「どうしたの? ハルくん」
怪訝な表情で、リョウちゃんが僕の顔をのぞきこんだ。我に返って、首を横に振る。
「なんでもない。なんでもないよ……!」
慌てて誤魔化した。心臓がばくばくしているけど、無視して前を向く。
去年と同じだったら、ソーダは大量に用意されているはずだ。だから昼までに行けば、入手は間に合うはず。
今はとにかく、クラスの仕事に集中しなくちゃいけない。
わなわなと震える僕の横で、リョウちゃんは購買へ視線を走らせていた。
「ソーダか」
ぽつりと呟く声に、また心臓が大きく跳ねる。僕はリョウちゃんを引きずるみたいに、その場から立ち去った。
多少は挙動不審だったかもしれないけど、誤魔化せたと信じたい。気を取り直して、看板を掲げた。
また声をあげて歩き回っている間に、またリョウちゃんは盗撮されかけた。そのたびに僕は看板で遮って、リョウちゃんは僕に近づいた。
「ハルくん、真っ赤だ」
しまいには、リョウちゃんに近づかれるだけで、僕はすっかり火照ってしまうようになった。からかうような言い方に、ちょっとむくれてそっぽを向く。
「もう。次、行こう」
学校をぐるりと一周して、教室に戻ってきた。交代の時間だ。
僕は看板を引き渡して、すぐに購買へ走る。もう人が押し合いへし合いで、商品を買い求めていた。自動販売機に駆け寄って、ソーダを探した。在庫は、まだある。
ほっと息をついて、お金を入れた。ソーダは一本百二十円。ボタンを押すと、電子音が鳴る。一瞬置いて、がたんとペットボトルが落ちてきた。
すぐ脇の購買を見やる。学校オリジナルグッズとか、飲み物とか、おやつとかが飛ぶように売れていった。
横には、文芸部の部誌販売コーナーが設けられている。店番をしているのは、鈴木くんと部長だった。
部長がひらりと手を振ったので、ぺこりとお辞儀をする。鈴木くんは、まじまじと僕の持つソーダを見つめていた。
「そんなに見ないでよ」
からかうみたいに言いながら、鈴木くんの前にソーダを置く。鈴木くんの眼鏡の奥の瞳が、切なそうに細められた。部長が僕と、ソーダをじっと見つめる鈴木くんを交互に見る。鈴木くんの肩を叩いて、軽やかな声で言った。
「鈴木くん、そろそろ交代の時間じゃない?」
「え、あ……! そう、ですね」
ちょうど、交代の部員がやってきた。鈴木くんは立ち上がって、その子に引き継ぐ。そのまま校舎に入っていったから、僕と部長は顔を見合わせた。
てっきり、ソーダを買っていくものだと思ったのに。でも僕たちが見ていたから、恥ずかしかったのかも。
部長が肩をすくめる。
「鈴木くんって、不器用な子だね」
「そうですね」
頷き合う僕たちを、交代に来た子は、不思議そうに見ていた。
朝起きて一番に、文芸部と、クラスの宣伝のシフトを確認した。うちの学校の文化祭は一般公開されていて、外部からのお客さんもいっぱい来る。だからかなり忙しくなることは、去年の経験から分かっていた。
僕は午前中にクラスの宣伝、午後に文芸部の店番。自由時間は、お昼の間の二時間くらい。
特に見たい出し物もないから、ちょうどいいだろう。
リュックを背負って、家を出た。通学路は初秋の明るい朝日で、さんさんと照らされている。
学校に着いたら、真っ先に文芸部の部室へ向かった。在庫を外へ移動しなければいけないから、人手がいる。
購買横が、毎年の販売場所。前日に部室から引っ張り出してきた机の下に、本の詰まった段ボールを置いていく。
学校中から、活気のある声が響いていた。
それから今日は、三年生が引退する日でもあった。
「よし。こんなものかしら」
今の部長が、鈴木くんの肩を叩く。部長はスカートを揺らして、机の前に仁王立ちした。しみじみとした口調で呟く。
「今日が最後か……。ありがとう、鈴木くん。私が出られなくて、迷惑かけちゃったね」
「いえ、そんな。当然のことをしたまでです」
部長と鈴木くんは、和やかな雰囲気で会話している。微笑ましい。ふと視界の端に、大柄な男子が映った。
桂木くんだ。目を見開いて、鈴木くんと部長が話しているのを見ている。
何か、用事があるんだろうか。一応手を振ってみると、彼は慌てた様子でどこかへ走っていってしまった。
どうしたんだろう。僕が首を傾げている間に、設営が終わる。
朝いちばんの当番以外のメンバーは、各々のクラスへ解散だ。僕も自分のクラスに戻る。
リョウちゃんは、クラスメイトたちと駄弁っている。僕は横眼でそっと見ながら、開始時間を待った。
そしていよいよ、その時が訪れる。
校内放送で、外部からの入場を開始したアナウンスが流れた。クラスがわっと沸き立って、拍手が鳴り響く。僕も、じんわりと胸が熱くなって、不思議な感慨があった。
とうとう、文化祭が始まった。
少しずつ、廊下に制服姿じゃない人が増えていく。他校の生徒に、地元の人たち。次々入ってくるお客さんたちの対応に追われた。
「ハルくん、はい。看板お願い」
僕は段ボールでできた看板を受け取って、こくりと頷いた。すっとリョウちゃんが出てきて、僕の隣に並ぶ。
「行こう。ハルくん」
ひゃ、と変な声が出た。ひらひらの服を着てちょっと血のりの着いたリョウちゃんは、色気がすごい。
それにしても、リョウちゃんは僕と同じシフトに入っていただろうか。
「代わってもらったんだ」
そうさらりと言って、リョウちゃんが歩き出す。僕は慌てて、その後についていった。
看板を持ち上げて、クラス名、「お化け屋敷」と繰り返すだけの簡単なお仕事。大きな声を出すのを恥ずかしがっている僕の隣で、リョウちゃんは堂々と宣伝をしていた。やっぱり、リョウちゃんはかっこいい。
こっそりメロメロになっていると、かっこいいリョウちゃんを見て何人もの人たちが寄ってきた。写真を撮ろうとしていたから、咄嗟に引き寄せて看板で顔を隠す。
「む、無断撮影は、やめてください!」
がんばって叫んだ。ちょっと声が裏返って、情けない。リョウちゃんは僕の手から、看板をそっと取り上げる。僕と距離を詰めて、力強く肩を組んだ。
「そういうこと。撮っちゃダメだよ」
きゃあ、と黄色い悲鳴が上がる。僕は茫然とリョウちゃんを見上げた。かっこよすぎる。
だけどすぐに、大きな手はぱっと離れて、体温が遠ざかった。それがちょっとだけ寂しい。
「行こう。ハルくん」
リョウちゃんは端的に言って、僕を振り返った。
微笑みは優しい。だけどどこか、据わった目つきをしているような気がした。
看板が、僕の手へ返される。それをぎゅっと握りしめて、リョウちゃんを見上げた。頷いて、隣に並ぶ。
「うん。行こう」
今日の僕は、こんなことで怯んでいられない。僕は意気揚々と歩き出した。
なんせ、今日の後夜祭で、告白するんだから。
購買の前に差し掛かる。自動販売機の横を通りかかって、何かを忘れている気がした。首を傾げると、はしゃいだ声が聞こえてくる。
「ソーダ買っちゃった。今のうちに買わないと売り切れちゃうもんね」
「告るんでしょ? マジで応援してる。ファイト」
は、と足が止まった。忘れていた。
僕はリョウちゃんに告白する。この学校には、後夜祭で「振らないで」とソーダを渡す告白が、伝統として引き継がれている。
それなのに僕は、ソーダを買っていない!
「どうしたの? ハルくん」
怪訝な表情で、リョウちゃんが僕の顔をのぞきこんだ。我に返って、首を横に振る。
「なんでもない。なんでもないよ……!」
慌てて誤魔化した。心臓がばくばくしているけど、無視して前を向く。
去年と同じだったら、ソーダは大量に用意されているはずだ。だから昼までに行けば、入手は間に合うはず。
今はとにかく、クラスの仕事に集中しなくちゃいけない。
わなわなと震える僕の横で、リョウちゃんは購買へ視線を走らせていた。
「ソーダか」
ぽつりと呟く声に、また心臓が大きく跳ねる。僕はリョウちゃんを引きずるみたいに、その場から立ち去った。
多少は挙動不審だったかもしれないけど、誤魔化せたと信じたい。気を取り直して、看板を掲げた。
また声をあげて歩き回っている間に、またリョウちゃんは盗撮されかけた。そのたびに僕は看板で遮って、リョウちゃんは僕に近づいた。
「ハルくん、真っ赤だ」
しまいには、リョウちゃんに近づかれるだけで、僕はすっかり火照ってしまうようになった。からかうような言い方に、ちょっとむくれてそっぽを向く。
「もう。次、行こう」
学校をぐるりと一周して、教室に戻ってきた。交代の時間だ。
僕は看板を引き渡して、すぐに購買へ走る。もう人が押し合いへし合いで、商品を買い求めていた。自動販売機に駆け寄って、ソーダを探した。在庫は、まだある。
ほっと息をついて、お金を入れた。ソーダは一本百二十円。ボタンを押すと、電子音が鳴る。一瞬置いて、がたんとペットボトルが落ちてきた。
すぐ脇の購買を見やる。学校オリジナルグッズとか、飲み物とか、おやつとかが飛ぶように売れていった。
横には、文芸部の部誌販売コーナーが設けられている。店番をしているのは、鈴木くんと部長だった。
部長がひらりと手を振ったので、ぺこりとお辞儀をする。鈴木くんは、まじまじと僕の持つソーダを見つめていた。
「そんなに見ないでよ」
からかうみたいに言いながら、鈴木くんの前にソーダを置く。鈴木くんの眼鏡の奥の瞳が、切なそうに細められた。部長が僕と、ソーダをじっと見つめる鈴木くんを交互に見る。鈴木くんの肩を叩いて、軽やかな声で言った。
「鈴木くん、そろそろ交代の時間じゃない?」
「え、あ……! そう、ですね」
ちょうど、交代の部員がやってきた。鈴木くんは立ち上がって、その子に引き継ぐ。そのまま校舎に入っていったから、僕と部長は顔を見合わせた。
てっきり、ソーダを買っていくものだと思ったのに。でも僕たちが見ていたから、恥ずかしかったのかも。
部長が肩をすくめる。
「鈴木くんって、不器用な子だね」
「そうですね」
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