わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫

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◇2 私の理想の旦那様

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 それからというものの、これから嫁ぐ事になったシャレニア王国のお勉強に追われていた。礼儀作法やその国の歴史、政治など。あちらはヨーロッパ式らしく、貴族構成なども私の知っているファンタジー系と一緒だ。だからすぐに理解出来た。

 私の旦那様となる方はその国の王宮騎士団総括という役職を持っているらしい。そして、その国唯一の大公家。公爵家より一つ上で、王族より一つ下。しかも、その大公家は王族の血も流れているらしい。

 騎士団の人だから、やばい人だったらどうしよう。筋肉モリモリの堅物とか。怖い人だったら嫌だな。中身とか見た目とか。顔に剣の切り傷とかあったりするかもしれないし。


「じゃあ、私は貴族階級で女性の中では一番上って事になるの?」

「さようでございます。ですので、女性社会の中では王妃殿下の次に影響力を持つお方という事になります」


 う、わぁ……なんか、怖いな。

 ウチにも貴族間での格付けなどはあるけれど、そんなに階級があるわけではない。そもそもこちらは《貴族》ではなく《華族》と言われている。

 シャレニア王国は王族、大公、公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵といくつもあるけど、暁明シァミン王国は王族があって、その下に元老院。それから紫院、緑院、青院となっている。

 人口が少ないというところもあり華族の数は少ないから当たり前か。

 でも、シャレニア王国の貴族事情は怖そうなイメージがある。マンガとかでよくある、女同士のけなしあいとか。私、大丈夫かな。とりあえず、笑われたりしないようお勉強を頑張ろう。


 そして、数日後。シャレニア王国の使節団がこちらに来訪してきた。の、だが……


「姫様! 味見をお願いします!」

「スープ? うん、よし!」

「ありがとうございます!」


 本宮のキッチンでは戦場のようにごった返しとなっていた。

 まぁ、いつもの事ながら。使節団のお客様が来る事は、この国では多い事。だけど、今回はいつもと違う。私の嫁ぎ先の国の使節団が来るのだから気合いを入れて準備をしないといけないんだから。

 けれど……


「はぁ!? もう港に到着したの!?」

「は、はい、今日は海の様子も穏やかでしたし、出発も少々早かったらしくスムーズにこちらにご到着出来たのかと思います……!」

「ちょっと待って、じゃあ準備早くしなきゃ!」


 こんな報告をされれば鍋を振る手に力が入るに決まってる。キッチンに立っていれば自分に匂いも付くから片が付いたところで準備をしないといけないし……あぁもうなんで時間がないのよ! もっとゆっくり来てよ!


「姫様! お支度を!」

「えぇもう!? ちょっと待って!」


 本来、王族の私はこんなキッチンで鍋振るいなんてことしているはずがない。けれど……流石に魚をぶつ切りにして油で揚げ油切りしていない料理を出されれば堪忍袋の緒が切れるというものだ。

 この国の料理が酷すぎるがために暴れまわり、今ではこうして主導権を握っている。だからこうギリギリになってまでキッチンで奮闘しているわけだけど……


「姫様! ここは私が代わります! ですから早くお支度を!」

「メヤじいよろしく!!」


 御年89歳の元気なおじいちゃん料理長に全て託し私はキッチンを飛び出した。うげぇ、油の匂いやばっ!?


「待ってこの匂い落ちる!?」

「何が何でも落とします! 湯あみの準備は整っておりますからお急ぎください!」

「お願い! 走るよ!」


 何とも慌ただしい準備となったけれど、たぶんお母様たちはこんな事になっている事は把握済みだと思う。だから何とかごまかして! お願いします!

 こういう時、王族の正装がこんなに複雑な事に怒りを覚えてしまう。もっと簡単なものにしてよ!


「よしっ、全部付けた?」

「はいっ! 完成です!」

「姫様こちらに!」


 ようやくこの国の第一王女が完成し、玄関に続く廊下に出ればすぐに姫様モードにチェンジだ。今回の準備にかかった時間は最新記録を叩き出したと思うくらいスムーズにいったと思う。

 そして、ようやく玄関に辿り着いた。


「ふぅ……」

「お、ねぇちゃん間に合った」

「ピッタリ~」


 お、セーフだったか。お母様ため息ついてるけど。

 そして、用意して迎えに行ってもらっていた馬車で、使節団の方々がこちらに到着。お出迎えする事となった。

 ……マジで危なかった。


「本日は、お招きいただきありがとうございます」

「ご足労頂き感謝する」


 今回は私の旦那様となる方はいらっしゃらない。こちらの仕来りにより私と顔を合わせられないからだ。その代わり、シャレニア王国での準備を進めてくれているのだとか。

 今回、この国では初めて王族が他国へ嫁ぐ事になる為、作法が違ってくる。その件に関し旦那様は、出来るかぎりこちらの仕来りに合わせるとおっしゃってくれたみたいだから、今回使節団には参加しなかった。

 今回は食事会の後は宴が用意されている。今回の結婚の件に関しての話し合いだったりと色々盛りだくさんである。

 まぁ、私もだいぶ忙しいが。キッチンとを行ったり来たりとで忙しいったらありゃしない。


「ダルナード卿ほど剣の立つお方はいらっしゃいませんよ。それに、彼はとても堅実で仕事に誇りを持っている方であると同時に、思いやりのある方でもありますからね」

「ウチの娘も真面目なところがあるから、きっとぴったりな相手だと思うわ」


 ……お母様、この前私に嫁ぐまでに不真面目なところを直せって言ってなかったっけ。まぁ、ニコニコしてろとも言われてそうしてるけどさ。ちゃんと姫様モードは切らしませんよ。誰の血継いでると思ってるのさ。

 宴中はその旦那様の話でもちきりとなったけれど、何となく怖い人ではないみたいでよかった。まぁ、嘘は言ってないと思う。私は王族だから下手な事は言えないはずだ。

 イケメンスパダリ……イケメンスパダリがいい……とは、言えないけど。

 と言うか、そんな余裕なんてもの微塵もないわけで。それにお腹も空いた。朝から宴の準備でいろいろ走ってはキッチンとを往復、そして宴になればさっさと湯浴みして支度して姫様モード。忙しい事この上ない。


「姫様! 王妃様がお呼びです!」

「……マジ?」

「紅宮の方を通っていただければ使節団の方々とはお会いにならないので、そのままお急ぎください!」

「誰か代わって!」

「かしこまりました!」


 結婚するってこんなに忙しいのかと思ってしまったけれど……まぁ、王族でもあるし初めて他国に嫁ぐ事にもなる。しょうがないか。


「こちらにサインをお願いいたします」

「はい」


 地球では、結婚するためには婚姻届を出さないといけない。それはこの異世界でも同じで、今回の使節団の訪問時に書く事となっている。シャレニア王国と暁明シァミン王国の二枚分書かないといけないんだけど……

 『オリバー・ダルナード』

 私が署名する一つ上にその名前が書かれている。もう旦那様は署名済みだという事だ。

 字、綺麗だな。達筆だ。まぁ、大公殿下だし当たり前か。私だって王族だからって字の練習は小さい頃から徹底的にされたもん。

 オリバー・ダルナード様かぁ……早く会ってみたい。

 ……そして、お腹も空いた。
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