12 / 13
◇12
しおりを挟む任務が完了し、団長様の屋敷で待機していた私は、女子寮には戻らずここに泊まらせてもらう事になった。団長様は戻ってこなかったけれど、出かけていく前に執事さんに指示をしていたそうだ。
そして、次の日そのまま女子寮に戻りいつも通りの鍛錬から一日が始まった。
けれど、あまり気が入らない。
昨日のあの告白のせいだ。
「お前、近衛騎士団の任務に参加したんだって? どうだった?」
「えぇと……一応役目は果たしましたけど……やっぱり近衛騎士団凄かったです」
「やっぱりか~、目標にはしてるけど、やっぱ難しいよな~。く~羨ましいぜ!! 俺も参加させてもらいたかった!!」
いや、男性なんですから無理でしょ。
「おらお前ら~、明日から大変なんだから今のうちに気引き締めておけよ~!」
そう、明日から隣国の使節団がこの王城に来訪するのだ。警備は厳重にするため騎士団は大忙し。まぁ、大体4日で帰るらしいから短い方だ。でも気は抜けない。何事もない事を願おう。
でも、ふとした時に思い出してしまう。団長様のあの言葉を。
『……――好きだよ、テレシア』
「おい、どうしたテレシア。顔、真っ赤だぞ」
「……いえ、お構いなく」
悪魔で恐ろしい近衛騎士団団長、のはずだったのに……はぁぁぁ……あんなの言われたら……自覚したくなかったこの気持ちが、溢れちゃうじゃない……
でも、どうして、私なんかを……? ご令嬢の欠片もないこんな私を、だなんて……
それに、そもそも身分が違いすぎる。第三騎士団の騎士団員と、近衛騎士団団長。男爵令嬢と、侯爵家当主。到底釣り合わない。
期待と、諦め。その二つが、私の頭の中で何度も衝突してしまう。
そんな事を考えている暇なんてないくせに。
そんな事を思いつつ、次の日を迎えた。集合し、すぐさま決められた持ち場に散り散りとなった。私の持ち場は建物の外、先輩と二人で担当する事となった。の、だが……
「あんれ、マーフィス嬢じゃないですか。あぁ、マーフィス卿だったかな?」
「……」
私達に寄ってきたのは、色違いの騎士団の制服を着た若い男二人。まるで見下すかのような視線を隣の先輩ではなく私に浴びせてくる。
「可哀想に。今パーティーやってるのにこんなところに立たされちゃってさぁ」
「ダメだって、ご令嬢は男爵家なんだからいいドレス買うにもお金がないくらい貧乏なんだぜ?」
「おっとこれは失礼した。騎士団の制服がお似合いですよご令嬢?」
女性の私が騎士団にいるのが気に食わないから、度々こういびってくるのだ。面倒臭いことこの上ない。
だけど……
「私は騎士です。任務を全うするのが騎士の仕事ではないのですか」
そう、今は任務中だ。持ち場を離れて何してるんだこの人達は。
「ちっ、コネで入ってるようなやつに……」
「コネ? 私がコネで入ったと思ってるんですか」
「何が違うんだ。女のお前が正当に騎士団入りなんて出来るわけないだろ!」
まぁ、私の父親は元々近衛騎士団員だし、今は騎士団を抜けてはいるけれど騎士の役職を持ちつつ領地にいる。
そんな父のコネで入ったと思っている奴らは、この騎士達に限らずきっと大勢いるはずだ。
「私はちゃんと入団試験を受けて騎士団入りをしました。貴方達は騎士団をコネを使って入れるような生ぬるい組織だとお考えですか? ならそれは不敬に値しますよ。それに、たとえコネで入れたとしても、ここまで生き残ってられるとお思いですか?」
「女が偉そうに……!」
「歴代の女性騎士も侮辱する発言ですよ、それ。もし文句がおありでしたら団長にどうぞお伝えください」
そう強く言うと、舌打ちを残して去っていった。サボってないでさっさと仕事しろお前ら。
はぁ、と呆れを込めたため息をついていると、隣で見ていた先輩が少し驚いている事に気がついた。
「へぇ、珍しいな」
「そうですか?」
「そりゃそうだろ。いつもなら、はいはいって流すのにさ」
うん、まぁ、そうだけど……なんか、カチンときてしまった。
「カチンと来ました」
「そーそーそれでいいんだって。言われっぱなしにしたらまた来るぞ」
「そうします」
でも、思った。
騎士団に入って、鍛錬や任務やらで汗水たらして。そんな日々をずっと過ごしてきた。先輩方を除いて、周りの反応はあまりよくなかったけれど、それでも辞めるなんて選択肢はなかった。
そして、この前の潜入捜査。私が呼ばれた理由は女性の騎士団員だったから。でも、近衛騎士団団長にその任務に必要だと判断してもらえたことが嬉しかった。
それと同時に、団長様の中では、私はちゃんと騎士団員なんだって思うと、もっと嬉しかった。
今まではただの遊びなんだって思っていたけれど……遊びだったら、あんな事を言うだろうか。
騎士団員である私を、団長様はちゃんと見ていてくれて、それを踏まえてそう言ってくれたのだとしたら……
「あ、そろそろ交代の時間だな。来たら仮眠取るか」
「はいっ!」
すごく、嬉しく思ってしまう。
ただの第三騎士団団員と、近衛騎士団団長。
男爵家の娘と、侯爵家当主。
こんなの、夢物語でしかない。
でも、そんなものを求めてしまっても、いいのだろうか。
……団長様に、会いたい。
きっと今国王陛下方の近くで護衛をしていることだろう。他の団員達の指揮も取り、大変だと思う。
これが全て終わったら、また、私の元へ来てくれるだろうか。
369
あなたにおすすめの小説
ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件
ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。
スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。
しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。
一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。
「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。
これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。
【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。
櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。
そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。
毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。
もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。
気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。
果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは?
意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。
とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。
完結しました。
小説家になろう様にも投稿しています。
小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。
酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜
鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。
そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。
秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。
一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。
◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
朝日みらい
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
【完結】ペンギンの着ぐるみ姿で召喚されたら、可愛いもの好きな氷の王子様に溺愛されてます。
櫻野くるみ
恋愛
笠原由美は、総務部で働くごく普通の会社員だった。
ある日、会社のゆるキャラ、ペンギンのペンタンの着ぐるみが納品され、たまたま小柄な由美が試着したタイミングで棚が倒れ、下敷きになってしまう。
気付けば豪華な広間。
着飾る人々の中、ペンタンの着ぐるみ姿の由美。
どうやら、ペンギンの着ぐるみを着たまま、異世界に召喚されてしまったらしい。
え?この状況って、シュール過ぎない?
戸惑う由美だが、更に自分が王子の結婚相手として召喚されたことを知る。
現れた王子はイケメンだったが、冷たい雰囲気で、氷の王子様と呼ばれているらしい。
そんな怖そうな人の相手なんて無理!と思う由美だったが、王子はペンタンを着ている由美を見るなりメロメロになり!?
実は可愛いものに目がない王子様に溺愛されてしまうお話です。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる