わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫

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◇11 大好きな食事の時間

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 私は、食事の時間が大好きだ。

 けれど、シャレニア王国に嫁ぎ、首都にあるこの屋敷に来るまでに食した料理は、忘れたくても忘れられないくらい強烈だった。

 変な味と匂いがしていた理由は……


「シャレニア王国はこの大陸で一番香辛料の生産が多い国と言われていますから、料理に香辛料を使うのは当たり前の事なのですよ」

「それにしても……これは、やりすぎじゃない?」


 スパイスミックスというものがあるらしく、特別に配合したものがそのまま売られているのだとか。それを見せてもらったんだけど……なんじゃこりゃ。

 もう何が混ざってるのか分からないくらいの強烈な匂い。しかも、これをそのまま混ぜるですって? 変な匂いと味だったのはこれが原因ね。

 キッチンがこんな匂いになっている事は最初ここに来た時に気になっていたけれど……まぁそうなるわな。

 この世界での香辛料は、私の知っているものと同じもの。いろんな国との交流が長く続いている暁明シァミン王国は、輸入率も高く、珍しいものも入ってきていたりした。その中にはもちろん食材や調味料、そして香辛料までだ。

 けれど、こんなスパイスミックスなんてものはなかった。

 一体これを誰が配合したんだ。

 グロンダン夫人とご令嬢は旦那様と会うまで帰らないらしいから当然夕食も一緒。だから、私好みのスパイス少なめのものは出せない。スパイスを多くしたものを食べ慣れている人達が、いきなりスパイスが少ないものを食べてしまえば、何か言われそうで面倒だ。

 どうせ私のせいにでもしてくるだろうし。嫁いできた私に合わせてくれたんだから、とか言って。

 だから、今回はスパイスの量を減らしつつも香りを十分に出した料理にしよう。とはいえ、私は料理人でも何でもないから出来る範囲になるけれど。


「……奥様、その……」

「ん? あぁ、大丈夫よ。調味料持ってきてもらえる?」

「かしこまりました」


 これから、旦那様との話し合いがある。結果がどうなるか分からないけれど、ここの使用人達とは旦那様が帰ってこられるまでの付き合いとなってしまう可能性もある。それはちょっと寂しく思ってしまう。

 この人達は旦那様に暁明王国の料理を再現するよう言われてたらしいけれど、それもご機嫌取りだったんだと思うと……複雑だ。


「奥様、そろそろ湯浴みをなさいませんと間に合わなくなりますよ」

「あ、うん、分かった」


 まぁ、しょうがないか。それにこれから今後の事を話し合う事になるんだし、まずは領地ではなく別邸に移動したいと提案しなくちゃ。……お父様が怒り出す事だけは避けなきゃ。

 なんて思いつつ、湯浴みを済ませた。




「まぁ! なんて美味しいの! やっぱり大公家のコックの腕は素晴らしいわね!」

「美味しい……!」


 あ、はい、ありがとうございます。


「スイラン、あなたこんな料理は初めてでしょう? どうせ小さな魚ばかり食べてきたのでしょうから、結婚してくれたオリバーに感謝なさい」


 ……これ、私が作ったんだけどなぁ。お褒めいただき光栄です。それに、小さな魚ばかりではなかったんだけど。大きな魚もあったし、お肉だって食べていた。貿易が盛んだったから色々な食材が入ってきていたし。だから、あなた方が食べたことのないものもあるかもしれない。


「そういえば……暁明王国に使節団として向かったオリバーが帰ってきた時、口に合わなかったみたいで嘆いていたの。私、見ていられなくて……」


 いや、美味しそうにおにぎり食べてましたけど? 鮭が美味しいって言ってたし。

 それより、ご令嬢はいつまで私の前で旦那様の名前を呼び捨てで呼ぶのかしら。それ、失礼に値する気がするのだが?


「お口に合うかしら? 庶民の料理しか食べたことがないあなたの口に合うとは思わないけれど」

「とても美味しいですわ。臭みもございませんし、焼き加減もちょうどいい。このソースも私の口にはちょうどいい味付けですしね」

「あらそう」


 まぁ、私が味付けしたんだから私の口に合うって決まってるけどね。お口に合うようでよかったですよ。

 とはいえ、ご夫人としては面白くないらしい。でもせっかく食事してるんだから楽しく談話しようよ。料理たちが可哀そうだ。

 せっかく作ったのに、内心ため息ばかりをついてしまった。

 この二人は旦那様が戻ってくるまでここにいるらしいけれど、いつ帰ってくるんだろう。アドラは、すぐに戻ってくるって言ってたけど……まさか披露宴後に呼ばれるとは思いもしなかった。それだけ忙しい人だという事か。

 この国の騎士団をまとめ上げているから当然責任感もあるし仕事も多い。けれど、それだけ優秀な方だって事でもある。

 優秀であれば、信頼もあって、この人に任せれば大丈夫という安心感もある。

 これは、喜ぶべき事なんだろうけれど……負担とか、疲労とか絶対にあるはずだ。それに、ちゃんとご飯食べてるかな。

 まぁ、何も知らない私がそう思っていたところで何も変わらない。それに私そんな人に追い出される運命にあるみたいだし。

 とはいえ、私が作ったおにぎりをあんなに美味しそうに食べてくれたことは鮮明に覚えている。とりあえず、美味しく食べてくれればそれでいっか。

 でも……


「……こっちに泊まる時はいつもオリバーと一緒に寝ていたけれど……少し寂しいわ……」


 ……もうそういうのいいんで、さっさと部屋に戻ってもらってもいいですか?

 呆れてものも言えない。一体二人は何をしたいのだろうか。


「あぁ、疲れた……」

「ハーブティーをどうぞ」

「ありがとう、リーファ」


 はぁ、ハーブティーも持ってきておいてよかった。これがなかったら落ち着けない。

 よし、飲んでさっさと寝よう。もう明日の朝食の準備も終えてあるし、あとはもう寝るに限る。

 じゃあ、おやすみなさい。
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