わんこな旦那様の胃袋を掴んだら、溺愛が止まらなくなりました。

楠ノ木雫

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◇38-1 いい加減にしろ

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 チョランの王女が自粛じしゅくいられ、今回の誕生祭のスケジュールが狂うことなく無事進み最後のパーティーのみとなった。

 けれど、今回は私経由でご参加した国の使節団がいくつもあるため、まだ大忙しである。


「チョランの第二王女の事でトラブルがあったとお聞きしました。災難でしたね、大公妃殿下」

「いえ」


 ミルシス王国への香辛料輸出の話はまとまったようだし、とりあえずやれることはとことんやっておこう。

 けれど、気が付かなかった。いや、気が付くのが遅かった。

 王室の客室での、とある外交官との話し合いで夢中になってしまったからだろうか。

 ガチャッ。

 そんな、鍵の閉まる音が聞こえてきた。この部屋の鍵だろうか。そして、周りを見渡すと……この王宮直属のメイドが、この部屋に一人もいない。


「……暁明王国の王女様であらせられるスイラン王女がご結婚なされたとお聞きした時には、発狂してしまうのではないかというほどの衝撃しょうげきを受けました」


 それは、私の座るソファーの目の前のソファーに座っていらっしゃる外交官の言葉。先ほどとは全然違う、どこかおかしいような笑顔を、見せてきた。

 そして、立ち上がり私の方に歩いてくる。これは、やばいのでは? と思っていると周りに立っていた二人の男性の使用人も近づいてくる。咄嗟にソファーから立ち上がりローテーブルとの間から出たけれど……使用人に腕を強く掴まれた。

 三人共、私より背が高く体格のいい男性。これは、やばい……?


「……離しなさい」


 そう言っても、笑顔のまま何も答えず、むしろ腕をつかむ力が強くなる。


「本当は、私が貰いたかったのですよ」


 もう目の前に立っていた、外交官の顔は……高揚しているようなもので、気持ちが悪かった。

 そう、気持ち悪かった。舐めまわすようにじろじろ見てくるこの三人の男性が、気持ち悪くて気持ち悪くて仕方なかった。

 ……あの、お父様、いいですか? いいですよね? こういう時ですよね、もしもの時は、っていうのは。

 かっちーん。

 そんな効果音が頭の中で響き渡った。

 目の前の外交官が、私の顔を触ろうと手を伸ばしてくる。そんな外交官の気持ち悪い顔面を……


「ぅぐっ!?」

「えっ……!?」


 思いっきり、殴った。

 腕をつかむ手も回して外し、その使用人に思いっきり肘打ちを入れる。そして、もう片方に立つ男性には、体勢を低くしスカートをたくし上げ蹴り飛ばした。やっぱりこのシャレニアの洋服って蹴り飛ばしづらいな。


「な、なんてことを……」

「正当防衛、でしょっ!」


 とりあえず全員手刀を入れておいた。

 暁明シァミン王国の王族は、みな伝統的な暁明シァミン流拳法を小さい頃から身に付けている。チョランの王女様との初対面で扇子を避けられたのもこれが答えだ。もし誘拐犯に襲われたとしても締めあげられるほどの自信はある。

 はぁ、一体これはどういう事? 私をおそうだなんて、普通しないわよね。だって今はシャレニア国王誕生祭で、この王城には他国の使節団が何人もいらっしゃる。そんな時にこんな騒ぎを起こすなんて……って、ちょっと待って。


「開かないじゃないっ!」


 このドア、もしかして外側が南京錠か何かで塞がってるの!? それじゃあ出られないじゃない!!

 今の時間は!? とこの部屋に設置されていた時計を見れば……焦りが出てきた。この後行われる全員参加のパーティーまで、あと3時間。

 この後すぐに王城を出て一旦ダルナード大公邸に戻り、ドレスに着替えてまた戻ってくるというスケジュールだったのに……これではパーティーに出られない。

 今回の誕生祭の最後を締めくくるパーティーに、大公妃が無断で欠席だなんて……はは、笑えない。

 さて、どうしたものか。と、思いつつこの部屋の窓についているカーテンの紐を抜き気絶中の男性三人を縛り上げた。

 きっと、このドアの向こう側は南京錠か何かでがっちり固定されているんだと思う。今、このドア自体につけられている鍵は解錠かいじょうされてるんだから。となると、この部屋の前を誰か通り、ドアが閉まっている事に気が付いてくれれば出られるだろう。

 でも、それではいつになるか分からないから間に合わない可能性が高い。

 今邸宅には弟達がいる。準備をして私が戻ってくるのを待っている。帰ってから着替えて一緒に王城に行く事になっているから、帰ってこない私に何かあったのではないかと気が付いてくれるはずだ。

 となると……まず私がすべきことは、これだ。

 ……待って、この窓ってどうやって開けるのよ。これ? これで……あ、開いた。

 では、大きく息を吸って……


「……誰か来てぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 過去一大きな声が出たと思う。だいぶ大きな声だったから、警備されている騎士や使用人に聞こえているはず。


「……」


 ……静かだな。まぁ今は夜だし、今はパーティーの準備で大忙しだろうし。もう一発いく? 今度は誰か来てじゃなくて悲鳴にする? やっぱりそっちの方が良かった?

 その時だった。ドンドンドンッ!! とドアが叩かれる音がした。


「どなたかいらっしゃいますかっ!!」


 そんな、男性の声がした。これは、王宮の使用人かな。

 よかった、聞こえてた。そんな安心感を覚えつつドアに近づきドンドンと叩いた。


「スイラン・ダルナードよ。開けてちょうだいっ!!」

「少々お待ちくださいっ!!」


 よかった、来てくれた。と、一応安堵あんどのため息を吐いたけれど……中々にてこずっているような声がする。そして、何人もの足音も。

 そして、窓の外からもがやがやと声が聞こえてくる。集まってきた?

 すぐに私は窓の方に向かい、下を覗いた。部屋の明かりでしか見えなかったけれど、あれは……シャレニア王国の騎士達の団服だな。数人集まってくれていた。


「大公妃殿下!?」

「ダルナード邸に伝言をお願いしてもいいかしら!」

「はっはいっ!」


 屋敷に帰れそうにないとだけ伝えてほしいとお願いをし、すぐに向かってくれた。あとは、この部屋のドアが開かない事と、外交官達が襲ってきた事も。

 あと一番言わなきゃいけないこと。


「夫には絶対に・・・言わないで」

「えっ……」

「言わないで」

「かしこ、まりました……」


 何故呼ばないのだろうか? と思っているのだろうけれど……耳に入ったら絶対こっちに飛んでくるに決まってるでしょ。ちゃんとお仕事しなさい。

 とりあえず、伝言は下から大丈夫だろう。すぐに開けてくれるはず。

 と、思っていたけれど……


「これは太すぎて切れないぞ」

「ドアを壊すしかないな……」


 一体、このドアの向こう側はどうなっているのか心配になってくるのだが。どれだけ頑丈に閉められてるのよこのドアは。

 そしてようやくドアが壊され外に出ることが出来た。

 そこには私の弟の一人、浩然ハオランの姿がある。


「姉様、王妃殿下から客室を一部屋お借りしました。リーファが準備してくれてますよ。恐らくもう完了していると思います」

「うん、ありがとう」


 と、いうことは王妃殿下の耳には入ってるのね。

 浩然の案内の元、ようやく用意されていた客室に。


「奥様、急ぎますよ」

「腕がなる?」

「ふふ、鼻歌でも歌いましょうか?」

「いいわね~」


 母国である暁明での事を思い出すな。使節団の方々がいらっしゃった時にはキッチンで鍋を振るい、湯浴みで料理の匂いをがっちり落としてはすぐにお着替えをしてお客様方の元へ全力疾走していた。あれはもう早業はやわざの域よね。

 まぁ、旦那様には全力疾走を見られていたようだけど。

 でも、久しぶりの大急ぎに笑ってしまいそうになる。急いで会場に行かないといけないのに。


「これで全部?」

「はい、完成ですっ!」

「さすがリーファね。じゃあ……行きましょうっ!」


 さぁ、さっさと会場に行ってこの誕生祭のラストを見届けましょう!


「姉ちゃん出来た?」

「えぇ、行くわよ」

「急ぐぞ~!」


 二人の弟達を連れて、リーファに見送られつつ会場に急いだ。

 旦那様もきっと会場にいらっしゃるから、どうして私がいないんだと不審に思い動き出す前に行かなきゃ。
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