わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫

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◇9 これは、ドラマ?

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「昨日ぶりね。結婚式で疲れたでしょう。どう? ちゃんと眠れたかしら?」

「えぇ、昨日の疲れは取れましたわ」

「そう、それはよかった」


 グロンダン侯爵夫人。旦那様のお母様の妹。という事は、義叔母である。そして、お隣に座っているのは義叔母の娘、義従姉妹。確か、アドリーヌだったか。

 昨日披露宴で挨拶をしたけれど、何故今日も来た。午後には仕立て屋が来るというのに。

 というか、普通いきなりはこないでしょ。事前に伝えるのがルールではなくて?


「ここまで長い旅路で大変だったでしょう。島から出るのはこれが初めてと聞いたのだけれど、異文化に驚いたわよね。どう? やっていけそう?」


 ……あの、その質問ってどうなんです? やっていけそうだなんて。ニコニコと笑顔を見せてくる義叔母に、私はどう返したらいいのだろう。とりあえず、「大公夫人として誠心誠意旦那様に尽くすつもりです」と答えた。

 その後の、少しの沈黙。そして……


「それで、いきなりで悪いのだけれど……このまま領地に行ってくれないかしら」

「……」


 ……は? 領地に行けですって? 何故?


「オリバーはそう伝えると事前に言っていたの。だけど、本人からそれを言われてしまうのは負担になるでしょう? だから、私の方から言ってあげたほうがいいのではないかと思って今日ここに来たの」


 いきなりそう言われましても。まぁ、政略結婚ではあるから愛なんてものはない可能性は十分にある。けれど、何故叔母である貴方がそれを言うのかしら?


「……どういう事でしょう」

「オリバーとアドリーヌは愛し合っていたの」


 ……ほぉ、愛し合っていたと。なるほど。


「結婚も約束していたのだけれど、陛下からの命でそれは叶わなくなってしまったの。断るにしても、彼の立場上受け入れるしか出来なかったの……」

「……」


 あの、夫人、泣かなくてもいいのでは? そこまで?

 私、どんな顔でそれを聞いたほうがいいのかしら。


「もうこの関係は無かった事にするとアドリーヌはオリバーに告げたのだけれど、彼はどうしても諦めきれないって……だから、アドリーヌを側室にする事になったの」

「……なるほど」


 としか、言いようがないのでは?

 私、いったいどんなリアクションをしなきゃいけないの? 何というか、漫画とかでありそうな展開のような……

 でも、おかしいな。


「貴方は暁明王国の元王女だから、離婚は出来ないわ。だから、せめて領地で気楽に生活してほしいと思っているの。だって、オリバー本人に追い出されるなんて事をされたら、悲しいでしょう? 使用人と二人で嫁いできて寂しい思いもしているというのに。だから、彼がいないうちに領地に行く事を提案するわ」


 ……なるほど、私は追い出される運命にあると。でも、寂しい思いなんて一言も言っていないのだが?

 それに、この結婚の意味を考えると、これはおかしい事である。

 これは、国際結婚であり政略結婚でもある。二国の繋がりを確かなものにするため、そちらのシャレニア王国から提案された結婚だ。それなのに、そのために嫁いできた元王族の私を領地に追いやる。

 結婚したての妻を一人で領地に向かわせるなんて、旦那が家を追い出したと思われるに決まってる。それを聞いた国王陛下、更には暁明王国の国王陛下の耳に入れば、どうなるか。


「……義叔母様のご配慮、大変嬉しく思いますわ。ですが、まずは旦那様とお話をするところからだと思います」

「私は、貴方に負担をかけさせたくないがために言ってるの。話はちゃんと聞いてちょうだい」


 それともう一つ。旦那様はこの国で重要な軍事力を管理する役職に就かれている方だ。そんな方の気持ちを蔑ろにするなんて事をしたら、王への信頼を失うに決まっている。

 愛し合っていて結婚まで考えていたのであれば、きっと国王陛下の耳に入っていたはずだから。

 となると、本来なら私は王太子殿下か第二皇子殿下になる事となる。お二人にはまだ婚約者がいないし、国際結婚では王族同士が当たり前だしね。なら、どうして私がその方と結婚する事になったのか。


「えぇ、ちゃんと理解はしています。ですが、私は暁明王国の王女としてこちらに嫁ぎました。暁明王国とシャレニア王国の橋渡し、そして友好関係を確かなものにする。それが私の役目だと理解しております。――生半可な覚悟で嫁いだつもりはありません」

「っ……」

「ですから、私の役目を全うするためにも、旦那様とお話を付けるのが望ましいと思っております。例え愛がなくとも、妻として、元王女として、お役目を全うさせていただきます。ですから、ご心配なさらないでください」


 私としても婚期は逃したくないが、このままでは離婚という形で私は暁明王国に戻る事となる可能性が高い。この結婚を提案してきたのはそちらなのに、こんな扱いをされるのであれば暁明王国国王が黙っていないのだから。

 けれど、それを分かっていてのこの行動なのだろうか。

 ……いや、さすがにお馬鹿ではないでしょ。王宮騎士団総括様だし。まぁ、かといって何か策があるのかもしれないという可能性もあるが。

 そんな時、ようやく隣の娘が口を開けた。


「……そうよね、他国であっても王女様だもの。私は身を引くしかないわよね……」

「まぁ、なんて可哀そうな子……こんなに愛し合ってる二人の仲を引き裂こうだなんて、それでも国民達の手本となる王女なのかしら」


 いや、そんな気はさらさらないんですけど。ただ旦那様と話をすると言っただけなのだが? 話をよく理解していないのはそちらの方だろ。

 別に、私としては側室でもなんでも作ってくれて全く構わない。この国では側室を作る事は位の高い貴族達には珍しくない事らしいし。後継者を作るための手段なんだから。

 だから、私としては領地ではなくこの敷地内にある別邸で過ごすことを提案したいところではある。


「私には責任というものがございます。国を背負って嫁いできたわけですからね。なので、これは旦那様、そしてシャレニア王国の国王陛下にお伝えしなければなりませんわ」

「……何ですって」

「これは国際結婚です。国を挟む政略結婚なのですから国王陛下にちゃんとご報告しなければなりません」

「っ……陛下には、オリバーが報告するわ」

「私は大公妃です。なら、私もお会いしなければなりませんよね? 当事者である、妻ですから」

「っ……」


 何も言えなくなってしまったのだろう。睨みつけてくる夫人は、隣に座るご令嬢を抱きしめこちらを見た。あぁ、さも怒っているかのような表情だ。


「可哀そうな子を傷つけるようなことをして……自分で分かっているの? それともわざとなのかしら?」


 なるほど、どうしても私のせいにしたいと。そういう事ですか。私何も悪くないのだが? むしろ被害者だ。知らず知らずに嫁いだだけだし。私の務めを果たそうとすることの何が間違っているのよ。

 それに、穏便に済まされれば面倒ごとにも直面せずに済む。何故それが分からない。


「二人は本当に愛し合ってたの。とっても仲睦まじくて、本当に幸せそうで……それなのに、その愛を踏みにじるのね」


 いや、その気はさらさらございませんけど。私の話、聞いてました?


「本妻だからって、オリバーの心を独り占めするつもりなのでしょうけれど、それは無理よ」


 いや、その気もないのですが。言いがかりはやめてほしい。


「ねぇ、アドリーヌ。このネックレス、オリバーからプレゼントしてくれたのよね?」


 そんな事を言い出した夫人は、誇らしげにこちらをちらりと見てくる。


「……はい、誕生日でもない日に突然プレゼントしてくださって……これを見て、同じ瞳の色をしている私が浮かんだからって……」

「いつもパーティーではオリバーが自分と同じ色のドレスを用意してくれてたのよ。いつも、アドリーヌにぴったりなデザインのものだったの。それだけ、オリバーはアドリーヌを想ってくれているのよ。それだけ愛し合ってたのに、王女だからって……許されると思ってるの?」


 これは、私が何を言っても無駄な気がする。全部私のせいにするつもりだろうし。


「お母さま、もういいの。私はもう……」

「アドリーヌ! そんな事言わないで! 母はあなたの幸せを想って言っているの。あなたに幸せになってほしいのよ。だから、愛する人と一緒になる事を諦めちゃダメよ!」

「お母さま、でも……」

「大丈夫、私が何とかするわ」


 ……私は一体何を見せられているのだろうか。ドラマ? 呆れてものも言えないのだが。


「まだシャレニアの作法すら分かっていない王女様より、アドリーヌの方がとっても優秀なのだから、側室になるのはオリバーのためになるのよ。だから大丈夫よ」


 そう言いつつ、数分前に出していたお茶に視線を向け、その後私に視線を移した。


「まだ王女様気分なんですものね。もうシャレニアに嫁いだという自覚がないのかしら」


 私が用意させたお茶は、紅茶ではなく緑茶。まぁ、ティーカップではあるんだけど……昨日出された紅茶を見れば、ね……

 でも、私だけ違うお茶、というわけにはいかない。

 でも二人は、手もつけなかった。


「あなた方にも、私の母国を知ってもらいたいと思いお出ししたのですが」

「ここはシャレニア。なら紅茶を出すのが筋でしょう?」


 飲まず嫌い、というやつか。ま、別にいいけど。

 だけど……


『ご馳走様でした。とても美味しかったです』

『待ってるな、スイランちゃん』

『おにぎり、美味しかったよ』


 この言葉たちは全て、私の方から離婚を言い出さないようにするためのご機嫌取りなのだとしたら……ちょっと悲しい。まぁ、これまでだってご機嫌取りなんてものは何度もあった。暁明王国の王女だから、という理由で。

 まぁ、何も変わらないという事か。とはいえ、これは政略結婚だ。愛なんてものは保証されない事は分かってる。そして私は王女。だから、その運命にある事は十分に分かってる。なら、王女として全うする事が私の使命だ。

 ……眼福をいただければ十分だ。


 その後、使用人から仕立て屋がいらっしゃったと報告を受けた。ではお帰り下さいと言ったけれど、オリバーと会うまでいると言い出したので部屋の準備を使用人にお願いした。

 はぁ……ようやく結婚式が終わったというのに、面倒な事が起こるなんて、勘弁してくれ。

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