【完結】恋愛初学者の僕、完璧すぎる幼馴染に「恋」を学ぶ

鳥羽ミワ

文字の大きさ
25 / 28

25 友情エマージェンシー

しおりを挟む
 何はともあれ、僕はソーダを手に入れた。後は文芸部の店番をして、後夜祭を待つだけだ。
 午後。PTAの屋台が出していた焼きそばを、文芸部室でもりもり食べる。いい麺を使っているのか、もちもちでおいしい。
 部室でまったりしていると、鈴木くんがへろへろの顔でやってきた。なんだか思い詰めた表情をしている。
 僕は割りばしで麺の端切れをかき集めながら、「お疲れ」と声をかけた。鈴木くんは顔をあげて、おつかれさま、と返してくれる。やっぱり、声に覇気がない。

「鈴木くん。大丈夫?」

 んー、と鈴木くんはあいまいに頷いた。僕は最後の一口を咀嚼しながら、割りばしを折って空のパックへ入れる。
 輪ゴムでパックを閉じ直しながら、鈴木くんの様子をうかがった。どうにも浮かない顔をしながら、塩焼きそばを見つめている。

「PTAが売ってるやつ?」
「うん。おいしいよね、これ」

 微笑みを浮かべて、鈴木くんが割りばしを割った。一口ひとくちを噛み締めるように食べる鈴木くんに、なんとなく、勘が働く。
 彼の隣の席に座って、拳を机の上に置いた。

「何かあったの?」

 ぴたり、と鈴木くんの手が止まる。彼は眼鏡の奥で瞳を動かして、僕を見つめた。

「……うん。実は、桂木くんが、女子に呼び出されているのを見ちゃったんだ」

 その弱弱しい声に、僕の胸まで酷く痛む。僕は手元を見つめながら、「そっか」と頷いた。
 鈴木くんは、弱り切った声で続ける。

「やっぱり、僕なんかが桂木くんを好きだなんて……釣り合わないよな」
「鈴木くん……」

 いつもあんなに頼りになるのに。君は素敵な人だよ。
 でも、僕なんかが言っても、鈴木くんには響かないだろう。今の鈴木くんに響く言葉を伝えられるのは、桂木くんだけだ。
 僕たちはしばらく無言だった。鈴木くんはうつむいて、机の下で拳を握りしめている。
 先に沈黙を破ったのは、僕だ。

「鈴木くん。財布を持って、自販機に行こうよ」

 えっ? と声をあげて、鈴木くんが僕を見る。
 僕は彼の目を見て、頷いた。リュックから財布を取り出して、ポッケに突っ込む。

「お守りを買いに行こう」

 立ち上がって、鈴木くんを見下ろした。鈴木くんは戸惑って、何度も「え?」と言っている。
 僕はできるだけ力強く見えるように、胸を張った。

「今だったらまだ、ソーダがあるはず。行こう」

 はっと鈴木くんが息をのんだ。そして、ゆっくり立ち上がる。
 僕たちは顔を見合わせた。鈴木くんが、出入り口の方を見る。

「告白するって、決めたわけじゃないけど……ついてきてくれる?」
「もちろん!」

 僕はにこりと笑みを浮かべて、鈴木くんの後に続いた。自販機には、たくさんの人がいる。だけどまだ、ソーダは在庫があるみたいだ。
 でも、ちょっと怪しいかもしれない。去年どれくらいで売り切れたかは忘れたけど、今年も相当の人数が買っているはずだ。
 祈るように列へ並ぶ。じりじりと進むのが、もどかしい。
 そして次の次が、僕たちの番だ。鈴木くんが財布を用意する。まだ、ソーダは売り切れていない。
 鈴木くんの指が、財布の中を探っていた。僕も思わず、息をのんで見守る。
 自販機から、人が離れた。僕たちの前に並んでいる人たちが、お金を入れる。
 その人が、ソーダのボタンを押した。
 同時に、ソーダが、売り切れ表示になる。

「……あ」

 鈴木くんの口から、ため息みたいな声が漏れた。僕は何も言えずに、ただ自販機の「売り切れ」表示を見つめていた。
 僕たちの番がやってくる。僕は百円玉を二枚入れて、お茶を一本買った。鈴木くんは、何も買わなかった。
 落ちてきたお茶を取り出して、自販機から離れる。鈴木くんを振り返ると、どこかやけくそじみた笑顔を浮かべていた。

「ありがとう。おかげで、ふっきれたよ」

 首を横に振る。僕は、何も力になれなかった。鈴木くんは、いいんだ、と諦めたみたいに笑う。

「きっと僕は、この恋にふさわしくないんだよ」

 たまらない気持ちになった。
 鈴木くんが僕にどれだけよくしてくれたか。どれだけ、胸の内を明らかにして、頼ってくれたか。
 だというのに、僕は、ぼそぼそした声で否定することしかできない。

「そんなことないよ……」
「ううん。ありがとう、ハルくん。力になってくれて」

 そう笑う鈴木くんが、痛々しくてたまらない。
 友達として、何かできることがないか。

「……うん。そう、だね」

 もはや何もできない。僕は無力だ。ソーダを一本買うこともできない。
 だけど一個だけ、できることがあると、思い至った。
 生唾を飲み込む。これは僕自身も、捨て身の行動だ。
 だけどここで何もしなかったら、僕はきっと、ずっと後悔することになる。

「鈴木くん、来て」

 僕は鈴木くんが着いてくるかも確かめず、ずんずん廊下を突き進んだ。部室へ戻って、リュックを開ける。
 ソーダを取り出して、机に置いた。
 振り向くと、遅れてやってきた鈴木くんが、ぽかんと口を開けてこちらを見ている。

「ハルくん。それは……」
「うん。ソーダ。はい」

 ためらわず、鈴木くんへ差し出した。鈴木くんは、首を勢いよく横に振る。何度も「ダメ」と言った。

「ダメだよ。さすがに、そこまで甘えられない。それは、ハルくんのものだ」
「ううん。僕には必要ない」

 言い切って、微笑んだ。鈴木くんは「ハルくん」と、ちいさな声で僕を呼んだ。そしていつにも増しておしゃべりになって、早口でまくしたてる。

「僕はこうやって、行動し損ねる愚か者だ。それはちゃんとアクションを起こした、ハルくんが持っているべきものだよ」
「それは鈴木くんが思慮深くて、優しいってだけだと思うよ? 僕はただの、考えなしだから」

 おどけるように言う。
 本音を言えば、僕もソーダが欲しい。告白のためのお守りがほしい。
 だけど今、恋を諦めようとしている友達を前にしたら、そう言ってもいられなかった。
 僕はソーダがあってもなくても恋を諦められないけど、鈴木くんは、折れてしまう寸前に見える。
 鈴木くんに、改めて、ソーダを突き出した。

「これは鈴木くんが持っているべきだと思う」

 僕たちの視線が、ぶつかり合った。鈴木くんは唇を震わせて、手を伸ばす。
 その指先が、ペットボトルに触れた。しっかり掴むのを確認して、手を離す。
 鈴木くんはソーダを抱きしめて、まっすぐに僕を見た。

「ハルくん。ありがとう」

 泣き出しそうだけど、芯の通った声だ。きっともう、鈴木くんは大丈夫。
 僕の胸はひどく痛んで、後悔に似た感情が吹き荒れている。だけどそれ以上に、よかった、と思った。

「うん。がんばってね」

 だからちょっと酷だと思うけど、背中を押す。
 鈴木くんは、やわらかくはにかんだ。

「ハルくん、決めたよ」

 静かに鈴木くんが口を開く。僕は黙って、それを見守った。

「僕は桂木くんに、告白する。……フラれたら、慰めてね」
「お互い様だよ」

 僕たちは、顔を見合わせて笑った。
 これでよかったと、僕はちゃんと確信できた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】君の穿ったインソムニア

古都まとい
BL
建設会社の事務として働く佐野純平(さの じゅんぺい)は、上司のパワハラによって眠れない日々を過ごしていた。後輩の勧めで病院を受診した純平は不眠症の診断を受け、処方された薬を受け取りに薬局を訪れる。 純平が訪れた薬局には担当薬剤師制度があり、純平の担当薬剤師となったのは水瀬隼人(みなせ はやと)という茶髪の明るい青年だった。 「佐野さんの全部、俺が支えてあげますよ?」 陽キャ薬剤師×不眠症会社員の社会人BL。

両片思いの幼馴染

kouta
BL
密かに恋をしていた幼馴染から自分が嫌われていることを知って距離を取ろうとする受けと受けの突然の変化に気づいて苛々が止まらない攻めの両片思いから始まる物語。 くっついた後も色々とすれ違いながら最終的にはいつもイチャイチャしています。 めちゃくちゃハッピーエンドです。

【完結】大学で再会した幼馴染(初恋相手)に恋人のふりをしてほしいと頼まれた件について

kouta
BL
大学で再会した幼馴染から『ストーカーに悩まされている。半年間だけ恋人のふりをしてほしい』と頼まれた夏樹。『焼き肉奢ってくれるなら』と承諾したものの次第に意識してしまうようになって…… ※ムーンライトノベルズでも投稿しています

諦めた初恋と新しい恋の辿り着く先~両片思いは交差する~【全年齢版】

カヅキハルカ
BL
片岡智明は高校生の頃、幼馴染みであり同性の町田和志を、好きになってしまった。 逃げるように地元を離れ、大学に進学して二年。 幼馴染みを忘れようと様々な出会いを求めた結果、ここ最近は女性からのストーカー行為に悩まされていた。 友人の話をきっかけに、智明はストーカー対策として「レンタル彼氏」に恋人役を依頼することにする。 まだ幼馴染みへの恋心を忘れられずにいる智明の前に、和志にそっくりな顔をしたシマと名乗る「レンタル彼氏」が現れた。 恋人役を依頼した智明にシマは快諾し、プロの彼氏として完璧に甘やかしてくれる。 ストーカーに見せつけるという名目の元で親密度が増し、戸惑いながらも次第にシマに惹かれていく智明。 だがシマとは契約で繋がっているだけであり、新たな恋に踏み出すことは出来ないと自身を律していた、ある日のこと。 煽られたストーカーが、とうとう動き出して――――。 レンタル彼氏×幼馴染を忘れられない大学生 両片思いBL 《pixiv開催》KADOKAWA×pixivノベル大賞2024【タテスクコミック賞】受賞作 ※商業化予定なし(出版権は作者に帰属) この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。 https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

幼馴染が「お願い」って言うから

尾高志咲/しさ
BL
高2の月宮蒼斗(つきみやあおと)は幼馴染に弱い。美形で何でもできる幼馴染、上橋清良(うえはしきよら)の「お願い」に弱い。 「…だからってこの真夏の暑いさなかに、ふっかふかのパンダの着ぐるみを着ろってのは無理じゃないか?」 里見高校着ぐるみ同好会にはメンバーが3人しかいない。2年生が二人、1年生が一人だ。商店街の夏祭りに参加直前、1年生が発熱して人気のパンダ役がいなくなってしまった。あせった同好会会長の清良は蒼斗にパンダの着ぐるみを着てほしいと泣きつく。清良の「お願い」にしぶしぶ頷いた蒼斗だったが…。 ★上橋清良(高2)×月宮蒼斗(高2) ☆同級生の幼馴染同士が部活(?)でわちゃわちゃしながら少しずつ近づいていきます。 ☆第1回青春×BL小説カップに参加。最終45位でした。応援していただきありがとうございました!

生まれる前から好きでした。

BL
目立たないよう静かに暮らしてきた高校生の相澤和真の前に、突然現れた年下の容姿端麗な男、三峰汐音。彼には生まれる前からの記憶があり、和真の事を前世で自分が護衛をしていた王女の生まれ変わりなのだと打ち明ける。自分が側に居なかった為に王女が処刑されてしまったと、心に深い傷を負ったまま汐音は何度も生まれ変わりながらもずっと亡き王女の魂を探し求め、やっと見つけたのが和真なのだと説明する。王女の面影を重ねながら和真を一途に慕う汐音に、和真の生活は乱されていく。汐音の出現で和真の唯一の友人である福井奏の様子もどこかおかしい。出生に複雑な事情を抱えていた和真の身に、さらに大手企業の後継者争いまで勃発してきて……。年下男から一途に愛される生まれ変わりラブ。

処理中です...