41 / 46
◇35 もしかしてこの方は台風?
しおりを挟む使節団の王子達はシャレニア王陛下へお誕生日を祝うお言葉を伝えていた。その中で、だいぶ失礼な態度を取られたチョランの王女殿下は、さっきのような私との態度とまるっきり違う様子。驚きはしなかったが……呆れてしまいそうになった。
お隣にいらっしゃるタリス夫人は呆れてものも言えないようで、反対側にいらっしゃるトメラス夫人は笑顔を見せつつも、扇子を開いて隠していた口は全く笑っていなかった。
まぁ、いつもの事なのだろう。彼女は何かと理由を付けてこちらに訪問されていたようで、訪問中は旦那様を追いかけまわしていたようだ。旦那様ご本人は相手が相手なため強く言えずかわし続けていたそうだ。
首都を案内しろだの、護衛をしろだの、さらには結婚しろだのとうるさかったらしい。いやぁ、人気者はつらいですね。なんて罪な人なのでしょうか。
そう思いつつも、つい数日前に本人が言っていた事を思い出した。
『あ”~~~~、仕事辞めたい……』
『何言ってるんですか、騎士団総括様』
『騎士団長殿に全部任せて俺らで領地に行こ。とっても広くて綺麗な草原があるんだ。一緒に行こうよ。ピクニックしよピクニック!』
最近やたらと抱きしめてくるわ抱っこしてくるわ大好きだなんだといきなり連呼してくるわとあったのは、こういう事だったのか。なるほど、だいぶ滅入っているようだ。うん、強引な人なのかな。お疲れ様です。私は勘弁だわ。
陛下の近くに立ってる旦那様にニコッとした王女様が見えたが……対する旦那様は……うわぁ、無表情で目つぶってる。あんな顔初めて見たんだけど。なるほど、こんな感じか。
本来なら、私はチョランの王女に案内や説明などをするわけなんだけど……何故だかその役をトメラス夫人が買って出てくれた。私にウィンクして。きっと察したのだろう。後で何か贈らせてください。
「あら~まだご結婚なさっていないようですね~。もういい歳なのに~。まさか貰い手がいない、なんてことあり得ませんよね? 一国の王女様なのですからいずれは決められた殿方と結婚しますし。もし決まった際には祝福いたしますわ~」
「相変わらず王族に敬意を示さない無礼者なのは変わってらっしゃらないのね」
何やら不穏な空気となっていたけれど、隣のタリス夫人がため息をついていたので何となく察した。あれはあのままにして構いませんよとでも言いたそうな顔をしているから、とりあえず気にせず貴賓客に挨拶して回る事にした。
まぁ、お二人は年が近いしな。けど、トメラス夫人って、本当にどストレートに言うなぁ、と思ってしまった。尊敬は……していいのだろうか。
「こちらにいらっしゃいましたか、ライアス王子」
「ダルナード夫人、私もいるのですが?」
「顔がそっくりですから見落としてしまいましたわ」
今回、あの密売事件の事がありミルシス王国の使節団がご来訪する事が決まった。そして、そのタイミングを見計らい、私はとある方をご紹介することにした。
「ご紹介しますね。こちら、シャレニアで香辛料事業をされていらっしゃる方です」
「お初にお目にかかります……」
ミルシス王国は、国内で香辛料があまり出回らず母国である暁明王国から香辛料を輸入していた。と言っても、このシャレニア王国ほどのものではない。
だから、今回二人に香辛料を勧めるよう提案したのだ。そして、このお二人には事前に話を付けている。だから、この後話をする予定になっているのだ。
「三人は、とても仲がよろしいのでしょうか?」
「えぇ、小さい頃から交流があったのですよ」
「なるほど……」
以前、ちょっと……いや、だいぶか。晩餐会で侯爵を追い詰めてしまったから今回の交流で話が良い方にまとまるよう尽力しなくてはならない。
そりゃ、大公家が香辛料を減らすようなものを出してしまえば需要がどんどん減ってしまい売り上げが右肩下がりになってしまう。自分達や、領地民の生活まで脅かされてしまうのだから頭を抱えるに決まってる。
「それで、夫人。よろしいのですか?」
と、ライアス王子はそう言いつつ目線を違う方に向けた。侯爵「あ……」と焦りを見せたような声を出している。
その先にあったもの、それは……今問題になっているチョランの王女だ。楽しそうに話を……いや、旦那様のあの顔。あれは……真顔? 私、あの顔初めて見るぞ?
「ダルナード卿はとてもハンサムな方ですからね」
「……こちらが困ってしまうくらい、ですね」
「おや、夫人の口からものろけが出てくるとは意外ですね。では早く行って……おや」
ササッと王女をよけ、見つけたらしい私に一直線に近づいてきた。いきなり私の横に立ち、肩を抱いてくる。ここをどこだか分かっていてやっているのだろうか。恥ずかしいからやめてください。
「ご機嫌麗しゅう、ライアス王子。お久しぶりでございます、テモワス王子」
「ダルナード卿も大変ですね」
「可愛い妻を見つめる周りの者達を牽制するのに、ですか?」
「おや、それには私も入っているのかな。その気はないので勘違いはしないでくださいね。とてもお似合いですよ、お二人とも」
お邪魔虫は退散するとしましょうか、と3人は逃げていってしまった。いや、なんて話をしているのだこの人は。と、反論したかったけれど、まるで入れ替わりのように近づいてくる人が一人。いや、面倒な事になるだろうから巻き込まれないように逃げたのだろうな、ライアス王子は。そのタイミングで二人も便乗して逃げたか。
「オリバー!」
先ほど旦那様に話しかけていたチョランの王女だ。
「何か御用ですか、王女殿下」
うわぁ、声が冷たい。いつもと全然違う。この人は本当に私の知る旦那様なのだろうか。
「オリバー、あのね」
「先ほども申し上げましたが、私は既婚者ですし近い間柄でもございませんのでそのような呼び方はやめていただけますか」
「別にいいじゃないっ! だって、それなりには近いでしょ?」
「殿下」
王女の、初めて会った時や、さっき陛下にご挨拶した時とは全く違った猫かぶりに驚いていたけれど、冷たい声の旦那様の方がもっと衝撃的で固まってしまった。誰だ、この人は。
けれど、王女の方も何故だか驚いているようだ。何かいつもと違うのだろうか。
「も~そんなに怒らないでよっ!」
「御用がないのなら失礼します」
行こ、スイラン。そう顔で言われ、私の肩を抱いていた手に力が入り王女殿下に背中を向けるよう促されそのまま一緒に離れた。
ちらり、と旦那様の顔を見たけど、気が付かれ笑顔を見せてきた。あぁ、なるほど。王女殿下の事は気にするなと。
その後、誕生祭の主役であらせられる国王陛下の所(避難所)に向かい、笑顔で迎えられてしまった。一緒にいらした王妃殿下にはクスクス笑われたが。なるほど、この状況をだいぶ面白く思っているわけだ。こちらとしては笑い事ではないのだけれど。
53
あなたにおすすめの小説
ストーカーに狙われたので歳上騎士様に護衛をお願いしました。
ねーさん
恋愛
「氷の彫刻」と呼ばれる美貌の兄を持つ公爵令嬢のクラリッサは不審な視線に悩まされていた。
卒業を二日後に控えた朝、教室のクラリッサの机に置かれた一通の偏執狂者からの手紙。
親友イブを通じてイブの婚約者、近衛騎士団第四分団員のジョーンズに相談すると、第四分団長ネイトがクラリッサのパートナーとして卒業パーティーに出席してくれる事になって───
〈注〉
このお話は「婚約者が記憶喪失になりました。」と「元騎士の歳上公爵様がまさかの××でした!?」の続編になります。
天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした
星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎
ギルドで働くおっとり回復役リィナは、
自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。
……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!?
「転ばないで」
「可愛いって言うのは僕の役目」
「固定回復役だから。僕の」
優しいのに過保護。
仲間のはずなのに距離が近い。
しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。
鈍感で頑張り屋なリィナと、
策を捨てるほど恋に負けていくカイの、
コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕!
「遅いままでいい――置いていかないから。」
乙女ゲームに転生するつもりが神々の悪戯で牧場生活ゲームに転生したので満喫することにします
森 湖春
恋愛
長年の夢である世界旅行に出掛けた叔父から、寂れた牧場を譲り受けた少女、イーヴィン。
彼女は畑を耕す最中、うっかり破壊途中の岩に頭を打って倒れた。
そして、彼女は気付くーーここが、『ハーモニーハーベスト』という牧場生活シミュレーションゲームの世界だということを。自分が、転生者だということも。
どうやら、神々の悪戯で転生を失敗したらしい。最近流行りの乙女ゲームの悪役令嬢に転生出来なかったのは残念だけれど、これはこれで悪くない。
近くの村には婿候補がいるし、乙女ゲームと言えなくもない。ならば、楽しもうじゃないか。
婿候補は獣医、大工、異国の王子様。
うっかりしてたら男主人公の嫁候補と婿候補が結婚してしまうのに、女神と妖精のフォローで微妙チートな少女は牧場ライフ満喫中!
同居中の過保護な妖精の目を掻い潜り、果たして彼女は誰を婿にするのか⁈
神々の悪戯から始まる、まったり牧場恋愛物語。
※この作品は『小説家になろう』様にも掲載しています。
取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので
モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。
貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。
──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。
……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!?
公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。
(『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)
【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました
藤原遊
恋愛
【溺愛・成長・政略・糖度高め】
※ヒーロー目線で進んでいきます。
王位継承権を放棄し、外交を司る第六王子ユーリ・サファイア・アレスト。
ある日、後宮の片隅でひっそりと暮らす少女――カティア・アゲート・アレストに出会う。
不遇の生まれながらも聡明で健気な少女を、ユーリは自らの正妃候補として引き取る決断を下す。
才能を開花させ成長していくカティア。
そして、次第に彼女を「妹」としてではなく「たった一人の妃」として深く愛していくユーリ。
立場も政略も超えた二人の絆が、やがて王宮の静かな波紋を生んでいく──。
「私はもう一人ではありませんわ、ユーリ」
「これからも、私の隣には君がいる」
甘く静かな後宮成長溺愛物語、ここに開幕。
結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた
夏菜しの
恋愛
幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。
彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。
そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。
彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。
いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。
のらりくらりと躱すがもう限界。
いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。
彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。
これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?
エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。
転生貧乏令嬢メイドは見なかった!
seo
恋愛
血筋だけ特殊なファニー・イエッセル・クリスタラーは、名前や身元を偽りメイド業に勤しんでいた。何もないただ広いだけの領地はそれだけでお金がかかり、古い屋敷も修繕費がいくらあっても足りない。
いつものようにお茶会の給仕に携わった彼女は、令息たちの会話に耳を疑う。ある女性を誰が口説き落とせるかの賭けをしていた。その対象は彼女だった。絶対こいつらに関わらない。そんな決意は虚しく、親しくなれるように手筈を整えろと脅され断りきれなかった。抵抗はしたものの身分の壁は高く、メイドとしても令嬢としても賭けの舞台に上がることに。
これは前世の記憶を持つ貧乏な令嬢が、見なかったことにしたかったのに巻き込まれ、自分の存在を見なかったことにしない人たちと出会った物語。
#逆ハー風なところあり
#他サイトさまでも掲載しています(作者名2文字違いもあり)
氷狼陛下のお茶会と溺愛は比例しない!フェンリル様と会話できるようになったらオプションがついてました!
屋月 トム伽
恋愛
ディティーリア国の末王女のフィリ―ネは、社交なども出させてもらえず、王宮の離れで軟禁同様にひっそりと育っていた。そして、18歳になると大国フェンヴィルム国の陛下に嫁ぐことになった。
どこにいても変わらない。それどころかやっと外に出られるのだと思い、フェンヴィルム国の陛下フェリクスのもとへと行くと、彼はフィリ―ネを「よく来てくれた」と迎え入れてくれた。
そんなフィリ―ネに、フェリクスは毎日一緒にお茶をして欲しいと頼んでくる。
そんなある日フェリクスの幻獣フェンリルに出会う。話相手のいないフィリ―ネはフェンリルと話がしたくて「心を通わせたい」とフェンリルに願う。
望んだとおりフェンリルと言葉が通じるようになったが、フェンリルの幻獣士フェリクスにまで異変が起きてしまい……お互いの心の声が聞こえるようになってしまった。
心の声が聞こえるのは、フェンリル様だけで十分なのですが!
※あらすじは時々書き直します!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる