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第15話「あの人の痛み、知りたい」
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本庄課長からのメッセージは、ただ一文だった。
明日、少しお時間いただけますか。お話ししたいことがあります。
その言葉を見た瞬間、舞子の心臓は跳ね上がり、
それから、じわりと熱を帯びていった。
(……話し、したいこと? なんやろ。まさか、うちの告白のこと?)
期待と不安と、なんやよくわからんモヤモヤで、
その夜は結局ほとんど眠れへんかった。
翌日――土曜日。
本庄課長と待ち合わせたのは、会社から離れた、静かな川沿いの公園やった。
白いシャツにグレーのコート。
いつもより少しだけラフな服装の彼が、風に髪を揺らしながら立っていた。
その姿に、一瞬見とれてまいそうになるのを必死にこらえながら、
舞子は声をかけた。
「おはようございます……課長、いや、本庄さん?」
「……宮本さん、ありがとうございます。来てくれて」
ふたりで並んで歩きながら、ベンチに腰を下ろす。
風はまだ少し冷たかったけど、空は澄んでいて、心が落ち着く景色やった。
「昨日、あなたに言われたこと……ずっと考えていました」
「……うちのこと、ですか?」
「はい。いえ……あなたの“言葉”です。
“守りたい”と、そう言ってくれたことが……すごく、嬉しかった」
舞子は静かに頷く。
「本庄さんがずっとひとりで戦ってきたこと、浅見さんから少し聞きました。
でも、うちは……ちゃんとあなたの口から、聞きたいです」
沈黙。
それから――本庄が、ぽつりと語りはじめた。
「7年前、結婚を前提に付き合っていた人がいました。
同じ業界で働く女性で、芯が強くて、でもやさしい人でした。
家族にも紹介して、式場も決めて、順調に進んでいた……はずでした」
彼の声は静かで、けれどどこか遠くを見ているようで。
「でも、突然その人から、“好きな人ができた”と告げられました。
何も気づけなかった自分が情けなくて。……いや、もしかしたら、気づいていたのかもしれません。
でも、気づかないふりをしていた。信じていたかったから」
舞子は唇をきゅっと結ぶ。
胸の奥が、じわじわと締めつけられる。
「それから、私は人を信じるのが怖くなりました。
自分の判断で、大事なものが崩れるのが怖かった。
誰かを“選ぶ”ことすら、してはいけない気がして……」
「……だから、誰にも心を開かなくなったんですね」
「はい。仕事だけをしていれば、それでいいと。
人に情を見せず、失敗も後悔も生まれないように、生きていこうと」
彼は、うっすらと笑った。
でもその笑顔は、どこか痛みを含んでいた。
「……でも、変わりはじめたんです。あなたが、現れてから」
「……」
「明るくて、まっすぐで、思ったことをちゃんと口にする人。
失敗しても落ち込まず、でも素直に謝って、前に進もうとする人」
「うち……そんな立派なもんやないですよ。たまに転んでばっかりですし」
「それでも、見ていて救われました。
“ああ、自分も、また人と関わってもいいのかもしれない”って、思うようになってしまった」
本庄は、ふっと目を伏せて言った。
「でも、怖いんです。
また誰かを好きになって、同じように、失ってしまうのが」
その言葉に、舞子は――迷わず、言った。
「なら、うちを信じてください」
「……」
「うちは、あなたの“過去”を見て好きになったんやないです。
今のあなたを知って、
それでもっと、“これからのあなた”を一緒に見たいって思ったんです」
「……宮本さん……」
「失うかもしれんって、怖い気持ち、わかります。
でも、何も始めへんかったら、“得ること”もできへん」
風がふわっと吹いて、ふたりの間の空気をなでた。
本庄の瞳が、ゆっくりと舞子に向く。
「……そんなふうに、言ってもらえるとは思っていませんでした」
「うちは本気です。だから、何回でも言いますよ。
あなたが“ひとりで抱えてきた痛み”ごと、うちにちょっとずつ分けてください」
しばらくの静寂。
やがて――
本庄が、そっと目を細めて、小さく呟いた。
「……救われます、あなたに出会えて」
(……あかん。もう、めっちゃ好きや)
舞子の胸が、あったかくて、苦しくて、でも確かに幸せで――
それが恋やと、ようやく“心ごと”実感した。
明日、少しお時間いただけますか。お話ししたいことがあります。
その言葉を見た瞬間、舞子の心臓は跳ね上がり、
それから、じわりと熱を帯びていった。
(……話し、したいこと? なんやろ。まさか、うちの告白のこと?)
期待と不安と、なんやよくわからんモヤモヤで、
その夜は結局ほとんど眠れへんかった。
翌日――土曜日。
本庄課長と待ち合わせたのは、会社から離れた、静かな川沿いの公園やった。
白いシャツにグレーのコート。
いつもより少しだけラフな服装の彼が、風に髪を揺らしながら立っていた。
その姿に、一瞬見とれてまいそうになるのを必死にこらえながら、
舞子は声をかけた。
「おはようございます……課長、いや、本庄さん?」
「……宮本さん、ありがとうございます。来てくれて」
ふたりで並んで歩きながら、ベンチに腰を下ろす。
風はまだ少し冷たかったけど、空は澄んでいて、心が落ち着く景色やった。
「昨日、あなたに言われたこと……ずっと考えていました」
「……うちのこと、ですか?」
「はい。いえ……あなたの“言葉”です。
“守りたい”と、そう言ってくれたことが……すごく、嬉しかった」
舞子は静かに頷く。
「本庄さんがずっとひとりで戦ってきたこと、浅見さんから少し聞きました。
でも、うちは……ちゃんとあなたの口から、聞きたいです」
沈黙。
それから――本庄が、ぽつりと語りはじめた。
「7年前、結婚を前提に付き合っていた人がいました。
同じ業界で働く女性で、芯が強くて、でもやさしい人でした。
家族にも紹介して、式場も決めて、順調に進んでいた……はずでした」
彼の声は静かで、けれどどこか遠くを見ているようで。
「でも、突然その人から、“好きな人ができた”と告げられました。
何も気づけなかった自分が情けなくて。……いや、もしかしたら、気づいていたのかもしれません。
でも、気づかないふりをしていた。信じていたかったから」
舞子は唇をきゅっと結ぶ。
胸の奥が、じわじわと締めつけられる。
「それから、私は人を信じるのが怖くなりました。
自分の判断で、大事なものが崩れるのが怖かった。
誰かを“選ぶ”ことすら、してはいけない気がして……」
「……だから、誰にも心を開かなくなったんですね」
「はい。仕事だけをしていれば、それでいいと。
人に情を見せず、失敗も後悔も生まれないように、生きていこうと」
彼は、うっすらと笑った。
でもその笑顔は、どこか痛みを含んでいた。
「……でも、変わりはじめたんです。あなたが、現れてから」
「……」
「明るくて、まっすぐで、思ったことをちゃんと口にする人。
失敗しても落ち込まず、でも素直に謝って、前に進もうとする人」
「うち……そんな立派なもんやないですよ。たまに転んでばっかりですし」
「それでも、見ていて救われました。
“ああ、自分も、また人と関わってもいいのかもしれない”って、思うようになってしまった」
本庄は、ふっと目を伏せて言った。
「でも、怖いんです。
また誰かを好きになって、同じように、失ってしまうのが」
その言葉に、舞子は――迷わず、言った。
「なら、うちを信じてください」
「……」
「うちは、あなたの“過去”を見て好きになったんやないです。
今のあなたを知って、
それでもっと、“これからのあなた”を一緒に見たいって思ったんです」
「……宮本さん……」
「失うかもしれんって、怖い気持ち、わかります。
でも、何も始めへんかったら、“得ること”もできへん」
風がふわっと吹いて、ふたりの間の空気をなでた。
本庄の瞳が、ゆっくりと舞子に向く。
「……そんなふうに、言ってもらえるとは思っていませんでした」
「うちは本気です。だから、何回でも言いますよ。
あなたが“ひとりで抱えてきた痛み”ごと、うちにちょっとずつ分けてください」
しばらくの静寂。
やがて――
本庄が、そっと目を細めて、小さく呟いた。
「……救われます、あなたに出会えて」
(……あかん。もう、めっちゃ好きや)
舞子の胸が、あったかくて、苦しくて、でも確かに幸せで――
それが恋やと、ようやく“心ごと”実感した。
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